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第三十話 吸血鬼の契約
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時間:翌日 午前10時。
場所:澄心アニメーションスタジオ・会議室。
天野愛はまだ病院のベッドで点滴を打っている。
その代わりに、龍立が会議室のテーブルの端に腰を下ろしていた。
向かいに座るのは、業界の巨大プレイヤー「帝都テレビ」のプロデューサーであり、このアニメ企画の“制作委員会”の代表――大島 剛。
ブランド物のスーツを着こなし、脚を組み、露骨に退屈そうな顔をしている。
「聞いたよ。ここ、潰れかけのスタジオに、新しいオーナーがついたって?」
大島は龍立を一瞥し、鼻で笑った。
「誰がオーナーだろうと、ルールは変わらない。来週の第5話、納品は絶対だ。」
龍立はテーブルに広げられたスケジュールと契約書に目を落とす。
「大島さん。工程表を見させてもらいましたが――このスケジュールで納期を守るには、うちのアニメーターは一日20時間労働になります。
それと、いただいている制作費を原画一枚あたりに換算すると、単価は……200円ですか。」
「それがどうした?」
大島は悪びれもせず、当然とばかりに言った。
「業界の相場だよ。若いうちは夢のために苦労するものだろう? 嫌ならやめればいい。うちの案件をやりたいスタジオはいくらでもある。」
「夢、ね。」
龍立は、短く鼻を鳴らした。
「君たちがタワマンに住んで高級車を乗り回す“夢”を叶えるために、うちのアニメーターはカプセルホテルで寝て、期限切れのおにぎりをかじるわけか。」
大島の顔つきが、じわりと険しくなる。
「澄原龍立。勘違いしないでくれよ。」
「こっちは金を出している。リスクも背負っている。だから“制作委員会”が一番取り分が多いのは当然だ。」
そう言うと大島は、一枚の追加契約書をテーブルに叩きつけた。
「オーナーが替わった以上、品質担保のためにも契約の見直しが必要だ。単価をさらに一割下げる。これは“履行保証金”だと思ってくれ。もし嫌なら――」
わざとらしく間を置いてから、言い切る。
「うちの“影響力”を使わせてもらうだけだ。この業界でお前のスタジオから原画一枚も仕事が出なくなってもいいのか?」
露骨な脅しだった。
テレビ局と制作委員会を敵に回すのは、この業界では“死刑宣告”に等しい。
スタジオの監督は血の気が引いた顔で、龍立の袖を掴んだ。
「社長……。堪えましょうよ……。仕事がなくなったら、本当にみんな食べていけません……。」
龍立は、その手を軽く叩いてなだめる。
そして――契約書を手に取り、ゆっくりと立ち上がった。
テーブルの脇に置かれたシュレッダーの投入口を開け、目の前でその紙を差し込む。
ジジジジジ――。
紙が細かく刻まれていく音が、静まり返った会議室にやけに大きく響いた。
「お前……正気か?!」
大島が椅子を蹴って立ち上がる。
「正気だよ。狂っているのは、この“人を食うシステム”のほうだ。」
龍立はテーブルに両手をつき、ゆっくりと身を乗り出した。
巨大な鯨が、目前の小魚を見下ろすような圧力が空気を押し潰す。
「大島。委員会の連中に伝えろ。今日から澄心アニメーションは一切の外注を受けない。」
「うちのスタッフは、自分たちの魂のために絵を描く。
お前たち吸血鬼のためじゃない。」
「帰れ。」
場所:澄心アニメーションスタジオ・会議室。
天野愛はまだ病院のベッドで点滴を打っている。
その代わりに、龍立が会議室のテーブルの端に腰を下ろしていた。
向かいに座るのは、業界の巨大プレイヤー「帝都テレビ」のプロデューサーであり、このアニメ企画の“制作委員会”の代表――大島 剛。
ブランド物のスーツを着こなし、脚を組み、露骨に退屈そうな顔をしている。
「聞いたよ。ここ、潰れかけのスタジオに、新しいオーナーがついたって?」
大島は龍立を一瞥し、鼻で笑った。
「誰がオーナーだろうと、ルールは変わらない。来週の第5話、納品は絶対だ。」
龍立はテーブルに広げられたスケジュールと契約書に目を落とす。
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それと、いただいている制作費を原画一枚あたりに換算すると、単価は……200円ですか。」
「それがどうした?」
大島は悪びれもせず、当然とばかりに言った。
「業界の相場だよ。若いうちは夢のために苦労するものだろう? 嫌ならやめればいい。うちの案件をやりたいスタジオはいくらでもある。」
「夢、ね。」
龍立は、短く鼻を鳴らした。
「君たちがタワマンに住んで高級車を乗り回す“夢”を叶えるために、うちのアニメーターはカプセルホテルで寝て、期限切れのおにぎりをかじるわけか。」
大島の顔つきが、じわりと険しくなる。
「澄原龍立。勘違いしないでくれよ。」
「こっちは金を出している。リスクも背負っている。だから“制作委員会”が一番取り分が多いのは当然だ。」
そう言うと大島は、一枚の追加契約書をテーブルに叩きつけた。
「オーナーが替わった以上、品質担保のためにも契約の見直しが必要だ。単価をさらに一割下げる。これは“履行保証金”だと思ってくれ。もし嫌なら――」
わざとらしく間を置いてから、言い切る。
「うちの“影響力”を使わせてもらうだけだ。この業界でお前のスタジオから原画一枚も仕事が出なくなってもいいのか?」
露骨な脅しだった。
テレビ局と制作委員会を敵に回すのは、この業界では“死刑宣告”に等しい。
スタジオの監督は血の気が引いた顔で、龍立の袖を掴んだ。
「社長……。堪えましょうよ……。仕事がなくなったら、本当にみんな食べていけません……。」
龍立は、その手を軽く叩いてなだめる。
そして――契約書を手に取り、ゆっくりと立ち上がった。
テーブルの脇に置かれたシュレッダーの投入口を開け、目の前でその紙を差し込む。
ジジジジジ――。
紙が細かく刻まれていく音が、静まり返った会議室にやけに大きく響いた。
「お前……正気か?!」
大島が椅子を蹴って立ち上がる。
「正気だよ。狂っているのは、この“人を食うシステム”のほうだ。」
龍立はテーブルに両手をつき、ゆっくりと身を乗り出した。
巨大な鯨が、目前の小魚を見下ろすような圧力が空気を押し潰す。
「大島。委員会の連中に伝えろ。今日から澄心アニメーションは一切の外注を受けない。」
「うちのスタッフは、自分たちの魂のために絵を描く。
お前たち吸血鬼のためじゃない。」
「帰れ。」
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