カナダに追放された財閥の三男が帰国しました:父が「搾取は伝統だ」と言うので、「あらゆる手段」を使ってこの1兆円規模のブラック巨艦を完全ホワイ

RyuChoukan

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第一百三十四話 卓をひっくり返せ

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 時間:勝負の最中

 場所:「海神号」VIP賭博ホール

 賭博ホールの空気は、水銀のように凝固していた。重く、息をするだけで肺が痛い。響くのはチップの乾いた衝突音だけ。冷たい死闘の拍子を刻むように、カチ、カチと鳴る。

 水晶灯の下、煙が漂う。

 金城龍彦は椅子へ深く凭れ、葉巻を指に挟んでいた。灰は長く伸びているのに、彼は弾かない。特製のナノコンタクトを通し、龍立が伏せた二枚の底札をはっきり“見て”いた――ハートの9、クラブの4。

 どうしようもないゴミ手。一方、金城の手元はKのポケットペア。

「龍立坊ちゃん。チップはもう半分だ。」

 金城は煙を吐き、龍立の顔へ吹きかける。目は屠殺を待つ子羊を見るようだった。

「俺の船じゃ、幸運の女神はお前を贔屓しねぇみたいだな。」

「まだ付いてくるか?」

「若い奴ってのは、棺桶を見るまで引かねぇんだよな。」

 龍立は無表情だった。長い指で赤いチップ二枚を静かに撫でる。底札は見ない。瞼すら上げない。

「ポーカーは、札の強さを競うゲームじゃない。」

 龍立が突然口を開く。平静すぎて、逆に心臓を冷やす声。

「崖っぷちで、誰がより踊れるかを競うゲームだ。」

 彼は手元の大半のチップを押し出した。

「レイズ(Raise)。200億。」

 場がどよめく。横の龍仁が杯を握り潰しかける。

「龍立……正気か!?200億だぞ!」

 金城も固まった。再確認する。龍立の底札――ハート9、クラブ4。絶対的なブラフ。

(こいつ、俺を脅すつもりか?)金城は心の中で冷笑した。(全知全能の神の前で小細工?死に急ぎだ。自分を賭神だとでも思ってるのか?)

「金を捨てたいなら、遠慮なく拾ってやる。」

 金城はチップを押し出す。「コール(Call)。」

 フロップ(Flop):ハートK、ダイヤ2、スペード7。

 金城は狂喜した。トップセット――Kのスリーカード。現時点でほぼ最強、ナッツ級。龍立の9と4は、依然として“空気”。

「200億。」

 龍立は盤面すら見ず、再びチップを投げ出す。まるで手札がAAのトリプルでもあるかのように断固としている。

 常識外れの打ち方に、金城は眉をひそめる。彼は龍立の目を見る。深い黒の瞳には、焦りが一切ない。むしろ、凍えるほどの「確信」があった。

 金城は作弊者だ。そして作弊者には致命的な心理弱点がある――彼らは“不確実性”を極端に嫌う。

 透視で100%勝つことに慣れ切っているからこそ、「明らかに死ぬはずの人間が、平然と突っ込んでくる」状況に遭遇すると、本能的に疑い始める。

(俺のレンズが壊れた?)

(ディーラーが買収されて、札が入れ替わってる?)

(こいつは、俺の知らない何かを持っている?)

「……コール。」

 金城は歯を食いしばり、額に冷汗を浮かべながら付いていく。手元のKトリプルは無敵のはずなのに、チップを握る手が震えていた。得体の知れない圧迫感――捕食者の視線のようなものを感じてしまう。

 ターン(Turn):クラブJ。

 状況は変わらない。金城が依然圧倒的に優勢。龍立が突然笑った。その笑みには軽蔑と、憐れみが混ざっていた。道化を見るような笑み。

「金城。真のギャンブラーが、イカサマ師を見下す理由を知ってるか?」

 龍立は身を乗り出し、その気配が山崩れと津波のように金城へ襲い掛かる。

「お前らは“リスクを計算する能力”を失った。」

「貪欲に操られる奴隷になっただけだ。」

「オールイン(All-in)。」

 龍立は残りすべてのチップ――それどころか、世界に一つしかないカスタムメイドのパテック・フィリップまで、卓の中央へ押し出した。

「何だと!?」

 金城は跳ね上がる。椅子が床を削り、耳障りな悲鳴を上げる。龍立のゴミ手9-4。自分の三条K。理屈では、勝てる。

 だが――心理で崩れた。龍立の「俺はお前を食い尽くす」圧が、金城の“外挂(チート)”への信頼を破壊する。

(まさか……俺が見間違えた?)

(まさか……ディーラーが仕込まれている?)

(この一手で負けたら……IRの支配権が吹き飛ぶ……!)

 恐怖が毒蛇のように心臓へ巻き付き、必勝札を握っているはずなのに、時限爆弾を掴んでいる気分になる。

「……フォ、フォールド(Fold)。」

 金城は震える手で、無敵の三条Kを捨て札へ投げた。彼は保身を選んだ。逃走を選んだ。自分の恐怖に負けた。

「……ふう……」

 龍仁がようやく息を吐き、椅子へ崩れ落ちる。背中は汗で濡れていた。

 龍立は無表情のまま、山のようなチップを回収する。そして――ゆっくりと底札を開いた。

 ハートの9、クラブの4。ペアすらない。

 死んだような静寂。金城の顔が一瞬で血の色へ変わり、目玉が飛び出しそうになる。

「てめぇ……そのゴミ手で……俺を脅したのか!?」

 龍立はチップを整えながら淡々と言う。

「金城。お前は自分の“目”に負けた。」

「レンズに依存しすぎた。」

「俺の札を見た瞬間、お前は考えるのをやめた。」

「俺が賭けたのは札じゃない。」

「“既得権益を失うのが怖い臆病者の心理”だ。」

「これがゲーム理論の“情報の非対称が生む逆噬(ぎゃくぜい)”だ。」

「お前の神の視点は、逆にお前の盲点になった。」

 この一局で、龍立は資金を取り戻しただけでなく、金城の精神防衛線を完全に叩き割った。金城は焦り始める。汗を拭く回数が増え、視線が泳ぐ。レンズを信じられなくなり、自分の判断も信じられなくなった。

 最後の一局(The Final Hand)。

 ディーラーが札を配る。龍立は相変わらず札を見ない。金城は自分の札を見る――スペードA、スペードK。そして龍立の札を見る――ダイヤ3、クラブ2。

(またゴミ手だ。今度こそ……今度こそ怯むな!)金城は心の中で咆哮し、怒りで恐怖を覆い隠そうとした。

 フロップ(Flop):スペード10、スペードJ、スペードQ。

 金城はロイヤルストレートフラッシュの“聞牌”どころではない。すでに完成したフラッシュを握っている。

「今度こそ殺してやる!!」

 金城は全チップ、身代わりも含め、すべてを卓へ叩きつけた。「オールイン!!」

 龍立はその山を見ても、すぐにはコールしなかった。彼はゆっくり立ち上がり、袖口を整える。優雅で落ち着き払い、まるで舞台に上がる貴族のようだった。

「金城。今回は金を賭けない。」

 龍立は背後の影へ視線を送り、わずかに頷く。

「劉立。“雰囲気”を変えろ。」

 影に立つ劉立は、一見普通のスマホを手にしていた。指が画面を軽く叩く。すでに侵入済みの船載中枢制御システムだ。

「指令実行:中央照明システム上書き。モード:UV-MAX(全出力紫外線)。」

「ジジ――!」

 宴会場の暖色の豪奢な照明が、一瞬で消えた。代わりに、四方のLEDムードライトが同時に高周波の青紫(近紫外波長)へ切り替わる。ホール全体が、不気味な幽光へ沈む。まるで異次元へ落ちたかのように。

 奇跡――いや、罪の証拠が、この瞬間に顕れる。

 紫の光の下で、卓に散ったトランプの裏面――肉眼では見えないはずのナノ蛍光インクの印が、ネオンのように燦々と光った。



【As】、【Ks】、【Qh】……一枚一枚に、花色と数字がくっきりと刻まれている。

 さらに金城の顔に付いたコンタクトレンズは、紫外線で反応し、鬼火のような青い光を放った。眼が青く燃える怪物にしか見えない。

「な……何だこれは……」

 金城は反射的に目を覆う。だが遅い。龍仁は後ずさり、卓を指差して声を震わせる。

「札が……光ってる!?お前、札に印を付けたのか!?」

 龍立は札を一枚掴み上げ、紫の光の下で全員に見せる。そして正面のスマホカメラにも見せる――ライブ配信はすでに開始されていた。

「視聴者の皆さん。これが所谓“赌王(ギャンブル王)”です。」

「彼は算牌も運も要らない。」

「この札は、彼が刷った札だからだ。」

「光るレンズでこちらの手を見れば、絵葉書を見るのと同じ。」

「さっきの一局は心理戦で勝ったが――最初から公平なんて存在しなかった。」

 龍立は卓を蹴り飛ばした。「ガララ――!」

 数百億円のチップと、光るトランプが滝のように散り、甲板一面へ降り注ぐ。荒唐無稽な葬儀のようだった。

「俺は開牌しない。」

「この卓には勝ち負けがない。」

「あるのは詐欺だけだ。」

 スマホ画面のコメント欄は爆発した。世界で一千万人超が、この瞬間を目撃していた。金城龍彦は椅子に崩れ落ち、顔は蒼白になった。終わった、と分かっている。IRの免許も、帝国も、名声も、完全に撃ち抜かれた。

「クソ……クソォォ!!」

 金城は狂ったように胸元から、金メッキのデザートイーグルを引き抜き、銃口を龍立の眉間へ向けた。「殺してやる!!死んでも道連れだ!!」

 護衛が動くより早い者がいた。龍立の背後の劉立は、金城が抜いた瞬間に動いていた。大声も、派手な動きもない。ただ冷静に、スマホ画面の別のボタンを押す。

「照明モード:Strobe(高周波フラッシュ)。」

「ジジ!ジジ!ジジ!」

 ホールの照明が、毎秒20回の頻度で“白の高輝度”と“完全暗黒”を狂ったように切り替え始めた。激烈なフリッカー効果が視神経を奪い、金城の視界は真っ白になり、照準など取れるはずがない。

「うわぁぁ!目が!!」

 金城が0.5秒だけ短時間失明した、その瞬間。劉立は卓上の高級ラフィットの赤ワインを掴み、手首を返す。ボトルは砲弾のように飛ぶ。

「ガン!」金城の銃を握る右手首へ、寸分違わず直撃。骨が砕ける音。拳銃が宙へ跳んだ。

 次の瞬間――フラッシュの明滅を切り裂き、黒い影が走った。澄原龍立が動いた。

 彼は豹のように翻った卓を飛び越え、フラッシュの中で残像を残すほど速い。間合いへ踏み込み、左手で金城の首を掴み、右手で折れた手首の腕を取り、関節を逆に捻じ上げる。

「カチッ!」乾いた脱臼音。

 金城は、チップと光るトランプの上へ顔面から叩き付けられた。照明が正常に戻る。

 龍立は片膝で金城の背を押さえ込み、パテックを嵌めた手で後頸部を掴み潰すように押さえ、完全に動けなくした。銃を持つ護衛が突っ込もうとするが、劉立がデザートイーグルを拾い上げ、にこやかに彼らへ向けていた。

「動いたら死ぬよ。」眼鏡を押し上げ、口調は軽い。だが絶対の支配があった。

 海上に巨大なローター音が響く。正義の審判だ。特捜部のヘリが上空でホバリングし、巨大なサーチライトが甲板へ光柱を落とする。ロープが垂れ、日本海上保安庁の特殊部隊(SST)が瞬時に制圧へ入った。

「動くな!重大な商業詐欺と不法監禁の通報が入っている!」

 龍立は顔を近づけ、金城の耳元へ囁く。

「金城、覚えておけ。」

「本当の賭けは、札じゃない。脳だ。」

「それと、銃を俺に向けるな。」

「お前のルールの中でも――お前は負けている。」
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