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ライラック王国~ダウスト村編~

じゃれ合う青年たち

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 そのあと8回ほどシューラをのたうち回らせてから、どうにかミナミは水を腕まで盛り上げることができるようになった。



「…多分…ま…魔力が多いんだ…と…思うよ」

 途中から息も途切れ途切れになったシューラが涙目でミナミの様子を見て言った。



 だから魔力の制御も普通よりも難しいということらしい。



 かなり疲弊しており、申し訳ないなとミナミは思った。



 あと、マルコムがすごくこちらの様子が気になるらしくなんとも言えない視線をチラチラとむけている。

 隣にいるイトも同じような視線を向けている。



「もう少し落ち着いて三人になったら、他にどの魔力があるのか調べてみるのもいいと思うよ。

 僕の勘だけど、お嬢さんは力が使えた方がいい…君の父親がどういう意図を持っていたかはわからないけど、身を守る術は必要だと思う。」

 シューラはミナミに気を遣う様子を見せながらも何か不穏な気配があるのか、険しい顔をしていた。



 確かにミナミは力を使えるようにした方がいいと思っている。

 父がどういう思いでミナミに魔力を使うのを控えさせていたのかわからないが、どうもミナミは脅威が帝国だけではないと思っているのだ。



 いや、帝国はミナミにとっての脅威ではないと思っているのだ。

 父が帝国と手を結ぼうとした理由が脅威だと思っているのだ。



 ただ、シューラとマルコムにとっては帝国が脅威だ。



 シューラの体力もあるが、ミナミの集中力も大分落ちてきている。

 意識して魔力を扱うのはかなり労力を有するようだ。



 今日の鍛錬はここまでかと思ったところで、離れた場所で周りを警戒していたマルコムがやってきた。



「鍛錬は進んだ?」

 マルコムは愉快そうに目を細めて尋ねた。

 マルコムのたれ目は細めるとなんとも言えない色気があると、つくづくミナミは思っている。



「お嬢さんは魔力が多いみたいでね。僕の方が持たなくなりそうなんだよね」

 シューラは呼吸が整ったようで、疲れた顔を見せながらも口調はいつもと変わらなかった。



「イシュが教えてくれたのってモニエルには使えないの?」

「僕は同業者から聞いたし、モニエルには出来ないんじゃない?…けど食らうだけならできるか…」

 シューラに教えてもらった魔力を流し合って感覚を覚えるというものはマルコムもできないのかとミナミは聞いてみたが、シューラは首を振った。だが、受けるだけなら出来そうなようだ。

 マルコムもミナミたちが何を指しているのかわからないようだ。



「それはそうと、手を握りあっていたけど、なにか特殊な鍛錬でもやっていたの?」

 マルコムはミナミたちがやっていたことを気にしていたようだ。



「お嬢さんモニエルの手に僕にやったようにやってみたら?癒し以外の人にやるのは聞いたことないけど、彼なら大丈夫でしょ」

 シューラはマルコムの右手を持ち上げ、ミナミに差し出した。



 そのシューラの顔は何か悪いことを考えている様子がある。

 気のせいだと思うが



 マルコムはシューラになされるがままで、彼の右手はミナミの前に出された。

 傷を負っている左手ではない方だ。

 だが、彼の手はゴツゴツして武器を扱う人の手だ。シューラもゴツゴツしているが、マルコムはそれよりも指の関節がしっかりと目立ち骨格がしっかりとした手だ。



 ミナミよりもシューラの方がもちろん手が大きいが、マルコムはそれよりも大きい。



 ミナミはシューラにやったようにマルコムの手に自分の手を乗せた。



「お嬢さん掛け声ありでいこう。」

 シューラはどうやらミナミの「ふんぬ」ありでいいらしい。



 ミナミはここで知恵を働かせて状況整理した。

 この行動は全部シューラが発案している。つまり、何かあってもシューラが責任を負ってくれると結論が出た。



 ミナミは安心してシューラがのたうち回った程度の力みで魔力を意識した。



「ふんぬ!」

 マルコムの手に魔力を込めた。



「ひやっ…」

 マルコムは上ずった声を上げてミナミの手を振り払った。

 シューラの手は握っていたがマルコムの手は握っていなかったのですぐに振り払われた。



 マルコムはそのまま警戒したように素早くミナミから距離を取った。

 肩が震えている。



「…は…はあ?」

 マルコムはミナミの手と自分の手を見比べて目を見開いていた。



 未知のものもを見る目でミナミを見ている。



 昔お城に迷い込んだ子猫を思い出してミナミはちょっとかわいいと思ってしまったが、

 マルコムはどんどん冷静になるのか、顔から表情が無くなっていく。



 どうやら見てはいけないものを見てしまっていたようだ。



「…えっと、これがなだらかにできるようになれば魔力の制御が楽になるって」

 ミナミはマルコムから目を逸らしてシューラを見た。



「君がそんなかわいい反応するとは思わなかったよ。野太い声とか上げると…ひっ」

 シューラは楽しそうに笑いながらマルコムに言ったが、シューラの元にマルコムが勢いよく向かったので途中で走り出した。



 だが、瞬発力含め身体能力はマルコムの方が高いらしく、あえなくシューラはマルコムに取り押さえられた。



 圧倒的にマルコムの方が力が強いので、シューラはそのまま羽交い絞めにされて引きずられるようにミナミの前に戻ってきた。



 マルコムの方が体格がいいが、身長はあまり変わらないのでシューラの肩の少し上にマルコムの顔がある。

「何が起きてるの?」

 マルコムは優しい声色でシューラの耳に囁くように尋ねた。



 シューラの顔は青い。

 ミナミだってマルコムが怒っているのはわかる。



「癒し持ちだけができることだよ…その、他の魔力は人に魔力を流せないけど癒しだけはできるんだ…」

 シューラはしどろもどろという感じで脅えながら話し始めた。



 魔力の種類でも癒しの人しか人に魔力を流すことはできないということだ。

 他の種類の魔力の人は流されることはあっても他人に魔力を流すことはできないらしい。



 あと、この魔力を流すのは身を守る術としても使えるらしい。



「俺は君に出来ないのか…残念だよ」

 マルコムは心底残念そうだ。

 マルコムが出来なくてよかったね…とミナミは心の中でシューラに呟いた。



 ただ、マルコムは癒しを持っていないと明言したも当然だ。



 そもそも癒しが珍しいので持っていない確率の方が高いのだ。



 マルコムはシューラを拘束したままミナミを見た。

 そしてミナミに笑いかけた。



 あのたれ目を細めて少し妖しさのある笑みだ。

 普段なら色気があるなと思うが、ミナミはその笑みに恐怖を覚えた。



「お嬢さん。勢いがあってとてもいいと思うよ。」

 彼から優しい声色で言われるのは何故か恐く感じる。



 無意識のうちにミナミは後ずさりをしていた。

 そのミナミを咎めるようにマルコムは片眉だけ吊り上げた。



 恐い。

 ミナミは蛇に睨まれた小動物のように固まった。



 マルコムはシューラの手を持ち上げミナミに向けた。



「遠慮はいらないよ」

 マルコムは口にだけ笑みを浮かべてシューラに魔力を流すように促してきた。



 ミナミはシューラを見た。シューラは首を懸命に振っている。



 だが、ミナミはシューラの要望通りに行動しただけだ。

 ミナミは決意を固めた。



 シューラの手を握り

「ふんぬ!」

 と魔力を流した。



「ひっ」

「ひぅっ」

 シューラだけでなくマルコムも上ずった声を上げて二人はその場に蹲った。



「お嬢さん…魔力が…多いから勢いよく流すと二人に流れるみたいだね」

 シューラが息を切らし声を震わせながら言った。



「…く…」

 マルコムは恨めしそうにシューラを見た。

 遠慮はいらないと言った手前ミナミに敵意を向けることは無いのは、彼の潔いところだろう。



「癒しだけしか持っていない奴もたまにいるから、確かに攻撃手段があってもおかしくないね…」

 マルコムも声を震わせながら言った。だが、彼は息を切らしていない。

 呼吸を整えてから言ったようだ。



 とは言ってもまだ声が震えている。





 ちょっとマルコムの子供っぽいところが見れたとミナミは思った。

 恐かったけど。



 思わず蹲る二人の前にしゃがみこんで、微笑んでしまった。



 ミナミの行動にマルコムが眉をピクリとさせて片方だけ吊り上げた。



 だがそんな顔をされても今のマルコムは恐くない。

 ついでに言うなら、シューラと並んで仲良く蹲っているのは小動物みたいで可愛い。



 ニコニコと蹲る二人を見ていると





「三人とも本当に何やってんの?」

 イトが微妙な表情をしていた。

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