六音一揮

うてな

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5章 諧謔叙唱

第72音 天然自然

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【天然自然】てんねんしぜん
人間が手を加えないで、
物事がそのまま存在する状態を表す語。

===========

テナーとテノとダニエルは、チームを組んでとある星にやってきていた。
自然と共有した町並み、空気の美味しい平和な星だ。
ダニエルは空気をいっぱいに吸うと、笑顔で言った。

「あらテナーとテノの故郷ってこんなにも空気の美味しい星だっただなんて~!
私感激しちゃったわ~。」

するとテノは言う。

「まあ、自然を大事にしている星だからな。
惑星【ノブル】は、歌と自然の星。そう呼ばれてんだ。」

「あら素敵~」

ダニエルは体を揺らしながらも喜んだ。
テナーもニッコリしていたが、テノは早速走り出す。

「んじゃ、街まで競争だ!役所で許可取って来ようぜ!」

「は~い。」

ダニエルは返事をし、テナーも頷いてテノを追いかけた。
ちなみにダニエルはマイペースなので、二人からどんどん置いてけぼりにされる。
テナーはダニエルを見て言う。

「はぐれねぇか?」

しかしテナーは、テレパシーでテノに伝える。
テノは言った。

「ダニエルは嗅覚がいいからはぐれてもすぐに追いつく…か。
ま、それならいっか!」



二人は役所に着き、スピーカー取り付けの許可を取ろうとしているところだった。
役所の人間は二人を見て驚いたのか、目を丸くした。

「まさかテナー・カレッジとテノ・カレッジですか!?」

「そうだけど。」

テノが言うと、役所にいた人間が全員集まってきた。
一同は目を輝かせたり、涙を拭いたり。

「よくぞご無事でした…!」

「遠くの星に売られちゃったんだって?よく帰ってこれたわね。」

「大きくなられました…!」

テナーは目を丸くしていると、テノは鬱陶しく思ったのか大声を出した。

「っだー!一斉に喋ってわかんねぇんだよ!」

すると年配の男性がやってきて、二人に言う。

「天才ソプラニスタと天才ピアニストである二人を、この星の住人が忘れるわけありませんよ。」

そう言われ、テノの勢いは収まった。
テナーも俯いてしまうと、テノは言う。

「そんなの昔の話だろ。
それに、俺達はステージを台無しにした過去だってある…。
むしろそう言った意味で覚えられてんのか?」

「いえいえ、そういう訳では…!」

年配の男性がそう言うと、一人の女性が言った。

「最近、テナーくんとテノくんについてみんなで話していたところなんですよ。」

「なんで?」

テノが聞くと、一同は顔を見合わせて困った顔。
二人が首を傾げると、年配の男性が言った。

「二人のお母様であるフォルテ様が、最近捕まったからですよ。」

それを聞くと、真っ先にテノが反応した。

「母さんがッ!?」

一同が頷くと、テナーも反応したようだった。
しかしテナーの反応はそれでも乏しい。
年配の男性は言った。

「お二人共、今までお苦しかったでしょう…。
フォルテ様に父を奪われ、傷つけられ、他星へ売られ、沢山苦労をなされたでしょう…。
お二人を今まで傷つけた分、今度はフォルテ様が罪を償う時が来たのです。」

「母さんは一体どうなるんだ…」

テノが言うと、男性は続けた。

「極刑でございます。
夫を殺め、バラバラにして捨てる残酷なる所業。
まだ幼い二人の我が子を傷つけ、金の為に他星へ売った卑劣極まりない行為。
その全ては、彼女の命一つで償えるものとは思えません。」

その言葉にテノは呆然としていた。
テナーは受け入れる姿勢を取っている。
周囲に沈黙が流れると、そこにダニエルがやってきた。

「あらあら。平和な星かと思いきや、ここはちょっと暗めね。」

それに一同の視線がダニエルに向かうと、年配の男性は言った。

「えっと…あなたは…?」

「ああ、今は俺達児童園に住んでてよ、ダニエルは俺達の家族みたいなもんなんだ。」

テノが言うと、一同は納得した。
ダニエルはテノの顔を見ると言う。

「お母様に会いたがってるんじゃないの?テーノ。」

「そりゃもう…!」

テノが言うと、一同は表情を暗くした。
すると年配の男性は言った。

「誰とも面会をなさろうとしないのです…。
牢獄の中では、自身が殺めた元夫ソプラ様に謝罪をしているようで…。」

それにテノもテナーも反応を見せた。
テノは言う。

「俺も会わせてください、牢獄はどこですか。」

「言えません。彼女は二人と異父兄弟である子供達とも面会をしようとしないのに…!」

それを聞くと、テノは眉をピクリと動かした。
テノは俯きながら言う。

「そっか…やっぱり母さん…あの男とくっついたんだな…。」

するとダニエルは言う。

「じゃ会いに行きましょ、ねぇテナー。
テノも早く。」

テナーは乗り気ではないのか、俯いたまま。

「お、おう。」

テノはそう言い、テナーの手を引いて歩き出した。
ダニエルは外へ出ると、嗅覚を働かせて言う。

「ここらには牢獄が一つしかないのね。
牢獄っぽい匂いが、あっちに一つしかないわ。」

そう言ってダニエルは、その方向へ向かった。
テノは感心しながらも言う。

「よくわかるなダニエル…。」

「魔物の嗅覚を舐めちゃメよ。
それにテナーはいつまで落ち込んでる気?
もー、男らしくないわぁ。」

するとテノは言った。

「勘弁してやれ。
母さんの虐待は、コイツが一番酷かったんだ。
俺の何倍もな。」

「そう?
私は親にも他人にもたっくさん痛めつけられてきたから気持ちがわからないわ。」

それを聞いたテノは、微妙な反応を見せた。

「十歳で児童園に来たダニエルは、どんな人生を歩んできたんだよ…。」

「乙女の過去は聞いちゃダメよ。」

「乙女じゃねぇだろ!」



暫くして、三人は罪人を収容する牢獄へやってきた。
牢獄の敷地内は、罪人を収容しているとは思えないほど華やかな場所だった。
建物は正に罪人の収容所っぽい見た目をしているのだが、収容所の庭は花畑ができている。
その花畑が、寂れ切った建物を虚しく彩っているようにも見えた。

受付を済ませ、面会部屋の前まで来た三人。
テノはテナーの暗い表情を見て言う。

「お前はやっぱここでダニエルと待ってろ、俺が行ってくる。」

テナーは小さく頷くと、面会部屋の前の椅子でダニエルと座った。
テノは息を整えると、面会部屋に入っていった。

ガラスの板一枚で隔たれた先に、椅子に手を縛られた女性を見つけた。
昔と一切変わらない、テノとテナーの母親だった。
テノは思わず目を丸くした。

(母さんだ…!昔と全然変わらない…)

母フォルテは、俯いたまま黙っていた。
それを見ているテノは、切ない表情になる。

(元気がないのも…昔と変わらない…。)

すると突然、背後から音が聞こえる。
テノは思わず振り返ると、そこには槍を持った軍服の少女がいた。
漆黒の髪を床に着くほど伸ばし、真っ赤なジト目をこちらに向けている。
無愛想な顔で椅子に座るその少女は、どうやら槍の柄で地面を叩いて音を出したようだ。
少女は時計型のタイムウォッチを見せ、それは十五分を指していた。

(時間は十五分…か。)

テノはそう思うと、さっさと席に座った。
そしてフォルテに話しかけるのだ。

「母さん久しぶり。テノだ、覚えてるか?」

その言葉に、フォルテはゆっくりと顔を上げた。
テノはフォルテの正気のない顔を見ると、息が詰まる。
フォルテはテノを見ると言う。

「ミリオ、ここに来なくてもいいのに…。
お父さんと一緒に暮らしなさいって…」

そう言われ、テノは顔を引き攣った。

(誰の事だ…?
まさか、再婚相手とのガキの名前じゃ…)

テノは怒りが込み上げてきたのか、ガラスを叩いて言った。

「俺だよテノ!!
お前が捨てた子供だよ!!」

そう言われても、フォルテの反応はない。
テノはそれを見て、気味が悪いのか顔を真っ青にした。

「おい母さん……嘘だろ…?」

テノはフォルテが自分を覚えてない事に焦り、更に話しかけた。

「覚えてないのか!?
俺と兄貴のテナーは二人で、昔はよく音楽のコンクールに出たじゃん!
俺がピアノで、テナーはソプラニスタ!」

それでもフォルテは黙っていた。
テノは歯を食い縛ると、更に言う。

「おいッ!俺らのご飯抜いてきたり、テナーを殴ったりしてきたろ!?
テナーの羽も切り落としたって…忘れたとは言わせねぇぞッ!!」

するとフォルテも歯を食いしばり、それからテノに言い放つ。

「忘れたって言ってんでしょうがッ!!
さっさと星へ帰れ!なんで帰ってくんだよッ!!」

そのフォルテの言葉を聞くと、テノは驚いた顔。
それから再び怒りの表情を見せた。

「テメェ…!わざと忘れたフリを!」

「お前の顔なんて見たくもないんだ!消えろ!!」

フォルテの言葉にテノは更に怒りをぶつけようとしたが、そこで槍を叩く音が聞こえた。
後ろの少女が動き出したのだ。
テノはそれに気づいて言う。

「おい待て、まだ十五分も経ってないだろ!」

テノはそう言ったが、少女はそのままテノを通り過ぎていく。
テノは目を丸くしてしまうと、少女の方を見た。
少女はガラスの前に立ち、フォルテを睨みつけていた。
フォルテも少女を睨むと言い放つ。

「お前はいつもなんなんだ!仕事しろ、さっさとこのガキを連れて行けッ!!」

しかし、少女は何も言わずにフォルテを睨むだけ。
テノは少女を見ると思った。

(まさか、コイツも怒ってんのか…?)

するとフォルテの後ろの扉が開き、扉の奥から太いツルが何本も伸びてきてフォルテを捕らえる。
フォルテは抵抗した。

「クッソ…!」

ツルはそのままフォルテを向こうの部屋まで連れて行ってしまう。
扉は閉まった。
テノは呆然としていると、少女の方を見て言う。

「おい、まだ面会が途中なんだが。」

すると面会部屋に、さきほどの年配の男性が入ってきた。

「フォルテ様は怒り出すと、当分話を聞いてくれませんので。」

その言葉に、テノは驚いた。
面会部屋に、テナーとダニエルも顔を出した。
年配の男性は言う。

「私はこのスクラード牢獄の長、キュリエと申します。
ささ、フォルテ様が落ち着くまで暫くお茶にしましょう。」

そう言われ、一同は頷くのであった。



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