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4章 奇想組曲
第59音 属毛離裏
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【属毛離裏】ぞくもうりり
親と子の関係の深い事。
==========
東軍の本拠地周辺。
アールはそこらを飛行し、様子を伺っていた。
「さぁてどうしようか。ここの人殺していいのかね?
それとも本拠地破壊していいのかね?
あれ、でも破壊したら死ぬよね。変わらないか…。」
と父は呟く。
父はアールの両手を見た。
人間の手に鱗がかかっている。
「不自然だね。こうしてしまおう!」
と言った瞬間、アールは驚いたが鱗がかった手が普通の人間に戻っていく。
「これの方が息子も嬉しいだろ?」
父はそう呟き、飛行を続けた。
アールは相手の意識に飲まれないようにしつつ、呟く。
「帰…る。」
父はふふっと笑うと言った。
「これぞ異心同体ってやつかねぇ。
面白いね。息子よ、頑張ってくれたまえ。」
その言葉にイラつきを覚えながらもアールは抵抗する。
「お前…っ…もし対面する日があるならば…覚悟しろ…!」
アールは辛うじて言う。
「おっと、実の父親をお前呼ばわりとは酷い子に育ったねぇ。
大丈夫さ。私は息子の味方さ!
…なぜかと言うとね、君の中にいたお陰で私の心が君の心に侵食されている。
そう、私の行動は君の意思も関わっている…。」
そう父が言ったので、アールは驚いた。
侵食されたのは自分だけではなかった。
父が昔から自分の意識下で暴れていた事に気づく。
今、自分が父の意識の中暴れるように。
やはり父も、お互いに侵食し合っていた。
互いの意思を。
(何を…する気なんだ。)
アールは聞いてみた。
父は笑って言った。
「基地の者を殺せ。」
アールは大きなショックを受けつつ、それでも間違いではない気がしていた。
軍に関わりのある者を生かしておけば、戦争を終わらせてもまた始まる気がした。
ならばいっそみんな死刑にしてしまえと思っていた。
そうすれば必要以上の犠牲は要らなくなるのだと。
父は笑う。
「お前も……本当に仲間思いなんだなぁっ!」
そう言って、本拠地に攻撃魔法を繰り出す。
窓ガラスが割れ、建物にヒビが入り崩れ去る建物の一部。
崩れ去ったあとから煙がたったり、人の悲鳴が聞こえる。
そして、父はある部屋に降り立つのだった。
そこには複数の人がいて、すぐに避難してしまった。
「あれ、偉い人どこだろうか?首が欲しかったんだけども。」
そう父が言うと、近くにいた腰抜けた男性に近づいた。
「あの~、大将が何処にいるかは知っているかねえ?」
しかし、彼は首を横に振るだけだった。
父は真顔になる。
「そうかね、それなら…君を……、」
と手が鱗を帯びて、竜の鋭い爪まで現れた。
「要らない子の生き血でも浴びようかね?」
そう言って爪を向けて振り下ろそうとした時、彼の腕の動きが止まる。
「…あー、君は嫌なのかな?…そうだよね。」
父は呟いた。
そう、アールが必死になって止めようとしている。
人を殺すのはいけない。奪うだけじゃなく、誰かを殺すと自分を失う気がした。
失い、また重ねてしまう気がしてしまったのだ。過ちを。
「この意思は厄介だね。…君、逃げないと私が殺してしまうよ。」
父は男性に言った。
男性は四つん這いで歩きながらも、部屋を出て行った。
父はアールにこう語りかけた。
「ねぇ、君は児童園の子達みんなに疎まれてきたのに殺したいとは思わない?」
(恨んではいる…でも…、みんなと一緒にいれるから…。)
そう伝えると、父は笑った。
「そうか、時期が悪かったね。
君も私と同じになればこの気持ち、わかってくれるだろうね。
……ああ、そうだね。私も悪かったさ。
もう殺しはやりたくないよ?だってもう復讐は終わった…。」
アールは父の悍ましい心を察知した。
「でもね…、体が止まらなくてね。
血が欲しくてたまらないんだ……!さあさあ…息子よ。
私もお前も普通の竜ではないんだ…。わかるだろう?
これは本能なんだよ!憎悪を背負ったドラゴンの末路さ!」
父がそう言うと、父は再び破壊を続けながら本拠地の中を飛び回っていた。
アールは違和感を覚えた。
その言葉の意味は到底理解できないが、破壊の意思は父が自ら思う事ではないという事。
本能として出てくるものなのだと。
父はその意思を止めようと思っている節が見られる。
本当に止めたいのなら、自分も止めたいと思った。
共に抑えようと思った。
父はある部屋に着く。
なにやら奥に不思議な機械を見つけたようだった。
「最近の若者はこんな事をするからねぇ。
こんな物壊してしまおう。」
その時だ。
「待てっ!」
後ろから声が聞こえた。
父が後ろを振り向くと、そこにはまめきちがいた。
「まめ…きち…さ…」
アールは振り絞って言う。
「お?んん?君は息子の誘拐犯。」
すぐに父は切り替えてまめきちに言った。
「アールはまだ意識がありそうで良かった…。
…青龍、久しぶりだな。」
まめきちはそう言った。
アールは知り合いなのかと驚く。
しかし、父は眉を潜めた。
「ごめん、覚えていないね。会う人殺す人沢山いすぎて忘れたよ。
何?今度は息子諸共封印する気かね?」
すると、まめきちは黙り込む。
アールは必死に伝えようとした。
この本能が止まないのであれば、封印された方がマシ。
(まめきちさん!…封印して!してください!
私諸共早く封印して…!命なんて要らない…!)
それを聞いた父は言った。
「ほら、息子も封印してと言っているがね。
君が息子を守らないせいで、とんだ自己犠牲の塊になってしまったね。」
まめきちは舌打ちをして言った。
「守らなかった…確かにそうだな。
お前も理由くらいはわかっているだろうに!
アールをお前と同じ道に行かせたくはなかった!」
アールは何を言っているのか理解がさっぱりだ。
しかし、父は笑って言った。
「そうだね。…未来でも見えてたら変わってたね。」
その言葉にまめきちは眉を潜めた。
そのまま父は近くの機械を破壊、物凄い爆風に包まれる二人。
熱線で黒い煙も白く光る。
アールが気がつくと、大空を飛んでいた。
「あ、きづいたかね。
長話も難だから魔法攻撃で目晦まししておいたよ。
大丈夫、あの爆風も熱線もほぼ見世物みたいなものさ。」
父はそう言うと、そのまま空を飛んでいった。
アールはまめきちの事が心配になった。
あれを聞く限り、何か理由がある気がする。
父は眼鏡を外すと言った。
「それよりごめん。眼鏡にヒビ入っちゃって。
息子は本当に目が悪いんだねえ。」
そう言いつつ、向こうを見る。
真夜中の雲に近づいてきた大きな月。
髪をなびかせ、額が見える程強く吹き込む風。
アールは何とも言わずに黙っていた。
外を探していたルネア一行は一度集まる。
遠くの方では、本拠地を破壊されたサイレンが鳴りっぱなしだった。
「いない!」
シナは言った。
「まめきちさんもいないじゃん!ラムわかる?」
ルネアは聞いた。ラムは冷や汗で言った。
「いや、近くじゃないとわからなくて…あれ…
近くに…凄い近くにまめきちさんの…」
と言うと、まめきちが移動魔法で目の前に現れた。
まめきちは少し服が焦げていたが無事そうだ。
リートは駆け寄った。
「まめきちさん!大丈夫!?」
「大丈夫。
アールは無事だった。でも父が殆ど意識を呑んでいて。
…逃げられてしまった。…探しに行くよ。」
と言って歩き出した。
するとテノは言う。
「あそこのサイレンってアルにゃんが!?」
「本拠地を襲ったみたいだね。
まあ殺し目的の奇襲ではなかったみたいだけど。」
まめきちがそう言うと、みんなは顔を見合わせた。
するとまめきちは言う。
「アールを止めねば…。
こうなってしまっては遅いやもしれん、早く手を打たねば。」
まめきちはそう言って、また消えてしまった。
みんなは一気に悄気返った。
「探そう」
と呟くラム。
皆はそれに返事をした。
~+~+~+~+~+~+~+~+~+
朝日が昇る。
「ん~!目覚めた目覚めた~。
いっぱい寝た気がするんだがね。どうなの?」
父は木の枝に寝ていたようで起きた様子。
それと同時にアールの意識が戻る。
「ん…、ここは日が当たる時間が短いだけ。」
アールがそう呟くと、父親は言った。
「へぇ。そうなんだ。
…私達竜は夜行性じゃないからね。
真っ暗だと、…どうも眠たくなるんだよね。」
そう言ってあくびをする。
その気持ちはわかる。
太陽が出ないと起きる気になれない。
夜は夜で眠気が殺到する。
そして、父が笑顔で言った。
「異心同体、独り言言ってるように見えるから
ちょっと息子は黙っていようね~。」
「私の体だ。」
父はトホホと思いつつも言った。
「息子なのに父に向かってタメなのか…。
父親代わりには敬語使っているのに…。」
するとアールはキッパリ言う。
「貴男を父だと思っていない。」
「そうか…。」
そう言うと、翼を生やして空を飛んだ。
なぜだろうか。
自分は色々な事を父に聞きたい。
母の事や竜の事、故郷の事昔の事。
なのに全く聞けずにいた。
父がそこらを飛んでいると、何かを発見する。
「あれ、君の知り合いじゃないかね?」
確かに知り合いがいた。
東軍の軍服を着たダニエル達がいるのだ。
ダニエルとツウとルカはいつも一緒。
父は三人の前に降り立つ。
(ちょ…!)
とアールは言うが聞いてくれず、父は三人に挨拶した。
「おはよう。若者よ。」
ルカはアールを見たが、一瞬にして怯えた。
「アール?…あああ…」
ダニエルもその異様さに気づいているのか、二人に言った。
「危険よ、近づいては駄目。」
それはそのはず。
人間だと思っていたアールに翼があり、しかも言いそうにないような言葉を話している。
それはとても怪しすぎる。
しかしツウは面白がって近づいてきた。
『ツウ!』
二人は言うが、聞かない。
「おはようじゃなくて、こんにちわだよアール。」
父はツウを見て言った。
「ああ、今起きたばかりでね。」
「ツウ!」
ダニエルは呼ぶが、ツウは無邪気にも笑った。
「大丈夫!悪い人じゃないよ!」
その時、父は何かに反応する。
アールは嫌な予感がした。悍ましい予感が。
「可愛い。可愛い笑顔だと思うよね君!
でもさ……、私は…それを見ると、裏切られる気がするんだ…!」
父が言うと、手が鱗がかって鋭い竜の爪が見える。
アールの中にも、急に悲しみと憎悪が溢れてきた。
ルカはそれに驚いて言う。
「ツウ!危ない!」
ツウも流石に驚いたのか、腰が抜けた。
「ありゃ。この僕が腰抜けちゃった」
何とも普通な反応のツウ。
ダニエルは言った。
「危ないわっ!」
「うわあぁっ!!」
と叫んだのはルカで、アールに銃口を向けた。
「立てないや…」
と苦笑いなツウ。
父は笑顔で言った。
「窮地の笑顔って…素敵でいいと思うよね私はっ!」
と、爪でツウを攻撃しようと振りかざした。
すると、ルカはアールに向けて一発撃ち込んだ。
その音に、ツウは目を見開いて驚いた。
アールの肩に撃たれた銃弾。
細かい血飛沫がツウの顔にかかる。
父は止まって黙っていた。
しかし、銃弾の撃たれた傷口に手を持っていき、傷口から抉り取るように銃弾を取り出した。
「危なかったね…。もう少しズレていたら死亡だ…。」
そう言って、取り出した血濡れた銃弾を地面に落とす。
「え…え…」
とルカは困惑し始めた。
ツウも少し離れる。
すると父は言った。
「君達危険だよ…。邪魔。」
そう言って、攻撃魔法をツウに当てようとした。
アールはルカに銃で撃たれたショックで、呆然としていた。
するとダニエルは叫ぶ。
「ツウ!!」
そう言って、ツウのところまで走って庇った。
ルカも走ったが遅く、ダニエルは魔法に当たってツウごと飛ばされてしまう。
その魔法の反動で、ルカも飛ばされた。
ツウは起き上がると、倒れたままのダニエルが視界に入った。
ツウは信じられない感情から、声を枯らしてしまう。
「ダニエル…
ダニエル起きてよ!ダニエル!」
それを横で見た、ルカも唖然としていた。
「え……」
そこで父は言った。
「まだ攻撃魔法と言っても風切魔法しか使ってないよ。
誰も死にはしないさ。安心したまえ。」
そう言うと、どこかに飛んでいってしまう。
二人はそれを見てから、ルカは涙を流して言った。
「ダニエルをどうしよう!」
ツウは呆然としていて、小さく呟く。
「軍は人が負傷したら足手纏いだから、切り捨てろって言ってたね。」
「ほっとけと!?
ツウ本当にどうしたん!?」
ルカはツウの体を揺らして言うと、ツウはルカを見た。
そのツウの目は、正気を失っていない真摯な瞳だった。
「放っておくわけないじゃん!
…そうだ、いい事考えた!
死ぬフリさ!僕達が今の奇襲で死んだ事にして、いっそ児童園に帰っちゃお。」
ツウは提案した。
確かに周りは魔法で荒れてしまっている。
なんとも言えない案だが、児童園周辺には殆ど人も来ないので、
そこまでの道のりで見つからなければ平気だろう。
「おし!帰ろう!」
とルカは言った。
少しシナへの手紙が気になるが。
二人は軍の備品を適当にそこらにバラ撒き、ダニエルを担いで児童園へと向かった。
親と子の関係の深い事。
==========
東軍の本拠地周辺。
アールはそこらを飛行し、様子を伺っていた。
「さぁてどうしようか。ここの人殺していいのかね?
それとも本拠地破壊していいのかね?
あれ、でも破壊したら死ぬよね。変わらないか…。」
と父は呟く。
父はアールの両手を見た。
人間の手に鱗がかかっている。
「不自然だね。こうしてしまおう!」
と言った瞬間、アールは驚いたが鱗がかった手が普通の人間に戻っていく。
「これの方が息子も嬉しいだろ?」
父はそう呟き、飛行を続けた。
アールは相手の意識に飲まれないようにしつつ、呟く。
「帰…る。」
父はふふっと笑うと言った。
「これぞ異心同体ってやつかねぇ。
面白いね。息子よ、頑張ってくれたまえ。」
その言葉にイラつきを覚えながらもアールは抵抗する。
「お前…っ…もし対面する日があるならば…覚悟しろ…!」
アールは辛うじて言う。
「おっと、実の父親をお前呼ばわりとは酷い子に育ったねぇ。
大丈夫さ。私は息子の味方さ!
…なぜかと言うとね、君の中にいたお陰で私の心が君の心に侵食されている。
そう、私の行動は君の意思も関わっている…。」
そう父が言ったので、アールは驚いた。
侵食されたのは自分だけではなかった。
父が昔から自分の意識下で暴れていた事に気づく。
今、自分が父の意識の中暴れるように。
やはり父も、お互いに侵食し合っていた。
互いの意思を。
(何を…する気なんだ。)
アールは聞いてみた。
父は笑って言った。
「基地の者を殺せ。」
アールは大きなショックを受けつつ、それでも間違いではない気がしていた。
軍に関わりのある者を生かしておけば、戦争を終わらせてもまた始まる気がした。
ならばいっそみんな死刑にしてしまえと思っていた。
そうすれば必要以上の犠牲は要らなくなるのだと。
父は笑う。
「お前も……本当に仲間思いなんだなぁっ!」
そう言って、本拠地に攻撃魔法を繰り出す。
窓ガラスが割れ、建物にヒビが入り崩れ去る建物の一部。
崩れ去ったあとから煙がたったり、人の悲鳴が聞こえる。
そして、父はある部屋に降り立つのだった。
そこには複数の人がいて、すぐに避難してしまった。
「あれ、偉い人どこだろうか?首が欲しかったんだけども。」
そう父が言うと、近くにいた腰抜けた男性に近づいた。
「あの~、大将が何処にいるかは知っているかねえ?」
しかし、彼は首を横に振るだけだった。
父は真顔になる。
「そうかね、それなら…君を……、」
と手が鱗を帯びて、竜の鋭い爪まで現れた。
「要らない子の生き血でも浴びようかね?」
そう言って爪を向けて振り下ろそうとした時、彼の腕の動きが止まる。
「…あー、君は嫌なのかな?…そうだよね。」
父は呟いた。
そう、アールが必死になって止めようとしている。
人を殺すのはいけない。奪うだけじゃなく、誰かを殺すと自分を失う気がした。
失い、また重ねてしまう気がしてしまったのだ。過ちを。
「この意思は厄介だね。…君、逃げないと私が殺してしまうよ。」
父は男性に言った。
男性は四つん這いで歩きながらも、部屋を出て行った。
父はアールにこう語りかけた。
「ねぇ、君は児童園の子達みんなに疎まれてきたのに殺したいとは思わない?」
(恨んではいる…でも…、みんなと一緒にいれるから…。)
そう伝えると、父は笑った。
「そうか、時期が悪かったね。
君も私と同じになればこの気持ち、わかってくれるだろうね。
……ああ、そうだね。私も悪かったさ。
もう殺しはやりたくないよ?だってもう復讐は終わった…。」
アールは父の悍ましい心を察知した。
「でもね…、体が止まらなくてね。
血が欲しくてたまらないんだ……!さあさあ…息子よ。
私もお前も普通の竜ではないんだ…。わかるだろう?
これは本能なんだよ!憎悪を背負ったドラゴンの末路さ!」
父がそう言うと、父は再び破壊を続けながら本拠地の中を飛び回っていた。
アールは違和感を覚えた。
その言葉の意味は到底理解できないが、破壊の意思は父が自ら思う事ではないという事。
本能として出てくるものなのだと。
父はその意思を止めようと思っている節が見られる。
本当に止めたいのなら、自分も止めたいと思った。
共に抑えようと思った。
父はある部屋に着く。
なにやら奥に不思議な機械を見つけたようだった。
「最近の若者はこんな事をするからねぇ。
こんな物壊してしまおう。」
その時だ。
「待てっ!」
後ろから声が聞こえた。
父が後ろを振り向くと、そこにはまめきちがいた。
「まめ…きち…さ…」
アールは振り絞って言う。
「お?んん?君は息子の誘拐犯。」
すぐに父は切り替えてまめきちに言った。
「アールはまだ意識がありそうで良かった…。
…青龍、久しぶりだな。」
まめきちはそう言った。
アールは知り合いなのかと驚く。
しかし、父は眉を潜めた。
「ごめん、覚えていないね。会う人殺す人沢山いすぎて忘れたよ。
何?今度は息子諸共封印する気かね?」
すると、まめきちは黙り込む。
アールは必死に伝えようとした。
この本能が止まないのであれば、封印された方がマシ。
(まめきちさん!…封印して!してください!
私諸共早く封印して…!命なんて要らない…!)
それを聞いた父は言った。
「ほら、息子も封印してと言っているがね。
君が息子を守らないせいで、とんだ自己犠牲の塊になってしまったね。」
まめきちは舌打ちをして言った。
「守らなかった…確かにそうだな。
お前も理由くらいはわかっているだろうに!
アールをお前と同じ道に行かせたくはなかった!」
アールは何を言っているのか理解がさっぱりだ。
しかし、父は笑って言った。
「そうだね。…未来でも見えてたら変わってたね。」
その言葉にまめきちは眉を潜めた。
そのまま父は近くの機械を破壊、物凄い爆風に包まれる二人。
熱線で黒い煙も白く光る。
アールが気がつくと、大空を飛んでいた。
「あ、きづいたかね。
長話も難だから魔法攻撃で目晦まししておいたよ。
大丈夫、あの爆風も熱線もほぼ見世物みたいなものさ。」
父はそう言うと、そのまま空を飛んでいった。
アールはまめきちの事が心配になった。
あれを聞く限り、何か理由がある気がする。
父は眼鏡を外すと言った。
「それよりごめん。眼鏡にヒビ入っちゃって。
息子は本当に目が悪いんだねえ。」
そう言いつつ、向こうを見る。
真夜中の雲に近づいてきた大きな月。
髪をなびかせ、額が見える程強く吹き込む風。
アールは何とも言わずに黙っていた。
外を探していたルネア一行は一度集まる。
遠くの方では、本拠地を破壊されたサイレンが鳴りっぱなしだった。
「いない!」
シナは言った。
「まめきちさんもいないじゃん!ラムわかる?」
ルネアは聞いた。ラムは冷や汗で言った。
「いや、近くじゃないとわからなくて…あれ…
近くに…凄い近くにまめきちさんの…」
と言うと、まめきちが移動魔法で目の前に現れた。
まめきちは少し服が焦げていたが無事そうだ。
リートは駆け寄った。
「まめきちさん!大丈夫!?」
「大丈夫。
アールは無事だった。でも父が殆ど意識を呑んでいて。
…逃げられてしまった。…探しに行くよ。」
と言って歩き出した。
するとテノは言う。
「あそこのサイレンってアルにゃんが!?」
「本拠地を襲ったみたいだね。
まあ殺し目的の奇襲ではなかったみたいだけど。」
まめきちがそう言うと、みんなは顔を見合わせた。
するとまめきちは言う。
「アールを止めねば…。
こうなってしまっては遅いやもしれん、早く手を打たねば。」
まめきちはそう言って、また消えてしまった。
みんなは一気に悄気返った。
「探そう」
と呟くラム。
皆はそれに返事をした。
~+~+~+~+~+~+~+~+~+
朝日が昇る。
「ん~!目覚めた目覚めた~。
いっぱい寝た気がするんだがね。どうなの?」
父は木の枝に寝ていたようで起きた様子。
それと同時にアールの意識が戻る。
「ん…、ここは日が当たる時間が短いだけ。」
アールがそう呟くと、父親は言った。
「へぇ。そうなんだ。
…私達竜は夜行性じゃないからね。
真っ暗だと、…どうも眠たくなるんだよね。」
そう言ってあくびをする。
その気持ちはわかる。
太陽が出ないと起きる気になれない。
夜は夜で眠気が殺到する。
そして、父が笑顔で言った。
「異心同体、独り言言ってるように見えるから
ちょっと息子は黙っていようね~。」
「私の体だ。」
父はトホホと思いつつも言った。
「息子なのに父に向かってタメなのか…。
父親代わりには敬語使っているのに…。」
するとアールはキッパリ言う。
「貴男を父だと思っていない。」
「そうか…。」
そう言うと、翼を生やして空を飛んだ。
なぜだろうか。
自分は色々な事を父に聞きたい。
母の事や竜の事、故郷の事昔の事。
なのに全く聞けずにいた。
父がそこらを飛んでいると、何かを発見する。
「あれ、君の知り合いじゃないかね?」
確かに知り合いがいた。
東軍の軍服を着たダニエル達がいるのだ。
ダニエルとツウとルカはいつも一緒。
父は三人の前に降り立つ。
(ちょ…!)
とアールは言うが聞いてくれず、父は三人に挨拶した。
「おはよう。若者よ。」
ルカはアールを見たが、一瞬にして怯えた。
「アール?…あああ…」
ダニエルもその異様さに気づいているのか、二人に言った。
「危険よ、近づいては駄目。」
それはそのはず。
人間だと思っていたアールに翼があり、しかも言いそうにないような言葉を話している。
それはとても怪しすぎる。
しかしツウは面白がって近づいてきた。
『ツウ!』
二人は言うが、聞かない。
「おはようじゃなくて、こんにちわだよアール。」
父はツウを見て言った。
「ああ、今起きたばかりでね。」
「ツウ!」
ダニエルは呼ぶが、ツウは無邪気にも笑った。
「大丈夫!悪い人じゃないよ!」
その時、父は何かに反応する。
アールは嫌な予感がした。悍ましい予感が。
「可愛い。可愛い笑顔だと思うよね君!
でもさ……、私は…それを見ると、裏切られる気がするんだ…!」
父が言うと、手が鱗がかって鋭い竜の爪が見える。
アールの中にも、急に悲しみと憎悪が溢れてきた。
ルカはそれに驚いて言う。
「ツウ!危ない!」
ツウも流石に驚いたのか、腰が抜けた。
「ありゃ。この僕が腰抜けちゃった」
何とも普通な反応のツウ。
ダニエルは言った。
「危ないわっ!」
「うわあぁっ!!」
と叫んだのはルカで、アールに銃口を向けた。
「立てないや…」
と苦笑いなツウ。
父は笑顔で言った。
「窮地の笑顔って…素敵でいいと思うよね私はっ!」
と、爪でツウを攻撃しようと振りかざした。
すると、ルカはアールに向けて一発撃ち込んだ。
その音に、ツウは目を見開いて驚いた。
アールの肩に撃たれた銃弾。
細かい血飛沫がツウの顔にかかる。
父は止まって黙っていた。
しかし、銃弾の撃たれた傷口に手を持っていき、傷口から抉り取るように銃弾を取り出した。
「危なかったね…。もう少しズレていたら死亡だ…。」
そう言って、取り出した血濡れた銃弾を地面に落とす。
「え…え…」
とルカは困惑し始めた。
ツウも少し離れる。
すると父は言った。
「君達危険だよ…。邪魔。」
そう言って、攻撃魔法をツウに当てようとした。
アールはルカに銃で撃たれたショックで、呆然としていた。
するとダニエルは叫ぶ。
「ツウ!!」
そう言って、ツウのところまで走って庇った。
ルカも走ったが遅く、ダニエルは魔法に当たってツウごと飛ばされてしまう。
その魔法の反動で、ルカも飛ばされた。
ツウは起き上がると、倒れたままのダニエルが視界に入った。
ツウは信じられない感情から、声を枯らしてしまう。
「ダニエル…
ダニエル起きてよ!ダニエル!」
それを横で見た、ルカも唖然としていた。
「え……」
そこで父は言った。
「まだ攻撃魔法と言っても風切魔法しか使ってないよ。
誰も死にはしないさ。安心したまえ。」
そう言うと、どこかに飛んでいってしまう。
二人はそれを見てから、ルカは涙を流して言った。
「ダニエルをどうしよう!」
ツウは呆然としていて、小さく呟く。
「軍は人が負傷したら足手纏いだから、切り捨てろって言ってたね。」
「ほっとけと!?
ツウ本当にどうしたん!?」
ルカはツウの体を揺らして言うと、ツウはルカを見た。
そのツウの目は、正気を失っていない真摯な瞳だった。
「放っておくわけないじゃん!
…そうだ、いい事考えた!
死ぬフリさ!僕達が今の奇襲で死んだ事にして、いっそ児童園に帰っちゃお。」
ツウは提案した。
確かに周りは魔法で荒れてしまっている。
なんとも言えない案だが、児童園周辺には殆ど人も来ないので、
そこまでの道のりで見つからなければ平気だろう。
「おし!帰ろう!」
とルカは言った。
少しシナへの手紙が気になるが。
二人は軍の備品を適当にそこらにバラ撒き、ダニエルを担いで児童園へと向かった。
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