六音一揮

うてな

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7章 旋律終曲

第90音 六音一揮

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【六音一揮】ろくおんいっき
六つのパートと一人の指揮者。
又は、六つ目と指揮者の事。

==============

あの日から数週間経った。
児童園はほぼ壊れていて、綺麗に残っていた部屋は少なく、
綺麗な部屋は女子に明け渡し、男子達はヒビや少し外が見えるくらいの部屋で過ごした。
外で火を焚いてご飯を作るのも、近くの川まで水を汲みに行くのにも慣れた。
その絶妙なサバイバル感覚が何とも楽しい。

パートリーダー達は歌の練習をする。
流石に最後の歌なので、アールも読書せずにしっかり取り組んでいた。
そうやって、ラムとルネアの最後の日までを過ごそうとした。

戦争はあの騒ぎで武器も何も破損、更にはマグマの下に落っこち、
これは女神ツィオーネの怒りだと戦争を止めた。
これで国王制のできあがりは免れたようだ。
実際、サグズィの神的存在であろうラムも望んではいないだろうから。

ベスドマグは罪に問われる前に家族と再開したらしいが、
その後はどうなったかわからない。

ー+ー+ー+ー+ー+ー+ー+ー+ー+

ダニエルは玄関を開けてルカに言う。

「あら、早くしなさい始まるわよ」

その言葉に扉から入る太陽に眩しく感じながらも、ルカは言った。

「わかってるわかってーる!行く行く!」

ルカは服装を整えていた。
ツウは笑いながらルカの背中を押す。

「早く早くー!」

三人はいつも通り自分のペースで歩く。
ルカとツウは雑談し、ダニエルは堂々と歩く。

それからすると、隣街に着いて、
広場にできたステージに、街のみんなが集まっていた。
ダニエル達はそこへ足を運ぶ。
そこには児童園の他の人達もいて、「三人共遅いよ」とユネイは言った。
それにツウとルカは笑顔で言う。

「いや、ルカ兄がお寝坊さんだから」

「ごめんてぃーあ」

ダニエルはクスッと笑って三人を見ていた。

レイもそこにいて、ステージをジッと見つめて待っている。
まめきちはその近くで「そろそろかな~」と言っていた。


その時、七人の集団がステージに上がってきた。

六人の重唱団と、一人の指揮者の登場だった。

それに児童達は喜んでいると、その七人は位置について並んでいた。
広がる沈黙。

一人目のソプラノ担当のノノ・ヴォルカ。
明るく元気に口を噤んだ笑顔でいる。
彼女の赤い髪はまるで、今日この晴天。
とても熱く感じさせるような色。

二人目のメゾソプラノ担当のリート・アムール。
落ち着いた表情には、どこか抜けた感じがする。
ふわっとした彼女の雰囲気には、みんな癒しを感じている事だろう。

三人目のアルト担当のシナ・ラドナ。
しっかりとした揺れ動かない笑顔は表面的。
内心少し緊張しているのが、周りから見たらどこか落ち着きを感じさせた。

四人目のテノール担当のテナー・カレッジ。
彼の真面目な表情には美しさを感じる。
重く構えるような表情をしていても、どこか彼の軽やかさを感じられた。

五人目のバリトン担当のアール・ダーン。
硬い表情は一切崩れず冷たい印象。
しかし内面熱い彼は、誰よりもこの歌の成功を望んでいる。

六人目のバス担当のラム・ローフ。
こちら満面の笑みで気合充分。
だが自分が失敗してみんなに迷惑かけたり、
戦争の残り兵が襲ってきたりと、脳内は妄想に滑車がかかっている。

最後に一人の指揮者として出る事になったルネア・プロノス。
微笑みを浮かべ、これで最後になるんだと思うと悲しく思う。
素晴らしい重唱にしようと考えていた。



ルネアはみんなに表情で頑張ろうと伝える。
それにノノやシナやテナーやラムは笑顔で答える。
リートはしっかり頷いてしまっているが。
アールはただ一人黙って見ている。
そんなアールを、周りのメンバーが笑いを堪えつつも見ている。
馬鹿真面目過ぎだと、笑いが少しこぼれるシナ。
アールはステージに立った瞬間から、この歌は始まっているんだと思っているもよう。
その真剣な姿に、みんなは一気にケジメをつけ始めた。

観客は六人の表情やらを見て疑問に思っていた。
しかし、児童達はなんとなくわかっていて笑いが出る。

ルネアは指揮棒を上に上げると、六人は一斉にその指揮棒の方を見つめた。

そしてルネアは棒を振って、六人が一斉に歌い始めた。
六人の一斉の歌声は意外に声量があって、みんなを途端に感心させる。
女声の歌声は優雅に、男声の歌声は落ち着き、
またその声が重なり合うと、みんなの体に鳥肌が立つ。
何とも言えない美しいような素晴らしい歌声に、みんなは吸い込まれるように聞いている。

ソロパートは一人一人の個性が出た。

テノがルネアから聞いたパートリーダーの特徴を元に作り上げたソロパート。
とは言っても、曲の方を大事にしているので違和感はない。
それぞれのパートの者もさぞ歌いやすい事だろう。



その歌声は、スピーカーを通して遠くの星にも届いていた。

ルカ達が向かった星では、工場跡地にそのスピーカーが建てられた。
パシア族が歌を聞きつけて集まり、プレティルナも海岸へ集まってきていた。
地上にいるツウの母は祈っており、イルナは笑みを見せていた。

アールとレイが向かった星では、シンヤの家の前にスピーカーを建てた。
シンヤはその歌声を聞き、楽しそうにしていた。
水槽の中の兄にもそれを聞かせているようだ。
声を聞きつけて、周りにも魔物達が集まってきていた。

リート達が向かった星では、海中の小人の前にスピーカーが建てられた。
歌声を聞くと、小人は目を輝かせた。
そして優しい笑みを浮かべ、祈るようにしてその歌を聞いていた。

テナー達が向かった星では、役所の前にスピーカーを建てた様だった。
人々は手を繋いで歌い、そしてお祭り騒ぎだった。
その声はテレビを通して、スクラード牢獄にも届いていた。
キュリエは満面の笑みで聞いており、守り人も黙って聞いていた。

ラムとルネアが向かった星では、女神の像の前にスピーカーを建てた。
当たり前の事だが、歌を聴かせても女神の像にはあまり変化は見られない。
しかしその周辺には変化が起きた。
魔物達が集まり、女神の存在に気づき始めるのだ。

それだけではない。
まめきちが向かった星々にも、スピーカーは付けてある。
多くの星の人々に、この歌声は感動と感激をもたらした。



一方テノは何をしているかと言うと、なんと児童園でお留守番していた。
理由は歌自体は練習中に聞いたし、
本番、何か邪魔が入って途中で聞けなくなるのも嫌だから、
いっそここに残ってピアノでも弾いていると言ったそうだ。
ちなみにみんなへの言い訳では、ここに空き巣が入ってきたら大変だとか言ったらしい。
壊れた児童園の中、なかなか弾ける日がなかった。
弾けば周りの迷惑になる時もあるし、あまり弾く気にもならなかったかららしい。

テノはピアノを弾いた。
美しいピアノの旋律が響き渡る。
ヒビ割れた部屋から外に漏れ出す音。
彼のピアノを弾く姿は、兄に似て美しい。
安らかな風が、彼の長い髪を軽くなびかせる。
 一人。
今六人が歌っている歌を想いを込めて、
今、六人が歌っている中で鳴らしているのであった。



彼等の歌う、戦争に終わりを告げる歌。
これからの平和を願う歌に、みんなは聞き惚れる。
戦争が終わって戻ってきたみんなの為に、こうして六人は歌うのだ。
自然とルカ達もその歌を口ずさむ。

ルネアは指揮をしつつも、目に涙を溜める。
この歌が終わればさよならが待っている。
ラムを封印し、自分は未来へ帰る。
この歌が終わってほしくないと思っていた。

周りは歓喜や穏やかに聞いているのであるが、ルネアだけ悲しい想いに浸っていた。
しかし、きっとこの六人の中でも
悲しいと思っている人はいるだろう。

願いつつも、歌は終わり、やがて幕を閉じた。

ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*

呆気なく終わった。
むしろ今日は何をしたのと吟味したくなるくらい呆気ない。
もしかすると、また別の日に歌う日があるのではないかと思うくらい。
いや、あって欲しかったのかもしれない。
それほどみんなとの別れが辛いのだ。

「アールさん。僕別れが辛いです」

ルネアはアールに言った。
アールは帰ってきてから機嫌が悪そうだ。
なんだろうか、レイと会話した後からこうかもしれない。

「今頃辛いと言ってどうする。決めた事だ。」

アールはそう言うと、窓から外を覗いた。
崩れかけた建物のヒビから風が入って髪を揺らす。
ルネアは窓を見つつも言う。

「ここの窓も結構頑丈ですね」

「…そうだな…。」

ルネアはアールを見ていた。
アールも何だか寂しそうにしているように見えた。
ラムが封印されるのに普通でいられる訳はないかと思う。
ただでさえ一番の友人をやってきたのに。
今では何だろうか、ルネアがラムの一番の友人だろうか。
アールにとって、ラムはどういう存在だったのだろうか。
あの日から二人が一緒にいる日は見かけない。
逆に、ラムにとってアールはどんな存在なのだろうか。
ラムも一切アールとつるまないようになった。
きっとレイとの一件があってから、二人の距離は一気に離れてしまったのだろう。
しかし、それはアールがラムから離れる理由になるだろうか。
そこだけが疑問で、いつまで考えてもわからないままで、
更に本人に聞いても教えてくれるわけでもないので、
このまま迷宮入りなのかと思ってしまった。



更に暇で外にいると、ラムが一人切り株に座っていた。
ルネアが近づいて話しかけると、なんとラムは泣いていたのだった。

「ラム!?」

ルネアが言うと、ラムはルネアを見て言った。

「あ…お前も言えねぇからな。さっき泣いてたろ」

無愛想に言うのだった。
それはそうだけどと思いつつ、ルネアは言う。

「別れ……辛いよね」

「当たり前だろっ!」

更にラムは涙を拭くと言った。

「封印なんて俺には一瞬、一瞬にしか感じねぇ。
…でも、未来になって解かれりゃ…
一瞬なのに…知っている人は消えちまうんだ…」

その言葉にルネアはグッと来る。
確かにラムにとっては一瞬でもみんなにとっては長い年月。
みんな生きている保証も無いし、実際寿命があるからどうとも言えないだろう。

しかし、その時、ある事を考えた。
なぜ今まで気付かなかったんだろう。

「ラム!僕が未来に帰ったら
ラムの封印解きに行きますよ!それなら僕にまた会える!」

そう言うと、ラムはいきなり目を輝かせた。

「本当か!未来でまた会える?」

ルネアはラムの元気が戻ってきたなと思い、
笑顔で「はい!」と元気よく言い、ラムと一緒に指切りをした。
さっきまで未来に帰りたくないとか思っていた割には普通。
と言うか、呆気なく帰る事を決めた。

「あ、でも過去を変えたからもしかしたら未来、
ルネアが存在しないかもって俺思うんだけど…」

ラムは不安で言った。
それにルネアは驚くが、すぐに笑顔で答えた。

「変わっていたら今頃僕、ここにいませんよ!」

その言葉にラムは不思議と納得して、二人で笑いあった。
また会える、それを信じて。



 …きっと明日がさよならかな…。



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