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第三十一話 俺たちのペンは黄金だ
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時間:一週間後。
場所:澄心アニメーションスタジオ・メインフロア。
大島の案件を蹴ったことで、スタジオ中に不安が広がっていた。
溜飲は下がった。みんなスッキリはしている。
だが、その後に押し寄せてくる現実もわかっている。
――仕事がなければ、来月の家賃(たとえカプセルホテル代であっても)をどう払えばいい?
「みんな、集まってくれ。」
龍立が手を叩く。その後ろには、青い作業着を着た屈強な男たちが数人控えていた。
澄心精工の源田鉄男と、その弟子たちだ。
源田は巻尺を片手に、アニメーターたちの手を、珍しい工業部品でも見るようにじろじろと眺めている。
「これが、あの可愛いキャラたちを動かしてる手か……。」
感心したようにため息をつく。
「安心しな。社長から頼まれてる。飛行機の部品を作る時と同じ精度で、あんたら一人一人に“腰を壊さない、首を壊さない”油圧昇降式の作画デスクを作ってやる。」
「これからは、腰は痛くならねえ、手も震えねえ。思う存分、世界をひっくり返すぐらい描いてくれ。」
アニメーターたちは、ぽかんと口を開けた。
自分たちの“腰”を気にかけてくれる人間など、これまで一人もいなかった。
龍立は、プロジェクターの前に立ち、大きなスクリーンに「澄心アニメーション 新ルール」と映し出す。
「みんな。制作委員会を蹴った以上、これからのルールは俺が決める。」
一枚目。
――【第一条:全員、正社員化】
「出来高制は廃止する。全員、無期限雇用の正社員だ。
初任給は月30万円(業界平均の3倍)。社会保険は全額会社負担。ボーナスあり。残業代も、きっちり払う。」
二枚目。
――【第二条:クリエイター分配権】
「作品から出た利益の五割を『クリエイター基金』に回す。
監督から新人の中割りまで、制作に関わった全員に、貢献に応じて分配する。」
三枚目。
――【第三条:生活と環境の保障】
「近所の高級マンション一棟を借り上げた。社員寮として、一人一戸。
水道光熱費と最速クラスのネット回線は会社負担。PCも作画機材もハイエンドモデルを支給する。」
龍立は、ポケットから一つの鍵束を取り出し、ある人物の前で止まった。
「天野愛。これはお前の部屋の鍵だ。」
退院したばかりの天野愛は、震える手でそれを受け取る。
「こ、これって……本当に……?」
おそるおそる尋ねる。
「でも、私たち、もうクライアントが……。何を描けば……?」
龍立は、にやりと笑った。
棚の奥から、埃をかぶったファイルを一つ取り出す。
三年前、このスタジオが大島に「売れない」と一蹴され、闇に葬られたオリジナル企画――『天空のメカニスト』。
「これを、やる。」
「これは本来、お前たちの夢だったろう?
『商業的じゃない』『エロが足りない』って理由で潰された企画だ。」
「今度は、澄心ホールディングスが全額出資する。
予算? 上限なし。
スケジュール? お前たちが決めろ。」
「俺が見たいのは、“あの大島がこの世に生まれてきたことを後悔するレベル”の作品だ。」
一瞬の静寂。
次の瞬間、スタジオの天井が抜けるのではないかというほどの歓声が爆発した。
それは、何百という徹夜を飲み込み続けてきた火山が、ついに噴き上がった音だった。
源田鉄男は、その騒ぎを見ながら目頭を指で押さえ、弟子に囁いた。
「見たか。これが“職人が職人を大事にする”ってことだ。
さっさと工場戻って、あいつらの机を作るぞ。若いのの“大仕事”の邪魔をするんじゃねえ。」
場所:澄心アニメーションスタジオ・メインフロア。
大島の案件を蹴ったことで、スタジオ中に不安が広がっていた。
溜飲は下がった。みんなスッキリはしている。
だが、その後に押し寄せてくる現実もわかっている。
――仕事がなければ、来月の家賃(たとえカプセルホテル代であっても)をどう払えばいい?
「みんな、集まってくれ。」
龍立が手を叩く。その後ろには、青い作業着を着た屈強な男たちが数人控えていた。
澄心精工の源田鉄男と、その弟子たちだ。
源田は巻尺を片手に、アニメーターたちの手を、珍しい工業部品でも見るようにじろじろと眺めている。
「これが、あの可愛いキャラたちを動かしてる手か……。」
感心したようにため息をつく。
「安心しな。社長から頼まれてる。飛行機の部品を作る時と同じ精度で、あんたら一人一人に“腰を壊さない、首を壊さない”油圧昇降式の作画デスクを作ってやる。」
「これからは、腰は痛くならねえ、手も震えねえ。思う存分、世界をひっくり返すぐらい描いてくれ。」
アニメーターたちは、ぽかんと口を開けた。
自分たちの“腰”を気にかけてくれる人間など、これまで一人もいなかった。
龍立は、プロジェクターの前に立ち、大きなスクリーンに「澄心アニメーション 新ルール」と映し出す。
「みんな。制作委員会を蹴った以上、これからのルールは俺が決める。」
一枚目。
――【第一条:全員、正社員化】
「出来高制は廃止する。全員、無期限雇用の正社員だ。
初任給は月30万円(業界平均の3倍)。社会保険は全額会社負担。ボーナスあり。残業代も、きっちり払う。」
二枚目。
――【第二条:クリエイター分配権】
「作品から出た利益の五割を『クリエイター基金』に回す。
監督から新人の中割りまで、制作に関わった全員に、貢献に応じて分配する。」
三枚目。
――【第三条:生活と環境の保障】
「近所の高級マンション一棟を借り上げた。社員寮として、一人一戸。
水道光熱費と最速クラスのネット回線は会社負担。PCも作画機材もハイエンドモデルを支給する。」
龍立は、ポケットから一つの鍵束を取り出し、ある人物の前で止まった。
「天野愛。これはお前の部屋の鍵だ。」
退院したばかりの天野愛は、震える手でそれを受け取る。
「こ、これって……本当に……?」
おそるおそる尋ねる。
「でも、私たち、もうクライアントが……。何を描けば……?」
龍立は、にやりと笑った。
棚の奥から、埃をかぶったファイルを一つ取り出す。
三年前、このスタジオが大島に「売れない」と一蹴され、闇に葬られたオリジナル企画――『天空のメカニスト』。
「これを、やる。」
「これは本来、お前たちの夢だったろう?
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「今度は、澄心ホールディングスが全額出資する。
予算? 上限なし。
スケジュール? お前たちが決めろ。」
「俺が見たいのは、“あの大島がこの世に生まれてきたことを後悔するレベル”の作品だ。」
一瞬の静寂。
次の瞬間、スタジオの天井が抜けるのではないかというほどの歓声が爆発した。
それは、何百という徹夜を飲み込み続けてきた火山が、ついに噴き上がった音だった。
源田鉄男は、その騒ぎを見ながら目頭を指で押さえ、弟子に囁いた。
「見たか。これが“職人が職人を大事にする”ってことだ。
さっさと工場戻って、あいつらの机を作るぞ。若いのの“大仕事”の邪魔をするんじゃねえ。」
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