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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました

133.まだまだ未熟なのです

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 午前中、香子は朱雀と共にそのまま自分の部屋で過ごした。紅夏が帰ってくるのを待っていたのだった。眷族は帰ってきてまず己の神に報告をするはずである。昨日の今日で紅夏がどんな顔をしているのか、香子は少しだけ楽しみだった。しかし紅夏が香子の期待に応えてくれるわけもなく、帰着の報告は簡潔に終ってしまった。香子の部屋に紅児がいるというのに一瞥もせず淡々と報告をした紅夏を、香子は少し憎たらしくも思った。

(いいがかりだってのはわかってるんだけどさぁ……なんかやっぱムカつく)

 紅児がうっとりしたように紅夏を見送っていたのも余計だった。そう間もおかず昼食の時間になる。朱雀が『また後でな』と言って部屋を辞した。この食事毎の着替えもどうにかしてほしいと香子は思っているが、着替え担当といえる侍女たちが嬉々として香子に着替えさせるので嫌とも言えなかった。何よりも延夕玲が見張っている。面倒だと思いながらも香子はされるがままになっていた。
 昼食もいつも通り豪華だった。料理があらかた並べられてから、香子は少し気になったことを四神に尋ねた。

『あの……花嫁は四神も眷属も同じように産むわけですよね。私は四神と眷属って全然違う存在だと思っているのですが、やはり同じ腹から生まれた場合は兄弟とか、家族のような感覚になるのでしょうか』

 うまく言えないことがもどかしい。ようは四神と眷属に家族のような情が存在するものなのかという問いである。
 白虎と青龍は考えるような顔をした。

『……そうだな。我にとって白雲は兄のようなものと言われればそうだ。しかしそのありようは異なるゆえ、白雲は我を立てるのだ』
『我にとっての青藍も似たようなものだ。正直、我はまだ青藍にいろいろ教わっている状態ゆえ、確かに兄のようではあるな』
『そうなのですね』

 香子は朱雀を見やる。

『……あまり眷属たちについて弟妹や子などと思うことはない。紅児にはわかりやすく伝えただけだ。大体紅夏は我の命令など聞かぬ』
『……そうですね』

 言われてみればそうだと香子も納得した。そうでなくても男親はあまり子の教育には関わらないだろう。それが神ならば尚更だった。
 午後、香子は白虎と過ごすことにした。まだ紅児のことが気になっていたので、白虎には自分の部屋にいたいと伝えた。
 思った通り、紅児はなんとも複雑そうな表情をして部屋で控えていた。

『エリーザ、どうかしたの? 紅夏に何か言われた?』
『い、いえ……』

 紅夏に何かを言われたというより何かを聞いたのだろう。紅児は頭の中で何か巡らせたらしい。青ざめた紅児の顔を心配してもう一度声をかけると、なんと紅児は平伏した。

『も、申し訳ありません……!!』

 そのまま地板ゆかに頭を打ちつけようとするのを白雲が止める。香子はほっとした。
 どうやら紅児は香子に対して失礼とも思われるようなことを考えていたらしい。このまま尋ねても埒が明かないので、香子は人払いすることにした。当然のことながら白虎も追い出す。その際、紅児との話が終ったら白虎の室に移動することを約束した。後で何をされるのかどきどきである。

『エリーザ、いらっしゃい』

 紅児を長椅子の隣に腰掛けさせ、お茶を淹れる。今日のお茶は龍井である。その緑茶特有の爽やかさを一口味わってから、香子は紅児に話しかけた。

『で、どうしたの? 私はエリーザじゃないんだから言ってくれないとわからないわ』
『……はい、そうですね……』

 紅児はその不安定さ故か、放っておくとどんどん思考が飛んでいってしまうのである。紅夏と話させることで正しい知識は入れられていると思うのだが、気持ち的なところをフォローするのは難しい。結局こうして話を聞き、内容を整理させるぐらいしかできないのだ。

『うまく言えないんですけど……もし、もしですよ……花嫁さまが朱雀さまに嫁がれたら、後妻になるわけでしょう? そういうのって嫌じゃないんですか? あ、あとその……最初は四神のどなたかと結婚されるとお聞きしましたが、最終的に花嫁さまは四神全員の花嫁になられるのですよね。決まっていることとはいえ、花嫁さまはどう思われているのかなって……』

 紅児はそこまで言うとうなだれた。それは失礼な質問をしたと、後悔しているようにも見えた。

(後妻かぁ……全然考えたことなかったなぁ……)

 先代の花嫁は朱雀にもその身を委ねた。それによって紅夏や、他の眷属たちも産まれた。それこそ数百年も前の話だからそれについて気にすることはない。
 紅児には後妻などと思ったことはないこと。そして自分は四神の花嫁という立場を納得していると香子は答えた。

『でも……みながそれを当り前と見てくれても、罪悪感は消えないわね。一応私にも倫理観ってものはあるし』

 香子にとっての倫理観という言葉で紅児も少しは納得してくれたようだった。香子は四神に抱かれるのが嫌ではない。白虎にはまだ待っていてほしいとは思っているが、抱かれること自体への後ろめたさは大分なくなってきた。それでもこの状態をおかしいと思う自分はいる。いくら周りがそれを許してくれていても、ふとした時に香子は自分が嫌になったりするのだ。
 だから紅児の存在は貴重だと香子は思う。
 花嫁だからとか、相手が四神だからとか、そういうこの国での当り前を疑問に思ってくれる人がいることが、香子にとって救いにも繋がる。
 紅児は尋ねたことを申し訳なく思ったようだがそんなことはない。

『よかった、エリーザがまともで』

 紅児は首を傾げた。何故そんなことを言われたのかわからないようだった。

『いいのよ。エリーザはそのままでいて』

 おかしいと思えば話してほしいと香子は思う。
 その後香子は白虎に抱かれて白虎の室に連れて行かれた。

『何を話していたのだ?』
『んー、女子同士の話ですよ。ないしょです』
『そうか』

 白虎の口付けを受ける。追及されて話してもいいのだが、もろもろの葛藤などうまく伝わらないだろう。そのことでいらいらして当り散らしたりしたくはない。
 香子は白虎を抱きしめる。自分の機嫌をとるのもたいへんだと、香子はしみじみ思った。



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「貴方色に染まる」57,58話辺りです。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/977111291/934161364
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