上 下
20 / 48
2話【アラサーの自立】

7

しおりを挟む



 どうやら、オレの価値観ってやつはなにかが違うらしい。


「不思議なことを訊きますね。今までだって、メイと一緒にいたでしょう?」
「う、ん?」
「それは、野長さんが相手だとしても変わりませんよ」


 なるほど? ……つまり、どういうことだ?

 今までオレは、オキジョーにカノジョができても知らなかった。それはオキジョーがずっとこんな調子で、カノジョよりオレの世話焼きを優先してたから……だよな?

 そこでやっと、センの言っていたことを理解する。


『沖縄先輩が彼女と続かない理由! 愛山城さんのせいなんスよ!』
『愛山城さんが沖縄先輩にベッタリだから、沖縄先輩の彼女はみーんな離れていくんス!』


 ゆっくりでいいと思っていた、オレの自立。
 だけど、本当にダメなんだ。このままじゃ、オキジョーはカノジョを優先できない。

 ──オキジョーの幸せに、オレは邪魔。

 過去の悲しみカオリの死をズルズルと引きずらせているだけでなく、せっかくできた幸せなカノジョとの未来すら、ぶち壊してるなんて。
 ……そんなの、知らなかった。


「メイ?」


 立ち止まったままのオレを、歩き始めたオキジョーが振り返る。

 ──ダメだ。このままじゃ、ダメなんだよ。

 顔を上げて、オレは辺りを見回す。すると、帰り支度を始めているセンを見つけた。
 立ち止まっているオレたちに気付いたらしいセンは、すぐにオレたちの方へとトコトコ近寄ってくる。


「沖縄先輩に愛山城さん? 二人共、どうしたんスか? いっつも定時になったら即帰ってるのに」
「いえ、そうしたいのですがさっきからメイが……」


 オキジョーが返事をし終わる前に、センへ近付く。
 そしてオレは、センの腕を掴んだ。


「──セン、一緒に帰ろ」
「「──はいっ?」」


 疑問符を浮かべたのは、センだけじゃない。


「えっ? いや、あの、メイ? なにを、言って……?」


 オキジョーが疑問を抱くのは、当然だと思う。今までオレは一度も、こんなことを口にしたことがないんだから。
 だけどオレは、オキジョーには幸せになってもらいたい。


「オレはセンに送ってもらう。だからオキジョーは、ノナガサンとどっか寄ってきたらどうだ?」


 きっとオキジョーなら、オレの真意に気付くだろう。この前『負担をかけたくない』って話はしたんだから。……きっと、分かってくれるはずだ。

 オレの言いたいことが分かったのか、オキジョーは戸惑ったような顔をして、オレとセンを見やった。


「もしかして、僕に気を遣っているのですか? そんなこと、しなくて大丈夫ですよ。今までだってそうだったじゃありませんか」


 今までと、同じ。オキジョーの言い分は、なにも変じゃない。
 今までは知らなかっただけで、カノジョがいてもオレを優先してくれていた。それがオキジョーの中じゃ、これからも同じなのだろう。

 ──だから【オレが】変えたいんだよ……ッ。


「──それじゃダメだッ!」


 想定以上の怒鳴り声に、二人だけじゃなく他の職員もオレを見た。……気がする。
 それでもオレは、どうにかオキジョーをノナガサンの方に行かせたくて。センの腕を引いて、ムリヤリ歩き始めた。

 ……なぜだかまるで、逃げるように。 




しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】あなたの恋人(Ω)になれますか?〜後天性オメガの僕〜

BL / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:646

僕、逃亡中。

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:60

よくある話で恐縮ですが

BL / 完結 24h.ポイント:149pt お気に入り:2,443

燃える魔術の書

BL / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:5

【BL】できそこないΩは先祖返りαに愛されたい

BL / 完結 24h.ポイント:846pt お気に入り:562

【完結】あなたの妻(Ω)辞めます!

BL / 完結 24h.ポイント:461pt お気に入り:2,175

【完結】悪の華は死に戻りを希望しない

BL / 完結 24h.ポイント:1,144pt お気に入り:1,529

待って!悪役令息だよ?

BL / 連載中 24h.ポイント:142pt お気に入り:226

処理中です...