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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
149.嫉妬、そして独占欲(陳秀美視点)
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ただ流されている。求められ、その腕に囚われたらもう逃げられはしないから。
白銀の髪と金の瞳を持つ、その方の逞しい身体に抱き寄せられたらもう何も考えられない。
それでいいのだと、思っていたけれど。
陳秀美は四神宮で侍女頭を務めている。四神も花嫁もあまり外出はしないし、来客についても基本は主官である趙文英が対応しているので、これまで女官が必要だとはそれほど思ったことがなかった。ただ、皇后と昭正公主が来た時は困ってしまった。
女官というのは基本的に身分の高い家の女性がなるものである。皇后と昭正公主には当然女官が付き従っている。対する四神の花嫁に女官がいないというのは示しがつかない。だからといってただの侍女頭である陳が意見をするわけにもいかず、次にこのようなことがあった場合どうしたらいいのかと途方に暮れていた。
「女官というのはそれほど重要なものなのか?」
王城の事情を知らない白雲ではあてにならなかった。知ったかぶりをしないのは美徳だが、つてもない為困るだけである。王城に勤めるとなるとその素性も調べられるし、四神宮に勤めるには更に厳しい審査がある。そう簡単に女官を頼めるはずもなかった。
そうしているうちに西の地から皇太后が王城を訪れ、花嫁に女官をと延夕玲という女性を四神宮に派遣してきた。
延夕玲は透き通るような肌をした、とても綺麗な少女だった。声も鈴を転がすような美声で、陳はほっとした。
けれど延が来てから、どうしてか強い視線を感じるようになった。ある時また視線を感じてそちらを見ると、延がいた。彼女はとてもきつい視線を陳に向けていたが、すぐに取り繕った。だがその一瞬だけで視線の主がわかってしまった。
(どうして延さんは私を……?)
その理由はすぐに知れた。花嫁の要請もあって延を観察していたら、彼女の視線が誰を追っているのか気づいてしまった。
最初は白虎を見ているのかと思った。けれどそうではなく、延の瞳は白虎をそれてその傍らにいる白雲を見ていた。陳は思わず胸を押さえた。
延は白雲と陳の関係に気づいていた。だからあのように陳を睨んでいたのだ。
(でも……)
陳は動揺した。それまで陳はただ白雲に流されているだけだった。一度は結婚したが夫に死なれ、子を成さなかった為にすぐに帰された。運よく四神宮に勤めることができ、侍女頭にもなった陳はもう二十一歳になっていた。普通なら行き遅れと言われる年齢だから、相手など現れないと思っていたのに。
「そなたは我の”つがい”だ」
白雲に断言されて心が震えた。そう言われる前に、久々に抱かれた身体は熱く火照った。あんなに優しく、それでいて情熱的に抱かれたのは初めてで、思い出すだけで赤くなってしまう。
妻になれ、と言われた。”つがい”だと言われた。白雲と同じ室で過ごすよう言われた。
正直戯れでもかまわなかった。四神宮にいる間だけの関係でも、それは夢のような時間であったから。
だけど、白雲のことを他の女性がそんな風に見るのは嫌だと思った。
(なんと私は欲深い……)
白雲がここにいる間だけでもいいと思ったではないか。なのに自分より若く、身分の高い家柄の美しい娘が白雲に懸想しているのは耐えがたかった。
「秀美、如何した?」
そんな陳の微妙な心情は、通りがかった白雲にすぐ気づかれた。
「なんでも……」
「かようなことを言うのはこの口か」
許さぬとばかりに抱き込まれ、口唇を吸われた。
「白状せぬのなら我にも考えがあるぞ」
「……お許しを……夜には話しますから」
まだ仕事中なのに四神宮から連れ出されそうになり、陳は真っ赤になって白雲を止めた。
「その言葉、相違ないな?」
「はい」
陳が白雲に隠し事などできるはずがなかったのだ。その夜、甘く抱かれながら陳は白状させられた。その嫉妬心までも。
醜いとまで感じる想いを、けれど白雲は嬉しそうに味わった。
「そなたが我をそこまで好いてくれるのが嬉しい。そなたは我の”つがい”。小娘などに惑わされる必要はない。我だけを見よ」
「……本当に……?」
「我らは”つがい”以外いらぬ」
心変わりはありえないという真摯な金の瞳に、陳の心が震えた。もうすぐにでも貴方の妻になると言ってしまいたかった。だがそれはまだかなわぬことで。
「はよう……花嫁様が相手を決めてくれぬかと願ってしまう。そなたを攫ってしまいたい……」
四神の眷属は素直で、”つがい”を溺愛する。溢れんばかりの愛に溺れてしまいそうだと陳は思った。
当然のことながらその独占欲もすさまじく、実家に一度帰ってくるよう呼ばれた時は着いていくと言い出したぐらいである。いきなり白雲を連れて行ったらたいへんなことになる。そうでなくても呼ばれたということは、両親が見合いなどを準備している可能性が高いので断固拒否した。陳が見合いするなどと聞かされたら白雲は暴れそうである。
そうでなくても、陳も白雲を他の誰かの目に触れさせたくはなかった。
やっと流されるだけでなく気持ちが伴ってきたことを、陳は素直に嬉しく思った。
(白雲様は誰にも渡さないわ)
それはただの独占欲かもしれなかったが、そう思った時の陳は確かに女の顔をしていた。
ーーーーー
陳と白雲のやりとりについては、第一部109、121話、第二部88話を参照のこと。
白銀の髪と金の瞳を持つ、その方の逞しい身体に抱き寄せられたらもう何も考えられない。
それでいいのだと、思っていたけれど。
陳秀美は四神宮で侍女頭を務めている。四神も花嫁もあまり外出はしないし、来客についても基本は主官である趙文英が対応しているので、これまで女官が必要だとはそれほど思ったことがなかった。ただ、皇后と昭正公主が来た時は困ってしまった。
女官というのは基本的に身分の高い家の女性がなるものである。皇后と昭正公主には当然女官が付き従っている。対する四神の花嫁に女官がいないというのは示しがつかない。だからといってただの侍女頭である陳が意見をするわけにもいかず、次にこのようなことがあった場合どうしたらいいのかと途方に暮れていた。
「女官というのはそれほど重要なものなのか?」
王城の事情を知らない白雲ではあてにならなかった。知ったかぶりをしないのは美徳だが、つてもない為困るだけである。王城に勤めるとなるとその素性も調べられるし、四神宮に勤めるには更に厳しい審査がある。そう簡単に女官を頼めるはずもなかった。
そうしているうちに西の地から皇太后が王城を訪れ、花嫁に女官をと延夕玲という女性を四神宮に派遣してきた。
延夕玲は透き通るような肌をした、とても綺麗な少女だった。声も鈴を転がすような美声で、陳はほっとした。
けれど延が来てから、どうしてか強い視線を感じるようになった。ある時また視線を感じてそちらを見ると、延がいた。彼女はとてもきつい視線を陳に向けていたが、すぐに取り繕った。だがその一瞬だけで視線の主がわかってしまった。
(どうして延さんは私を……?)
その理由はすぐに知れた。花嫁の要請もあって延を観察していたら、彼女の視線が誰を追っているのか気づいてしまった。
最初は白虎を見ているのかと思った。けれどそうではなく、延の瞳は白虎をそれてその傍らにいる白雲を見ていた。陳は思わず胸を押さえた。
延は白雲と陳の関係に気づいていた。だからあのように陳を睨んでいたのだ。
(でも……)
陳は動揺した。それまで陳はただ白雲に流されているだけだった。一度は結婚したが夫に死なれ、子を成さなかった為にすぐに帰された。運よく四神宮に勤めることができ、侍女頭にもなった陳はもう二十一歳になっていた。普通なら行き遅れと言われる年齢だから、相手など現れないと思っていたのに。
「そなたは我の”つがい”だ」
白雲に断言されて心が震えた。そう言われる前に、久々に抱かれた身体は熱く火照った。あんなに優しく、それでいて情熱的に抱かれたのは初めてで、思い出すだけで赤くなってしまう。
妻になれ、と言われた。”つがい”だと言われた。白雲と同じ室で過ごすよう言われた。
正直戯れでもかまわなかった。四神宮にいる間だけの関係でも、それは夢のような時間であったから。
だけど、白雲のことを他の女性がそんな風に見るのは嫌だと思った。
(なんと私は欲深い……)
白雲がここにいる間だけでもいいと思ったではないか。なのに自分より若く、身分の高い家柄の美しい娘が白雲に懸想しているのは耐えがたかった。
「秀美、如何した?」
そんな陳の微妙な心情は、通りがかった白雲にすぐ気づかれた。
「なんでも……」
「かようなことを言うのはこの口か」
許さぬとばかりに抱き込まれ、口唇を吸われた。
「白状せぬのなら我にも考えがあるぞ」
「……お許しを……夜には話しますから」
まだ仕事中なのに四神宮から連れ出されそうになり、陳は真っ赤になって白雲を止めた。
「その言葉、相違ないな?」
「はい」
陳が白雲に隠し事などできるはずがなかったのだ。その夜、甘く抱かれながら陳は白状させられた。その嫉妬心までも。
醜いとまで感じる想いを、けれど白雲は嬉しそうに味わった。
「そなたが我をそこまで好いてくれるのが嬉しい。そなたは我の”つがい”。小娘などに惑わされる必要はない。我だけを見よ」
「……本当に……?」
「我らは”つがい”以外いらぬ」
心変わりはありえないという真摯な金の瞳に、陳の心が震えた。もうすぐにでも貴方の妻になると言ってしまいたかった。だがそれはまだかなわぬことで。
「はよう……花嫁様が相手を決めてくれぬかと願ってしまう。そなたを攫ってしまいたい……」
四神の眷属は素直で、”つがい”を溺愛する。溢れんばかりの愛に溺れてしまいそうだと陳は思った。
当然のことながらその独占欲もすさまじく、実家に一度帰ってくるよう呼ばれた時は着いていくと言い出したぐらいである。いきなり白雲を連れて行ったらたいへんなことになる。そうでなくても呼ばれたということは、両親が見合いなどを準備している可能性が高いので断固拒否した。陳が見合いするなどと聞かされたら白雲は暴れそうである。
そうでなくても、陳も白雲を他の誰かの目に触れさせたくはなかった。
やっと流されるだけでなく気持ちが伴ってきたことを、陳は素直に嬉しく思った。
(白雲様は誰にも渡さないわ)
それはただの独占欲かもしれなかったが、そう思った時の陳は確かに女の顔をしていた。
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陳と白雲のやりとりについては、第一部109、121話、第二部88話を参照のこと。
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