異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

文字の大きさ
287 / 653
第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました

133.まだまだ未熟なのです

しおりを挟む
 午前中、香子は朱雀と共にそのまま自分の部屋で過ごした。紅夏が帰ってくるのを待っていたのだった。眷族は帰ってきてまず己の神に報告をするはずである。昨日の今日で紅夏がどんな顔をしているのか、香子は少しだけ楽しみだった。しかし紅夏が香子の期待に応えてくれるわけもなく、帰着の報告は簡潔に終ってしまった。香子の部屋に紅児がいるというのに一瞥もせず淡々と報告をした紅夏を、香子は少し憎たらしくも思った。

(いいがかりだってのはわかってるんだけどさぁ……なんかやっぱムカつく)

 紅児がうっとりしたように紅夏を見送っていたのも余計だった。そう間もおかず昼食の時間になる。朱雀が『また後でな』と言って部屋を辞した。この食事毎の着替えもどうにかしてほしいと香子は思っているが、着替え担当といえる侍女たちが嬉々として香子に着替えさせるので嫌とも言えなかった。何よりも延夕玲が見張っている。面倒だと思いながらも香子はされるがままになっていた。
 昼食もいつも通り豪華だった。料理があらかた並べられてから、香子は少し気になったことを四神に尋ねた。

『あの……花嫁は四神も眷属も同じように産むわけですよね。私は四神と眷属って全然違う存在だと思っているのですが、やはり同じ腹から生まれた場合は兄弟とか、家族のような感覚になるのでしょうか』

 うまく言えないことがもどかしい。ようは四神と眷属に家族のような情が存在するものなのかという問いである。
 白虎と青龍は考えるような顔をした。

『……そうだな。我にとって白雲は兄のようなものと言われればそうだ。しかしそのありようは異なるゆえ、白雲は我を立てるのだ』
『我にとっての青藍も似たようなものだ。正直、我はまだ青藍にいろいろ教わっている状態ゆえ、確かに兄のようではあるな』
『そうなのですね』

 香子は朱雀を見やる。

『……あまり眷属たちについて弟妹や子などと思うことはない。紅児にはわかりやすく伝えただけだ。大体紅夏は我の命令など聞かぬ』
『……そうですね』

 言われてみればそうだと香子も納得した。そうでなくても男親はあまり子の教育には関わらないだろう。それが神ならば尚更だった。
 午後、香子は白虎と過ごすことにした。まだ紅児のことが気になっていたので、白虎には自分の部屋にいたいと伝えた。
 思った通り、紅児はなんとも複雑そうな表情をして部屋で控えていた。

『エリーザ、どうかしたの? 紅夏に何か言われた?』
『い、いえ……』

 紅夏に何かを言われたというより何かを聞いたのだろう。紅児は頭の中で何か巡らせたらしい。青ざめた紅児の顔を心配してもう一度声をかけると、なんと紅児は平伏した。

『も、申し訳ありません……!!』

 そのまま地板ゆかに頭を打ちつけようとするのを白雲が止める。香子はほっとした。
 どうやら紅児は香子に対して失礼とも思われるようなことを考えていたらしい。このまま尋ねても埒が明かないので、香子は人払いすることにした。当然のことながら白虎も追い出す。その際、紅児との話が終ったら白虎の室に移動することを約束した。後で何をされるのかどきどきである。

『エリーザ、いらっしゃい』

 紅児を長椅子の隣に腰掛けさせ、お茶を淹れる。今日のお茶は龍井である。その緑茶特有の爽やかさを一口味わってから、香子は紅児に話しかけた。

『で、どうしたの? 私はエリーザじゃないんだから言ってくれないとわからないわ』
『……はい、そうですね……』

 紅児はその不安定さ故か、放っておくとどんどん思考が飛んでいってしまうのである。紅夏と話させることで正しい知識は入れられていると思うのだが、気持ち的なところをフォローするのは難しい。結局こうして話を聞き、内容を整理させるぐらいしかできないのだ。

『うまく言えないんですけど……もし、もしですよ……花嫁さまが朱雀さまに嫁がれたら、後妻になるわけでしょう? そういうのって嫌じゃないんですか? あ、あとその……最初は四神のどなたかと結婚されるとお聞きしましたが、最終的に花嫁さまは四神全員の花嫁になられるのですよね。決まっていることとはいえ、花嫁さまはどう思われているのかなって……』

 紅児はそこまで言うとうなだれた。それは失礼な質問をしたと、後悔しているようにも見えた。

(後妻かぁ……全然考えたことなかったなぁ……)

 先代の花嫁は朱雀にもその身を委ねた。それによって紅夏や、他の眷属たちも産まれた。それこそ数百年も前の話だからそれについて気にすることはない。
 紅児には後妻などと思ったことはないこと。そして自分は四神の花嫁という立場を納得していると香子は答えた。

『でも……みながそれを当り前と見てくれても、罪悪感は消えないわね。一応私にも倫理観ってものはあるし』

 香子にとっての倫理観という言葉で紅児も少しは納得してくれたようだった。香子は四神に抱かれるのが嫌ではない。白虎にはまだ待っていてほしいとは思っているが、抱かれること自体への後ろめたさは大分なくなってきた。それでもこの状態をおかしいと思う自分はいる。いくら周りがそれを許してくれていても、ふとした時に香子は自分が嫌になったりするのだ。
 だから紅児の存在は貴重だと香子は思う。
 花嫁だからとか、相手が四神だからとか、そういうこの国での当り前を疑問に思ってくれる人がいることが、香子にとって救いにも繋がる。
 紅児は尋ねたことを申し訳なく思ったようだがそんなことはない。

『よかった、エリーザがまともで』

 紅児は首を傾げた。何故そんなことを言われたのかわからないようだった。

『いいのよ。エリーザはそのままでいて』

 おかしいと思えば話してほしいと香子は思う。
 その後香子は白虎に抱かれて白虎の室に連れて行かれた。

『何を話していたのだ?』
『んー、女子同士の話ですよ。ないしょです』
『そうか』

 白虎の口付けを受ける。追及されて話してもいいのだが、もろもろの葛藤などうまく伝わらないだろう。そのことでいらいらして当り散らしたりしたくはない。
 香子は白虎を抱きしめる。自分の機嫌をとるのもたいへんだと、香子はしみじみ思った。



ーーーー
「貴方色に染まる」57,58話辺りです。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/977111291/934161364
しおりを挟む
感想 94

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

処理中です...