六音一揮

うてな

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7章 旋律終曲

第91音 進取果敢

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【進取果敢】しんしゅかかん
自ら進んで積極的に事を成し、
決断力が強く大胆に突き進むさま。

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ラムは森の中にいた。
今日は待ちに待っていない封印の日。
更にはルネアの未来へ帰らされる日。
みんなは結構普通で、あまり声をかけたりはない。
別れが惜しくないのか、と思うが、
もしかしたら別れが惜しいからこそ話さないのかもしれない。

ルネアによって自分は封印されるのだとアールからは聞いていたが、
今日は朝早くからアールに呼び出しを食らっている。
なぜ呼び出されたかは不明。
本当だったら会いたくはない。
これ以上関わると、気不味くなるのは確かだからだ。

一方アールは、森の奥で考え事をしていた。
昨日機嫌が悪かった理由。
レイがこれが終わったら自分の故郷で暮らそうと提案された為だ。
歌を終えた後に聞き、後味が悪すぎた。
主の言う事は絶対なので、この一件が終わったらアールもこの星を出ないといけない。
とは言っても、まだまめきちとは話し合っていない。
まめきちが父を見張ると言っている為、自分が星を出るのはまめきちにとっては不都合だ。
そこら辺もしっかり話し合わなければならない。

そんなふうに考え事をしていると、草の上を歩く足音が聞こえる。
ラムが来たのかと思い振り向くと、ラムがこちらに向かって歩いてくる。
アールはそれに気づいた。

「ラム…。すまないな、ここまで呼び出して…。」

ラムは顔を見合わせないように「うん…大丈夫」と言ったのだった。
アールは正直その様子を見て安心した。
この口調的に、まだ完全には嫌われていないのだと。
しかし、アールは決めていた。
今日こそは絶対に。

ラムはアールを見ないようにしていた。
アールはラムの隣を歩く。
ラムはよそ見をしすぎたのか低い木に当たってしまった。
「うわ!」とラムが言うと、アールは少し焦って「大丈夫か?」と聞いた。
その言葉にラムは「気にすんな」と言い、内心恥ずかしく思う。
アールはそんなラムを見てやはり避けられているなと実感する。
その時、アールはラムの髪の毛に葉がついているのに気づく。
その身長じゃ木にぶつかるのも仕方がないと思いつつ言った。

「ラム、頭に木の葉がついているぞ。かがめ。」

とアールは言うのだが、相変わらず自分は上から目線にしかものが言えないと痛感。
ラムは少し腰を低める。
相変わらず身長が高い大男。
女に戻ったら身長は低いのかなと気になりつつも木の葉を取ったアールだが、これが最後かも知れないと思うと、
ラムの事を思っていると、自然とラムの頬にキスをしていた。
それにラムは驚いて、アールを思い切り突き飛ばす。

「ななっ!何だいきなり男に向かってぇ!!」

その瞬間ラムは気づく。
自分がアールに拒否反応を起こして突き飛ばした。
やはり、アールと離れたいのだろうか、
それとも、他の女と一緒にいたから触れてほしくないのだろうか。

アールは小さい頃から一緒にいた友達。
守ってあげたいと思っていた友達。
一緒にいるから好意を持ってしまったんだと思う。
本当は相手の何も知らないし、全く心も通わせられない。
それを思うと好きになっていた自分が愚かに思えてきた。

「好き…。」

アールはそう呟いた。
ラムは「は?」と言うと、アールは言う。

「ずっと…ずっと大好きだった…ラムの事…!
大好きだけど…何も言えなくて…言っては駄目な気がして…。
でも…今なら言える……。ラム…好きだ……。」

アールは言葉が喉につっかかりつつも言った。
ラムは冷や汗で「俺男だぞ…?」と聞くと、アールは首を横に振った。

「女なのは知っている…。小さい頃から。」

と、アールは言ってしまう。
ラムは驚いて、「えっ…」と言うが、アールの目は真剣。

「し…知ってたのかよ…っ」

アールはゆっくり頷く。

ではなぜ、今まで言ってくれなかったのか。
自分のしてきた事が全部意味のなかった事だと思ってしまうラム。
でもアールだってそれなりの理由はある。
あるのは知っているが、早くアールから距離を置きたい。

「俺は……無理だよ。お前を好きになれない…。
不釣り合いさ、お前はレイといた方が絶対いい。」

その言葉にアールは衝撃を受ける。
しかし、顔には出さないように必死だ。
ラムは「じゃあな、アール」と言って走って逃げた。

「ら…ラム…。」

アールは呟く。
しかし、相手には届かない。

好き。好き好き好き好き好き。
大好きだ。誰よりも愛している。
もっと言いたかった。

しかし、ラムに言われたレイといた方がいい。
確かにレイの事は嫌いじゃない。
でもラムが好きな以上、レイを愛せる気がしなかった。
アールは葛藤を続けるのであった。

ラムは小走りで森を抜けた。
何だか腹が立ってきた。
他の女といるような男が自分を思っていて、
関係もまだあるのにこちらに告白する神経がわからない。
ラムはイラつきながらも児童園。
いや、封印の場所に行こうかと思った。

そうしないと空いた穴が塞がらない。
お互いに距離を離す事を決めたのだった。



ちなみに封印の場にはルネアがいた。
他のメンバーは後から来るらしいが、
自分は先に来て、封印の仕方をアールから聞くのだが、
その肝心のアールが来ていない。
そこらで座っていると、走ってきて息切れをしたアールが来た。

「すまない…ルネア……遅くなったな…。」

アールは謝罪しルネアのところに来る。

「あ!そう言えばさっきここに円盤出てきましたよ!ほら!」

アールはそれを見る。
確かに円盤がある。これは信頼の印。
ラムがルネアを一番に信頼している印だ。

アールは悟る。
きっとさっきのが原因で、自分の信頼が解けたのだと。
それを思うと少し虚しいが、これも自分が決めた事。

アールはルネアに言った。

「サグズィの女神には愛する者がいて、その者を失った事で随分傷心したそうだ。
それをきっかけに愛する者以外からの力を一切受けないようになった。
ラムはその女神の力を受け持っている。」

「女神ツィオーネの事ですね。」

アールは頷くと続けた。

「女神は自分の女神という立場に耐え兼ね
ラムという分身を作り、力を全て預けて封じた。
しかし約二十年前、大魔導師の力でラムの封印は解かれた。
せっかく産まれてきたのだから、と。
しかし、ラムはこの地に力を与える存在であって、
ここに生きるとなると、この地に力を与えられなくなる。」

アールは「ラム」と呼ぶ度に心が折れる感覚がした。
もう自分のどこにもいてくれないのだと。
ルネアはそれに驚いて言う。

「え、でもなぜアールさんがそれを?」

「ここに極点守護をかける時見えたんだ。」

ルネアは納得していると、アールは続けた。

「お前には今、そのラムを封印できる素質を持っている。
…だからお前にラムを封印して欲しい。
信頼。それがラムにとって一番大事なもの。
この円盤はお前への信頼の印…。…お願いだ。」

そうアールが言ったので、ルネアはアールを暫く見ていた。
アールがラムとずっと親友をやってきて、いきなり距離を離そうとした理由。
自分にこの権限を譲ろうとしていたのではないだろうか。
何だか複雑な気分だ。
しかしここでまた何か言えば、言い合いが始まるのは間違いないだろう。
ここは大人しく受けていた方がいい。

「分かりました!」

ルネアはいい声で返事をした。

「この円盤、封印の力の源なんだ。
お前、何か物を持ってないか?」

「え?ラムと一緒に吹いた笛なら…」

と言ってルネアが前に来ると、アールは空かさず言った。

「ではこの円盤にかざせ。」

「こうですか?」

すると、円盤は大きな光を放って円盤の力が笛に宿った。
ルネアは驚き、同時に気づく。
未来のラムが封印されていたが、その時はアールの身につけていた物で封じられていた。
きっと円盤の力を入れたのだと理解。
しかしルネアは思った。

(これ、未来にお守りとして持っていこうと思ってた笛なんだけどなぁ…)

そんなルネアには気づかず、アールはとても悔しそうな表情をする。
ルネアが間接的に触れても良いと言う事は、やはりこの印はルネアの為なのだと。
心から痛感してしまう。
ここまで痛い瞬間は今までに無かった。
しかし、アールはルネアの両肩を掴んで言った。

「よろしく頼む…!……ラムを…よろしく…っ。」

それにルネアは少し驚くと、真剣に言う。

「勿論です!」

とは言っても表面だけで、中は不安だらけ。
それを聞いたアールは下を向いてしまう。
苦しい。
でもこれでラムが未来、幸せになれるのなら。
そう感じながらもアールはルネアに言う。

「ありがとう……。」

ルネアは一瞬止まり、その小さな声に驚いて「ええっ!?」と言った。
アールは顔を上げて「何だ。」と真顔で聞いてきた。

「今なんて?」

「一回聞けばわかるだろう。」

確かにアールはありがとうと言ってくれた。
あの不器用で感謝の言葉が言えないアールが自分に感謝してくれた。
嬉しい。嬉しいけれど、彼は苦しそう。
ルネアは感謝を込め、彼をそっと抱きしめた。

「こちらこそ、…ありがとうございます……。
本当に……ごめんなさいっ………!」

アールは不本意ながらも涙がこぼれそうになった。
それを紛らわすようにルネアを抱きしめてあげた。
服を掴み、髪の毛もやや乱暴に握ってしまっているアール。
余程悔しいのだろうと、アールの性格から考えて思ったルネア。

「お前が来てくれてっ…本当に良かった……っ。
お前のお陰でみんなは助かった…。」

いつからか、こんなに情が湧いていたのだろうか。
ルネアは涙を流しつつ言う。

「そんなぁ…アールさんに言われるなんて
夢にも思いませんでしたぁ~」

アールは暫くルネアを宥めるように頭を撫でていた。
ルネアは涙が止まるまで泣いていた。

何の涙かはわからない。
溜めてきた涙が溢れてきたのか、
今までの出来事が懐かしく泣いているのかはわからない。

「僕もみんなに会えて良かったです…!」

ただ、ルネアはアールにそう言った。



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