異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

文字の大きさ
259 / 653
第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました

105.また採寸するそうです

しおりを挟む
 紅児の純粋さに地味にダメージを受けながらも、翌日の予定を思うと香子はまたうんざりした。

『衣裳の調整が明日なのよね……』

 明日にはまた改めて針子がくるらしい。そんなに身体にぴったりした衣裳を着るわけではないだろうと思うだけに意味がわからない。椅子になっている青龍が香子の髪を優しく撫でる。

香子シャンズ、そなに憂鬱なれば断ってもよいのだぞ』
(またそうやって甘やかすー)

 香子は一瞬青龍を睨んだ。そして首を振る。
 春の大祭に出たいと言ったのは自分である。
「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損々」という阿波踊りの歌の出だしの部分を、香子は青龍に話した。青龍は感心したようだったがどうも言葉通り踊るものと勘違いしたのかもしれなかった。そうではないとは言ったがどういう解釈をしたかは謎である。毎日一緒に過ごしていてもその思考は読めない。
 それよりもその話をしている時紅児がきらきらした眼差しを向けてきたことで、また少しダメージを受けたのは余談である。
 

 翌日、言われていた通り何人もの女性が「謁見の間」に足を踏み入れた。さすがに四神宮の中に人を入れるわけにはいかない。その中には以前慈寧宮で仮の衣裳決めをした際にいた、王都でも評判の仕立て屋から来ている者たちもいた。以前会ったことがある者たちは同席している朱雀の姿を見ても平然としていたが、それ以外の者たちはさすがに一瞬ぎょっとしたような顔をした。
 女性の採寸に神様とはいえ男性が同席するとは思わなかったのだろう。香子は少しだけ彼女たちに同情した。
 彼女たちを案内した趙文英は当然ながら謁見の間の中には入らなかった。朱雀の他紅夏、黒月、延夕玲が今回は付き従っている。更に皇太后から女官が一人派遣されてきた。先日後宮で対応してくれた王である。
 衣裳は仮縫いとはいえほぼ出来上がっているように見えた。
 香子が当日着替えを四回することは前述した。移動中の衣裳は比較的かっちりとしているが、天壇で祭祀を行う際は緩めのものが用意された。何故だろうと首を傾げたが朱雀は笑むばかりで教えてくれない。

『できるだけ早く終らせる故、そなたは我らの言う通りにしておればよい』

 という思わせぶりな言葉をもらった。

(やっぱり私、早まった……?)

 冷汗をかいたがここまで準備をされて今更止めますというわけにもいかない。四神に言えば有無を言わさず中止にしてくれるだろうが、みなに迷惑をかけてまで止めたいとまでは思わなかった。

(つーかここで止めたら何のために青龍さまに抱かれたのか……。いや、青龍さまのことは好きだけど、意味が、うん)

 そこまで考えて香子は胸の痛みを覚えた。青龍のことは好きだ。好きだから抱かれたのは間違いない。そのきっかけが春の大祭に出たいという香子の思いだというだけで。
 誰に言い訳をしているのだと思いながら次々と着替えをし、終った頃にはぐったりだった。正直立っているのもつらいぐらいだったので、終ってすぐに香子を抱き上げた朱雀に無意識に頭をすり寄せたほどである。朱雀の言葉を王と夕玲が伝え、女性たちはしずしずと謁見の間から出て行った。そこで香子もぐだっとだれてしまいたかったが黒月と夕玲の目がある為さすがに耐えた。夕玲はあからさまに呆れたような表情はしないだろうが、黒月の視線は本当に容赦がない。
 謁見の間から四神宮に戻ったところで香子は朱雀にぐったりとその身をもたせかけた。

『少し休むか?』
『はい、あと……』

 これから大祭までのスケジュールを思い浮かべる。張老師は大祭が終るまではこないし、あとはプロポーションの維持につとめるぐらいである。四神に抱かれることで体型は変わっていないので香子のやることはない。
 ならば。
 だがそれを香子から言い出すのは些か恥ずかしい。ただそれを四神に察しろと言っても無理な話で。
 朱雀の室に移動してから、香子は真っ赤な顔をし朱雀の耳元で囁いた。

『今宵は、青龍さまもご一緒に……』
『よいのだな?』

 コクリと頷く。
 丸一日拘束されることも覚悟の上。また朱雀の”熱”を受けて、甘く啼かされるのだろう。
 香子はあらぬところが熱くなるのを感じ、戸惑うことしかできなかった。

 
 翌日の夜、『おなかすいた!』と泣きそうな声で香子が訴えたことで厨師コックたちは待ってましたとばかりに腕を振るった。

『やっぱり……つらいいいいい』
『……これでも短い方なのだが……』

 青龍の呟きに香子はふるふると首を振る。やはり一年で結婚相手を決めるというのはかなり無謀だと思った。



───
「貴方色に染まる」23話と連動しています。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/977111291/934161364

先日慈寧宮に行った件については、「第二部79.衣裳を決めるのはたいへんです」参照のこと。
しおりを挟む
感想 94

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です

氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。 英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

処理中です...