六音一揮

うてな

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6章 行進変奏

第82音 軽佻浮薄

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【軽佻浮薄】けいちょうふはく
考えや行動などが軽はずみで、
浮ついているさま。

========

グランが立ち尽くしていたので、ルネアはグランを呼ぶ。
グランはルネアに振り向いて言った。

「ちょ…、遅かったよ…。軍隊さん来てさ…」

それを聞いてルネアは驚く。
急に不思議な恐怖に駆り立てられた。

「みんな連れて行かれたの!?」

ルネアの言葉に、グランは俯いて言った。

「アールの言う通り、魔法が使える者は連れて行かれたよ。
他の者は…戦争に連れて行かれた児童達を助けに行ってしまった。
僕はまたお留守番さ。…まめきちさんも連れて行かれてしまったよ。」

ルネアは驚きで声が出ない。
そんなルネアを見てグランは言った。

「仕方ないさ。ラムは抵抗していたけれど、
奴等の魔法封じによって抵抗できず、魔法をかけられて眠らされてしまったよ。
…ラムみたいになりたくなければ大人しくついて来いって、
他のみんなは大人しくついて行ったさ。」

その言葉にルネアはやはり黙っていると、児童園の中からレイが出てきた。

「レイさん!」

「アールさんはどこ」

ルネアは場所を大体言うと、レイは走ってそちらに向かった。
ルネアは気づく。

「アールさんも危ない!」

それに対し、グランは静かに頷いた。

「軍は魔法力を五段階に察知する計測器を持っている。
だから魔法を使わなくとも、魔力を計測されてしまう。
急いで彼を探さないと」

ルネアはそれでも心配ないと思った。
主であるレイが行っているし、時期に戻ってくるだろうと思っていた。

~+~+~+~+~+~+~+~+~+~+

ラムは目覚める。
全く知らない見覚えのない天井。
起き上がれないし動けない。
ラムは動こうとしたが、やはり動けない。

「うわっ!なんだよこれっ!」

部屋に響く声。
広い部屋だと思われる。

「やあ起きたかラム君よぉ」

と、ベスドマグの声がした。
ラムは少し怯えながらも抵抗する。

「なんだ!戦地じゃなくてここはどこなんだ!
何をする気なんだ言ってみろ!」

その言葉にベスドマグは笑いながら言った。

「いや、別にお前に悪い事しようとしてねぇよ。
あまりその大きな力で抵抗されるのも困るからな。
魔法封じじゃ連れてきた意味もねぇし、こんな機械を作り上げましたとさ。ドン!」

と言うが、天井しか見れないラムは冷や汗で「ごめん見えない」と言った。

それに一瞬真顔になるベスドマグだったが、少し考えてから言った。

「見えねぇならしょうがねぇ。ちょっと待っとけ」

と言いつつ、優しいのか写真を見せてくれた。
大きな機械。としか言えない。

「…これで俺の解剖とかするのか!?」

ラムはいきなりパニックになって暴れだしたくなる。
ベスドマグは写真をしまって言った。

「いや、解剖とかしねぇよ。触手もねぇよ。
普通に魔法を借りるだけさ気にすんな!」

笑いながら言うのだが、ラムは不安しかない。

「んじゃスイッチ入れるぜー」

「嘘!やめろ!」

ラムの焦りは虚しくスルーされ、スイッチを入れてしまうベスドマグ。
すると機械音が聞こえる。
何だかこれから何かが始まると思うと鳥肌が立つ。
その時、機械音が止まった。

「は?」

ラムが言っていると、また機械音が鳴り始め、どんどん加速するような音。
ラムの体に急に負担がかかるようになる。

「ぐっ…!」と声を出すが、ベスドマグはそんな様子を見て「ほー」となっている。
今まで自身の魔力に慣れすぎて気付けなかった大きなものが、
解放されるというか、少しずつ抜かれていくような気がする。
しかし、そこまで苦しい訳でもなかったのでそのままでいる。

すると、機械が電気を帯びる。
ベスドマグは「あれ?おかしいな」と言いつつ、機械を見ようとすると誤作動なのか、
大きな操作が始まったようだ。
それと同時にラムの体の負担が大きくなり、苦しくなる。

「ぐぐ…あぁ…っ」

首を締めた時のような声を出すラム。
機械音もどんどん大きくなる中、機械が外へ向けて魔法を打ち出す。
ベスドマグは急いで外の様子を見に行った。



アールは木に寄りかかって座り、頭を抱えていた。
みんなが軍隊に捕まった事を知らないアールは、今はラムの身を隠す方法でも考えていた。

その時、地響きが聞こえる。
何か大きな力が、大地に流れ込むようだ。
それはまるで、この世の中心に溢れる力が一気に大地に流れ込んだようだった。

(…ラム?)

アールが思った瞬間だった、
大きな破壊音なのか爆発音か、耳が壊れそうなほど大きな音が鳴ったのだった。

そして大地は大地震の様に揺れ、アールはその揺れに耐えながらも木に登る。
上に登った後は、もう地の揺れは収まっていた。


高い木の天辺から見えた向こう側の光景は…


本拠地を中心に割れた大地。
地上を抉ってできた大地なのでマグマは無いはずなのに
そのヒビ割れた地の隙間に見える煮え滾るマグマ。
建物は崩れたりしていて街は壊滅的。
木々も倒れ、一部はマグマに落ちた。

思わずアールは呟いた。

「【破極天災(はきょくてんさい)】…。
世界一帯を大災害に落とし込む、攻撃魔法最高クラスの魔法…。」

ラムの魔法の暴走は思った以上だった。
今までの暴走とは格が違う。
身を守る暴走ではなく、破壊するための暴走だ。
この地を作り上げた創造とは、破壊との隣り合わせ。
ラムがいきなり力を発揮するなどありえない。

何か理由がある。
と思うと、ベスドマグを思い出す。
彼はきっとラムを本拠地に連れて行ったのだと。
そして何かしらしてこういう事態に陥ったと。

 ――お前は絶対に私が守るっ…!――

アールは自分の言葉を思い出す。

(守れなかったのか…?)

ここまでの事態、想定はしていなかった。
だから尚更、自分が憎くなった。
約束一つも守れない自分を憎みたい。
これは彼にとって最悪な事態であり、恐ろしい事。
この暴走が止められなければ、サグズィは大地ごと崩れ、後に地上に落ちる。
ならば地上にも被害が出るだろう。
岩が崩れマグマが冷え固まり溶岩が地上に落ちる。
サグズィの人々は空気や気圧を抑える魔法が消えた事により窒息死する。
そのまま空から落ち、地上は人の死体が溢れるだろう。

アールは思った。

(なぜ、あの時ラムに約束してしまったのだろう。
約束などなければ、今頃ラムを封じる事が出来ていた…はずなのに。)

アールは目を閉じた。

(ラムを封印する為には、ラムの信頼を勝ち取らなければならない。
『ラムが心を許すたった一人の相手』でないと、ラムを封じる事ができない。)

そう思いながら、拳を握った。

(今きっと、ラムは私とルネアの間で迷っているのだ。
私が変に期待をかけるから…ラムは私から離れずにいてくれるのだ。)

一番信頼できるたった一人への印。
アールはそれが欲しかった。
自分への信頼を。と思っていた。

しかし、無くなっていた。
ラムを封印する場所、そこに漂う光。
前まではあった印が、あの場所から無くなっていたのだ。

(自分が身を引いて二人を信頼させれば、魔法戦争が始まるまでに間に合っていた。
私がとっくに諦めていたら…、ラムを諦めきれなかった私の責任だ…!)

あの魔法の暴走を止めるにはどうしたらいいか。
アールは心に決めた顔をする。

(暴走した時は、信頼できる者に起こしてもらう。
それしかない。
…とりあえず今は、被害を抑える為に最善を尽くそう。)

アールはそう思いながら周囲の風景を見ながら思う。

(自分で封じた竜の力が目覚めれば、この事態を収拾できるだろうか。
でもどうやって封印を解く…?)

アールは考えていると、心当たりがあるのか目を見開く。

(ベスドマグならできるかもしれない。
奴は戦争の加担者だが、イチかバチかだ。)

今はこの事態をどうにかしないといけない。
自分の責任でもあると思うこの騒動を、止めに行こうと自ら方法を解きに向かうのであった。



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