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5.智紀、朝食時に友人を作る

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 机の引き出しに入っていた寮の説明書を読んで、どうにか頭に少し入れた。
 朝食の時間は重要である。朝六時から八時まで開いているらしい。一応休みの日は朝九時まで開けてくれるそうだ。ありがたいことである。
 んで俺はとっとと倒れた。初日にいろいろあって疲れたのだ。


 翌朝、ピィー、ピピピ……という鳥の声で目覚めた。なんかけっこうピーピーとうるさくて起きたかんじである。
 南側のベッドを見れば、ルームメイトの村西がくあーっと大きなあくびをしていた。

「……おはよ」
「おはよう」

 時計を見たら七時だった。もう朝食の時間は始まっている。
「カーテン開けていいか?」と村西に断って開けたら、窓の外にピー太がいた。ピー太は俺の姿を確認するとピュイッ、ピュイッと鳴いた。
 どうやら開けろと言っているらしい。

「あー……村西、窓開けてもいいか?」
「……いいよ」

 窓を開けると、ピー太は当たり前のように部屋に入ってきた。

「おはよう、ピー太」
「オハヨー、トモーノリー」
「エサはないぞ」

 ピピピッと鳴かれた。それはどういう意味なんだいったい。

「朝飯行ってくる。ピー太は適当に戻れよ」

 と言ったのに、何故かピー太は俺の肩に乗った。肩乗りオカメインコ。かわいいけど爪がだな。

「着替えるから下りろっての」

 さすがに部屋の外でスエット姿はまずいだろうと、シャツとズボンに着替えた。その間もピー太は机の上にいたりした。なんなんだいったい。

「……すごく懐いてるんだな」
「一度逃げちゃったんだけどなー」

 村西も朝食に向かうというので一緒に行くことにした。ピー太がバサバサと羽ばたいて俺の肩に当たり前のように乗った。
 嬉しいけどなんなんだろう。

「フンとかするなよー?」

 階段を下りて食堂へ向かう。

「えっ……?」
「あれ……?」

 途中部屋から出てきた人たちが俺を見て絶句した。まぁ変だよな、インコが肩に乗っかってんだもん。
 でもかわいいだろ? と開き直って食堂に足を踏み入れた。

「あらっ? ピータ君どうしたのっ?」

 食堂にいた割烹着を着たおばさんたちがわらわら近づいてきた。俺は迫力に押され、一歩後ずさった。

「おっと……」
「あ、ありがと……」

 村西がとっさに腕を伸ばして支えてくれたから助かった。
 ピィーーー! とピー太が鳴く。うるせー。人の肩の上ででっかい声出すなー。

「あらあらごめんなさいねえー」
「ごめんねー、ピータ君」

 おばさんたちはわらわらと離れていったが、にこにこしている。

「ピータ君、そちらの子はどなたかしらー?」
「トモー、ノリー!」

 名乗りを上げるように人の名前を叫ぶんじゃない。

「こら、ピー太! 人の名前を勝手に教えるんじゃない!」
「ピータ、スキー!」
「ごまかすなあああ!」

 ピー太は俺の肩から飛び上がると、俺の頭に乗った。

「こらっ、ピー太!」
「あらあら仲良しねぇ。ごめんなさいね。嵐山君からは聞いてたんだけどねー」

 ピー太はまたバサバサと飛び、今度は六人掛けのテーブルの上に止まった。誰もまだ腰掛けていない。

「そこにしろってか……すみません」
「いいわよー。朝食はバイキングだから好きなのを取ってね。一応パンは三枚までって決まってるけど、ごはんも二杯まで食べていいからねー」

 運動部とかがいるからだろうか。

「ありがとうございます」

 気を取り直して、苦笑する村西と共にトレイに食べ物を乗せてピー太がいるテーブルに向かった。

「あれ?」

 ピー太の側に誰かいる。

「あ、君……もしかしてこの子の飼主?」

 俺程じゃないけど、背がそれほど高くない華奢な生徒に声をかけられた。
 なんというか、ここが男子校だと知らなければ女子? と勘違いしてしまいそうな容貌をしている。
 でも声はそれなりに低いからやっぱ男なんだろう。

「あ、うん……まぁそんなかんじ?」

 飼主と言っていいのかちょっと悩む。一度逃げられてるし、昨夜だって寝床を用意してやったわけでもないしな。

「そう。一昨日この子に助けてもらったんだ。お近づきの印にエサを買ってきたんだけど、あげてもいい?」
「エ、エサ?」
「うん。売店で鳥のエサが売ってるよね?」

 華奢な彼は首を傾げた。なんでコイツ、男のクセに仕草がかわいいんだ?

「そういえば、売ってたな……」

 村西がぼそっと呟いた。そうだったのか。じゃあこれからは俺がピー太にエサを買ってやればいいのかと頷いた。

「そうなんだ? 別に、いいと思うけど……」

 俺はピー太を見た。ピー太はコキャッと首を傾げた。こうして見るとかわいいな、コイツぅ。

「僕も一緒に食べていい? 僕、稲村陸(いなむらりく)っていうんだ。君は?」

 かわいい顔をして強引な奴っぽい。

「村西……」
「俺はかまわない」

 村西は苦笑して頷いた。察しがいいな。なんか悪いなと思ったけど、嫌ならそう言うだろう。お互い名乗り合った。

「じゃあ、よろしく……」

 そうしてさっそく三人+一羽で朝食を取ることになった。
 ピー太は稲村からもらったエサを適当に啄むと、俺が汲んできた水を飲んでからバサバサと窓の外に飛んで行った。

「もしかして、腹が減ってたのか?」

 そう呟いたらまたバサバサと戻ってきて俺の肩に乗る。周りからの視線が痛い。
 なんだかよくわからなかったが、ピー太がかわいいからいいかと思ったのだった。


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