280 / 653
第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
126.知りたいこともたくさんあります
しおりを挟む
便利な石があることに関して言えば、四神はその来歴について知らないようだった。もしかしたら四神を守護とした国への恩恵かもしれないが、四神は感知していないらしい。それならば眷属はどうだろうと尋ねてみたが、眷族たちも首を傾げていた。
よく考えたら四神も眷属も自分たちで体温調節しているし、そもそも暑いだの寒いだのを感じているかどうかもあやしい。石の活用についても人が気づいて採り始めたようなので、四神が知っているはずもなかった。
(天皇なら知ってるのかな)
石などというのは天の神からしたら些細なものだ。例え天皇が作ったとしてもそんなものは覚えていないだろうと思われた。
(張老師に聞いた方が早いかな)
この国の歴史に関して張錦飛はスペシャリストである。史学者というだけでなく神官だったなんて驚きだった。否、むしろ神官だからこそ歴史に精通しているのかもしれない。知りたいと思えば、香子は黙っていることなどできなかった。
『張老師にできるだけ早く訪ねていただけるようお伝えして』
そうと決まったら書の練習をしなければと、その日香子は夕飯の後も少し練習していた。
もちろんそう簡単に字がうまくなるわけはない。
翌々日、張が来てくれたが、相変わらずなんとも言えないような顔をされた。お世辞を言うような人でないのが救いである。
『……なかなか上達はしませんな』
『……申し訳ありません』
サボッていたのがバレバレである。青龍には少し褒められたがあれは惚れた欲目というやつなのだろう。
(うん、あれは世辞!)
そう思えば気が楽である。実際香子が自分で書いた字に納得がいかないのだ。これは納得がいくまで習うしかなかった。
終ってから四神宮の庭に出て張とお茶をする。香子はこの雑談の時間が一番好きだ。
『張老師が神官だなんて知りませんでした』
過ぎたことではあったが言わずにはいられない。この国には秋の大祭や春節もあるのだ。少なくともどちらかにはまた張が神官として出るに違いない。
『ほっほっほっ、聞かれませんでしたからのぅ』
どこかで聞いた科白である。誰がそんな突拍子もないことを聞くものかと香子は目を眇めた。
『老師、神官とは普段どのようなことをするのですか』
『毎日四神に祈る以外は普通の者と何も変わりません。今年はそう……少しありましたが後は秋の大祭と春節の準備がありますかな』
少し、というのは神官長がやらかした件だろうと香子は思う。あれのおかげで序列なりなんなりが変わったのかもしれない。
『老師、今年はたいへんですか?』
単刀直入に尋ねると、張は笑った。
『お気遣いありがとうございます。皇上(皇帝)をお迎えするのが四神と花嫁さまに変わるぐらいですから、私共は例年とそれほど変わらずに済んだと考えております。そうは言いましても、やはり陵光神君と孟章神君のお姿は神々しかったです。よいものを拝見しました。花嫁さま、本当にありがとうございます』
『いえ……』
朱雀と青龍が本性を現したことを言っているのだろう。確かに四神の本性など普通は見れるものではない。そう考えると今年はこの国の人々にとってもすごい年なのかもしれなかった。
『あ』
香子はふと聞きたかったことを思い出した。
『老師、光石とか、涼石などはこの国にしか存在しないようなことを聞きました。何か謂れがあれば教えてください』
張は目を細めた。
『花嫁さまの世界にはなかったのですか』
『はい、ありませんでした。元の世界のこの国にも、他の国にもそんな便利な石はなかったと思います。ですがこれらの石は唐の国にしかないとも聞きました。ご存知ないですか』
『……そうですな。光石に関しては比較的古い時代から使われていたようです。他の石については偶然見つけたものでありましょう。この国にしか存在しないというのも不思議な話ですな。地形なのか、それとも神々の加護なのか。残念ながら私は存じません。一応地質学を専門としている者がおりますので聞いてみましょう』
『そうですか』
香子はがっかりした。どうやら石の類がこの国のみに存在しているということも知らなかったようである。
(じゃあなんで四神は唐の国でしか産出されないことを知っていたのかしら?)
そこに答えがあるような気がした。
『急いではいませんから、もし聞けるようでしたらお願いします』
張は満足そうにうんうんと頷いた。
『花嫁さまは探究心が旺盛でいらっしゃる。私も負けてはいられませぬな』
『いえ、またいろいろご教授ください』
こういう話ができる人は貴重である。四神ではこうはいかない。
四神はこの国のいろいろなことに興味がなさそうに見える。自分たちで何かを深く考えるというのもなさそうだ。
それはきっと四神がそういう風に作られているからなのだろう。
(人間も遺伝子で全部決まってるっていうしね)
きっとこの性格も体質も何もかも遺伝子に操作されていると思えば、四神が自分たちでは感知していないことを知っていたとしてもおかしなことではないように、香子は思えた。
ーーーー
神官長については第二部80話を参照のこと。
「貴方色に染まる」43話辺りです。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/977111291/934161364
よく考えたら四神も眷属も自分たちで体温調節しているし、そもそも暑いだの寒いだのを感じているかどうかもあやしい。石の活用についても人が気づいて採り始めたようなので、四神が知っているはずもなかった。
(天皇なら知ってるのかな)
石などというのは天の神からしたら些細なものだ。例え天皇が作ったとしてもそんなものは覚えていないだろうと思われた。
(張老師に聞いた方が早いかな)
この国の歴史に関して張錦飛はスペシャリストである。史学者というだけでなく神官だったなんて驚きだった。否、むしろ神官だからこそ歴史に精通しているのかもしれない。知りたいと思えば、香子は黙っていることなどできなかった。
『張老師にできるだけ早く訪ねていただけるようお伝えして』
そうと決まったら書の練習をしなければと、その日香子は夕飯の後も少し練習していた。
もちろんそう簡単に字がうまくなるわけはない。
翌々日、張が来てくれたが、相変わらずなんとも言えないような顔をされた。お世辞を言うような人でないのが救いである。
『……なかなか上達はしませんな』
『……申し訳ありません』
サボッていたのがバレバレである。青龍には少し褒められたがあれは惚れた欲目というやつなのだろう。
(うん、あれは世辞!)
そう思えば気が楽である。実際香子が自分で書いた字に納得がいかないのだ。これは納得がいくまで習うしかなかった。
終ってから四神宮の庭に出て張とお茶をする。香子はこの雑談の時間が一番好きだ。
『張老師が神官だなんて知りませんでした』
過ぎたことではあったが言わずにはいられない。この国には秋の大祭や春節もあるのだ。少なくともどちらかにはまた張が神官として出るに違いない。
『ほっほっほっ、聞かれませんでしたからのぅ』
どこかで聞いた科白である。誰がそんな突拍子もないことを聞くものかと香子は目を眇めた。
『老師、神官とは普段どのようなことをするのですか』
『毎日四神に祈る以外は普通の者と何も変わりません。今年はそう……少しありましたが後は秋の大祭と春節の準備がありますかな』
少し、というのは神官長がやらかした件だろうと香子は思う。あれのおかげで序列なりなんなりが変わったのかもしれない。
『老師、今年はたいへんですか?』
単刀直入に尋ねると、張は笑った。
『お気遣いありがとうございます。皇上(皇帝)をお迎えするのが四神と花嫁さまに変わるぐらいですから、私共は例年とそれほど変わらずに済んだと考えております。そうは言いましても、やはり陵光神君と孟章神君のお姿は神々しかったです。よいものを拝見しました。花嫁さま、本当にありがとうございます』
『いえ……』
朱雀と青龍が本性を現したことを言っているのだろう。確かに四神の本性など普通は見れるものではない。そう考えると今年はこの国の人々にとってもすごい年なのかもしれなかった。
『あ』
香子はふと聞きたかったことを思い出した。
『老師、光石とか、涼石などはこの国にしか存在しないようなことを聞きました。何か謂れがあれば教えてください』
張は目を細めた。
『花嫁さまの世界にはなかったのですか』
『はい、ありませんでした。元の世界のこの国にも、他の国にもそんな便利な石はなかったと思います。ですがこれらの石は唐の国にしかないとも聞きました。ご存知ないですか』
『……そうですな。光石に関しては比較的古い時代から使われていたようです。他の石については偶然見つけたものでありましょう。この国にしか存在しないというのも不思議な話ですな。地形なのか、それとも神々の加護なのか。残念ながら私は存じません。一応地質学を専門としている者がおりますので聞いてみましょう』
『そうですか』
香子はがっかりした。どうやら石の類がこの国のみに存在しているということも知らなかったようである。
(じゃあなんで四神は唐の国でしか産出されないことを知っていたのかしら?)
そこに答えがあるような気がした。
『急いではいませんから、もし聞けるようでしたらお願いします』
張は満足そうにうんうんと頷いた。
『花嫁さまは探究心が旺盛でいらっしゃる。私も負けてはいられませぬな』
『いえ、またいろいろご教授ください』
こういう話ができる人は貴重である。四神ではこうはいかない。
四神はこの国のいろいろなことに興味がなさそうに見える。自分たちで何かを深く考えるというのもなさそうだ。
それはきっと四神がそういう風に作られているからなのだろう。
(人間も遺伝子で全部決まってるっていうしね)
きっとこの性格も体質も何もかも遺伝子に操作されていると思えば、四神が自分たちでは感知していないことを知っていたとしてもおかしなことではないように、香子は思えた。
ーーーー
神官長については第二部80話を参照のこと。
「貴方色に染まる」43話辺りです。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/977111291/934161364
5
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた
いに。
恋愛
"佐久良 麗"
これが私の名前。
名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。
両親は他界
好きなものも特にない
将来の夢なんてない
好きな人なんてもっといない
本当になにも持っていない。
0(れい)な人間。
これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。
そんな人生だったはずだ。
「ここ、、どこ?」
瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。
_______________....
「レイ、何をしている早くいくぞ」
「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」
「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」
「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」
えっと……?
なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう?
※ただ主人公が愛でられる物語です
※シリアスたまにあり
※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です
※ど素人作品です、温かい目で見てください
どうぞよろしくお願いします。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる