異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました

141.それはあまりにも想定外でした(延夕玲視点)

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(何、これ……)

 その姿を見て、人ではないのだと認識した。
 人の形をしていたからとか、その本性を見たことがないからとかいい訳にならないことはわかっている。けれど、それまで妾は四神がどういう存在なのか正しく理解していなかったのだ。


 *  *

 
 天壇の、祈念殿の手前にある空間で黒月にぎりぎりまで端に寄るように言われ、延夕玲はよくわからぬままその通りにした。
 その途端、朱雀と青龍の輪郭がぼやけて変化する。
 夕玲は絶句した。
 それをきっと誰も見たことがないだろう。祈念殿の上空へと一気に昇った朱雀と青龍は本性を現し、その巨躯をゆうらりと動かした。

「……そん、な……」

 花嫁の姿を探したが見当たらない。慌てて見上げると、朱雀の背に誰かが乗っているようにも見える。夕玲はその場にへなへなと座り込みそうになった。けれどどこから現れたのか、後ろから逞しい腕に支えられる。

夕玲シーリン、大事ないか」

 青藍だった。

「これは、いったい……」

 天壇の上空をぐるうりぐるうりと回っている朱雀と青龍から目が離せない。

「祭祀の為に本性を現されたのだ。神は本当に美しい」

 青藍の言葉が場違いに響く。確かに陽光にきらめく朱雀と青龍は圧巻だ。美しいなどとそんな単純な言葉で表せる存在ではないと夕玲は思った。
 朱雀と青龍はそのまましばし回っていたが、いきなり北の方角へと向かいはじめた。

「!? 花嫁さまっ!?」

 あの背には花嫁が乗っていると夕玲は確信していた。その花嫁を連れて神々はどこへ向かおうというのだろう。追いかけようと足を動かそうとしたが、青藍の腕に捕らわれたままでは身じろぐことぐらいしかできない。

「はなっ、放してっ!」
「どこへ行く?」
「花嫁さまがっ、連れて行かれて……」
「大丈夫だ。問題ない。すぐに戻ってこられるだろう」
「何を根拠にっ……!」

 朱雀と青龍のありえないほどに大きい姿がどんどん遠くなっていく。四神が香子をどこへ連れて行こうとしているのか夕玲にはわからなかった。冷汗が噴出し、返せ戻せと心が叫ぶ。花嫁が四神の花嫁であることを彼女は知っているが、こんなに早く攫わせていいはずがないと思ったのだ。

「夕玲、落ち着くがいい」
「何を言って……」
「朱雀さまは花嫁さまに上空からの景色を見せて差し上げたかったのだろう。天に祈りを捧げて後、速やかに帰還されるはずだ」

 夕玲はやっと青藍に顔を向けた。

「っ……本当に……?」

 その縋るような表情に青藍は頷く。

「この後も予定があるのだろう。落ち着きなさい」

 夕玲ははーっと大きく息をついた。青藍の言うことが本当なら、そう時間を置かずとも花嫁が下りてくるはずである。こんな、ひどく取り乱して動揺した姿を見せるわけにはいかなかった。青藍は軽く夕玲の髪に口付けると、呆れた顔をしている黒月の隣に彼女を立たせた。
 改めて上空を見上げれば、いつのまにか二神が戻ってきていた。彼らはぐうるりぐうるりと天壇のはるか上を回り、さすがにみな首が痛いと思いはじめた頃に下りてきた。朱雀の背には果たして花嫁が乗っており、夕玲はこれ以上なく安堵したのだった。
 夕玲の動揺っぷりはその場にいる者たちに見られていたが、誰もその姿を揶揄したりはしなかった。むしろ神官たちの夕玲を見る眼差しは同情に近い。そして誰もそのことを花嫁には伝えなかった。それは夕玲にとって助かることではあったが、おかげで自分の未熟さが露呈したようで彼女自身いたたまれなかった。
 それにしても、二神の本性を知っても花嫁の態度が全く変わらないことが夕玲には不思議でならなかった。
 春の大祭として、四神と花嫁が祭祀を行った後というのは蛇足である。翌日以降も王城では宴席が続くが、四神宮は通常に戻る。
 大きな催しは終ったと、その夜夕玲はそっと嘆息した。その近くに、いつのまにか青藍の姿がある。

「……今日は情けない姿をお見せしてしまい、申し訳ありませんでした」

 思い出すだに夕玲の頬が熱くなる。青藍は流れるような所作で夕玲の前に立ち、その手を取った。

「そなたが花嫁さまをそこまで思う心に感嘆した」

 そしてその手にそっと口付ける。

「ああ、本当に待ち遠しい」

 夕玲は己の頬が真っ赤に染まっているだろうと思った。ここで何が待ち遠しいかなどと尋ねてはいけないことぐらい夕玲でもわかる。

「わ、わたくしは花嫁さまの女官ですから……」
「そうだな」

 青藍は顔を上げ、夕玲に優しい眼差しを向ける。

「全く、花嫁さまが羨ましいものだ」

 苦笑したように言う青藍に夕玲は胸がどくん、と疼くのを感じた。
 そのまま腰を抱かれ、

「部屋まで送ろう」

 促される。
 何故こんなに胸がどきどきするのか、夕玲にはまだわからなかった。
 否ーわかりたくなかった。
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