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ロートス王国への道のり~それぞれの旅路と事件編~

壁を置く青年たち

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 洞窟の中でもゴロツキたちのいる場所はマルコムが土の魔力で壁を作り仕切った。

 安全の為か。

 ミナミは納得した。



「二重で壁を張ったから声は聞かれないはずだよ。」

 なんとマルコムは会話を聞かれないためだったらしい。



 確かに一枚の土壁なら聞こえるかもしれない。



『奴らの言うことは本当だろう。我の鼻も魔獣の嫌な臭いを察知しておる。』

 マルコムのお墨付きが入った途端、ミナミが背負った鞄の中にいるコロが話し始めた。



 なんと、コロは魔獣の臭いを察知していたようだ。

 話さなかったのは、ゴロツキたちと会ってから察知したからなのだろう。



「君が察知した嫌な臭いって半分は薬の臭いだよ。君も使われていたでしょ?あれ、君の餌の魔獣にも使っていたからさ。」

 シューラはコロに補足するように言った。



『なんと。確かに赤子の時の餌の魔獣よりもずっと臭かったかもしれぬ』

 コロは納得したように言った。



 ミナミは背負っている鞄を置いて、開けた。

 すると中からコロが飛び出した。

 ミナミの胸に飛び込むかと思ったら地面に着地し、シューラの方を見た。



『流石ご主人様!獣並みの嗅覚でありますな!』

 コロは囃し立てるように言った。



 でも不思議だ。

 全然褒められているように聞こえない。

 ただ、コロは褒めている気満々だ。目がキラキラしている。



「全く褒められた気がしないけど」

 シューラもミナミと同じことを思ったらしい。



『ご謙遜を』



「君の言い方への意見であって謙遜じゃないでしょ。」

 マルコムは呆れた様子でコロを見ていた。



「じゃあ、ガレリウス達が持ち込んだ魔獣で間違いなんだね。

 私も一発くらい殴ればよかった。」

 ミナミは馴れ馴れしく接してきたガレリウスを思い出して少しイラっとした。



 さらに彼は赦せないことにガイオを殺そうとしたのだ。

 思い出すだけで腹が立つ。



 ガイオが無事だったからよかったが、何かあったとしたらミナミはガレリウスを消していたかもしれない。



 とそこまで考えたときミナミは思案を止めた。



「あれ?私なんで消そうって簡単に思ったんだ?」

 ミナミは自分がガレリウスを簡単に消すと考えられたことに驚いた。



 ミナミは魔力は多いがピカピカ光り、水のちょっと大きい球を作り、人を癒すことができるだけだ。

 決して武力を持っているわけでは無い。



 と考えたが、すぐに結論が出た。



 それだけガレリウスに腹が立っていたということだ。

 ミナミは納得した。



「その手で殴ると、殴った君の方がダメージが大きいよ。

 それに手が汚れるから止めた方がいいよ。」

 マルコムはミナミの手を見て言った。

 確かにその通りだった。

 手が汚れることに対してではなく、ミナミの手で殴るとミナミの方がダメージが大きいということに対してだ。



 マルコムの手はもちろんだが、肌理が細かくて肌が綺麗なシューラも手の平はカチコチで無骨だ。

 ミナミの手なんてふにゃふにゃに見える。



「…そもそもあのクズに頭を使う必要は無いよ。

 マルコムが可哀そうなくらいに痛めつけていたから。」



「それを長引かせたのは君でしょ。」



「だって尋問だし。普通だよ。」

 どうやらシューラとマルコムはだいぶガレリウスを痛めつけたようだ。

 確かに二人とも尋問に慣れてそうだ。



 いや。拷問か?



「管理は杜撰だったか、それとも逃げたら手に負えないものであったか。」

 マルコムは話を切り替えるように呟いた。

 おそらくガレリウス達が持ち込んだ魔獣が逃げ出したことについてだろう。



 確かに管理をしっかりとしそうな人たちではなかった。



『その両方だ。我が口から零して逃げた魔獣にすらあの下衆どもは脅えていた。』



「君がしっかりと食べればよかったから君の不始末でもあるね。」



『あんなまずい餌、緊急事態でなければ食べぬ!』



 コロとマルコムは楽しそうにお話をしている。

 なるほど、コロが口からポロリとした魔獣がこの辺にいるらしい。



「僕も魔獣は出来る限り片付けた方がいいと思うね。

 ダウスト村に戻るとしてもあそこにはそこまで戦力が無いし、そもそも魔獣を探す術がないよね。

 イトの奴だってどこかに出かけるって言っていたから、魔獣を片付ける労力が無いね。」



「俺がボコボコにしたのもあるけど、シューラがある程度時間を必要とする段階までしか癒さなかったら、白煙も動かないだろうしね」



「今回は仕方ないでしょ。そもそも君がもう少し柔らかく蹴ればよかったんだよ。」



「追撃しなかっただけ優しいでしょ」



「確かに。」

 シューラとマルコムは笑い合っている。どうやら今話していることは二人共通で楽しい話題みたいだ。

 相変わらず仲がいい。



 マルコムが言う白煙というのはシルビの事だろう。

 そしてシューラはシルビを全快させなかったようだ。

 それに関してミナミは賛成だ。なぜならシルビのミナミへの接触の仕方は信用できるものではなかったからだ。

 ミナミは意外に手厳しいのだ。



 マルコムとシューラはこの後の流れについて話している。

 明日雨が止んでいたら壊滅した村まで行くつもりだ。



「ただ、国境の町を少し通り過ぎるんだよね…それが勿体ないな…」

 マルコムはため息をついていた。

 そういえば、マルコムたちはこの先は国境の町まで目立った滞在場所は無いと言っていた。

 それなら村も無いのだろう。



 確かに勿体ない気がするが、放置も出来ない。



 ミナミは寒くなって来たので、コロを抱きかかえてシューラに寄り掛かった。

 シューラはミナミが寒がっていることに気付いたらしく、ミナミに寄り掛かられたまま荷物から大きい布を取り出した。

 イトやガイオが準備をしてくれた布団だ。薄いが保温機能が高い。



 ミナミはありがたく布団を被った。もちろん寒いのでシューラとコロにくっついたままだ。



「寒くなって来たね。雨に完全に濡れる前に洞窟に入って正解だったね」

 マルコムは雨を降り続ける外に目を向けて言った。



 今までお城では雨に濡れるのは多少不快だが難点がわからなかった。

 しかし、外に出て山道を歩いてみるとよくわかった。



 雨が降ると大変だ。

 今回は完全に濡れる前に洞窟に入ったが、それでも体が急激に冷えてきている。



「村では天気に恵まれていたのは幸運だったね。」

 マルコムはシューラにくっついて暖を取ろうとしているミナミを見て言った。













 いくつかの国からなる諸島群。

 その中では、特殊な王族と世界の港を有するライラック王国が一番大きい。

 そしてその次に大きいのはロートス王国だ。

 不思議なことにこのロートス王国とライラック王国は諸島群というのに海や川を挟まず陸続きなのだ。



 ただ両国とも港を持ち、国内に船が通れる規模の大きい川を持つ。

 よって、国内の運送や移動は船が多く、川沿いに栄えた町があるのだ。



 ミナミたちが向かったロートス王国側とは反対方向の川辺にある、大きい町の近くに複数の人影があった。

 一人の男が複数の男に取り囲まれている様子だ。



「メンダはどこだ?」

 取り囲んでいる中の一人が、囲まれている男を見下ろして尋ねた。

 声は高圧的で彼がプライドが高いのがよくわかる。

 そして彼がこの中で一番立場が高いようだ。誰も彼を咎めたりせずに彼の様子を見守っている。



「私が逃げるだけで精一杯でした。」

 囲まれた男は、高圧的な男に跪いて頭を下げた。

 彼の海藻のようにうねった黒髪が地面に落ちる。

 そして彼ら種族の特徴である横に長く尖った耳が髪の間が覗いた。



 彼はプラミタの魔術師たちと同行し、ダウスト村でマルコムから逃げた長耳族のアルベールだった。

 とも行動していた同じ長耳族のメンダは今はダウスト村の地下牢にいる。



「アルベール。第二位魔術師の白煙の情報は掴めたのか?そのために帝国までの遠足を許したのだ。」

 高圧的な男はアルベールに大事な言葉を言い聞かせるように、ゆっくりとした口調で尋ねた。



 アルベールは男の言葉にビクリと肩を震わせ委縮した。

 そしてゆっくりと首を振った。

「第一位の娘も正体を掴めていないようで…」

 アルベールは体が強張り地面を見たまま悲痛そうな声で言った。



「西の大陸を掌握するのに白煙の情報は必須だ。プラミタに忌々しい帝国の死神が介入してきたからゆっくりも出来ないのだ。」

 高圧的な男は腕を組んでため息をついた。



「死神?…帝国のですか?」

 アルベールはそっと男を見上げ様子をうかがいながらも気を遣うような口調で尋ねた。



「ああ。黒い死神がプラミタに今滞在している。

 とんでもない化け物だ。あんな魔力量を持つもの初めて見た。死神という名前がふさわしい限りだ。」



「黒い死神…フロレンス公爵の方ですね」



「…となると、お前たちの遠足も無駄ではなかったな。後で情報を受け取ろう。」



「その…黒い死神はやはり恐ろしい男でしたか?」

 アルベールは好奇心があるのか、恐る恐ると言った様子で尋ねた。

 彼を囲む他の者たちが息を呑む音が聞こえた。

 かなり命知らずな質問だったようだ。



 だが高圧的な男はため息をついて困ったような顔をした。



「わからない。



 魔力量や武力は間違いなく脅威だ。

 漆黒の髪と瞳も昔話で聞いた不死の魔王を彷彿させるから外見は評判通りだ。



 しかし、彼は恐ろしく人がいい。

 プラミタの魔術師たちの悩みや家族の話や友情を尊んでいる。



 まあ、敵に対してはまた違った顔があるのかもしれぬが、帝国の掲げている目標と先頭に立っている人物が一致しない。



 それがひどく不気味に思えて仕方ない。」

 高圧的な男は顔を歪めて言った。

 その様子から、本当に彼が黒い死神であるフロレンス公爵に対して思っていることだろう。



「今、王都には赤い死神がいるらしいですが、奴が人の世を統一したいと思っているのでしょうかね…」



「それこそ会ったことも見たことも無いからわからぬ。ただ、黒い死神は別の目的がある。ということだけだ。

 もしかしたら、それこそ我らが捜している巨獣の英知の先のものかもしれぬ。…が」

 高圧的な男はそこまで言うと、顔を上げて誰もいない方角を見た。



 その先はライラック王国の王都がある方角だ。



 高圧的な男は、薄紫の髪色をし、真ん中で分けた前髪と共に後ろ髪の長さは顎の下に揃えた髪型をしている。また、絹糸の様な髪の間からピンと横に尖った耳を出している。

 瞳の色は薄い茶色に見えるが、光が当たると金色にも見える。



 高圧的な様子よりなによりも、男は整った顔をしていた。

 神経質そうな細い眉と長いまつ毛に囲まれた目は形がいい。整った顔立ちもあって薄い唇は冷たい印象を受け、鼻先は性格を表わしているのか少し尖っている。

 そして



「姿を誤魔化して王都に行ったことがあるが、本当に驚いた…」

 男は遠くを見て目を細めて呟いていた。



「本当に私にそっくりなのだな…オリオン王子」

 高圧的な男は自嘲するように呟いた。

 声色は嘲りがあるが、彼の口元に歪みはなく目には僅かに悲壮さがある。



 高圧的な男は、髪と目の色以外、オリオンにそっくりな顔をしているのだ。



「まあいい。どうせライラック王国は我々のものになるのだから。」

 高圧的な男は振り払うように言った。



「そのために我々長耳族が何十年…いや、何百年待ったことか…」

 しかし、その先に続けて言った言葉は、内容は重いのに対して彼の口調は無機質で無感情だった。



 まるで長耳族の重ねた年月に感慨が無いようだった。



 だが、彼以外のものは感慨深そうに頷いていた。
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