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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
119.たまに不満を叫ぶのはいいことです
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春の大祭が終り、日常が戻りつつある。準備に時間がかかるのはわかるが、その後始末もたいへんらしい。
張錦飛はもう少しの間来られないようだ。景山にも行けないし、御花園も各国からの客の相手をするのが忙しくて開放できない状態らしい。
(こんなにいい天気なのに!)
四神と過ごせば彼らから自然と手が伸びてくる。エロいことは夜だけ! と香子は再三お願いしているがなかなか守られないのが現状である。
(あーもう、あーもう!)
香子もいいかげん鬱屈が溜まっていた。
香子はどちらかといえばインドア派だが、大学にいた頃は体調が悪い時を除いて外に出ない日はなかった。冷蔵庫が小さかったということもあったが、何もない日でも買物をしに市場へ行ったりしていた。
(贅沢だってのはわかってるんだけど)
四神宮の中にずっといなければならないというのは息がつまる。「表へ出たい」と呟ければ「我らのうちの誰かと結婚すればいい」という答えが返ってくるのはわかっているし、実際青龍に悪気もなくそう言われたものだから香子はブチ切れてしまった。
『戻ります。部屋に送ってください』
少し困ったような顔をする青龍を促し、自分の部屋の前まで送らせる。青龍は部屋の中まで運んでくれるつもりだったようだが、それは断わった。戻っていく大きな背中がしょんぼりしているように見える。だが香子は怒っているのだ。青龍の室の前から黒月もまた香子の部屋の前に戻っている。その目がどういうことかと聞いているようだったが答えるのもおっくうだった。部屋の扉を開く。閉じたと同時に香子は叫んだ。
『あーーーーーー!! もうっっ!! 耐えられなーーーーいっっ!! 外に出たーーーーーいっっ!!』
そして香子はどすどすと音がするぐらい激しく足を振り上げて寝室に入っていった。行儀が悪いし花嫁がとる態度ではないとわかっていても耐えられなかったのだ。ぽすん、と音を立てて床にダイブする。こんな時は寝るに限る。
鬱屈が消えるわけではない。それでも香子には少しぐらい一人の時間が必要だった。
そうして、その話はそこで終わるはずだった。
二日後、紅児が香子の為に何かをするつもりらしいというのを耳にした。
『えー……』
正直ものすごく申し訳ない気持ちになった。14歳に気を遣わせるとは何事かと香子は頭を抱えた。
『四神宮では食べられない、花嫁さまが食べたいものを用意したいと紅児が申しております』
不機嫌さを隠しもせず紅夏が言う。もう少し態度を改めろと香子は言いたくなる。眷族は生意気だ。
『ありがたいことね。じゃあエリーザに直接伝えればいいのかしら』
『是』
用件は済んだとばかりに、足早に青龍の室から出て行く紅夏の背中を見送った。
『うーん……』
屋台で食べられるようなものが食べたいのだがどうだろうと香子は首を傾げた。一応市井から来てくれている厨師の馬遼が屋台を前門の前辺りで開設している。揚げ餃子や春巻、肉包、菜包などちょっとしたものを出しているらしい。四神宮には現在三日に一度来てくれて、昼食に小吃(軽食)を添えてくれている。
(たまにはああいうものだけを食べたい気もするわね)
言うのはただだし、もし屋台料理が食べられるのなら紅児の養父を巻き込んでしまうのもありかもしれない。香子は嬉しくなって、椅子になっている青龍の腕にぎゅっと抱きついた。結果は推して知るべしである。
部屋に戻ってから香子は紅児と話をした。
『失礼ですが、花嫁さまは何か食べたいものって、ありますか……?』
おそるおそる尋ねる様子がかわいい。西洋系の美少女がなまり混じりの中国語をしゃべるとか誰得なのか。
(萌える……)
バレないように胸を軽く押さえ、『食べたいものねぇ』と呟く。そこでふと、大陸について最初の頃はよく食べていた小吃を思い出した。
『煎餅が食べたい、かも……』
煎餅、と言っても日本の煎餅ではない。薄いクレープ状にした小麦粉の生地の上に卵を割り落とし、サッ広げて焼いてから辛味噌を塗り、葱や香菜などの薬味をパラパラとかける。真ん中に長方形に切られた薄脆(小麦粉を薄く揚げたもの)を重ねたものを載せ、それを畳みやすいようにざくざくとこてで切り、生地で包んでできあがりという、ごはん代わりにもなるボリューミーな食べ物である。そのうち大学の側からは屋台が消え、長城などの観光地でしか姿を見なくなったが香子にとっては忘れられない味であった。
かつて普通に食べていたものや、旅先でしか食べられなかったものなどを伝え、よかったら紅児の養父にも作ってほしいということを言ったら、案の定延夕玲と黒月に怒られた。が、せっかく提案してくれた紅児にも楽しく過ごしてほしいと香子は思う。
『もーーーーー! そーゆーのが面倒くさいっっ!! 黒月が側にいて見張ってればいいじゃない! 私は四神と一緒にいればいいじゃない! 毒味役とかいらないんだし!』
四神に確認したところもう香子には毒も効かないらしい。これはもう人間ではないだろうと遠い目をしたがそんなことは今更である。
大声を出した結果紅児は恐縮してしまったが、香子は引かなかった。
黒月が嘆息し、主官の趙文英に図ってくれることになった。黒月はツンデレだと香子は思っている。少し調子に乗ってツッコむと、身も心も凍らせるような厳しい視線を浴びることとなった。香子はごめんなさいと土下座したくなった。
ーーーーー
「貴方色に染まる」33、34話辺りです。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/977111291/934161364
張錦飛はもう少しの間来られないようだ。景山にも行けないし、御花園も各国からの客の相手をするのが忙しくて開放できない状態らしい。
(こんなにいい天気なのに!)
四神と過ごせば彼らから自然と手が伸びてくる。エロいことは夜だけ! と香子は再三お願いしているがなかなか守られないのが現状である。
(あーもう、あーもう!)
香子もいいかげん鬱屈が溜まっていた。
香子はどちらかといえばインドア派だが、大学にいた頃は体調が悪い時を除いて外に出ない日はなかった。冷蔵庫が小さかったということもあったが、何もない日でも買物をしに市場へ行ったりしていた。
(贅沢だってのはわかってるんだけど)
四神宮の中にずっといなければならないというのは息がつまる。「表へ出たい」と呟ければ「我らのうちの誰かと結婚すればいい」という答えが返ってくるのはわかっているし、実際青龍に悪気もなくそう言われたものだから香子はブチ切れてしまった。
『戻ります。部屋に送ってください』
少し困ったような顔をする青龍を促し、自分の部屋の前まで送らせる。青龍は部屋の中まで運んでくれるつもりだったようだが、それは断わった。戻っていく大きな背中がしょんぼりしているように見える。だが香子は怒っているのだ。青龍の室の前から黒月もまた香子の部屋の前に戻っている。その目がどういうことかと聞いているようだったが答えるのもおっくうだった。部屋の扉を開く。閉じたと同時に香子は叫んだ。
『あーーーーーー!! もうっっ!! 耐えられなーーーーいっっ!! 外に出たーーーーーいっっ!!』
そして香子はどすどすと音がするぐらい激しく足を振り上げて寝室に入っていった。行儀が悪いし花嫁がとる態度ではないとわかっていても耐えられなかったのだ。ぽすん、と音を立てて床にダイブする。こんな時は寝るに限る。
鬱屈が消えるわけではない。それでも香子には少しぐらい一人の時間が必要だった。
そうして、その話はそこで終わるはずだった。
二日後、紅児が香子の為に何かをするつもりらしいというのを耳にした。
『えー……』
正直ものすごく申し訳ない気持ちになった。14歳に気を遣わせるとは何事かと香子は頭を抱えた。
『四神宮では食べられない、花嫁さまが食べたいものを用意したいと紅児が申しております』
不機嫌さを隠しもせず紅夏が言う。もう少し態度を改めろと香子は言いたくなる。眷族は生意気だ。
『ありがたいことね。じゃあエリーザに直接伝えればいいのかしら』
『是』
用件は済んだとばかりに、足早に青龍の室から出て行く紅夏の背中を見送った。
『うーん……』
屋台で食べられるようなものが食べたいのだがどうだろうと香子は首を傾げた。一応市井から来てくれている厨師の馬遼が屋台を前門の前辺りで開設している。揚げ餃子や春巻、肉包、菜包などちょっとしたものを出しているらしい。四神宮には現在三日に一度来てくれて、昼食に小吃(軽食)を添えてくれている。
(たまにはああいうものだけを食べたい気もするわね)
言うのはただだし、もし屋台料理が食べられるのなら紅児の養父を巻き込んでしまうのもありかもしれない。香子は嬉しくなって、椅子になっている青龍の腕にぎゅっと抱きついた。結果は推して知るべしである。
部屋に戻ってから香子は紅児と話をした。
『失礼ですが、花嫁さまは何か食べたいものって、ありますか……?』
おそるおそる尋ねる様子がかわいい。西洋系の美少女がなまり混じりの中国語をしゃべるとか誰得なのか。
(萌える……)
バレないように胸を軽く押さえ、『食べたいものねぇ』と呟く。そこでふと、大陸について最初の頃はよく食べていた小吃を思い出した。
『煎餅が食べたい、かも……』
煎餅、と言っても日本の煎餅ではない。薄いクレープ状にした小麦粉の生地の上に卵を割り落とし、サッ広げて焼いてから辛味噌を塗り、葱や香菜などの薬味をパラパラとかける。真ん中に長方形に切られた薄脆(小麦粉を薄く揚げたもの)を重ねたものを載せ、それを畳みやすいようにざくざくとこてで切り、生地で包んでできあがりという、ごはん代わりにもなるボリューミーな食べ物である。そのうち大学の側からは屋台が消え、長城などの観光地でしか姿を見なくなったが香子にとっては忘れられない味であった。
かつて普通に食べていたものや、旅先でしか食べられなかったものなどを伝え、よかったら紅児の養父にも作ってほしいということを言ったら、案の定延夕玲と黒月に怒られた。が、せっかく提案してくれた紅児にも楽しく過ごしてほしいと香子は思う。
『もーーーーー! そーゆーのが面倒くさいっっ!! 黒月が側にいて見張ってればいいじゃない! 私は四神と一緒にいればいいじゃない! 毒味役とかいらないんだし!』
四神に確認したところもう香子には毒も効かないらしい。これはもう人間ではないだろうと遠い目をしたがそんなことは今更である。
大声を出した結果紅児は恐縮してしまったが、香子は引かなかった。
黒月が嘆息し、主官の趙文英に図ってくれることになった。黒月はツンデレだと香子は思っている。少し調子に乗ってツッコむと、身も心も凍らせるような厳しい視線を浴びることとなった。香子はごめんなさいと土下座したくなった。
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「貴方色に染まる」33、34話辺りです。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/977111291/934161364
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