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ライラック王国~ダウスト村編~

意外な青年

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 ふわふわとした眠気の中、ミナミはじんわりとした温かさを感じていた。

 確か、シューラと話して彼に元気づけられたのだ。

 それから、取り留めない話をして…



 ミナミは感じる温かさの元を見た。



「…むう…う…」

 そこにはシューラがいた。



 自分より年上だが、自分よりも世間知らずで幼い青年がすやすやと寝ていた。

 その顔は、予想通り幼い。



「…あ…」

 ミナミは椅子に座ったまま寝ていたことに気付いた。

 シューラはミナミに寄りかかられる形で、そのまま寝落ちしたのだろう。二人とも。



 寝ていることをいいことに、ミナミはシューラの顔をまじまじと見た。

 髪は勿論だが、まつ毛も白い。そして、肌は透き通るほどの白さだ。

 何度見てもその肌は羨ましいと思う。



「…きっと、苦労しただろうな…」

 不意にかけられた声にミナミは飛び起きそうになった。だが、シューラが近くで寝ている手前、そんなに大げさに驚くこともできない。



 落ち着いてゆっくりと声の方を向くと、ガイオがいた。



「苦労したって?」

 ミナミは何のことを言っているのか分からずに首を傾げた。



「イシュ君だよ。その外見だと、相当浮いただろうからな…」

 ガイオはミナミたちの向かいに当る席に座り、顎でシューラのことを指した。



「…苦労って、確かに綺麗な髪とか珍しい目だけど…」



「突然変異で稀にそんな色の子供が生まれるって聞く。基本的に呪術とかの生贄に使われたり、人身売買に放り出されたり…だ。」



「え?」

 ガイオの言った不穏な言葉にミナミは血が凍る思いをした。

 生贄や人身売買など、自分の知っている、だが全く知らない言葉だ。



「生憎、そこまで苦労はしていないよ。」

 ミナミの後ろ、それこそ真後ろから声がした。



「キャアア!!」

 急に掛けられたミナミは飛び上がった。



「僕は結構いい家に生まれたからね…身の安全だけは保障されていたよ。」

 シューラは赤い目を眠そうに細めながら言った。

 ただ、その口調はどこか刺々しい。



「安全だけ…か。」

 ガイオはその口調から何かを読み取ったようだ。



「…まあ、あと僕は強いからね…こう見えてもね。」

 シューラは強気に笑った。

 その様子を見て、彼は力の話をするときはとても楽しそうだな、とミナミは思った。



「モニエルたちは?」

 シューラはマルコムたちの様子をガイオに訊いた。



「まだ見回りをしている。」



「じゃあ、材料を集めたんだね。」

 シューラはミナミから離れ、椅子から立ち上がった。



「…じゃあ、手当てにかかるよ。」

 シューラはミナミの方を見て言った。



「う…うん。」

 ミナミはとりあえず頷いた。



「お嬢さん。見ていて損は無いよ。」

 シューラは得意げに笑った。

 ただ、その顔はどこか影があり、いつもの無邪気な彼とは違った。







 ミナミとシューラはガイオと共に、先ほどけが人を見た小屋に向かった。

 外はもう暗くなっているが、村の中なのでそこまで暗くはない。

 ただ、小屋の中は外の暗さが原因ではない暗さがあった。



「とりかかるから、手伝って。」

 シューラはミナミの肩を叩き、ガイオの方を見て言った。



 ついさっき包帯の交換を終えたため、けが人たちにする処置は少なかった。



 ミナミはほとんど見ているだけだった。



 慣れた様子でシューラが鳥を解体し煮込み、袋に入ったヒルをつまんで容器に入れる。

 そしてなによりも、袋に無造作に入れられているヘビを臆することなく掴み、手早く牙を折る。



「すごいな…」

 ガイオは感嘆の声を上げた。



 ミナミも感嘆したかった。だが、それにしてはあまりにもグロテスク過ぎた。

 血まみれで、目を背けたくなる。



「…あれ?」

 ミナミは、先ほど感じた震えがないことに気付いた。

 目の前に広がる解体される動物たちを見て平気なら、ミナミは横たわるけが人を見た。



「…!?」

 包帯の下の様子を思い出すと、震えが始まった。

 どうやら人間の血やケガに震えるようだ。



「お嬢さん。そこの草を水で洗って。桶に水が入っているから。」

 シューラは簡単に指示をした。



「うん。」

 ミナミは言われた通り、草を洗い、次の指示を仰ごうとシューラを見た。



 シューラは何やら怪我をして居る子どもの傍で処置をしている。



「この処置が終わったら、こいつの傷口周りに薬草をくっつけて。僕は次の人の処置に移るから…」

 シューラは顎で子どもを指してミナミに指示をした。



「お嬢さん…彼等、生きているからね。」

 シューラは何やら念を押すように言った。



 ミナミはシューラの意図は分からないが頷き、子どもの元に向かった。



「…う…誰?」

 シューラに手当てをされた子どもは薄目を開いてミナミを見た。



 意識のある言葉だった。



 その言葉を聞いた瞬間、ミナミの手の震えは止まった。



「…え?」

 ミナミは自分の手を見て、薄目を開いた子ども見た。



 シューラに注意されたので魔力は使わないが、大きな進歩だ。



「…女神さ…ま?」

 子どもはミナミを見ていた。



 ミナミは自分を見る子どもの横で屈んだ。

「…私はミナミ。女神じゃないよ。」

 子どもの言った言葉に対してミナミは特に何も思わなかった。

 ただ、ケガをしていた子供が意味のある言葉を発したことが嬉しかった。



 先ほどシューラの言った言葉の意味がわかった。

 胸の中が温かくなった気がした。



 ミナミは泣きそうになりながらも笑顔で子どもの傷口に薬草を張り付け始めた。

 不慣れであるため、ガイオが横で見てくれる。





「…女神…」

 とシューラが険しい顔で呟くのをミナミは気付いていなかった。



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