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ライラック王国~プラミタの魔術師と長耳族編~

止められるお姫様

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 色々疎いとはいえ、ミナミは口と口を合わせる行為のことを知っている。



 よく王城で探検をしていると物陰から侍女と兵士がやっていたのを見ていたからだ。



 その様子を見ると、自然に口角があがってにやけてしまい、さらになんとも言えない甘酸っぱさと胸に心地よいキュンとした締め付けを感じさせるものだ。



 しかし、先ほどのシューラとマルコムのは、開いた口が塞がらず、血なまぐささと動揺を感じさせるものだった。

 そして変な動悸で心臓がバクバクする。



 布を取りに行こうとしたビエナとシルビもあまりの光景に固まってしまった。



 ただ、先ほどの行動は治療だったようだ。



 治療でよかった。



 チラリとシルビたちを見ると、二人とも何とも言えない顔をしている。



「あとは彼の回復力とたまに癒しをかければ大丈夫だよ。ついでに薬もいくつか用意しようか。」

 シューラは旅のために纏めた荷物を探っている。



 彼は、本当になんともないようだ。



 シューラは取り出した薬を口に入れると、手に水を発生させた。

 おそらく、その水の発生はとても緻密な魔力によるものなのだろう。



 シルビとビエナが驚いた様子で見て、感心するように頷いていた。



 ただ、ミナミはどうしてシューラが薬を口に入れたのかわからなかった。

 それに水を発生させた理由もわからない。



 ふと疑問を覚えていると、シューラは発生させた水をパクリと口に入れた。

 そしてまたマルコムの顔を上げて口を重ねた。



 あ、薬を飲ませているのか!

 ミナミは納得したが、目の前の光景は慣れるものではない。



 またミナミとシルビとビエナは固まってその光景を見ていた。



「にが…」

 マルコムが呻き、シューラから顔を逸らした。

 どうやら喋れるようになったみたいだ。



 マルコムが顔を逸らしたことで二人の口は離れた。

 それにミナミは不思議と少し安心した。



 シューラはマルコムの頭をゆっくりと床に下ろし、彼の口を拭った。



 まだ表情は険しいがマルコムの呼吸は落ち着いた音になっている。

 ミナミはそれを見て安心した。



 癒しを口から流し込むのは本当に有効なようだ。



「それよりも、布を持ってきてよ。」

 シューラはシルビとビエナを軽く睨みながら言った。



 茫然としていたシルビとビエナは、はっとして慌てて走り出した。

 二人が離れたのを確認するとシューラはミナミを見た。



 月明かりに光る彼の赤い瞳がギラリと光っていて綺麗だとミナミは思った。





「君の方から少し癒しをマルコムにかけてくれる?」



「え?」



「内部の方で僕は魔力大分使っちゃったし、少しは残した方がよさそうだから」

 シューラは困ったように笑いながら言うとマルコムの横にドカリと座り込んだ。

 そして手をひらひらとさせている。



「…う…うん」

 ミナミは癒しをかけるようにと言われ、ドキリとしたが

 マルコムに癒しが必要なのは確かだ。



 助けてもらっている身であり、助けたいと思っている。



 ミナミは覚悟を決めて両手で自分の頬をパチンと叩いた。

 そしてマルコムの顎を掴もうと手を伸ばした。



 しかし、伸ばしたミナミの手を止めるようにガシリと掴まれた。

 手のひらが固くて大きい手だ。



 マルコムだ。



「何やろうとしているの?」

 マルコムは呆れたようにミナミを見上げている。

 呼吸は落ち着いているし、心なしか顔色もいい。



「いや、だって癒しを」

 ミナミはマルコムに癒しをかけるつもりだった。



 なので、シューラと同じく口から流し込むつもりでいた。

 そのために覚悟を決めたのだ。



 治療のためであるし、マルコムにするならミナミは平気だと思うのだ。

 顔がいいから。



 こういう時、顔がいいというのは得だと思う。



 別に顔が悪いわけではないが、イトには無理だと思う。



「君、癒しを流し込んだことあるの?」



「え?魔力を流し込むのなら…」

 ミナミはシューラやマルコムをのたうち回らせるほど魔力を流したことがある。

 あれと同じ要領なら行けると思っているのだ。



「内部に癒しを流し込むのと魔力を流すのは少し違うんだ。



 俺にとどめを刺すつもりか?」

 マルコムは呆れて言った。



 なんと、魔力を流し込むのと癒しを流し込むのは少し違うようだ。

 ミナミは知らなかった。



 マルコムは呆れたようにため息をついた。

 だが、息を吐いたとき少し痛みに顔を歪めている。



「普通に癒しを施してくれれば大丈夫。

 癒しを流し込む方法は、今度コツを教えるけどあまり実践しない方がいいよ。

 君は嫁入り前の年頃の女の子なんだから。」

 シューラは少しだけニヤニヤしながら言った。



 そういえば、シューラはミナミを止めなかった。

 マルコムが止めなかったらどうなっていたのか…



 ミナミは思わずシューラを見た。



「全く、タチ悪いね…君は」

 マルコムは舌打ちをしながら言った。

 彼もシューラが止めなかったことに思うところがあるようだ。



 どうやら、シューラは少しいたずらっ子なようだ。

 なかなか可愛いところがあるものだ。



 しかし、口から流し込むのでないのならミナミは確実にできるので安心だ。

 普通に癒しを施すなら結構経験がある。

 軽いけがの治療はやっていた。





「よいしょ」

 ミナミは軽く力むと無意識に声が出るようだ。

 実際、ミナミは掛け声をしていたことに気付いていなかった。



 ミナミは掛け声とともに床にだらんと落ちているマルコムの手を持ち上げて握った。

 マルコムの手は固いが弾力があり、筋肉と骨の密度を感じる。



 先ほどミナミが持った槍を振り回すには、このくらいの筋肉が必要なのだろう。



 ミナミは、別に腕の筋肉を触りたくて彼の手を持ったわけではない。

 接触しながらじゃないと癒しを施せないのだ。



 とりあえず、目に見える足の火傷らしき傷を治そうと判断し、ミナミは癒しの魔力を発生させた。



「んーうー」

 ミナミは無意識に唸っていた。



 今までの治療は軽い擦り傷や打撲が多かったので火傷は治療したことが無い。

 心なしか、傷を見て頭が働かすほど治療が早くなっている気がする。

 ミナミはマルコムの傷をじーっと見て唸りながら癒しを使い続けた。



 なので、気付かなかった。

 マルコムとシューラが険しい顔でミナミが治療する様子を見ていたことを。







 ミナミとシューラの治療のお陰か、マルコムはシルビとビエナが戻ってくる前にだいぶ良くなっていた。



 とはいえ、安静にしないといけない。

 つまり、出発が少し伸びるのだ。



 伸びるのは別にいいのだが、マルコムが未だにせき込むと吐血しているのでミナミは何かできないのかとオロオロしてしまう。



「内部の怪我は、半分はマルコムの判断ミスだから

 あまり同情しなくていいよ」

 シューラは心配そうにマルコムを見ているミナミに彼もまた呆れたように声をかけた。



 そういえば、マルコムの怪我はマルコムのやらかしだと言っていたがどうしてなのかわからない。



「あのエラとかいう女のせいだろ」

 マルコムは軽くせき込みながら苛立たし気に言った。



 エラはあのプラミタの綺麗なお姉さんのことだろう。



 彼女が何をしたのかわからない。

 というよりも何があったのかわからない。



「君の言った通り、彼女はガイオさんに見張って貰っているし、あの長耳族の男はガレリウスの隣に縛り付けているから。」

 シューラは心底疲れたという様子で言った。



 状況が掴めないミナミだが、馴染みのある言葉が聞こえた。



「“長耳族”」

 ミナミは呟いた。



 長耳族はミナミにとって実は関りがある。



「待って。もしかしてライラック王国は長耳族と関りがあるの?」

 マルコムは軽く吐血しながら険しい顔で尋ねた。



 どうやらミナミの様子から何かを察したようだ。



 ミナミはとりあえず頷いた。



 ライラック王国は、王族の成り立ちの理由が特殊なので長耳族とも多少は関りを持っていたのだ。

 また、彼らはミナミたち王族の魔力に興味津々だというのも聞いたことがある。



 オリオンが「長耳族が探りに来ている。忌々しい」とか言っていたのをよく覚えている。

 オリオンは愚痴っぽいのだ。



 ただ、オリオンが長耳族を忌々しく思っているのはもっと別の理由があるのだ。

 それは、ここでミナミがマルコム達に話していいことではないので、黙っていることにした。



「関わりっていうよりも…ちょいちょい来ていたの。」

 それに、ミナミはあまり深く知らない。



 なので、濁すことにした。





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