カナダに追放された財閥の三男が帰国しました:父が「搾取は伝統だ」と言うので、「あらゆる手段」を使ってこの1兆円規模のブラック巨艦を完全ホワイ

RyuChoukan

文字の大きさ
57 / 161

第五十七話 百億円の廃土

しおりを挟む
 時刻:台風「海神」通過後の早朝 07:30

 場所:東京・世田谷区/老朽木造アパート前

豪雨の引いた街は、下水の逆流が吐き戻した悪臭で満ちていた。黒いマイバッハが音もなく路肩に止まり、タイヤが泥水を跳ね上げる。龍立がドアを開けて降りた。革靴が濁った水溜まりを踏み、眉間に皺が寄る。

目の前には、屋根の半分を剥がされ、壁が剥落した昭和の木造アパート。今にも倒れそうな“住処”だった。

「社長……すみません、こんな朝早く……」

声をかけたのは美咲(Misaki)。GIGAエンタメに入社してまだ半年の天才原画師で、『幻星神域』の中核を担うメインアーティストの一人だ。今は濡れきった毛布を肩に掛け、震えながら路上に立っている。胸に抱きしめるのは、命綱のように数位板(ペンタブレット)だった。

その背後では、同じく若い澄心の社員たちが、崩れかけた建物から必死に荷物を運び出している。

「どういうことだ。会社は全員に“特別住宅補助”を出したはずだろう。なぜ、こんな場所に住んでいる?」

龍立の視線は、倒壊寸前の建物に突き刺さっていた。

「金の問題じゃありません」

隣で吉岡俊介が低く答える。無奈の色が滲む声だった。

「社長、ここは東京です。大家は異様なほど選り好みする。独身女性、フリーランス、クリエイター……そういう肩書は、向こうの目には“収入が不安定”“面倒を起こす”と同義なんです」

美咲は苦く笑った。涙が雨水に混じって頬を滑る。

「お金があっても、いい部屋は借りられない……。仲介に言われました。“東京在住の連帯保証人”がいないなら、審査不要の……棺桶みたいな部屋しかないって。私たち……この街のヤドカリなんです。殻は借り物で、いつだって風と雨に追い出される」

龍立は、美咲の赤く荒れた指を見た。何十億、何百億の価値を生む手が、熱いシャワーさえ奪われている。胸の奥で、名もない火が燃え上がる。

「ヤドカリ、か……」

龍立は自分のスーツの上着を脱ぎ、美咲の肩に掛けた。

「吉岡。被災した社員全員に伝えろ。今夜から帝国ホテルのエグゼクティブスイートに入れる。費用は会社持ち。部屋が見つかるまでだ」

そして、龍立は振り向いた。眼が鋼の硬さを帯びる。

「それから――国土交通省に連絡を取れ。この見栄っ張りな街で殻が見つからないなら、俺たちで造る。誰にも追い出されない“家”をな」

……三日後。国土交通省・土地競売会場。

東京湾F区。忘れ去られた巨大な埋立工業地帯。かつて化学工場の跡地だった場所は、今や荒れ果てた廃土と化している。鬼島建設の社長・鬼島五郎は、会場の外に停めたバリケード車の中で、ふんぞり返っていた。葉巻を咥え、脂の乗った顔に勝ち誇った笑み。

この土地のために、裏社会の筋を使い、競合は脅して追い払ってある。

「社長、第四ラウンド開始です」部下が報告する。「まだ誰も入札しません。このまま最低価格の十億で――」

鬼島は煙を吐き、豪快に笑った。

「はははは!当然だろ!この土地へ入る道路は俺が造った。俺以外が買っても“虚無”だ。最後は政府が俺に泣きついて引き取らせる!」

スクリーンで競売人が槌を掲げる。

「十億円、第一回――」

その瞬間。巨大LEDが一度だけ瞬いた。赤い警告灯が点る。

【オンライン入札回線 開通】
【入札者:Blue Sky Tech(登録地:カリフォルニア)】
【入札額:五百億円】

「ぶっ――!」

鬼島は茶を噴き、葉巻が腿に落ちて悲鳴を上げた。

「五百億!? 誰が正気だ!ここには何もない!どこの阿呆が金を捨てる!」

「――俺だ」

冷たく、沈んだ声が、湾岸の風を切り裂いた。鬼島が振り向く。黒い澄心の警備車両が数十台、隊列を組んで静かに止まる。龍立が弁護士団と技術陣を引き連れ、黒雲のように歩み寄ってきた。

龍立は鬼島の怒号を無視し、バリケードの前に立つと、印刷されたばかりの電子権利証を淡々と掲げた。

「鬼島。お前みたいな地を吸う寄生虫にとっては、十億でも高いだろう。だが俺にとっては、ここが未来の“家”だ。五百億は入場券に過ぎない」

龍立は権利証を、鬼島の脂ぎった派手なシャツの胸に叩きつけた。

「――今からこの土地は澄原の姓だ。お前のゴミ車ごと、消えろ」

鬼島の頬が痙攣する。やがて、陰湿な笑みが浮かんだ。手を振る。背後から、鉄パイプを握った数百の打ち手がにじり寄った。

「いい度胸だ。澄原龍立。土地は買ったが――地図を見落としたな。ここへ通じる唯一の道路橋は、俺・鬼島建設の私有地だ」

鬼島はバリケードに足を乗せ、狼の眼で言い放つ。

「俺が首を縦に振らなきゃ、ネジ一本すら運び込めねぇ。さぁ――孤島でどうやってビルを建てる?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?

嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】  ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。  見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。  大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!  神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。 「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...