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帝国の赤い死神~ライラック王国編~

寝起きの王子様

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 オリオンは人嫌いで有名だ。



 侍女を寄せ付けず、部屋も許可をしなければ入ることも許さない。



 もちろん掃除などは別だが、部屋に滞在しているときは掃除をさせない。



 一人だけ母親の違う子供であるため、警戒心を強く持っていても

 また、王族特有の魔力の問題から他人へ神経質であっても不審がられないのだ。



 オリオンはその立場と建前を大いに利用させてもらっている。



 明るくなり、朝日が部屋に入ってくると自然に目を覚ます。

 眩しさに目を開こうとするが、まだ寝ていたいという欲求が強く湧きあがった。



 その理由は、いつもと違い心地よい温もりがじんわりと体に広がっていたからだ。



 だが、その原因が分からないオリオンは寝ぼけたまま寝がえりをうとうとした。



 何かがあって、寝返りがうてない。

 そして、何ともいえない弾力と硬さのある…



「…?」

 オリオンはゆっくりと目を開いた。



 目の前には、薄茶色の瞳と、赤い髪があった。

 ひっと悲鳴を上げそうになると、口に手で塞がれた。



「…叫ぶなよ…」

 彼の半月の目が細められ、オリオンを睨む。



 睨みたいのはこっちの方だと、思いながらオリオンは何でこの状況になっているのか考えていた。



 今、同じ寝床にいる男、リラン・ブロック・デ・フロレンスは、昨夜は部屋のソファで寝ると言っていた。



 それが、何で今、同じ寝床で同じ布団を被っているのか。



「…何でだ?」

 オリオンは心地よいと思っていた温かさが、彼の体温だと分かった瞬間、勢いよく起き上がった。



「昨夜、誰かこの部屋に入ってきた。すぐに気が付いてお前の寝床に隠れさせてもらった。」

 リランは我が物顔でオリオンのベッドに転がっている。

 威圧感のある軍服のようは服装のせいでわからなかったが、彼はオリオンと同じくらいの細身だった。だが、オリオンはそんなことには興味はない。



「ご丁寧に、風と闇の魔力を使って部屋を捜索していた。このベッド以外をな」

 リランは困ったような表情で部屋の周りを指して言った。



 それを聞いて、オリオンは顔を歪めた。

 それはリランが我が物顔でベッドに寝転がっていることもあるが、オリオンの部屋に誰かが来たということをうけてだ。



 一体誰が来たのか

 とオリオンは色んな人物の顔を思い浮かべていた。

 風と闇の魔力を持つものは何人か心当たりがあるが、オリオンの部屋に入る度胸がある者など…

 いや、上からの命令があれば入る可能性がある。

 犯人捜しをしてもどうしようもないが、自分が定めている境界線が侵された不快感でオリオンは苛立っていた。



 なによりも部屋には鍵をかけている。



 来られるものは限られる…



「珍しいな。」



 オリオンが思案にふけっていると、リランが急に声をかけた。



「何がだ?」



「侍女が起こしに来ない。俺は警戒して直ぐにバルコニーにでも潜もうかと考えていた。」

 そのリランの言葉に、それなら今もバルコニーで潜んでいればいいのにとオリオンは思ったが、魔力を扱っての探索が行われていたのなら、このベッドが一番安全な隠れ場所だと知っているので口には出さなかった。



「俺は自分が部屋にいるときは部屋に他人を入れない。侍女にも兵士にも徹底させている。」

 オリオンは当然のことのように腕を組んで言った。



 リランは驚いた顔をした。



「だから、俺はお前が言った夜に人が来たのが気に食わない。」

 オリオンは顔を歪めた。





「俺が寝床に潜り込んだことは気にしていないんだな。」

 リランは揶揄うように笑った。



「気に食わないに決まっているだろ。」



「はははは。だよな。」



 オリオンが即答したことにリランは声を上げて笑った。



「…まあ、今はそれよりも今日のことを考えないといけない…」

 オリオンはホクトや大臣たちがどう出て来るのか考えると頭が痛くなった。



「悩む必要は無い。すぐに終わらせる。」

 リランは不敵に笑っていた。



 オリオンはその笑顔がとても不吉に思えて仕方なかった。



「じゃあ、後で会おう。」

 リランは素早く身支度をしバルコニーに出て行くと、そのまま飛び降りた。



 オリオンは慌てて彼を追って外を見た。



 この部屋はとてもじゃないが生身で飛び降りて無事でいられる高さではない。

 彼が持っている魔力にもよるかもしれないが、魔力など使ったら他の者に察知されるかもしれない。

 おそらく今も城の中でミナミとリランの捜索はされているはずなのだから。



 だが、オリオンの危惧など関係ないように、リランは長い脚で城の壁を蹴って衝撃を殺しながら器用に、だが素早く地面に下りている。



 そして、恐ろしいほど重さの無い動きで各部屋の窓枠を辿り、低い屋根部分への飛び降りを繰り返し、彼はあっという間にオリオンの視界から消えた。

 物音が鳴ったとしても、鳥が通った程度の音だろう。

 魔力を使っている様子は無かったので、生身だけであの動きだ。



 人間離れして曲芸じみた動きというべきか、あまりにも身軽すぎる彼の動きにオリオンは呆然とした。



 ただ、無事に逃げられた様子を見ると少し安心していた。

 別に心を通わすようなことはなかったが、彼の深い話を聞いたりしたうえに彼のお陰でミナミは逃げられたかもしれないのだ。

 不本意な状況で寝床を共にしたことはオリオンは忘れることにした。それがいい。



 彼が逃げられたことはオリオンにとっても喜ぶべきことだ。

 オリオンは自分に納得させるように言い聞かせた。



 それと同時に、彼の歪んだ笑みを思い出した。



 ミナミとホクトを人質に、オリオンに王になるように言った彼の顔…



 オリオンはバルコニーから外を眺めた。



 いつも見る海、港に目を向けた時、オリオンは息を呑んだ。



「…クソ赤毛…」

 オリオンは口を歪めた。



 もしかしたら、リランがオリオンが起きるまで部屋を出なかった理由は、バルコニーからこの光景を見せるためだったのかもしれない。



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