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ロートス王国への道のり~それぞれの旅路と事件編~

張り切るお姫様

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 マルコムとシューラとレドが話し込み、ルドが不安そうな顔でその様子を見ている。

 ミナミはコロが入った鞄を背負ったまま周りを見た。



 建物の隅に老人や女性、子どもがたくさん固まっている。

 それを守るように数人の数少ない男性がいる。



 彼らはミナミたちを遠巻きに見ている。



 何となく態度が軟化したように見えるのは、シューラが手当てをしたからだろう。

 ここにいるルド以外のゴロツキは、とりあえずの手当てを施されたみたいで、老人たちの近くに転がされている。



 相変わらず若い女性はチラチラとマルコムを見ている。

 そして、医者の真似事をしたせいかその視線はシューラにも向く。



 確かに腕が立つのも魅力だが、治療ができる存在というのは貴重だ。

 ミナミは自分も治療ができる力があるが、それが貴重なことはダウスト村でよくわかった。



「離れないでよ。」

 マルコムがミナミの裾を掴んだ。

 どうやらフラフラと歩き出そうとしていたようだ。

 ミナミは大人しくマルコムの傍に座り、そのまま彼に寄り掛かった。

 寄り掛かったときにミナミの背負った鞄の中から

「んごにゃ…」

 というつぶれた声が聞こえたが気がしたが、もぞもぞ動いている感覚があったので大丈夫そうだ。



 何かあったらミナミが治せばいい。

 そういえば、コロの大きさはどうやったら戻せるのだろう?



 小さくしておきながら、戻す方法を考えていなかった。



 まあ、どうにかなるだろう。

 ミナミは今考えることじゃないと考えるのを止めた。



 ふとミナミにも視線が向いていることに気付いた。



「…お姉ちゃん…どこから来たの?」

 小さい子どもがミナミの傍に来ていた。



 5歳くらいの子どもだろう。

 ダウスト村で会ったシルビやビエナよりも幼い。



 いや、シルビは実際は大人だった。

 彼は除外。



 そして声をかけてきた子どもは、幼いが故に、男の子か女の子かわからない。



「町から来たの。」

 ミナミはにっこり笑って答えた。

 笑顔は大事だ。



「…お姉ちゃん、お母さんに似ている。」

 子どもはミナミを見て涙ぐんだ。

 母親…ミナミはその様子を見て胸がツキンと痛んだ。



「そう…」

「ぼくはメグっていうの…」

「メグ君?」

「うん」

 ミナミが名前を呼ぶとメグは嬉しそうに顔をほころばせた。



 痩せて服など清潔ではないが、無邪気であどけない笑顔だ。

 ミナミはその顔を見てさらに胸が痛くなった。



「お母さん私に似ているってことは女の人なのね」

「ちょっと君は常識を学ぼう」

 ミナミが優しくメグに言うと、マルコムが冷めた口調で言う。

 何が彼の琴線に触れたのかわからないが、確かにお母さんは基本的に女の人だ。



「お姉ちゃんと同じくらいおっぱいが大きかった。」

 メグは首を振ってミナミの胸を指して言った。



「体型が似ていたのね」

 ミナミは納得した。

 ミナミは確かに胸部が大きめでそれが特徴でもある。だがそれと同じくらいの人はもちろんいる。



「胸だけ似ている」

 メグは頷いて言った。

 考えてみるとメグはあまり悲しそうな顔をしていない。



「じゃあ、マ…モニエルとも似ているのかな?」

 ミナミは胸部が大きいと言えばマルコムもそうだと思った。

 きっとメグはマルコムにも母親の影を見るはずだ。



「だから君は常識を学ぼう」

 マルコムが呆れたように言った。



「お姉ちゃんに抱き着いていい?」

 メグはマルコムをお勧めしたことを無視してミナミを見つめて聞いた。



 痩せて痛ましいが、幼い子どもはかわいい。

 ミナミは胸が痛み、なんとか守ってやりたいという気持ちが出て来た。



 これが母性か。

 ミナミは自分の中にある母性を自覚した。



「刃物とか武器を持っていないなら大丈夫!おいで!」

 ミナミは両手を広げて胸を張って言った。



 もちろん武器を持っていたらだめだ。



 そういえば、イトたちが用意してくれた着替えの下着はとてもいい。

 胸がたゆんと揺れることが少なくなった。

 ちょっと苦しいが、動くことが多い今は非常に助かっている。



 メグは一瞬ためらったが、すぐにミナミに抱き着いた。



 よほど母親が恋しかったのか、ミナミの胸の顔をうずめている。

 土や油で汚れてぱさぱさとした髪で、メグの生活の苦しさがわかる。



「大丈夫だよ。モニエルもイシュもライラック王国の兵士なら小隊をボコボコに出来るくらい強いから。

 魔獣もギタギタにしてくれるよ。」

 ミナミはメグの頭を撫でながら慰めるように言った。



「お嬢さん…」

 レドが複雑そうな顔をしてミナミを見つめている。



「はい。」

 ミナミはメグを抱きしめたまま答えた。



「メグの母親は、あの部屋の隅にいる髪を結いあげている女性だ。」



「え?」

 レドが指さす方角に、30歳前後と思われる女性がいた。

 確かに胸が大きい。



 メグの母親は申し訳なさそうにミナミを見ていた。











 レドから指定された場所は、村の外とはいえ、比較的整った場所だった。

 村の惨状からは予想外に、掘っ立て小屋があった。



「無事な建物があるの意外だね」

 ミナミは魔獣の爪の跡が無い建物を眺めながら言った。



「中身が無いからだよ。

 …で、コロが一番魔獣に詳しいはずだけど」

 マルコムはミナミの背負った鞄に目を向けて言った。



 そうなのだ。

 何せコロのご飯だった魔獣である。

 そして、おそらくコロと同じく西の大陸出身のはずだ。



「そして同郷でしょ?」



『あんな混ざりものと同郷と言うな!反吐が出る!』

 ミナミの背負った鞄からコロが叫ぶように言った。



「混ざりもの?」



『複数の魔獣を無理やり混ぜて効率く良く魔力の多い餌を作ろうとしている。

 味は最悪だ。』

 マルコムの問いにコロは吐き捨てるように言った。



「続きは小屋に入ってからにしよう」

 シューラは周りを警戒しながら小屋の扉を開いた。

 戸が無事なのも意外だ。



 小屋に入るとシューラが入口を見張るように立ち、マルコムが中を確認してから床に敷きものを敷いてミナミが座る。

 それから鞄を床に置くと、コロが飛び出してきた。



 やはり鞄の中から話すよりも外に出ていた方が聞きやすい。



「混ざりものって、プラミタがそれをやっているの?」

 マルコムはさきほどまでの話を再開した。



『知らん。ただ、巨獣向けの餌を作ろうとしているのだろう。

 効率く良く増やすことができる。繁殖力も高いネズミのような奴らだ。』



「村で聞いた情報と合うね。増えるのが早いのは確実だけど、厄介なのが確定したってことね」

 マルコムはため息をつきながら言った。



 確かに村の話では一気に増えたとのことだ。

 そして、コロも増えやすい魔獣だったと言っている。



「じゃあ、魔獣寄せの効果のある香を作っておびき寄せるのが無難だね。」

 シューラは対策を考えているようだ。



 頼もしい限りだ。

 ミナミも手伝えることがあれば手伝うつもりだ。



 フンっと鼻息を荒くしていたらマルコムに頭を軽く小突かれた。

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