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5章 諧謔叙唱
第71音 悔悟慙羞
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【悔悟慙羞】かいござんしゅう
過去の過ちに気付き、後悔すること。
===========
シンヤは二人に話す。
「三百年以上も前、サグズィの星にはほぼ人間しかいなかったんす。」
それを聞くと、レイは目を丸くした。
「信じられない…。
今じゃ人間なんて希少で、むしろ魔物がゴロゴロと居るのに…。
人間はサグズィにしかいないって言われているくらいなのよ?」
するとシンヤは苦笑し言った。
「むしろ三百年以上前はその逆っす。
魔物と呼ばれた生物は、殆どの人間に認知されてないくらい希少だったっす。
俺達はその中の…魔物だったっす。俺達の家では、みんな力を使えたっすから。」
それを聞くとアールは呟く。
「なるほど、魔物が集まる家だったと。」
シンヤは頷くと続けた。
「そこには俺と兄貴と、ツィオーネ様と、他数名いたっす。
ツィオーネ様は病気にかかって、余命わずかだったんす。
ツィオーネ様は愛する人に看取られていくはずだったんすよ、本当だったら。
それで終わるはずだったんす…。」
「何があったんだ?」
アールが聞くと、シンヤは言った。
「俺達の家では、恐ろしい力を使える子供がいたんす。
それを少年Kと呼ぶっす。
少年Kは、生物の遺伝子を変えてしまう能力を持ってたっす。」
それに二人は驚いた様子を見せた。
アールは言う。
「つまり人間に使えば、人間ではない者に変える事も可能なのか?」
シンヤはその言葉に頷いた。
シンヤは続いて言う。
「少年Kは、心が不安定だったっす。
その上、ツィオーネ様に恋してたっす。
だから、死ぬはずだったツィオーネ様を救いたかったんすよ。
救いたくて救いたくて、遂には考えついてしまうんす。
…俺達の様な能力を持てるよう、ツィオーネ様の遺伝子を書き換え、不死の存在にしようと。」
それを聞いて、二人は驚いた。
レイは言う。
「…多くの能力を得てしまった女神ツィオーネは、その少年Kの力で女神になってしまったの?」
「そういう事っす。
…それを止めた者も多くいたっす。
でも少年Kは止まらないんすよ。
ツィオーネ様の恋人を初め、能力を持った魔物を少年Kは排除していったっす。
二度と逆らえないよう、人の形を得られないようにして…どこか遠くへと…。」
シンヤの言葉に二人は黙り込むと、シンヤは続けた。
「俺は幸い無事だったっす。
俺が一番、みんなの中で頭が悪かったっすから、驚異に思われなかったんすよ。
だから俺が、みんなの仇を討ったっす。…暴走する少年Kを…殺してしまったっす…。」
シンヤはそう言って涙を流した。
シンヤは嗚咽を我慢しながら、首にかけていた水槽を大事そうに抱き抱えた。
そして話を続ける。
「でも仇を討った頃には、地上の人間は殆ど魔物に変えられてたっす。
事の全てが終わってから、ツィオーネ様は目覚めたんす…女神として…。
ツィオーネ様は女神として目覚めても、心はただの人間の女の子だったっすよ…。
ただ普通に命を全うしようとしていた女の子だったっすよ…。
いきなり日常を奪われて、超越した存在になって…混乱してたっす…。」
それを聞いたレイは呟いた。
「想像とは違ったわね…。
てっきり、最初から女神として生きているものかと思っていたから…。」
アールも静かに頷くと、シンヤは俯いて言う。
「ツィオーネ様は恋人を失った悲しみに暮れ、そして怒りも覚えたっす。
その怒りは…俺に向いたっす。
俺は少年Kを殺してしまったっす。
だって魔物になった人間達を元に戻せるのは、少年Kだけっすから。
そんな少年Kを殺してしまった俺は、ツィオーネ様に嫌われてしまったっす。
俺は悪い男っす。」
それを黙って聞いていた二人だが、レイは席を立つ。
シンヤは思わず顔を上げてレイを見ると、レイは言った。
「私は、魔物と人間のクォーターよ。
私の周囲の魔物は、みんな本能に忠実な野蛮ばかり。
でも私は、人間らしい理性を持っていると思っているわ。」
シンヤとアールはレイを黙って見ていると、レイは続ける。
「貴方が少年Kを止めたお陰で、人間と言う種族は生き残れた。
人間という種族がいなければ、私と言う生物は生まれなかった。
だから……」
レイは言葉に詰まると、俯いて小声で言った。
「…ありがとう。
私は今の自分で良かったって思ってる。
魔物じゃなくて、人間らしさを持った私に。」
シンヤはレイを見て、目を輝かせていた。
レイは頭を下げたままだ。
するとシンヤは立ち上がって、力はなかったが笑顔を見せた。
「嬉しいっす…!人に感謝されたの、三百年ぶりっす…!」
するとレイも顔を上げた。
シンヤの笑顔を見て、少しだがホッとする。
そしてアールの方を見るのだ。
アールはレイに向かって一つ頷いた。
レイは席に座ると思う。
(彼も家族に拒まれたんだって思ったら…口が勝手に動いた。
変なの、昔ならこんな事…絶対に言わなかったのに。)
するとアールはシンヤに聞いた。
「三百年ぶり…か。三百年も一人なのか?」
「厳密的に言うとそうっすね。
魔物の殆どは感謝を知らないっすから、魔物の世界で三百年暮らしてきた俺には無縁だったっす。」
「そうか。」
アールはそう言いつつも、シンヤが持つ水槽が気になった。
シンヤはアールの視線に気づくと、苦笑して水槽を見せる。
「気になるっすか?
この中には俺の兄貴がいるんすよ。」
それを聞いてアールは首を傾げた。
「兄が微生物?」
するとシンヤは眉を困らせて頷いた。
シンヤは無理に微笑んで言った。
「少年Kに、真っ先に姿を変えられたんす。
兄貴はとっても頭が良かったっすから。
…だから兄貴は、三百年前からずっと水槽暮らしっす。
もう俺の事も覚えてないはずっすけど…それでも、ずっと一緒に居たいっす。」
そう言って、シンヤは水槽を大事そうに抱き抱えた。
二人は再びそれに黙り込んでしまうと、シンヤは笑顔を向けてくれる。
「でももう慣れたっす!三百年も経ってるっすから。
これからまた何百、何千年経とうと俺は平気っすよ。
変幻の時代を知っている俺、これって結構貴重な存在なんじゃないかって思えてきたっす。
レイ達のお陰っすよ。」
そう言ったシンヤの笑顔は穏やかだった。
二人はその言葉に表情を緩めると、シンヤは笑った。
「二人とも、本当に無口っすね!面白いっす!
そう言えば、二人はこれからどこへ行くつもりなんすか?」
シンヤが聞くと、二人は顔を見合わせた。
アールは言う。
「特に決まっていないのだが、私達は合唱団をやっていてな。
遠くの星々にも歌を届ける為、スピーカーの設置場所を探しているところだ。」
それを聞くと、シンヤの目が輝く。
「歌っすか!?
俺聞きたいっす!俺の家の前にも付けて欲しいっすよ!」
するとレイは眉を潜めた。
「い、いいの?」
「いいっすよ!スピーカーが壊れないように、毎日見張るっすから!」
「確かにここは魔物同士の争いも多くて、スピーカーを設置しても壊れる心配があるけれども…」
レイが言うと、アールは頷く。
そしてシンヤに言った。
「ありがとう。ではここに設置させてもらうとしよう。」
「やったっす~!」
シンヤは両腕を上げて喜んだ。
何がそんなに嬉しいのか、と二人は思わず微笑んだ。
シンヤは言う。
「二人の声が聞けるっすか!?」
「いいえ、アールさんの声は聞けるわ。」
「そうっすかぁ…。」
三人は暫く、他愛もない会話を広げた。
ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*
その数時間後、アールとレイはまめきちに連れられてサグズィに戻ってきていた。
まめきちは言う。
「魔物の世界はどうだった?」
「肝心の魔物に会いませんでした。」
とアール。
アールはその上、こう思っていた。
(シンヤは女神ツィオーネに嫌われていたせいか、あれ以上の新しい情報は無かった。
結局、ラムの事については知れなかった訳だ。)
レイは無表情ながらも言う。
「人間の様な魔物には会いました。元気な人でした。」
二人の無反応さに、まめきちは思わず苦笑。
(楽しくなかったのかな…?)
まめきちはあまり触れないようにした。
まめきちが見ていない中、レイは思わず微笑んだ。
それを横目で見るアール。
どうやらレイは、楽しかったようだ。
アールはそれを見て、視線を逸らしてから思う。
(まあレイもシンヤも楽しそうだったから良しとするか。)
過去の過ちに気付き、後悔すること。
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シンヤは二人に話す。
「三百年以上も前、サグズィの星にはほぼ人間しかいなかったんす。」
それを聞くと、レイは目を丸くした。
「信じられない…。
今じゃ人間なんて希少で、むしろ魔物がゴロゴロと居るのに…。
人間はサグズィにしかいないって言われているくらいなのよ?」
するとシンヤは苦笑し言った。
「むしろ三百年以上前はその逆っす。
魔物と呼ばれた生物は、殆どの人間に認知されてないくらい希少だったっす。
俺達はその中の…魔物だったっす。俺達の家では、みんな力を使えたっすから。」
それを聞くとアールは呟く。
「なるほど、魔物が集まる家だったと。」
シンヤは頷くと続けた。
「そこには俺と兄貴と、ツィオーネ様と、他数名いたっす。
ツィオーネ様は病気にかかって、余命わずかだったんす。
ツィオーネ様は愛する人に看取られていくはずだったんすよ、本当だったら。
それで終わるはずだったんす…。」
「何があったんだ?」
アールが聞くと、シンヤは言った。
「俺達の家では、恐ろしい力を使える子供がいたんす。
それを少年Kと呼ぶっす。
少年Kは、生物の遺伝子を変えてしまう能力を持ってたっす。」
それに二人は驚いた様子を見せた。
アールは言う。
「つまり人間に使えば、人間ではない者に変える事も可能なのか?」
シンヤはその言葉に頷いた。
シンヤは続いて言う。
「少年Kは、心が不安定だったっす。
その上、ツィオーネ様に恋してたっす。
だから、死ぬはずだったツィオーネ様を救いたかったんすよ。
救いたくて救いたくて、遂には考えついてしまうんす。
…俺達の様な能力を持てるよう、ツィオーネ様の遺伝子を書き換え、不死の存在にしようと。」
それを聞いて、二人は驚いた。
レイは言う。
「…多くの能力を得てしまった女神ツィオーネは、その少年Kの力で女神になってしまったの?」
「そういう事っす。
…それを止めた者も多くいたっす。
でも少年Kは止まらないんすよ。
ツィオーネ様の恋人を初め、能力を持った魔物を少年Kは排除していったっす。
二度と逆らえないよう、人の形を得られないようにして…どこか遠くへと…。」
シンヤの言葉に二人は黙り込むと、シンヤは続けた。
「俺は幸い無事だったっす。
俺が一番、みんなの中で頭が悪かったっすから、驚異に思われなかったんすよ。
だから俺が、みんなの仇を討ったっす。…暴走する少年Kを…殺してしまったっす…。」
シンヤはそう言って涙を流した。
シンヤは嗚咽を我慢しながら、首にかけていた水槽を大事そうに抱き抱えた。
そして話を続ける。
「でも仇を討った頃には、地上の人間は殆ど魔物に変えられてたっす。
事の全てが終わってから、ツィオーネ様は目覚めたんす…女神として…。
ツィオーネ様は女神として目覚めても、心はただの人間の女の子だったっすよ…。
ただ普通に命を全うしようとしていた女の子だったっすよ…。
いきなり日常を奪われて、超越した存在になって…混乱してたっす…。」
それを聞いたレイは呟いた。
「想像とは違ったわね…。
てっきり、最初から女神として生きているものかと思っていたから…。」
アールも静かに頷くと、シンヤは俯いて言う。
「ツィオーネ様は恋人を失った悲しみに暮れ、そして怒りも覚えたっす。
その怒りは…俺に向いたっす。
俺は少年Kを殺してしまったっす。
だって魔物になった人間達を元に戻せるのは、少年Kだけっすから。
そんな少年Kを殺してしまった俺は、ツィオーネ様に嫌われてしまったっす。
俺は悪い男っす。」
それを黙って聞いていた二人だが、レイは席を立つ。
シンヤは思わず顔を上げてレイを見ると、レイは言った。
「私は、魔物と人間のクォーターよ。
私の周囲の魔物は、みんな本能に忠実な野蛮ばかり。
でも私は、人間らしい理性を持っていると思っているわ。」
シンヤとアールはレイを黙って見ていると、レイは続ける。
「貴方が少年Kを止めたお陰で、人間と言う種族は生き残れた。
人間という種族がいなければ、私と言う生物は生まれなかった。
だから……」
レイは言葉に詰まると、俯いて小声で言った。
「…ありがとう。
私は今の自分で良かったって思ってる。
魔物じゃなくて、人間らしさを持った私に。」
シンヤはレイを見て、目を輝かせていた。
レイは頭を下げたままだ。
するとシンヤは立ち上がって、力はなかったが笑顔を見せた。
「嬉しいっす…!人に感謝されたの、三百年ぶりっす…!」
するとレイも顔を上げた。
シンヤの笑顔を見て、少しだがホッとする。
そしてアールの方を見るのだ。
アールはレイに向かって一つ頷いた。
レイは席に座ると思う。
(彼も家族に拒まれたんだって思ったら…口が勝手に動いた。
変なの、昔ならこんな事…絶対に言わなかったのに。)
するとアールはシンヤに聞いた。
「三百年ぶり…か。三百年も一人なのか?」
「厳密的に言うとそうっすね。
魔物の殆どは感謝を知らないっすから、魔物の世界で三百年暮らしてきた俺には無縁だったっす。」
「そうか。」
アールはそう言いつつも、シンヤが持つ水槽が気になった。
シンヤはアールの視線に気づくと、苦笑して水槽を見せる。
「気になるっすか?
この中には俺の兄貴がいるんすよ。」
それを聞いてアールは首を傾げた。
「兄が微生物?」
するとシンヤは眉を困らせて頷いた。
シンヤは無理に微笑んで言った。
「少年Kに、真っ先に姿を変えられたんす。
兄貴はとっても頭が良かったっすから。
…だから兄貴は、三百年前からずっと水槽暮らしっす。
もう俺の事も覚えてないはずっすけど…それでも、ずっと一緒に居たいっす。」
そう言って、シンヤは水槽を大事そうに抱き抱えた。
二人は再びそれに黙り込んでしまうと、シンヤは笑顔を向けてくれる。
「でももう慣れたっす!三百年も経ってるっすから。
これからまた何百、何千年経とうと俺は平気っすよ。
変幻の時代を知っている俺、これって結構貴重な存在なんじゃないかって思えてきたっす。
レイ達のお陰っすよ。」
そう言ったシンヤの笑顔は穏やかだった。
二人はその言葉に表情を緩めると、シンヤは笑った。
「二人とも、本当に無口っすね!面白いっす!
そう言えば、二人はこれからどこへ行くつもりなんすか?」
シンヤが聞くと、二人は顔を見合わせた。
アールは言う。
「特に決まっていないのだが、私達は合唱団をやっていてな。
遠くの星々にも歌を届ける為、スピーカーの設置場所を探しているところだ。」
それを聞くと、シンヤの目が輝く。
「歌っすか!?
俺聞きたいっす!俺の家の前にも付けて欲しいっすよ!」
するとレイは眉を潜めた。
「い、いいの?」
「いいっすよ!スピーカーが壊れないように、毎日見張るっすから!」
「確かにここは魔物同士の争いも多くて、スピーカーを設置しても壊れる心配があるけれども…」
レイが言うと、アールは頷く。
そしてシンヤに言った。
「ありがとう。ではここに設置させてもらうとしよう。」
「やったっす~!」
シンヤは両腕を上げて喜んだ。
何がそんなに嬉しいのか、と二人は思わず微笑んだ。
シンヤは言う。
「二人の声が聞けるっすか!?」
「いいえ、アールさんの声は聞けるわ。」
「そうっすかぁ…。」
三人は暫く、他愛もない会話を広げた。
ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*
その数時間後、アールとレイはまめきちに連れられてサグズィに戻ってきていた。
まめきちは言う。
「魔物の世界はどうだった?」
「肝心の魔物に会いませんでした。」
とアール。
アールはその上、こう思っていた。
(シンヤは女神ツィオーネに嫌われていたせいか、あれ以上の新しい情報は無かった。
結局、ラムの事については知れなかった訳だ。)
レイは無表情ながらも言う。
「人間の様な魔物には会いました。元気な人でした。」
二人の無反応さに、まめきちは思わず苦笑。
(楽しくなかったのかな…?)
まめきちはあまり触れないようにした。
まめきちが見ていない中、レイは思わず微笑んだ。
それを横目で見るアール。
どうやらレイは、楽しかったようだ。
アールはそれを見て、視線を逸らしてから思う。
(まあレイもシンヤも楽しそうだったから良しとするか。)
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