六音一揮

うてな

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5章 諧謔叙唱

第77音 不知案内

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【不知案内】ふちあんない
知識や心得がなく、
実情や様子がわからない事。

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皆が他星から帰ってきた数日後の話。
ルネア達は調理室にいる。
調理室は、先日他星へ行った者達が集まっていた。

「何ですこの騒ぎ」

ルネアは目が点。
特に騒ぎはないのだが、こんな人数で調理室にいるのは騒ぎらしい。

周りのみんなはエプロンや三角巾直用。
ルネアも一応指定されて着替える。

(エプロンとか初めて…)

するとシナは、表情を歪めて言った。

「ここで、料理する中で問題のある児童を抜粋するわ」

みんなは静かに頷いた。
シナは深呼吸してから言う。

「まずはノノ。アンタは根っからの料理できない部類」

そう言うと、ノノは元気に返事をした。

「おう!」

元気に返事をするところかとみんなは思いつつ、次にシナは言う。

「次、ルネア。アンタ料理した事ないでしょ。
ルカは?」

シナは更にルカを睨みつけるように見るが、ルカは涙目で言った。

「俺できるよ~!」

「ルカ兄は料理できるよ」

と、ツウが言うのであった。

「そう言うツウは?」

「お米研ぐくらいなら…」

ツウは笑顔で言うと、シナはツウの背中を押してノノの方へ向かわせる。

「はい、ノノんトコ行ってきて」

「ルカ兄と作りたかった」

ツウの言葉に、ルカは涙を流しながら言った。

「我が弟!兄は辛いぞぉ~」

それに対し、ツウは笑顔で「ドンマイ!」と言うのだった。
次にシナは言う。

「レイちゃん料理できる?」

「私……」とレイは呟き、アールの腕を抱きしめる。
シナは思わず冷や汗を浮かべた。

「あーあー…バリカンと作るのね。いいわよ。
バリカン、アンタは作る量を加減しなさい」

アールは首を傾げながらも「うん。」と言った。
ラムは本当に心が折れたように佇んでいた。
ルネアは苦笑いながらも慰めに背中をさすってあげる。

「ユネイは?」

シナが聞くと、ユネイは調理室にいなかった。
窓口を覗いて食堂を見ると、そこにユネイはいた。

「ユネイ!あなたは作らないのね?」

「沢山の者が一斉に料理するのは効率的に良くない
だから僕はここにいるのだけれど…一人減っても変わらないかな」

「だったら来なさいよ…」

シナは呆れた様子で言った。
するとユネイは調理室まで来てくれた。
シナは腕まくりするような仕草をして言う。

「さあ!料理を始めましょうか!」

ルネアはまず野菜を切ろうとする。
そこで、ラムが切り方を教えてくれる。
暫くすると、ルネアは慣れてきたのか手付きが良くなる。

「そうそう。お前意外とできるんだな」

とラムは言った。
それにルネアは笑顔で言う。

「ラムのおかげです」

「そうか?」

ラムは言い、少し照れ気味だった。
ルネアは楽しくて野菜を微塵切りにする。
ラムはそれを止めていた。

「おい!そんなに切るなって!」

一方、ダニエルはルカの野菜の切り方を見て驚く。

「駄目よ!もっと綺麗に切らないと。美しく。
料理は見た目も肝心なの。さあもっと美しく!」

とダニエルに言われ、冷や汗のルカ。

「綺麗に切ったつもりなんだけんどぉ~」

「野菜だって美しく彩られたいわ」

その言葉に更に冷や汗をかくルカ。
心は涙目だった。

(ダニエルと組むんじゃなかったわっは~)

シナはそれを傍に、自分の料理は微塵切りで良かったと思う。

そしてアールとレイの方では。
アールは料理の手付きの良いレイの隣で、黙々と野菜を切る。
周りのみんなはふと二人に目線をやる。
二人共一切無言で料理をしているのだ。
指示も無しに動く二人はまるで異体同心。
何だか怖く見えてこなくもない。

(契約のせいかな…でもレイさんは何で…?)

とルネアは思っていた。
アールはふと手を止める。
それから暫く動きを止めていたが、
再び新しい野菜を切ろうと手を伸ばすと、
レイがアールの腕を掴んでそれを止めた。
アールはビクッとして手を下ろすのであった。

「何やりたいん?」

ルカが呟くと、シナは呆れた様子で言う。

「きっとバリカンの事だし必要以上に野菜切ろうとしてんのよ」

一方リートは、ネギを切って鍋に入れる。

「ネギのお味噌汁~♪」

と楽しそうに味噌汁を作っていた。

その傍では、テノは生地をこねている。
隣でテナーもこねている。

「手打ちうどんっていいよなぁ…」

テノが言うと、次にテノは驚いたような顔をしてテナーに言った。

「は!?お前はパンを作るって!?…そうかよ。
どっちが美味しいかバトルだ!!」

と勝負を仕掛ける。
テナーは笑顔で了解そうな表情を見せた。

一方、問題のノノ達は…。
ノノは「野菜が切れた」と大満足そう。
ツウは「お米研いだよ~」と嬉しそう。
野菜は大雑把に切られたまま、火にかけた鍋に入れられる。
ツウはその横から研ぎ終えた米を入れる。

「この不可思議な料理を普通の料理に変えるんだね」

とユネイはとても冷静そう。

「危ない気がします」

ルネアが呟くと、ラムも蒼白して呟いた。

「…俺も心配」

するとノノはツウにある質問をした。

「何を作る?」

みんなは一気にすっ転ぶ。

(何で煮てるのに今決めようとする!)

とラムは心でツッコミを入れた。
ツウは考えると言う。

「僕ルカ兄の特製氷味噌おにぎりが好きなんだよね」

それにみんなは真顔。

(なんだその料理。)

シナはルカを睨んで言う。

「実は料理下手?」

それに対し、ルカは涙目になりながら否定。

「ツウは冷たい食べ物が好きなだけ!別に俺は料理下手じゃないです!」

「にしても、火にかけたのに氷?」

ルネアが言うと、「火?」とツウは言いつつ鍋の底を見た。
火が燃えており、ツウはそれを見てらしくないほど驚いた。

「うわぁっ!火事になっちゃうよ!」

ルカは思い出したような顔をして言った。

「そう言えばツウは火に慣れてないから苦手なんだったっちょ」

「えー!?」

とルネアは驚く。
しかしユネイは話を聞いていないのか、冷静に言う。

「煮ているからお粥でも作ろう」

発言はまともなので、みんなは思わず安心する。
確かにお米も入れられたならお粥にするのもいいだろう。
ツウとノノは言った。

「お粥!いいね!」

「片栗粉片栗粉!」

ノノはそう言って片栗粉を沢山入れる。
みんなは驚愕。
なぜ片栗粉を入れたのか。
あのどろどろのを作りたいのかもしれない。

「うむ?上手くいかんの。料理人は本当にすごいんじゃの」

「これでできあがったかな?」

「そろそろいいじゃろ」

ツウの質問に対し、そう言って火を止めたノノ。
みんなは(急かしすぎ!)と心でつっこむ。
一番まともなユネイも、考え事をしていて料理を見ていない。
ツウは「これを冷やす」と言って、鍋ごと冷蔵庫につっこんだ。
真顔でみんなはそれを見る。
ユネイはコンロを見て、ツウに言った。

「鍋が消えた
どこかに持っていった?」

「今冷やしている途中」

「早すぎる気が いや 僕が考えていて時間が過ぎたのか?
しかし時間は経っていない何事なのだろうか彼等は作る気あるのかな」

と言い出したのでみんなは泣きたくなる。
しかもお粥を冷やす事を黙認している。

これぞ真の料理を知らない者。

逆にルネアは料理をした事がない割には普通。
あんな料理もしようとは思わない。

他の者は料理を続ける。
ルカはダニエルの厳しい指導の元頑張っている。

「こう言うふうにリズミカルに切るの」

ダニエルが言うと、ルカは目を光らせた。

「おお!なるほど!俺もやるっす!」

いつの間にか料理教室が始まっている。

シナはハンバーグを作っているのか、
フライパンで焼いている途中。
そして横目でダニエル達を見て、呆れた様子。

「リズミカルって何よ…」

リートは豆腐を切って味噌汁に入れる。
既に味付けはされているようだった。
そして、混ぜてみる。

「…ネギ少なかったかな。何か入れようっと。
…あ!玉ねぎ入れよう♪」

と、一人ながらも楽しそうに作るリート。

(ネギ三昧…)

と傍で見ていたグランは苦笑いだった。
グランは足が不自由なので端で様子を見ているだけらしい。
みんなの頑張って作っている様子が微笑ましい。

テノはグタッとして言う。

「やばい、切るの面倒。うどん」

そう言いつつも再び頑張る。
テナーは笑顔でパンの形を作っていた。
テノはそのテナーの軽やかな手付きにイラつきを覚えた。

ノノはグランの近くに座って、ツウに聞いた。

「どのくらい冷やせばいいんじゃ?」

「みんなが終わるまで冷やしておこう」

ノノは承知してみんなの様子を見に行った。
グランは二人の料理は食べたくないと苦笑いだった。

ラムとルネアは、ルネアが料理初挑戦なので、一番簡単そうな野菜炒めを作っていた。
炒める音に驚く二人ではあったが、それでも上手く作れたと二人共大満足そう。
二人は味見をしてみる。

「美味しい!こんな味になるんですね!」

「おお!結構上手くいった!」

やったね、と二人はハイタッチしている。

「仲良いね~」

とツウは呟くのだった。
その様子を目をギンギンにして見ているのはリート。
ラムを女だと知らない限りはずっとこうだろう。

アールとレイは始終黙って料理をしていた。
誰とも話しかけず、振り向きもせずに料理。
唯一平和に料理ができている二人だった。
だって他の者は、ノノ達の料理を見てしまったのだから。



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