カナダに追放された財閥の三男が帰国しました:父が「搾取は伝統だ」と言うので、「あらゆる手段」を使ってこの1兆円規模のブラック巨艦を完全ホワイ

RyuChoukan

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第十九話 地図から消えた幽霊車隊

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     時間:同日 深夜二十三時。

     場所:三十二階 特命準備室。

窓の外で東京タワーが赤い光を瞬かせている。

しかし、特命室の空気は重く、酸素が薄く感じられるほど緊張していた。

吉岡俊介の十本の指が、キーボードの上で影のように走る。

巨大モニターには、無数の数字とラインが雨のように降り注いでいた。

十数時間におよぶ徹底追跡の末、ようやく澄原物流の「黒い裏側」が姿を現し始める。

「坊ちゃま、尻尾を掴みました。」

エンターキーが静かに押され、一枚の走行軌跡ヒートマップが映し出された。



「データが、まるで合わないんです。」

吉岡は眼鏡を押し上げ、険しい表情を浮かべた。

「荒垣のやり方だと、ドライバーたちは死ぬほど酷使されている。

 なのに、澄原物流全体の効率は、業界平均よりむしろ二割も低い。」

「効率はどこへ消えた?」

工藤孝太が首を傾げる。

「ドライバーがサボってる……って話じゃないですよね?」

「逆だよ。連中は、余ったエネルギーを“別の仕事”に使っている。」

吉岡は、ヒートマップ上のいくつかの赤い点を指差し、説明を始めた。

「第一の異常――GPSの“消失”です。

 全車両のルートを調べたところ、およそ三割の大型トラックが、夜間の零時から四時の間に必ずルートを外れ、東京湾D地区に侵入している。」

「その半径五キロ圏内に入った瞬間――GPS信号が一斉に“故障”します。

 約二時間、完全に行方不明になる。」

「……仮眠でもしてるんじゃないですか?」

佐久間が言う。

「どうせあそこは廃港ですし。駐禁も取り締まりも緩い。トラックを停めて仮眠を――」

「僕も最初はそう思いました。

 ですが、ここからが第二の異常です。」

キーボードを叩くと、新たな波形グラフが重ねられた。

「工場で使ったIoTセンサーのこと、覚えてます? あの仕組みを応用して、トラックのECU――つまり車載コンピュータのログを解析しました。」

吉岡は、GPSが「消えた」時間帯のデータにカーソルを合わせた。

「見てください。

 この二時間、エンジン回転数はアイドリングではなく、高負荷状態のまま。

 燃料消費も右肩上がりです。」

「もし仮眠なら、エンジンは切るか、せいぜい低回転のはずです。

 でも実際には、全力で“走り回って”いる。」

「さらに第三の異常――サスペンションの荷重センサーです。」

グラフが拡大される。

「D地区に入る前、車両の総重量は約十トン。

 普通の宅配貨物の重量ですね。」

「ところが、D地区から出てきた直後の数値は――二十五トン。」



息を呑む音が室内に広がった。

「つまり、D地区に入るときは普通の荷物を積んでいて、出てくるときには、十五トンも“何か”を積み増している。」

「しかも、その“何か”は極めて高密度だ。

 ダンボールでも家電でもない。

 液体か、あるいは金属塊に近い挙動を示している。」

「深夜、信号遮断区域、高負荷走行、急激な重量増加、高密度貨物……」

龍立は、窓の外――闇に沈む東京湾D地区を見つめた。

「荒垣は、ドライバーを休ませるためにD地区へ向かわせているわけじゃない。」

「澄原グループという“正面玄関付きの物流網”を利用して、深夜に巨大な地下輸送網を動かしている。」

「鈴木。D地区の素性を洗ってくれ。」

「了解です。」

鈴木彩音が、すぐに資料を呼び出す。

「D地区――十年前まで澄原グループの化学系倉庫が並んでいたエリアです。

 環境問題で行政指導が入り、封鎖・封印されたはずですが……現在は形式上“保安区域”。

 実際には、廃墟同然で管理人が数人いるだけのはずです。」

「封鎖された化学倉庫に、高密度貨物。」

龍立は、皮肉な笑みを浮かべた。

「二兄が密輸品のタックスヘイブンを目論んでいるだけじゃないな。」

「もっと汚い。

 有毒な工業廃棄物の“裏処理”だ。」

「澄原のトラックに廃液を積み込んでD地区へ運び、海に垂れ流すか、地中に埋める。

 コストはほぼゼロ、利益は天井知らず――」

「そんな商売だ。」

「これが世間にバレたら、グループのブランドは一夜で崩壊しますよ……」

工藤が青ざめて呟く。

鈴木が立ち上がる。

「坊ちゃま。ここまでデータが揃っているなら、あとは“現場写真”だけです。

 私がD地区に潜り込みます。作業員に紛れてトラックの荷下ろしを撮影できれば――」

「ダメだ。」

龍立は、即座に切り捨てた。

あまりの剣幕に、鈴木は息を呑む。

「あそこは法の届かない場所だ。

 荒垣の手下は、全員骨までヤクザモノだ。」

「見つかった瞬間、お前はそのまま撹拌機に放り込まれるぞ。」

「でも、写真がなければ……」

鈴木は必死に食い下がる。

「データだけでは、CFOの葛城さんなら、いくらでも帳簿をごまかせます。

 荒垣を引きずり落とす決定打には――」

「証拠なら、俺が取りに行く。」

黒いコートを手に取り、肩に引っ掛ける。

その一連の動きは、水が流れるように淀みがない。

「佐久間, 車を用意しろ。D地区へ行く。」

「坊ちゃま!」

鈴木と吉岡が同時に声を上げた。

「危険すぎます! 坊ちゃまは“本丸”なんですよ! 無茶は――」

龍立は、振り返り、淡々と言った。

「危ないからこそ、俺が行く。」

「オーナーの仕事は、戦略を決めることと、リスクを背負うことだ。

 現場を地獄に突き落として、上だけが安全圏にいる――そんな会社に未来はない。」

歩きながらスマホを取り出し、別の番号を押す。

「吉岡。D地区の詳細マップを源田鉄男に送れ。

 “解体工事”レベルの重機を持てるだけ持って、倉庫群の外周――コンテナの死角になる位置に潜んでいろと伝えろ。」

「坊ちゃま、それは……」

佐久間の問いを、エレベーターの閉まる音が遮る。

閉まりかけたドアに映る龍立の横顔は、氷のように冷たく研ぎ澄まされていた。

「分析パートは終わりだ。」

「ここからは――物理検証の時間だ。」

「荒垣は、自分が闇に潜れば無敵だと思っている。

 だったら、俺が“餌”になってやる。」

「奴を光の下まで引きずり出して――根こそぎ、引き抜く。」
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