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2章 嫌われ者は家を出る
第16話
しおりを挟むシアに促されて戻った先には部屋から持ってきてくれたであろう荷物が置いてあった。僕が用意していたのは誰も使っていない物が詰め込まれている倉庫から勝手に拝借した大きめの鞄1つだった。…はずなのだが、何故かそれは僕の鞄の倍以上の大きさの鞄の上に鎮座していた。
普通に考えてシアの荷物でしかないのだが、それにしても大きすぎる。今からどれくらい移動するかも分からないのにこんな大荷物を持っていこうとするとは、一体何が入っているのだろうか。
だいぶ気になるがシアに心配をかけないためにも着替えるのが先決だと思い、自分の鞄に手を伸ばす。服を取り出すために、と鞄の留め具を外そうとするが中々上手くいかない。そこで初めて自分の手が震えていることに気づいた。
(何故……?)
僕に暴力を振るう奴は死ぬほどいた。物理的には攻撃してこなくても目線で、行動で、言葉で僕のことを傷つけてきた奴なんて数え切れないくらいだ。
慣れたと思っていた。
しかし、違った。
僕を脅かすのは暴力や暴言だけじゃなかったのだ。あの男が普段とは違ったのか。はたまた私が普段と違ったのか。明確には分からないがいつもと違う何かがあの男に僕を性的な目で見させた。それだけがただの事実だ。
思い出してしまって体をぶるぶるっと震わせた。
僕がああいう行為をされそうになって何に恐怖を感じたのかは分からない。ひとつ言えることは僕を見る目に対する不快感。嫌悪の混じらない悪意になんとも形容しがたい恐怖を感じたのだ。
ともかく、震えは止まらない上に精神状態も常時が良いとは言わないがそれより更に良くないのが現状だ。落ち着こう。落ち着いて、シアを待つんだ。
目を閉じて深く息を吸いゆっくりと吐き出す。俯いたまま目を開けると雑草という括りにまとめられてしまいそうな小さな花々の中に違う種類の花が咲いているのが目に入った。気になってしまってかがみ込んで近くで見てみる。馴染むには少し背が高くて色の薄いその花は少し枯れてしまっていた。それでも他の花より近くで空に向かって咲く花が僕にはほかのどの花より強く魅力的に映った。
「君は強いんだな。………僕も君みたいになれるだろうか。」
つい自分に重ねてしまって半ば自分に問いかけるように話しかけた。
分かっている。この花と違って魔法が使えないことや醜いことが僕の強さや魅力になることはないのだと。僕はこの花のように枯れてなお、強く、上を向いて生き抜くことは出来ないのだと。
現にいつもと違う種の悪意に触れただけでこんなざまだ。悪意には強くなったと思っていた。耐えられると。ただ、それは慣れただけで少し違う方からつつけば一瞬で崩れてしまうようなものだったのだと今日自覚した。
それでも、それでもこの小さな花に幻想を重ねることくらいは許されるはずだ。
僕は指でそっと花を撫でてから立ち上がり、鞄の留め具を外した。
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