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1章 嫌われ者は学園を去る
第3話
しおりを挟むミラと僕の話は一旦置いておいて話を戻すと、僕らは貴族なので送迎の馬車が来て登下校するのだがミラのような平民となってくるとそうもいかないらしい。
商家の生徒は裕福なのでほとんどの生徒が馬車を持っているのだが、その一方で特待生は貧しい家庭のものが多く、馬車を持っていないのが当たり前だった。
それ故に、学園側が誰でも銀貨1枚で使える馬車を正門の方に用意してくれているのだ。
それでも銀貨1枚は高いと頬を膨らませながらミラは文句を言っていたが…。その時のミラの可愛らしい様子を思い出して思わず口角が上がる。
僕は家の使用人達にも嫌われていて義弟のおまけでしか馬車に載せて貰えなかったのでミラが言うように少々痛手ではあるが、義弟が一緒に帰れない時はよく利用させてもらっていた。ありがたい話だ。
そして今回も僕はその馬車にお世話になろうと考えていた。
いつでも出て行けるように家に準備しておいた荷物を取りに行かなければならないからな。僕が家に帰っても気にする人は誰もいないので難無く持ち出して出ていけるだろう。
それにしても…
(ほんと遠いな…致命的な欠点だよ…)
かれこれ15分くらいは歩いているが一向に正門に着く気配はない。
あの場所がいくら正門から1番遠い場所だとしても敷地内でこれだけ歩いて着かないのはさすがになしだろう。
今はもうだいぶ慣れたがこの学園はなかなか入り組んだ構造をしているので最初はよく迷って本来の倍ぐらいの時間がかかることも珍しくなかった。さらに、春になると新入生の迷子が続出するので数年前から常に持ち歩くよう義務付けられている生徒手帳に学園の地図が載っている。
逆になぜ数年前まで載ってなかったのだろうか。よく分からない。
そんなどうでもいいことを思いながらなるべく人気のない場所を選んで歩いていると、教室に向かうための出入口の近くに来ていることに気がついた。
1度立ち止まって考え込む。
歩き始めた時は教室に戻って鞄を取って行こうと思っていたのだ。
いやしかし、自分を嫌っている人しかいない中にわざわざとりにいくのか…。疲れるな…。
割と諦めが早い僕は5秒も経たないうちにまぁ取りに行かなくてもいいだろうという結論を出す。
どうせあの鞄には破かれたり濡らされたりしてボロボロになった教材しか入っていない。いつもミラが見せてくれてたから結局使っていなかったしな。
ミラは僕の教材を守れなかったことを酷く悔やんで謝ってくれたが、ミラのおかげで嫌がらせの回数が減って助かっていた僕は素直に感謝の気持ちを伝えた。
するとミラは「、、、天使だぁ」とか何とか言って崩れ落ちていた。何故そのような言動をとっていたのかは分からなかったが、たまにあるミラの奇行を見るのは楽しかった。
そんなことを思い出している途中でふと鞄に入れて置いたもうひとつのものを思い出す。
「あーーーーーっ!!お金っ!!!」
思わず叫ぶ。
そうなのだ。僕の嫌がらせは先に言った通り無くなってはおらず、直接的な嫌がらせがない分陰湿なものが増えていった。盗まれたり、破かれたりした持ち物を見ていつ金品を盗まれるか分からないと考えた僕はそれらの一部だけでも何とか保持するために分散させて忍ばせていた。
貴族の子息ばかりが通う学園に学生が持ってきているような端金をわざわざ盗むのかと疑問に思うかもしれないが実際あるのだ。
自分みたいに体裁を保つためだけに親から与えられた最低限の金を必死にかき集めてるやつにする嫌がらせにはピッタリなのだろう。
お金はいくらあっても困らないしな。
幸いなことにあの鞄の中のお金はまだ盗られていなかったはずだ。
どうしよう。
後ろからあのふたりが追ってきている様子はとりあえずないのでまだ教室に寄れないことは無いはずだ。
正直この先のための軍資金は心もとないし取りに戻りたい気持ちはやまやまだがあまり人目にはつきたくない。
どんな嫌がらせをされるかわかったもんじゃない。
困り果てた僕は頭を抱えてその場にしゃがみこみ、うんうんと唸った。
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