カナダに追放された財閥の三男が帰国しました:父が「搾取は伝統だ」と言うので、「あらゆる手段」を使ってこの1兆円規模のブラック巨艦を完全ホワイ

RyuChoukan

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第十二話 〇・〇〇一ミリの「協奏曲」

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     翌日午前十時。

     第三工場・機械加工フロア。

空気は、張り詰めていながらも熱を帯びていた。毒島平八が相変わらず「リストラだ」とわめいていても、昨夜の「倉庫の決闘」を目の当たりにした工員たちからの信頼は、完全に彼から離れていた。

今、工員たちが見つめているのは──特命準備室だった。

下請け会社のクレーム塗れだった第三工場に、新しい仕事が舞い込んでいた。

JAXA──宇宙航空研究開発機構からの特急試作オーダーだ。

新型ロケット燃料ポンプの中核をなすバルブ。

要求される精度は──誤差〇・〇〇一ミリ。

「無理だろ、こんなの」

若いNC旋盤オペレーターが図面を見て頭を抱え込んだ。

「最新の五軸マシニングセンタでも、こんな変則的な曲面の加工で誤差〇・〇〇五ミリが限界だぞ。物理的に無理なんだよ」



毒島は、すかさず鼻で笑う。

「ほら見ろ。機械でさえ届かない領域だ。あの老眼どもの手動旋盤なんかで辿り着けるわけがない」

「機械だけに任せても駄目だし、人間だけに頼っても駄目だ」

龍立が、加工ラインの中央に立った。

「じゃあ、組み合わせたらどうなる?」

彼は、源田鉄男と吉岡俊介を順番に見た。

「源田さん。あなたの手の感覚は、金で買えない。しかし、人間の感覚は体調にも感情にも左右される」

「吉岡。君のデータは正確無比だが、機械には“魂”がない」

「今日は、新しい仕事の形を試してみよう」

龍立の声は、工場中に響いた。

「名付けて──“師弟制2.0”だ」

「師弟……2.0?」

源田が目を丸くする。

吉岡は、満足そうにうなずいた。

彼は、源田が普段使っている年季物の手動旋盤に、レーザー変位センサーや熱画像カメラを次々と取り付けていく。

「源田さん」

吉岡は深く頭を下げた。

「いつも通りのやり方で構いません。僕が、リアルタイムで工具の温度と金属の微小変形をモニターします。いつ切り込むべきか、いつ引くべきか──そのタイミングを、数字でお伝えします」

「そして、隣で見ている若い連中」

龍立は、緊張気味に様子をうかがっている若手工員たちを振り返る。

「見ているだけじゃなく、学びなさい。吉岡が、源田さんの一つ一つの操作の力の入れ具合や角度を、データとして記録していく。これは、世界一贅沢な教材だ」

「始めよう」

機械が唸りを上げる。

今までに見たことのない「協奏曲」が始まった。

源田鉄男は、全身を集中の一点に絞るようにしてハンドルを握る。その額には、すぐに汗が浮かんだ。

「源田さん。工具先端の温度が三度上昇。金属の膨張予測は〇・〇〇〇二ミリ。切り込みを、ほんのわずかに弱めてください」

吉岡は画面を見つめながら、次々と指示を飛ばす。

源田は迷わない。手首を微かに振るわせ、その指示に完璧に追従する。

「すげえ……」

若手工員の佐藤は、思わず息を漏らした。

「師匠の手元って、一見適当に動いてるように見えるのに……波形を見ると、力の入り方が機械より滑らかだ」

「それが『匠』ってやつよ」

鈴木彩音が小声で答える。

「機械は、プログラムされた命令どおりにしか動けない。でも職人は、金属の『機嫌』を読むことができる。吉岡くんのセンサーは、その感覚を可視化してるの」

時計の針が進み、時間が溶けていく。

残業も、徹夜もいらない。

正午のチャイムが鳴る寸前、源田はハンドルから手を放した。

チャックの中央には、鏡のような光沢を湛えたバルブが、一つ。

吉岡はすぐにレーザー干渉計で測定を始める。



息を呑む音が、工場中から聞こえた。

「誤差……」

吉岡は、震える声で読み上げる。

「〇・〇〇〇五ミリ。JAXAが要求した精度を、上回りました」

「やったぁぁぁぁ!!」

歓声が爆発した。

若手工員の佐藤は、思わず源田の手をつかんでいた。

「師匠! 俺にも教えてください! あの波形を, 師匠みたいに滑らかにできるようになりたい!」

源田は、かつて「老害」と罵ってきた若者たちの瞳の中に、初めて憧れの光を見た。隣で汗だくになっている吉岡をちらりと見やり、照れ臭そうに笑う。

「お、おう……。こっちだって教えたいさ。教える相手がいりゃ、いくらでも教えてやる」

毒島は、上の見学台からその光景を見下ろしていた。

「熟練工は効率が悪い」という論理は、あっけなく崩壊した。

人と機械が手を取り合い、ベテランの勘と若者のデータが互いを補い合う。その姿は──彼が軽蔑してきた「古い工場」とは、まるで別物になっていた。
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