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帝国の赤い死神~ライラック王国編~
激怒する死神2
しおりを挟むホクトが捕らえられているのは城の牢でも、環境がいいところだった。
単独なのはもちろんだが、見張りも少ない。
罪人でも王子だ。
中々いい環境で過ごせているようでオリオンは安心した。
ただ、それは今考えることではない。
見張りを追い払い、今ホクトのいる牢の廊下にはオリオンとリランだけだ。
牢の中にはホクトが入っているが、実質今は二人だけだ。
友好的な顔をして廊下は歩いていたが、牢に入り、見張りを追い払うとリランは表情を変えた。
引きずられるように腕を引かれ、オリオンはホクトの牢の前に叩きつけられるように投げ出された。
「…兄上!?」
牢に入っていたホクトは驚いたようにオリオンを見た。
オリオンは叩きつけられた痛みに呻きながらも、ホクトを横目で見た。
健康そうで、顔色は悪いが睡眠もとれているようだ。
少しだけ安心したが、目の前にいるのは安心できない人物だ。
「お前、兵士たちの動きを知っていて、あんな行動を取ったんだな。」
オリオンを見下ろすリランは、眉を吊り上げていた。
「…何のことだ…」
オリオンは立ち聞きしなければよかったと思いながらも、どう切り抜けるかを考えていた。
「そうか…」
リランは腰の剣を引き抜いた。
そうだ。リランは兵士たちの襲撃を受けてから腰に剣を差すようになったのだ。
王国側はそれをとがめたりすることはできないが、彼は素手でも兵士三人を抑えつけることができるので、新たな威圧だった。
オリオンは身構え、護身用の剣を抜こうとした。
リランは口元に笑みを浮かべ、首を振った。
そして、彼は剣を牢屋にいるホクトに向けた。
「おい!!止めろ!!」
オリオンは慌てて立ち上がって止めようとした。
「わかっていないのか?オリオン。全ては俺の手の上だ。」
リランは剣の先をホクトに向けて言った。
ホクトは何を言われているのか、何が起きたのか分からない様子だ。
青い瞳は不安に揺れている。
こういう時の表情は幼いころから変わっていない。
「話が違う!!」
「それはこっちのセリフだ。」
リランは冷静に言い放った。
だが、目は怒りでギラギラとしている。
思った以上に彼は怒り狂っているようだ。
「止めてくれ!!約束だろ!!」
オリオンは護身用の剣を手放し、床に膝をついた。
ホクトはオリオンの様子を見て目を見開いた。
見たことのなかった彼の一面に驚きを隠せないようだ。
「彼は罪人だ。お前の父親を、国王を殺したんだ。わかっているのか?」
リランは冷たい目をホクトに向けていた。
「わかっている…だが、ホクトは…弟だ…」
リランはオリオンの言葉を聞いて、口を歪めた。
オリオンは手を床に付けて、リランを見上げた。
そして、ルーイにやったように頭を下げようとした。
オリオンの行動にホクトは呆然としていた。
オリオンが頭を下げきる前に、リランはオリオンの金色の髪を掴んで頭を上げさせた。
「ぐ…」
痛みオリオンは呻き、顔を歪めた。
オリオンの髪を掴んだまま、リランはしゃがんだ。
「頭を下げて欲しいわけじゃない。」
リランはオリオンと目線を合わせて、口を歪めて笑いながら言った。
「俺を殺そうと考えるなよ。」
リランは横目でホクトを見ながら言った。
これは直接的な脅しだろう。
「でないと、俺はこの国とお前を消さないといけなくなる」
リランは決して自分が殺されるとは思っていないのだ。ただ、殺そうとされるとそれ相応の仕返しがあるということを言っているのだ。
「…わかった。」
オリオンの返事を聞いてリランは彼の髪から手を放した。
ホクトはオリオンとリランを交互に見て、何かを察したのか、顔色がどんどん悪くなっている。
リラン立ち上がり、はホクトを冷たく見下ろした。
「ホクト王子…優しい兄を持って幸せだな。」
「…兄上…どうして…?」
ホクトは幼い子供のような口調で、縋るように兄であるオリオンを見ていた。
「お前の愚かな行いと頭のお陰で、とてもいい国王が誕生しそうだ。」
リランは吐き捨てるようにホクトに言うと、オリオンに目を向けた。
オリオンは睨むようにリランを見上げた。
「睨むな。こう見えてお前を気に入っている。」
リランは先ほどから考えられないような、慈しむような優しい目をオリオンに向けた。
「言っただろ?仲良くしようと…な。」
リランはオリオンに笑いかけた。
オリオンはリランから目を逸らした。
リランを怒らせることは、もうしない方がいいのは確かだ。
だが、オリオンは絶対にもう一回リランを怒らせることをするのは確実だ。
二人は…守れない。
オリオンはリランを横目で見て、結論を出した。
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