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ライラック王国~ダウスト村編~
注目される青年
しおりを挟む「ミナミちゃんはいつまでこの村にいるんだい?」
「はえー・・・都会のお嬢さんってこんなに綺麗なんだねえー」
「発育もいいね。まだ成人していないのか・・・」
「おっぱいー」
村の人々に囲まれてミナミは困惑していた。
そしてミナミの警護についているシューラも困惑していた。
二人は目を見合わせてから、遠くでその様子を眺めるマルコムに視線を送った。
しかし、二人の視線を受けているマルコムは何もせずただその様子を見ているだけだった。
発端は朝にさかのぼる。
ガイオが準備した朝食に舌鼓をうち、ミナミはシューラとマルコムとこれからの相談をしようと居間の机と、この家にある地図を借りた。
そして三人で机を囲んで話そうとしたときに邪魔者のイトが現れた。
「ガイオさんは?」
イトは邪魔しに来たのではなくガイオに会いに来たようだった。
「台どころじゃないの?」
「いなかった。外かな?」
マルコムの回答を聞いたが、どうやらガイオは家にはいないようだ。
「どうしたの?」
少し警戒を見せながらシューラが尋ねると
「村の人が押しかけているから・・・って」
イトが言い終わる前に玄関から騒がしい音が聞こえた。
「医者の真似事のできる客人が来ているんだって?」
「綺麗な女の子がいるって聞いたぞ」
「昨日盗賊を追い払ったやつにお礼が言いたいんだ!」
と村の人たちが騒ぐ声が聞こえる。
そして、勝手知ったる様子で上がり込んでミナミたちのいる居間に押しかけてきた。
イトはなるべく村人たちを押しのけようと努力したようだが、彼らは居間にいるミナミたちを見つけるとさらに勢いを増して流れ込んできた。
「上玉!」
過去の職業が見え隠れする褒め言葉が聞こえた。
ただ、その言葉は護衛として脅威だと思ったようだ。
シューラが見せびらかすように刀を抜いたので、その場は静まり返った。
だが、騒動は静まり返っても村人たちはミナミたちに興味津々だ。
「人付き合いの練習でいいんじゃない?」
マルコムは諦めたように言った。
「人付き合いの練習って・・・私」
ミナミは別に他人との交流を苦手とするタイプではない。どちらかというと今刀をちらつかせているシューラの方が必要だろう。
「あしらうために、いい機会だよ」
マルコムは顎で村人たちを指した。
「確かに、お嬢さんの外見だとこれから先もっと面倒なことに絡まれそうだね」
シューラは頷いた。
必要なことだと言われても、一人で対応するのは気力を使うことは一目瞭然。
ましてお城で接してきた人たちは別の世界を生きているのだ。
ミナミはあまり気づいていなかったが、お城にいた人たちはミナミの地位を知ったうえで距離をしっかりと心得ていたのだ。
しかし、ここの人たちはミナミが王族と知らないので遠慮が無いだろう。
ちょっとミナミはシューラを巻き込みたくなったので
「イシュがお医者さんだよ」
と村人の目をシューラに向けようとした。
ミナミの思惑通り、村人たちはギランとした目をシューラに向けた。
可愛い女の子よりも医者の真似事ができる人間の方が村にとっては価値がある。
いずれわかることだからいいだろと思ったが、軽くシューラに睨まれた。
マルコムは愉快そうに笑っていた。
彼のこのような笑顔は初めて見た。
シューラは心を許していないとか言っているが、ミナミから見ると二人は心を許し合っているように思える。
つくづくわからない。
居間にいるには人数が多かったので自動的に外の村の広場に出てきた。
出てきた時にマルコムがシューラを目線で呼んで何か耳打ちしていた。
それを聞いてシューラは鼻に皺を寄せていた。
きっと面倒なことを言われたのだろう。
ミナミは目の前でキラキラとした目を向ける村人たちにどう接しようかと考えながらその様子を見ていた。
「いやー。ごめんねお嬢さん。でもさ、お嬢さんみたいに綺麗な子って村じゃあ珍しいからね。」
なぜか村人側にいるイトが申し訳なさそうに言っていた。
「そんな大げさな」
ミナミはイトの言葉に苦笑いをした。
だが、イトの言っていることは正しいようだ。
実際に村の男たちはあわよくばという目線をミナミに向けてくる。
それに加え村人たちはシューラがあまり相手をしてくれないと分かるとミナミを取り囲んで質問攻めにした。
そして今に至る。
シューラの何を言われても
「僕は医者の真似事のできる護衛だから」
と少し物騒な面を見せるのはずるいと思う。あまり突っ込めないのだ。
護衛に徹した様子のマルコムや村に溶け込んだ様子のあるイトだとあまり村人からしたら面白味の無い存在らしく結局ミナミに収着するのだ。
いや、マルコムは村の女性たちの視線をチラチラ受けている。
彼は確かに顔が整っている。
やや童顔だが上品で、このような村には不釣り合いである。
シューラも顔はいいと思うが、彼はどこか子供っぽさがあり、気品はあまり感じない。可愛いが。
それに加え、成人しているはずだが体つきも含めてどこか子供っぽい。
「モニエル君は色男だからねー」
イトはマルコムが女性たちの視線を受けているのに気づいて、冷やかすように言った。
そして横目でミナミを見てウィンクをした。
どうやら彼なりにミナミへ向かう村人の視線を分散させようとしたのだろう。
そのイトの思惑通り女性たちの視線はマルコムに移り、同意するようにキャッキャと黄色い声が上がった。
マルコムの眉がピクリとした。さらにこめかみがピクピクしている。
ミナミの隣でシューラがヒュっと息をのんだ。
おそらく怒っている。
だが、マルコムはすっと前に出て
「村の皆さんにそんな風に見ていただいてうれしいけど、
俺、心に決めた存在がいるので…」
マルコムは見たこともない穏やかな笑顔で、少し憂いをたたえた瞳で言った。
左手を右手で包むように左胸に当てて何かを暗示する様子なのが真に迫る。
どう見てもどこかの貴族の青年だ。
貴族だとはわかっていたが、このようなことを言えるとは思わなかった。
イトは目を丸くしている。
女性陣からはため息の様な声が上がった。
「心に決めた人か…」
ちょっとミナミの野次馬心が騒いだ。
演技だとしてもきっといたのかもしれない。もしくはそんな過去があったのかもしれない。
信じられないけど。
ミナミは左胸に手を当ててマルコムの過去に幻想を抱いた。
その様子を見たミナミの隣のシューラは
「あいつ指しているの胸じゃなくて左手と左肩だよ」
とミナミに補足するようにつぶやいた。
左手と左肩を指したから何かあるのだろうか?
ミナミはシューラの言っている意味がわからなかった。
村の人から聞けた話は、どこで魚が取れるかとか山の抜け道やここからロートス王国への近道。
そして近場の町の噂に加え
「帝国騎士団の評判かー…」
イトは今のソファに深く腰掛けながら言った。
彼が座るソファの対面にミナミは座って村人から聞いた話を思い出していた。
決してミナミにとって気持ちのいいものではなかったのだ。
「思ったよりも悪い奴じゃないのは本当のようだな…」
イトは元々ある程度情報を持っていたようで納得した様子だった。
「まあ想像はつくよ。どうせ地位のある奴が情報を流したんだろうってね。時間がたてば流れる情報は帝国が来る前の体制への悪口だしね。」
マルコムも納得した様子だった。
村人たちからの話には、ライラック王国を占領している帝国騎士団のおかげで生活が良くなったという話と前の体制への不満が町で話題になっているとあった。
自分の父親が国王でまさに前の体制の頭だったミナミは複雑だった。
というよりも心苦しかった。
「まあ、前の王でも腐敗は無くせなかった…っていう意見が大半だし。完全に帝国騎士団に国を乗っ取られる形にはならなそうだよね。」
マルコムはミナミの様子を見てなのか、それとも聞いた話での意見なのか、王族に対しての配慮を見せた。
「まあ、そもそもライラック王国の王族がかなり特別な存在だったのもあって、周りがそれのおこぼれに預かるためにヒドイって有名だからなー。タレス王はかなりの賢王だけど長年蓄積された膿はどうしようもないって」
イトはマルコムの意見に同意のようだ。
商人はいろいろな話を聞いているらしい。
「それよりもさ・・・お前」
マルコムはイトを睨んだ。
おそらく女性陣へ視線を向けさせる真似をしたことに対しての怒りだろう。
ミナミの隣に座るシューラはキュッと手を握ったのが見えたので、相当怒っているようだ。
「モニエル君の心に決めた存在ってだあれ?」
イトはマルコムを怒らせているのがわかっているのだろうが、何も察していないような顔で尋ねた。
「泣かすぞ?」
マルコムは低い声で唸るように言った。
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