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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
136.どうしても考えずにはいられないのです
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その日の夜、お迎えを待っている間香子はぼうっとしていた。
春の大祭が終わり気が抜けたところで、香子はやっと自分がここにいる意味を思い出した。正直ずっと忘れていたかったがそんなわけにもいかないようである。
(まだ期限は先だけど……そろそろ決めておかないとダメじゃないかな)
四神はみな優しい。香子に触れていたいらしくすぐに手が出てくるが、ここだけの話香子は彼らに抱かれるのが嫌ではなかった。不意に夜の、激しくも甘い営みが思い出され、香子は頬を染めた。
(そうじゃない……そうじゃなくて)
身体で懐柔されたわけではないと、香子は必死で否定した。もはや誰に対して言い訳をしているのかもわからない状態である。
居間の方から話し声がした。玄武か朱雀が迎えにきたらしい。寝室の扉が開かれる。今夜迎えにきてくれたのは玄武だった。
『香子』
薄絹の睡衣は身体の線がしっかりとわかってしまう。玄武はいつも通り己の長袍を香子に着せ掛け、そのまま抱き上げようとした。
『玄武さま、あの……』
『如何した』
腕に手を添えると、玄武は抱き上げるのをやめ香子の隣に腰掛けた。こういうところが好きだと香子はしみじみ思う。
『すごくバカな質問かとは思うのですが……』
緑の澄んだ目に見つめられていると胸がどきどきしてくる。
『もし……もし私が玄武さま以外を選んだらどうされますか?』
玄武の瞳が一瞬動揺に揺れたように見えたが、すぐにそれは戻ってしまった。香子は自分でも何が聞きたいのかよくわからなかった。別段玄武を困らせたかったわけでもない。ただ、四神の中では最年長である玄武を選ばなければどうなってしまうのだろうと思っただけである。
『ふむ……我とは添い遂げることができないという解釈でよいのか』
玄武の低いバリトンが更に低くなる。まるで地を這うような声だった。香子は慌てて否定する。
『そうではなくて……私、まずはどなたに嫁ぐか決めなければいけないのですよね?』
『そうであったな』
玄武の目がすぐに優しく細められる。香子は玄武の腕を抱えた。
『玄武さまはもう千年も生きていらっしゃると伺っています。だから私は玄武さまに嫁ぐのが一番いいと思っています』
玄武は香子にされるがままになりながら黙って話を聞いていた。実のところこの話をするのは初めてではない。最初の頃もそうだし、ことあるごとに香子は呟いてきた。それが玄武にとってどれほど残酷な話なのかわかっていたが、可能性は0ではない為に口にせずにはいられなかった。
『でも、もし私が……』
『香子、そなたが他の神を選んでも我の気持ちは変わらぬ。そなたを想い、時にはそなたの元を訪ねてしまうこともあるだろう。その時は拒絶しないでほしい』
『拒絶なんて……』
するわけがない。こんなにも香子は玄武が好きなのに。
『ごめんなさい。玄武さま、ごめんなさい』
『何を謝る』
『だって私、玄武さまにひどいことを……』
胸が苦しくなって、目の奥が熱くなる。けれど泣いてはいけないと香子は思った。こんな、試すようなことを言う自分は絶対に泣いてはならない。
玄武は優しく笑むと、そんな香子を抱きしめた。
『玄武さま……』
『香子、愛している。この想いはそなたにのみ向かうもの。だからそなたが気にすることはない』
優しくて甘いバリトンに涙が溢れる。いつだって香子の気持ちは揺れていて、四神に申し訳ないという思いがある。正直何故自分なのかと天を仰ぐ時もある。
四神は花嫁を愛すものだ。それだけは変わらず、腕の中に閉じ込めて大切に守る。
一年で誰に嫁ぐか決めなければいけないのに、すでにその三分の一は過ぎているのだ。まだあと八ヶ月あると考えるか、もう残り八ヶ月しかないと考えるかはその時によって違う。
『香子、そなに難しく考えることはない。一年経っても決められぬというならば、我らの領地を順番に回っていけばいいのだ』
『回る……』
『例えば、一月毎に暮らす場所を変えてみればいい。もちろん季節毎でもかまわぬ。人の決めたことに従う必要はないのだ』
玄武の提案は心揺れるものだった。きっと四神も香子の苦悩を見かねて互いに話し合ってくれていたのかもしれなかった。
『それも、楽しそうです』
『我自身己の領地を見回るということがない。だがそなたと町へ下りればきっとよいところだと気づくこともあるだろう』
『もう、玄武さまも少しぐらいご自身の領地を見回るべきですよ……』
涙は止まり、香子は自分が単純だと思った。そして玄武と共に玄武の領地を歩くことを夢想する。それは本当に楽しそうだった。
『玄武さま、連れていってください』
今度こそ抱き上げられて玄武の室へ移動する。まだ答えは出せそうもないが、今はこの腕の中にいたいと香子は思った。
春の大祭が終わり気が抜けたところで、香子はやっと自分がここにいる意味を思い出した。正直ずっと忘れていたかったがそんなわけにもいかないようである。
(まだ期限は先だけど……そろそろ決めておかないとダメじゃないかな)
四神はみな優しい。香子に触れていたいらしくすぐに手が出てくるが、ここだけの話香子は彼らに抱かれるのが嫌ではなかった。不意に夜の、激しくも甘い営みが思い出され、香子は頬を染めた。
(そうじゃない……そうじゃなくて)
身体で懐柔されたわけではないと、香子は必死で否定した。もはや誰に対して言い訳をしているのかもわからない状態である。
居間の方から話し声がした。玄武か朱雀が迎えにきたらしい。寝室の扉が開かれる。今夜迎えにきてくれたのは玄武だった。
『香子』
薄絹の睡衣は身体の線がしっかりとわかってしまう。玄武はいつも通り己の長袍を香子に着せ掛け、そのまま抱き上げようとした。
『玄武さま、あの……』
『如何した』
腕に手を添えると、玄武は抱き上げるのをやめ香子の隣に腰掛けた。こういうところが好きだと香子はしみじみ思う。
『すごくバカな質問かとは思うのですが……』
緑の澄んだ目に見つめられていると胸がどきどきしてくる。
『もし……もし私が玄武さま以外を選んだらどうされますか?』
玄武の瞳が一瞬動揺に揺れたように見えたが、すぐにそれは戻ってしまった。香子は自分でも何が聞きたいのかよくわからなかった。別段玄武を困らせたかったわけでもない。ただ、四神の中では最年長である玄武を選ばなければどうなってしまうのだろうと思っただけである。
『ふむ……我とは添い遂げることができないという解釈でよいのか』
玄武の低いバリトンが更に低くなる。まるで地を這うような声だった。香子は慌てて否定する。
『そうではなくて……私、まずはどなたに嫁ぐか決めなければいけないのですよね?』
『そうであったな』
玄武の目がすぐに優しく細められる。香子は玄武の腕を抱えた。
『玄武さまはもう千年も生きていらっしゃると伺っています。だから私は玄武さまに嫁ぐのが一番いいと思っています』
玄武は香子にされるがままになりながら黙って話を聞いていた。実のところこの話をするのは初めてではない。最初の頃もそうだし、ことあるごとに香子は呟いてきた。それが玄武にとってどれほど残酷な話なのかわかっていたが、可能性は0ではない為に口にせずにはいられなかった。
『でも、もし私が……』
『香子、そなたが他の神を選んでも我の気持ちは変わらぬ。そなたを想い、時にはそなたの元を訪ねてしまうこともあるだろう。その時は拒絶しないでほしい』
『拒絶なんて……』
するわけがない。こんなにも香子は玄武が好きなのに。
『ごめんなさい。玄武さま、ごめんなさい』
『何を謝る』
『だって私、玄武さまにひどいことを……』
胸が苦しくなって、目の奥が熱くなる。けれど泣いてはいけないと香子は思った。こんな、試すようなことを言う自分は絶対に泣いてはならない。
玄武は優しく笑むと、そんな香子を抱きしめた。
『玄武さま……』
『香子、愛している。この想いはそなたにのみ向かうもの。だからそなたが気にすることはない』
優しくて甘いバリトンに涙が溢れる。いつだって香子の気持ちは揺れていて、四神に申し訳ないという思いがある。正直何故自分なのかと天を仰ぐ時もある。
四神は花嫁を愛すものだ。それだけは変わらず、腕の中に閉じ込めて大切に守る。
一年で誰に嫁ぐか決めなければいけないのに、すでにその三分の一は過ぎているのだ。まだあと八ヶ月あると考えるか、もう残り八ヶ月しかないと考えるかはその時によって違う。
『香子、そなに難しく考えることはない。一年経っても決められぬというならば、我らの領地を順番に回っていけばいいのだ』
『回る……』
『例えば、一月毎に暮らす場所を変えてみればいい。もちろん季節毎でもかまわぬ。人の決めたことに従う必要はないのだ』
玄武の提案は心揺れるものだった。きっと四神も香子の苦悩を見かねて互いに話し合ってくれていたのかもしれなかった。
『それも、楽しそうです』
『我自身己の領地を見回るということがない。だがそなたと町へ下りればきっとよいところだと気づくこともあるだろう』
『もう、玄武さまも少しぐらいご自身の領地を見回るべきですよ……』
涙は止まり、香子は自分が単純だと思った。そして玄武と共に玄武の領地を歩くことを夢想する。それは本当に楽しそうだった。
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