296 / 653
第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
142.異世界チート無双を夢見てました
しおりを挟む
夏といえばアイスとかかき氷ではないかと香子は思う。
(アイスクリームの作り方は知らないんだよね。牛乳を使うんだっけ? ジュースみたいなのは型に注いで凍らせれば……凍石の側に置いたら凍るかしら?)
ああでもないこうでもないと考えてから、香子ははっとした。
大陸の水は基本硬水である。ミネラル分を多く含んでいる為、日本の蛇口から出てくる水のようにそのまま飲めるものではない。一度火を入れて沸騰させてから飲む。こちらでは水をそのまま飲むこと自体がまれである。ちなみに日本の水は軟水である。
『一度沸騰させて、冷ましてから凍らす? 王城には砂糖もあるけどそんなに使っていいものなのかなー?』
『……何の話か』
今日は白虎の室で香子は過ごしていた。四神宮の中は夏でも快適な気温が保たれているが、四神宮を一歩出ると夏の空気に変わるらしい。四神宮で働いている侍女や武官たちは実家から涼石を持ってきているのでそれほど暑さを感じないようだが厨師や下男下女は違う。下男下女についてはもう仕方がないが、厨師たちには香子が涼石をを手配するよう主官である趙文英に言いつけたので、彼らも持てるようになった。なかなかに快適だと声が上がっていて香子も嬉しく思った。ちなみに下男下女については与えては絶対にダメだと反対された。彼らの給金で買う分にはいいが、ただ与えると売ってしまう可能性がある。四神宮から支給されたものを売ったことがバレれば彼らは重い罪に問われるのだとみなに諭され、香子はさすがに断念した。そうでなくても四神宮の下男下女たちは残り湯とはいえ入浴が義務付けられている。それだけでも破格の扱いなのだと趙や王、侍女たちにも香子は言われた。
光石とは違い、温度を上げたり下げたりできる石は高価なものである。それをただ支給してしまうと勘違いする輩も出てくるということなのだろう。誰かが罪に問われることになるなど論外である。その件について、香子はもう考えるのはやめた。
アイスだかかき氷だかの話である。
白虎を椅子にしたままの体勢でも、香子は最近いろいろ考えることができるようになっていた。
『食べる氷ができないかなーと思いまして』
『食べる氷だと?』
白虎は眉をピクリと動かした。
『申してみよ』
『ええと、沸騰したお湯に砂糖を溶かして、冷ましてまず凍らせることは可能かなーって』
いわゆる氷菓というものだ。それからそれをかき氷にしたいと香子は思っているのだがかき氷を作る機械がない。
『それならば例の凍石とかいうものを使えばできるのではないか?』
『その固まった氷を削ってふわふわの氷を作りたいんですよ。厨房に行っちゃダメですか?』
『? しばし待て』
香子が何を言っているのか白虎にはよくわからないようだったが、ここにいない三神に聞いてくれることにしたらしい。四神間の念話というのは便利だなと香子は改めて思う。白虎は香子をぎゅうっと抱きしめ、三神と話をしているようだった。香子はその腕をお返しにとぎゅっと抱きしめる。太くて筋肉質の男性の腕はとても美しいと香子は内心うっとりしていた。マッチョが好きなわけではないが逞しい人が香子は好きだった。
『……我ではうまく伝えられぬ。こちらに来るそうだ』
『えー……』
氷菓子が食べたいけど自分では作れないから厨師に頼んで作ってほしいというだけなのだが、なんだか大事になってしまったようだった。
ほどなくして白虎の室に四神が集まった。
(相変わらずせーまーいー。圧迫感ハンパないー)
『直接そなたと話した方が早いと思ってきたのだが』
玄武が口元に笑みを浮かべて口火を切った。確かに直接話した方が変な誤解は生まないだろう。香子はそっと嘆息した。
『氷菓子を食べたいと思ったんです。でも自分では作れないから厨師に頼もうと思って……』
『ならばここに厨師を呼べばいいではないか』
青龍が言った。
『いえ、厨房にどういう調理器具があるかわからないので、それらを見せてもらいながら試行錯誤してもらおうと思ったんですよ』
『……一理あるな』
朱雀がほんの少しだけ目を細め、そう言った。そこへ香子は畳み掛ける。
『でしょう? 私自身どう作ったらいいかわからないので口頭で伝えるだけでは不十分かと思うんです!』
『そうだな。なれば我が着いていくことにしよう』
朱雀が申し出た。
『お言葉ですが朱雀さま、主官に先に言っておく必要があります』
白雲の言葉にみな、さもありなんと頷いた。
さすがにその日じゅう、というのは無理だったが、翌日香子は四神宮の厨房に足を踏み入れた。朱雀に抱かれてとはいえ初めて入った厨房は思ったよりキレイだなという印象を受けた。
それからお湯に砂糖を溶かしたものを凍らせ、それをどうにか削って氷菓にしたいのだと厨師たちに話した。
彼らも最初はイメージが湧かないようだったが、香子が絵を描いたりして説明すると『啊,刨冰!(あ、かき氷)』とわかってくれたようだった。
木の箱で氷を作り、それを包丁で削って出してくれたかき氷はシンプルでおいしかった。
『おいしい~! 本当にありがとうございます!』
かき氷の機械で作ることしか考えられなかった香子としては、包丁で削るというのは目から鱗だった。香子は浅学を恥じ、やっぱり異世界で自分の知識だけでどうにかできることはないのだなとこっそり肩を落とした。
厨師たちは香子が手放しで喜んでくれたことでますますやる気が出たらしい。それからしばらくはかき氷ブームが訪れ、四神と香子だけでなく侍女たちも幸せそうな顔で食べることができたという。
ーーーー
念話については第一部103話参照のこと。凍石については第二部120話を参照してください。
(アイスクリームの作り方は知らないんだよね。牛乳を使うんだっけ? ジュースみたいなのは型に注いで凍らせれば……凍石の側に置いたら凍るかしら?)
ああでもないこうでもないと考えてから、香子ははっとした。
大陸の水は基本硬水である。ミネラル分を多く含んでいる為、日本の蛇口から出てくる水のようにそのまま飲めるものではない。一度火を入れて沸騰させてから飲む。こちらでは水をそのまま飲むこと自体がまれである。ちなみに日本の水は軟水である。
『一度沸騰させて、冷ましてから凍らす? 王城には砂糖もあるけどそんなに使っていいものなのかなー?』
『……何の話か』
今日は白虎の室で香子は過ごしていた。四神宮の中は夏でも快適な気温が保たれているが、四神宮を一歩出ると夏の空気に変わるらしい。四神宮で働いている侍女や武官たちは実家から涼石を持ってきているのでそれほど暑さを感じないようだが厨師や下男下女は違う。下男下女についてはもう仕方がないが、厨師たちには香子が涼石をを手配するよう主官である趙文英に言いつけたので、彼らも持てるようになった。なかなかに快適だと声が上がっていて香子も嬉しく思った。ちなみに下男下女については与えては絶対にダメだと反対された。彼らの給金で買う分にはいいが、ただ与えると売ってしまう可能性がある。四神宮から支給されたものを売ったことがバレれば彼らは重い罪に問われるのだとみなに諭され、香子はさすがに断念した。そうでなくても四神宮の下男下女たちは残り湯とはいえ入浴が義務付けられている。それだけでも破格の扱いなのだと趙や王、侍女たちにも香子は言われた。
光石とは違い、温度を上げたり下げたりできる石は高価なものである。それをただ支給してしまうと勘違いする輩も出てくるということなのだろう。誰かが罪に問われることになるなど論外である。その件について、香子はもう考えるのはやめた。
アイスだかかき氷だかの話である。
白虎を椅子にしたままの体勢でも、香子は最近いろいろ考えることができるようになっていた。
『食べる氷ができないかなーと思いまして』
『食べる氷だと?』
白虎は眉をピクリと動かした。
『申してみよ』
『ええと、沸騰したお湯に砂糖を溶かして、冷ましてまず凍らせることは可能かなーって』
いわゆる氷菓というものだ。それからそれをかき氷にしたいと香子は思っているのだがかき氷を作る機械がない。
『それならば例の凍石とかいうものを使えばできるのではないか?』
『その固まった氷を削ってふわふわの氷を作りたいんですよ。厨房に行っちゃダメですか?』
『? しばし待て』
香子が何を言っているのか白虎にはよくわからないようだったが、ここにいない三神に聞いてくれることにしたらしい。四神間の念話というのは便利だなと香子は改めて思う。白虎は香子をぎゅうっと抱きしめ、三神と話をしているようだった。香子はその腕をお返しにとぎゅっと抱きしめる。太くて筋肉質の男性の腕はとても美しいと香子は内心うっとりしていた。マッチョが好きなわけではないが逞しい人が香子は好きだった。
『……我ではうまく伝えられぬ。こちらに来るそうだ』
『えー……』
氷菓子が食べたいけど自分では作れないから厨師に頼んで作ってほしいというだけなのだが、なんだか大事になってしまったようだった。
ほどなくして白虎の室に四神が集まった。
(相変わらずせーまーいー。圧迫感ハンパないー)
『直接そなたと話した方が早いと思ってきたのだが』
玄武が口元に笑みを浮かべて口火を切った。確かに直接話した方が変な誤解は生まないだろう。香子はそっと嘆息した。
『氷菓子を食べたいと思ったんです。でも自分では作れないから厨師に頼もうと思って……』
『ならばここに厨師を呼べばいいではないか』
青龍が言った。
『いえ、厨房にどういう調理器具があるかわからないので、それらを見せてもらいながら試行錯誤してもらおうと思ったんですよ』
『……一理あるな』
朱雀がほんの少しだけ目を細め、そう言った。そこへ香子は畳み掛ける。
『でしょう? 私自身どう作ったらいいかわからないので口頭で伝えるだけでは不十分かと思うんです!』
『そうだな。なれば我が着いていくことにしよう』
朱雀が申し出た。
『お言葉ですが朱雀さま、主官に先に言っておく必要があります』
白雲の言葉にみな、さもありなんと頷いた。
さすがにその日じゅう、というのは無理だったが、翌日香子は四神宮の厨房に足を踏み入れた。朱雀に抱かれてとはいえ初めて入った厨房は思ったよりキレイだなという印象を受けた。
それからお湯に砂糖を溶かしたものを凍らせ、それをどうにか削って氷菓にしたいのだと厨師たちに話した。
彼らも最初はイメージが湧かないようだったが、香子が絵を描いたりして説明すると『啊,刨冰!(あ、かき氷)』とわかってくれたようだった。
木の箱で氷を作り、それを包丁で削って出してくれたかき氷はシンプルでおいしかった。
『おいしい~! 本当にありがとうございます!』
かき氷の機械で作ることしか考えられなかった香子としては、包丁で削るというのは目から鱗だった。香子は浅学を恥じ、やっぱり異世界で自分の知識だけでどうにかできることはないのだなとこっそり肩を落とした。
厨師たちは香子が手放しで喜んでくれたことでますますやる気が出たらしい。それからしばらくはかき氷ブームが訪れ、四神と香子だけでなく侍女たちも幸せそうな顔で食べることができたという。
ーーーー
念話については第一部103話参照のこと。凍石については第二部120話を参照してください。
4
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です
氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。
英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる