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第二十四話 トカゲの尻尾切り
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時間:二日後
場所:金融タワー・特別聴聞室
CFO・黒崎賢は、嗅覚の優れた老獪な狐だった。
小早川の様子がいつもと違うと見るや、彼は先手を打つ。「トカゲの尻尾切り」だ。
聴聞室の空気は、やけに冷たかった。
黒崎は主席に陣取り、その傍らには法務部の弁護士。
対面の席には、小早川が小さく縮こまって座っている。
「諸君。」
黒崎は、“深い悲しみ”を演じた顔で口を開いた。
「内部調査の結果、財務本部課長・小早川誠が、独断で数値を改ざんし、
公金を不正流用した疑いが発覚した。」
「そのせいで、湾岸新城プロジェクトの会計が混乱したのだ。」
テーブルの上に、書類束が叩きつけられる。
そこには、小早川のサインだけが並んでいた。
「これが、彼が偽造した伝票類だ。サインもハンコも、すべて彼一人のものだ。」
黒崎は、わざとらしくため息をつく。
「小早川。」
冷たい視線が突き刺さる。
「今こここで“自白調書”にサインするなら――
全てを“個人の暴走”だったと処理してやる。会社は刑事告訴しない。」
「ささやかな退職一時金も出そう。」
「だが拒むなら……一生拘置所暮らしだ。
お前の娘の戸籍には、“詐欺犯の娘”という烙印が一生つきまとう。」
ペンが差し出される。
小早川の手は、震えながらそれを掴んだ。
――娘のためなら、自分が犠牲になるべきなのか。
静かに、目を閉じる。
ペン先が紙面へと近づいていく。
――ドンッ!
聴聞室の扉が、蹴破られる勢いで開いた。
「そのサイン、一体誰の許可を取った?」
龍立が、堂々と歩み込んでくる。
その背後には、圧の強い外国人が六人、黒い鞄を提げて続いていた。
「お前は何者だ。」
黒崎が怒鳴る。
「法律を、少しだけ知っている者だ。」
龍立は淡々と答えた。
背後の金髪の男が一歩前へ出る。流暢な日本語で名乗った。
「私は、アメリカ・スキャデン法律事務所のパートナー弁護士です。
澄原龍立氏の依頼により、小早川誠氏の弁護人を務めます。」
「黒崎氏。」
「日本刑法第六十一条によれば、他人を教唆して犯罪を行わせた者は、正犯と同じ刑罰に処されます。
ましてや、これは典型的な“職場における権力的ハラスメント”です。」
ざわめきが走る。
スキャデン――出廷一分ごとに請求書が積み上がる世界的超大手。
「お前……一介の課長のために、そんな事務所を呼んだのか……?」
黒崎の顔から、余裕が消えた。
「一人の課長の尊厳の方が、お前の出世街道より遥かに高くつく。」
龍立は小早川の側に歩み寄り、握らされたペンを取り上げる。
その場で、ポキリと折り、黒崎の目の前へ投げつけた。
「小早川。例のものを。」
小早川は大きく息を吸い、震える手で懐から一冊の古びたノートを取り出した。
「こ、これは……『良心日記』です。」
涙声で言葉を紡ぐ。
「この十年……黒崎本部長に粉飾を命じられた日時、場所、そのときの言葉を全部……書き留めてきました。
一部は、録音も……あります。」
そのみすぼらしいノートが、この瞬間、財務本部を吹き飛ばす核弾頭に変わった。
黒崎は椅子に崩れ落ち、血の気を失った顔でノートを見つめる。
トカゲは尻尾を切って逃げるつもりだった。
だが龍立は、そのトカゲの尻尾にチタン合金を仕込み、首まで貫く刃へと変えていた。
場所:金融タワー・特別聴聞室
CFO・黒崎賢は、嗅覚の優れた老獪な狐だった。
小早川の様子がいつもと違うと見るや、彼は先手を打つ。「トカゲの尻尾切り」だ。
聴聞室の空気は、やけに冷たかった。
黒崎は主席に陣取り、その傍らには法務部の弁護士。
対面の席には、小早川が小さく縮こまって座っている。
「諸君。」
黒崎は、“深い悲しみ”を演じた顔で口を開いた。
「内部調査の結果、財務本部課長・小早川誠が、独断で数値を改ざんし、
公金を不正流用した疑いが発覚した。」
「そのせいで、湾岸新城プロジェクトの会計が混乱したのだ。」
テーブルの上に、書類束が叩きつけられる。
そこには、小早川のサインだけが並んでいた。
「これが、彼が偽造した伝票類だ。サインもハンコも、すべて彼一人のものだ。」
黒崎は、わざとらしくため息をつく。
「小早川。」
冷たい視線が突き刺さる。
「今こここで“自白調書”にサインするなら――
全てを“個人の暴走”だったと処理してやる。会社は刑事告訴しない。」
「ささやかな退職一時金も出そう。」
「だが拒むなら……一生拘置所暮らしだ。
お前の娘の戸籍には、“詐欺犯の娘”という烙印が一生つきまとう。」
ペンが差し出される。
小早川の手は、震えながらそれを掴んだ。
――娘のためなら、自分が犠牲になるべきなのか。
静かに、目を閉じる。
ペン先が紙面へと近づいていく。
――ドンッ!
聴聞室の扉が、蹴破られる勢いで開いた。
「そのサイン、一体誰の許可を取った?」
龍立が、堂々と歩み込んでくる。
その背後には、圧の強い外国人が六人、黒い鞄を提げて続いていた。
「お前は何者だ。」
黒崎が怒鳴る。
「法律を、少しだけ知っている者だ。」
龍立は淡々と答えた。
背後の金髪の男が一歩前へ出る。流暢な日本語で名乗った。
「私は、アメリカ・スキャデン法律事務所のパートナー弁護士です。
澄原龍立氏の依頼により、小早川誠氏の弁護人を務めます。」
「黒崎氏。」
「日本刑法第六十一条によれば、他人を教唆して犯罪を行わせた者は、正犯と同じ刑罰に処されます。
ましてや、これは典型的な“職場における権力的ハラスメント”です。」
ざわめきが走る。
スキャデン――出廷一分ごとに請求書が積み上がる世界的超大手。
「お前……一介の課長のために、そんな事務所を呼んだのか……?」
黒崎の顔から、余裕が消えた。
「一人の課長の尊厳の方が、お前の出世街道より遥かに高くつく。」
龍立は小早川の側に歩み寄り、握らされたペンを取り上げる。
その場で、ポキリと折り、黒崎の目の前へ投げつけた。
「小早川。例のものを。」
小早川は大きく息を吸い、震える手で懐から一冊の古びたノートを取り出した。
「こ、これは……『良心日記』です。」
涙声で言葉を紡ぐ。
「この十年……黒崎本部長に粉飾を命じられた日時、場所、そのときの言葉を全部……書き留めてきました。
一部は、録音も……あります。」
そのみすぼらしいノートが、この瞬間、財務本部を吹き飛ばす核弾頭に変わった。
黒崎は椅子に崩れ落ち、血の気を失った顔でノートを見つめる。
トカゲは尻尾を切って逃げるつもりだった。
だが龍立は、そのトカゲの尻尾にチタン合金を仕込み、首まで貫く刃へと変えていた。
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