カナダに追放された財閥の三男が帰国しました:父が「搾取は伝統だ」と言うので、「あらゆる手段」を使ってこの1兆円規模のブラック巨艦を完全ホワイ

RyuChoukan

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第十六話 拒否する権利

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     時間:二日後(九十日間の賭けの二十日目)。

     場所:澄原百貨店・カスタマーサービスセンター。

もちろん、氷川麗子がこのまま引き下がるはずがなかった。

彼女は自らの権限を最大限に利用し、澄原百貨のクレーム専用ダイヤルを、特命準備室に直結させるよう設定した。さらに、その週の販促キャンペーン期間中に限り、これまで内々にブロックしていた“要注意顧客リスト”を、故意に解除したのだ。

大量の悪質クレームと迷惑行為で、龍立のチームを窒息させる――それが彼女の狙いだった。

ところが。

フロアに足を踏み入れた氷川の目に飛び込んできた光景は、彼女の予想とはまるで違っていた。

百貨店の入口に、上品なデザインの立て看板が設置されていたのだ。

そこには、流麗な字体でこう書かれていた。

【当店は、すべての紳士淑女の皆さまに、上質で快適なお買い物環境を提供することをお約束いたします。

 従業員への暴言・暴力行為、ならびに悪質な迷惑行為を行う方に対しては、サービスのご提供をお断りする場合がございます。】

「何よ、これは。すぐに撤去しなさい!」

氷川は怒りを隠そうともせず声を上げた。

「店とは、お客様を選り好みせず受け入れる場所でしょう? 客を追い返すなんて、言語道断です!」

「追い返してるんじゃない。選別してるんだよ。」

二階の手すりにもたれながら、龍立が下のホールを見下ろしていた。

一階のエントランスでは、吉岡俊介が例の《AIスマイル・モニタリングシステム》をチェックしている。

「プログラムを少しだけ書き換えときました。」

吉岡が補足する。

「以前は従業員の笑顔の角度を監視してましたけど、今は来店客の“感情指数”と“攻撃性”を解析してます。大声での罵声、身体的な接触、過去のトラブル履歴のある顔写真が検出されると、自動的に警告が出て、セキュリティに通知が飛ぶ仕組みです。」

ちょうどそのとき。

カウンターのスタッフに絡み、肩や腰にしつこく手を回そうとしていた酔っ払いの成金が、二人の警備員に丁重かつ強い態度で制止された。

「お客様。他のお客様のご迷惑となっております。大変恐縮ですが、ご退店をお願い申し上げます。」

「俺は金を持ってるんだぞ! 好きにさせろ!」

「お金は、品性までは買えません。どうぞ。」

成金は外へ“お見送り”された。

周囲で顔をしかめていた客たちは、ほっとしたように表情を緩め、ささやかな拍手を送る者すらいた。

「購買力のある客を、追い出したわけね。」

氷川が詰め寄る。

「いいえ、あれは“劣悪通貨”です。」

工藤孝太が、新しい予約リストを手に近づいてきた。

「総支配人。こちらをご覧ください。」

記載された名前の欄には、日本有数の名門家の姓が並んでいた。

近衛、島津、細川――。

普段なら、ブランド側が直接邸宅まで出向いて対応するような、“本物の”オールドマネー達だ。

「こ、これは……」

氷川の声が震える。

「どうして、こんな大物たちが、わざわざ百貨店なんかに?」

工藤は、ちらりと龍立に目をやり、微笑んだ。

「僕からは、いくつか新興財界の方々にお声がけしました。でも、こういった“本物の”大物たちは、三坊ちゃまが一本電話を入れただけです。」

欄干にもたれたまま、龍立は携帯電話を手の中で弄んでいる。

「大したことじゃないさ。昔の同級生たちが、“静かに買い物できる場所がない”って愚痴ってたからね。“銀座に一軒、掃除の済んだ店がある”って教えただけ。」

氷川は、そこでようやく思い出した。

この男は、ただの特命室長ではない。澄原家の三男であり、その同級生というだけで、日本の政財界の半分に影響が及ぶ――そういう世界の住人なのだ。

「俺たちがあの一パーセントの“怪物”を排除したことで、売り場の空気は静かで上品になった。」

龍立は、人差し指で売上モニターを指した。

「結果として、九十九パーセントの良質な顧客、そして普段なら呼んでも来ないような連中が、“ここなら長居できる”と思ってくれる。」

売上の数字は、来客数が一割落ちているにもかかわらず、逆に二割伸びていた。

「見えるだろ、氷川総支配人。」

「サービス業の本質は、“土下座”じゃない。“尊重”だ。」

「顧客を尊重し、同時に従業員も尊重する。人として扱われたスタッフだけが、“人間味のあるサービス”を提供できる。」

カウンターでは、水原香織が上品な老婦人のためにスカーフを選んでいた。

もはや八十五度の作り笑いは浮かべていない。ただ、相手の話に耳を傾け、ときおり心の底から漏れるような、柔らかな笑みを見せるだけだ。

老婦人はご機嫌な様子で最後の一枚を選び、帰り際に水原の手を握った。

「ありがとうね、お嬢さん。お話していて、とても心地よかったわ。前に来た時は、笑顔が“作り物”みたいで怖い店員さんもいたけれど……あなたは違うわね。」

その光景を見つめながら、氷川麗子は奥歯をぎり、と噛みしめた。

自らが信奉してきた“完璧な機械理論”は、数字と人心の両方の面で、完全に打ち負かされている。

だが、彼女はただの総支配人ではない。

二兄・龍雅が百貨事業で保持している最後の防波堤でもあった。

「上等よ、龍立。」

氷川は、低く呟く。

その瞳に、一瞬だけ毒のような光が閃いた。

「店の中で勝てたつもりなら……今度は店の外で、叩き潰してあげる。」

彼女はスマートフォンを取り出し、ある男の番号をタップする。

「もしもし、《週刊真相》さん? ちょっとしたスクープがあるの。」

「澄原百貨のボンボン坊ちゃんが、権力を振りかざして客を恫喝・暴行してるって話。しかも“差別的ブラックリスト”まで作ってるらしいのよね……」

「明日の一面、飾るにはちょうどいいネタじゃない?」```
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