上 下
110 / 234
ライラック王国~ダウスト村編~

頼りになる男

しおりを挟む
 



 太陽が真上にあったのがいつの間にか、西側だろう、その方角に赤い光を空に帯びさせながら沈んでいる。



 更に時間が経つと、赤さも薄れ周りが暗くなってきた。



 長い時間歩き、木々の間を縫い足場の不安定な岩場や崖を通り過ぎると道が獣道ではなく、踏み固められたようなものに変わっていった。



「…明るい内は無理でも、日が沈み切る前に着きそうだな。」

 先頭のイトが周りを見渡しながら言った。



「ここに覚えがあるということは、村の近くなんだね。」

 マルコムはイトの様子を見て安心したように言った。



「ああ。ここまでくれば、俺が案内できる。」

 イトはマルコムだけでなく後ろを歩くシューラとミナミも見た。



「いいけど、下手なことすると殺すよ。」

 シューラは警戒したようにイトを見ている。



「そんなことしないから安心しろ。」

 イトは手を振り、歩き始めた。

 彼がどんなに安心させるようなことを言っても、マルコムもシューラも完全に信用することは無い。



 それをわかっているのか、イトはマルコムにじっと見張られるように見られても気にしている様子はなかった。



「ミナミ…大丈夫?」

 慣れないようにミナミを呼び捨てで呼んだシューラが心配そうにミナミを見ていた。



「あ…うん。大丈夫だよ。ありがとう。イシュ。」

 ミナミは慣れないながらも気を遣ってくれているシューラに暖かな気持ちになった。



 だが、大丈夫と言ったとたん、自分の足が気になってきた。

 長く歩いているから、疲れている。



 足の裏がだるいのもあるが、足の指の間に違和感がある。

 何か痛い気がする。

 靴下の糸くずが爪に引っかかっている気がするし、ふくらはぎもだるい。



 そもそも、この歩き方は正しいのか?

 疲れて変な体勢になっている気がしてくると、荷物を背負っている肩も強張っていく。

 身体がねじれているのではないか?



「…本当に?」

 考え込んでいるミナミの顔を覗き込んだシューラが眉を寄せていた。



「…実は、気になってきた。疲れているけど、色々考えると…」



「考えられるうちは大丈夫だよ。よかった。」

 シューラは安心したような顔をした。

 ミナミからすると安心というわけにはいかない。





 チリン



 どこかからか鈴の音が響いた。



「…止まって。」

 先頭を歩いているイトが手を差し出し、制止するようにミナミたちに言った。



「隠れ村…って言うよりかは里みたいだね。」

 イトと同じように足を止めたマルコムは周りを見渡して言った。



 ミナミとシューラも足を止めて周りを見渡した。



 足元が悪いわけではなく、獣道のようだが足の踏み場はある。

 ただ、村はどこにもない。

 さらにいうならば、獣道の先は川の下流側だろうが、それだけしか見えないのだ。

 それ以外の方向は、川にダイブか、崖に突撃になる。



 そうだ。切り立った崖が横に聳え立っているのだ。



 ミナミは崖の上を見ようと目を細めた。



 暗くなり始めている空の下では、影のような物しか見えない。



 だが、キラっと一瞬何かが光を反射した。

「崖の上の…鈴が鳴ったの?」

 ミナミは崖の上を指した。



「え?」



「うえ?」



 マルコムとシューラはミナミの指差した方をそれぞれ見上げた。



「確かに上から音がしたけど…暗くて見えないな…」

 マルコムは目を細めながら言った。



「ほう…そこのお嬢さんはいい目をしているね…」



 急にかかった、誰か声にミナミたちは警戒した。

 暗いのもあるが、声の主は姿が見えない。



 マルコムは素早く槍を掴み構え、シューラは腰の刀に手をかけた。



 だが、そんな様子に関わらずイトは警戒も見せず歩き出した。



「すみませーん。外出していたイトです。」

 イトはジャンプをしながら、姿の見えない声だけの存在に何かを主張していた。



「お前は…」

 イトを確認すると、姿のも言えない者は気の抜けた声を出した。

 どうやら彼が村に滞在していたというのは本当のようだ。



「あと、このお嬢さんたちは村に用があるらしいですよ。」



「村に?」

 イトの言葉に、姿の見えない者の声はまた警戒したものになった。



「…俺達は、王都のアロウさんの紹介でこの村に滞在を…」

 マルコムが言いかけた時

「アロウだと!?お前らが彼の言っていた…」

 アロウの名前に過剰反応したように、声色が変わり…



 ガサリ…と、崖の上から一人の男が姿を現した。

 彼の周りに影の様な黒い靄がかかっているのは、彼が闇の魔力を使って隠れながら様子を見ていたからだろう。



 ルーイが闇の魔力を持っているので、少しだけミナミは詳しい。

 マルコムとシューラは出てきた男に何やら感心した様子がある。

 どうやらなかなか達者なもののようだ。



 出て来た男の容貌は、白髪交じりの茶色の髪は、手入れされず伸ばしっぱなしでボサボサの太い眉と口の周りの髭、瞳の色は暗い中でもはっきりと緑色であるのが分かるほど鮮やであり、顎がしっかりとした四角い輪郭をしている。何よりも、眉間に癖の様に刻まれた皺に加え彫が深いのが厳つさを相乗させている。



 要は厳つい容貌の男だ。

 ミナミは昔話で呼んだ山男を連想した。



 彼が声の主のようだ。



「…確かに、彼の話の通りの外見だ。チビ二人と胸のでかいガキだ。」

 男はミナミたちを見て頷きながら言った。



 彼の発言にマルコムの眉がピクリと動いた。



 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

王子様から逃げられない!

BL / 完結 24h.ポイント:8,619pt お気に入り:308

淫乱お姉さん♂と甘々セックスするだけ

BL / 完結 24h.ポイント:92pt お気に入り:8

魔物のお嫁さん

BL / 完結 24h.ポイント:241pt お気に入り:750

どっちも好き♡じゃダメですか?

BL / 完結 24h.ポイント:2,699pt お気に入り:55

暁の騎士と宵闇の賢者

BL / 連載中 24h.ポイント:9,195pt お気に入り:258

ほっといて下さい 従魔とチートライフ楽しみたい!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,038pt お気に入り:22,201

聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:32,968pt お気に入り:11,556

処理中です...