嫌われ者の僕が学園を去る話

おこげ茶

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3章 嫌われ者は国をでる

第19話

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 「リアム様、遅ばせながら皇帝陛下からお手紙の御返事を預かっております。」

 「ありがとう。」

 カンタビア家から出た僕とシアはカンタビア領の繁華街を歩いていた。ローブのフードを深く被ってシアと人混みの中を抜ける。
 義両親は領地経営に長けており、貧民街こそあれど他の領地に比べて治安がよく、教会を通して貧しい人々を支える様に感激した熱烈な崇拝者がいるほどだ。
 そんな彼らが営む街も人が住む場所を除けば殆どが森だ。中央の道からそれて路地を抜けると鬱蒼とした森林が徐々に姿を現す。
 貧民街の近くにある比較的安全な森は小動物や鹿、鳥などを狩って生計を立てる狩人が多くいるが繁華街近くの検問所を抜けた先にある森には滅多に人が寄り付かない。
 森に近づくに連れて先程までの賑わいが幻想だったかのような静寂に包まれる。僕たちは周りに人が居ないのを確認するとシアに風魔法で音が漏れないように結界を張ってもらって一息つくことにした。

 「我々が出発する前に届いて良かったです。」

 「そうだな。お義父様方には?」

 「いえ。私が直接お預かりしたので。」

 シアの言葉に安心して再び手紙に目を通す。
 両親が亡くなり、1人になった僕を何かと気にかけてくれていた陛下だが、公私混同は決してしない方だ。はなからこちらの要望どうりに了承して貰えるとは考えていなかった。
 シアが持ってきてくれた手燭で照らして手紙を読んだ僕は手紙の内容に軽く目を見開いた。

 思わず顔がほころびそうになったが、直ぐに気を引き締める。陛下は優しさと冷徹さを兼ね備えた方だ。非常に頭がキレる御方で賢王と呼ばれているのは伊達ではないのだと学んでいく過程で何度理解させられたことか。
 きっとこちらにばかりに利益のある話ではないということなのだろう。直接会って詳しく聞かなければ。

 さっきから僕の横に立っているシアを見上げる。これまでで培ってきたポーカーフェイスを保ってはいるが、付き合いの長い僕からしたら僕の様子を気にして落ち着きが無くなっているのが明らかだ。

 「大丈夫。手紙を見る限り僕たちが損することは無いだろう。」

 「良かったです。」

 普段より強ばっていた肩の力が抜けたようでシアは深く息を吐いた。

 着いた時には僅かに陽の光が届いていた森も今はそろそろ行動するのは危ない。一晩明かせる場所を探さなければとシアに話を切り出そうとした時だった。

 くきゅるるぅ

 朝食を食べたきり何も食べていなかった僕のお腹が思い出したように空腹を訴えてきた。羞恥心を感じて俯く僕の視界の端には慌てるシアが。

 「もっ、申し訳ございません!リアム様!主人の空腹に気づけないなど一生の不覚。こんなものしかないですが今町の中で食事をするのは危険なので移動してからちゃんとした食事にしましょう。」

 シアが大きな荷物をゴソゴソと漁ると伯爵邸の食料庫からくすねてきたであろうパンやら干し肉やらが出てきた。少しずつ、かなりの量を溜め込んでいたようでこの量なら工夫すれば2人で1週間は持つだろう。
 パンだけで構わないのにチーズなど、ほかの食材も勧めてくる世話焼きなシアの姿に今日1日ピンと張り詰めていた緊張の糸が僅かに緩んだ。









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感想 1

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みんなの感想(1件)

nodami
2023.11.24 nodami

早く逃げて欲しくてハラハラしてます❗
弟(真っ黒)も婚約者も絶対許さぬ💢

更新楽しみにしてます⭐

2023.12.02 おこげ茶

更新、楽しみにしていただけて嬉しいです!
感想ありがとうございます!

解除

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