六音一揮

うてな

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5章 諧謔叙唱

第70音 飢腸轆轆

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【飢腸轆轆】きちょうろくろく
空腹で腹が鳴ることを言い表す言葉。

===========

一日後。
氷漬けにされた工場の近くに、ツウが作ったスピーカーが建てられていた。
ツウとルカとユネイは、まめきちと一緒にそのスピーカーを見上げていた。
まめきちは言う。

「三人でよく頑張ったね。
まさか、ルカが西軍の工場を潰してしまうとは思わなかったけど。」

するとルカは苦笑して言う。

「ツウが殺されちゃうと思ったら気が気じゃなくなって…」

それにツウは笑った。
ユネイは続いて言った。

「ここらのパシア族は全員開放 水中の有害なパシア族の遺体はプレティルナが時間をかけて捕食して片付けるそうです
やがて海は毒となる魔力が抜けていき 生き物の住める環境へと戻るでしょう
人間達は逃がしましたけどそれで良かったんですか?」

どうやらそれは、まめきちに言っている様子だった。
するとまめきちは周囲を見た。

パシア族は元気を少しずつ取り戻しており、天敵だったプレティルナとも少しずつ仲良くなっているようだった。
パシア族は工場に溜まっていた真珠をプレティルナに譲渡し、パシア族を食べない様にお願いしたのだとか。
プレティルナも人間達に脅かされてきた為、二つの種族は協力して人間達と立ち向かう姿勢を取っていた。

「人間のお陰でパシア族もプレティルナも一致団結したんだ、いい事だろう。」

「それもそうですが」

ユネイはそう言った。
するとルカは上の空で言う。

「にしてもツウのママ超美人だったな!
絶世の美女ってあの事なんだなって思った!」

「それは言い過ぎだよルカ兄。」

するとそこに、なんとイルナが駆け寄ってくる。
それだけではなく、沢山のプレティルナ達も駆け寄ってきていた。

「ルカ!」

ルカはイルナに気づくと驚いていた。

「イルナ生きてた!?」

「あん!?魔法が切れただけだよ!魔力が戻ったから今は元気だっつーの!」

イルナはルカの反応が気に入らなかったのか、ルカを睨んでいた。
しかしイルナは咳払いをして、少し照れた様子でルカに言う。

「それにお前…ここ全部氷漬けにするなんて凄いじゃないか。
魔力を得たプレティルナの中でも、こんな事できるヤツ…そういないぞ。
今じゃパシア族もプレティルナもお前の事を『勇者』って呼んでるんだぞ!」

ルカは笑顔を見せた。

「勇者!?最強の強じゃん!!
俺、今まで魔法を使った事無かったから魔法が得意って知らんかった!」

それに対し、まめきちは言う。

「プレティルナは魔力を外部から得る必要があるからね。
魔法と縁がなかったルカに自覚がないのも理解できる。」

ルカは仲間に囲まれ、目立っている為か楽しそうにしていた。
するとそこに、更に一人の女性がやってきた。
美しいプラチナブロンドを長く伸ばした、ツウによく似た女性だ。
ツウはその女性を見ると目を丸くする。

「お母さん、もう身体大丈夫なの?」

ツウの母はニッコリ笑う。

「勿論。メンタルだけは鋼なのよ。
それにツウがもう帰るって聞いて、見送りに来たの。」

ツウは母の周りを見て、誰も自分に寄りつかないのを見ると笑顔。

「ありがとう。お母さん一人でも大丈夫?」

「ええ。むしろ一人は慣れっこだから。」

母の優しい笑顔に、ツウも頷いた。
それを聞いていたルカは困った顔。

「ツウやツウママの持つ魔力が異色なせいで…同じパシア族からも仲間外れにされてるんだっけ…」

それに対し、ツウは笑んだまま言う。

「そうだね。仲間と行動は共にしてきたけど、必要以上は近づけないから。
僕はルカ兄に会えて良かったな!
プレティルナは僕達の魔力は平気だから。あとついでにダニエルも。」

そう言われ、思わずルカは苦笑。

「確かによく三人で風呂入るし、つまりダニエルも平気なんよね。
ダニエル一体何者なんだ。」

するとツウの母は言った。

「ツウと仲良くしていただき、本当に感謝しています。
ルカ様がツウのお友達で、本当に良かった。」

「こちらこそぉ!」

ルカはデレデレしているので、イルナはルカを細目で見つめていた。

こうして、ルカ達一行は自分達の故郷にスピーカーを取り付ける事に成功したのであった。

ー+ー+ー+ー+ー+ー+ー+ー+ー+ー+ー+

一方、アールとレイは二人で行動を共にしていた。
二人はレイの故郷である、魔物の星に来ていた。
星の名は【マイズ】。
レイは言う。

「さて、私達の家を探しましょうか。」

そう言ってレイが歩き出すと、アールはレイの肩を掴んで止めた。
アールは不機嫌な表情を浮かべている。

「何を言っているんだ?
スピーカーを付けに来たんだろう。」

そう言われると、レイは不貞腐れた顔を見せた。

「どうせアールさんは私と結ばれる事になります。」

レイが言うと、アールは耳を塞いで聞こえないフリ。
アールの態度にレイは膨れると、次に溜息をついた。

「自分の故郷へ戻ってきて、嬉しい気持ちにはなれないでしょう?
どうせなら楽しい事を考えて、この仕事をしたいの。」

レイの言葉に、アールは目を丸くした。
アールは黙っていたが、やがて言う。

「ならばさっさと終わらせよう。」

そう言って歩き出すので、レイは目を丸くして頬を赤らめた。
嬉しくなってレイはアールの背中に飛びついた。
しかし、アールは一緒に倒れてしまう。

「アールさん!?」

レイは驚いてアールを確認すると、アールは無表情のまま言った。

「お腹…空いた…。」

「えっ、さっき食べたばかりじゃない…!」

しかしアールは俯いてしまう。

「ダニエルのご飯…食べたい…。」

「困ったわ、近くに食堂もなさそうだし…。」

レイがそう言っていると、近くを一人の少年が通った。
髪を短くした、黒髪の少年だ。
首には薄く平べったい水槽をかけていた。
少年はアールに気づくと、驚いた様子で駆け寄った。

「大丈夫っすか!?」

しかしレイが少年に立ちはだかった。
少年は目を丸くすると、レイは言う。

「彼に近づかないで。」

少年はレイの事は無視で、しゃがむとアールに言った。

「お腹空いてるっすか?なら俺の家でご飯ご馳走するっすよ!」

「ちょっと貴方…!」

レイは少年を止めたが、アールはその言葉を聞いて顔を上げた。
アールの目がキラキラしている。
それを見ると、レイは溜息。

(もしもの時は、私が守ればいいか…。)



三十分後、アールとレイは少年の家にお邪魔していた。
アールは少年にご馳走され、美味しそうにご飯を食べていた。
少年は笑う。

「本当にアールは食べるのが好きなんすね!」

それに対し、レイは言った。

「ごめんなさい、ご馳走なんてしてもらって。」

「いいっすよ!それに俺の事はシンヤって呼ぶっす!」

レイは黙り込んでしまう。
そして少年の容姿をを見た。
十五歳も満たない少年に見えるシンヤ。
レイは視線を逸らして考えた。

(見た目の若い魔物なのかしら。
それとも、育ちの早い魔物なのかしら。)

「貴方、今幾つなの?」

レイが聞くと、シンヤも目を丸くする。
それから難しい顔をして言った。

「ざっとぉ…三百超えたくらいっす。」

すると、アールの食べている手が止まる。
レイも目を丸くすると、アールは食べ物を飲んでから言った。

「驚いた。
お前は【変幻の時代】から生きているのか。」

レイも続けて言う。

「変幻の時代…、三百年よりも昔の時代を指す言葉ね。
でも、変幻の時代から生きてる魔物なんていないはずよ。
サグズィの女神ツィオーネは、変幻の時代を生きていたとの噂だけど…。」

ツィオーネ。
その名を聞くと、シンヤは俯いてしまう。
二人はそれに気づくと、アールは言った。

「サグズィの女神を知っているのか?」

しかしシンヤは黙り込む。
そしてシンヤはアールの顔を見た。
アールは首を傾げると、シンヤは俯いてから言う。

「俺もツィオーネ様も、変幻の時代からいたっすよ。
ツィオーネ様とは、大昔は家族みたいに育ってきた仲で…」

それを聞くと、二人は目を剥いた。
アールは机に乗り出すようにして言った。

「つまり、サグズィの女神と家族だったと…?!」

(ラムと同等の存在と思われる、女神ツィオーネ。
その女神の事を知れば、ラムの事がわかるかもしれない…!)

と、アールは考えていた。

「違うっす。俺達、血は繋がってはないけど同じ家に住んでたんす。」

するとアールは落ち着いた。
レイは言う。

「児童園みたいなものかしら。
驚く程ではないわ。」

「にしてもだ。
言い伝えによると女神ツィオーネは地上の一部を切り離して、空の向こうにサグズィを作った。
そんな強大な魔法力を持った女神と暮らしていただけでも、十分に凄い話だろう。」

「全然凄い事じゃないっすよ。
ツィオーネ様も言ってたっす、『こんな力は望んでいなかった』って。」

シンヤはそう言った。
アールは、始終俯いてばかりのシンヤが気になってしまう。
アールは言う。

「どうした、元気がないな。
何かあったのか?」

シンヤはそれに反応すると、アールを再び見た。
アールは首を傾げると、シンヤはクスッと笑った。
更にアールは疑問に思うと、シンヤは眉を困らせて言う。

「アールが、昔の家族によく似てたんすよ。
眼鏡かけてるトコとか、黙ってるトコとか、腹を空かせて動けなくなるトコとか。
だから…」

そう言うと、シンヤは涙を流した。

「悲しくなってきたんす…」

「悲しい?もうその家族はいないのか?」

アールが聞くと、シンヤは頷く。
するとシンヤは涙を拭き、真摯な表情でアールに言った。

「二人に話しておきたいっす。
変幻の時代が終わり、今の時代が始まった時の事を…。
…誰かに、知っておいて欲しくて…」



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