304 / 653
第3部 周りと仲良くしろと言われました
1.夏もそろそろ終わりそうです
しおりを挟む
日が短くなってきていた。
陽射しはまだ夏のように感じられるのに、そろそろ終わるなともまた思い始める頃である。
四神宮の中はいつだって庭も含めて快適な気候だ。
ふと、香子は部屋付の侍女に尋ねてみた。
『四神が来る前も四神宮ってこんなに快適だった?』
『いえ……そうですね、四神がいらっしゃらない時は外と気温などはあまり変わらなかったと思います』
『へー。じゃあ、四神が新年でこちらに来てた時はどうなのかしら?』
侍女は少し考えるような顔をした。
『……今年は、確か……』
そしてはっとしたような表情をする。
『確かに、三日間特に寒さは感じなかったと思います! 冬は暖石を持っていても足先が冷たいのですが、四神がいらした時だけは違ったかと……』
紅児が目を丸くした。部屋付の侍女―林雪紅がこのように興奮したところを紅児は見たことがなかったようである。延夕玲の眉がぴくりと動く。今は何も言わないが、林は後で注意されるかもしれない。香子は苦笑した。
『そういえばみんな夏は涼石とか持っているのよね。それってどのぐらい効果があるの?』
香子は常に四神と共にあるので快適な気候の中で暮らしている。故に石による恩恵がどれぐらいあるのかわからなかった。おそらくはこの先もそれらの石の恩恵を受けることはないのだろう。(物を温めたり冷やしたりするものは別である)
『なんと説明したらよいのでしょうか……』
林は夕玲と紅児を見やった。香子も期待するように夕玲に視線を向ける。夕玲は少し居心地悪そうに目を伏せた。
『恐れながら申し上げます。涼石はこちら、四神宮ほどの快適さは望めません。ただ大きさなどにより効果の範囲は変わりますので、小さい石ですと多少過ごしやすくなる程度。大きいものですと、常に心地よく感じられるかと思います』
『そうなのね。ありがとう』
『恐れ入ります』
たまに取り乱すこともあるが、夕玲は女官らしくを意識しているせいか言葉遣いも丁寧である。紅児がぽーっと憧れの視線を向けているほどだ。香子もある程度の言い回しはできるが所詮は庶民である。
(これが生まれた時から上流階級にいる人との違いかぁ)
香子はしみじみと感心していた。腰を軽く落とす礼をし、スッと一歩下がる動きも美しい。香子は自分の足で四神宮を出ることはできないので、例え学んだとしても披露する場はやってこないだろうが、立ち居振る舞いも習った方がいいのかなとここにきて思い始めた。
(でも、これ以上先生を増やすのはよくないよねー……)
先生が女性ならばいいのだが、王城ではどうなのだろう。香子は首を傾げた。
そんな話をしていると青龍がやってきた。昼食後の食休みのひとときが終わったことを理解する。四神宮の侍女たちは、それはもう香子の衣装替えに命を懸けているらしく食事毎に着替えをさせるのだ。逆らおうものならこの世の終わりのような顔をされるので香子も強くは出られない。一応妥協して、着替えは朝、昼、夕方の三回にしてもらった。ただこれは皇太后に呼ばれるとか、表に出ることがある際は更に着替えの回数が増える。本当に面倒である。
(後宮の女性もこんな苦労してるのかー。皇帝の相手をする以外はヒマだろうなんて思ってごめんなさいー)
香子はこっそり後宮の方向に謝る。実際のところ、そんなに着替えをするのは皇后や一部皇帝の寵愛を受けている者だけであることを香子は知らない。
食後の着替えについては免除されているので、長椅子でまったりしていた香子はそのまま青龍に抱き上げられた。もう抱き上げられるのも慣れたものである。
『青龍様、今日は庭でお茶がしたいです』
『まだ陽射しが強いのではないのか?』
『少しは夏を感じないと身体がおかしくなってしまいますから』
『そうか。用意せよ』
香子が庭で、と言った時すでに夕玲は動き出している。もっと早く言っておけばよかったなと、香子は悪いことをしたと反省した。
『花嫁様、どちらになさいますか』
『入口の方がいいわ』
『かしこまりました』
庭、と言ってもそれほど広くはないし、スペースも限られている。四神宮の入口の方か、東側の少し広い方があるぐらいだ。(一応四神宮を囲うようにして四方にあるのだが椅子と卓があるのは南側と東側のみである)厨房や侍女たちにも面倒をかけてしまうが、ずっと室内にいるというのも息がつまる。快適な箱庭の中とはいえ、外気を感じるのは必要だった。
青龍は香子を抱き上げたまま廊下に出る。それだけで外気に当たることも間違いないがそういうことではない。
『香子、太陽を見てはならぬ』
『はい』
直接見ると目がつぶれてしまう。昼の光ではまだ夏の終わりを感じることはできなかった。
春の最初の頃にここに召喚されて、もう夏も終盤である。
『もう、半年近くも経つんですね……』
『そうだな。あと半年か』
どうしても一年で決めなければいけないのだろうか。こうして過ぎてみると、毎日が濃厚ではあったが「もう過ぎてしまった」と香子は思う。
『ねぇ、青龍様』
『なんだ』
『一年で決められなかったら滞在を延長してもいいんですかね?』
そんな予算はないと怒られるだろうか。
『ふむ……そなたが望むならそれもいいかもしれぬな』
青龍は楽しそうに笑った。
ーーーーー
小説家になろうのムーンライトに加筆修正しながら転載を始めています。
R18版になります。よろしければご覧くださいませー。
https://novel18.syosetu.com/n0386fx/
陽射しはまだ夏のように感じられるのに、そろそろ終わるなともまた思い始める頃である。
四神宮の中はいつだって庭も含めて快適な気候だ。
ふと、香子は部屋付の侍女に尋ねてみた。
『四神が来る前も四神宮ってこんなに快適だった?』
『いえ……そうですね、四神がいらっしゃらない時は外と気温などはあまり変わらなかったと思います』
『へー。じゃあ、四神が新年でこちらに来てた時はどうなのかしら?』
侍女は少し考えるような顔をした。
『……今年は、確か……』
そしてはっとしたような表情をする。
『確かに、三日間特に寒さは感じなかったと思います! 冬は暖石を持っていても足先が冷たいのですが、四神がいらした時だけは違ったかと……』
紅児が目を丸くした。部屋付の侍女―林雪紅がこのように興奮したところを紅児は見たことがなかったようである。延夕玲の眉がぴくりと動く。今は何も言わないが、林は後で注意されるかもしれない。香子は苦笑した。
『そういえばみんな夏は涼石とか持っているのよね。それってどのぐらい効果があるの?』
香子は常に四神と共にあるので快適な気候の中で暮らしている。故に石による恩恵がどれぐらいあるのかわからなかった。おそらくはこの先もそれらの石の恩恵を受けることはないのだろう。(物を温めたり冷やしたりするものは別である)
『なんと説明したらよいのでしょうか……』
林は夕玲と紅児を見やった。香子も期待するように夕玲に視線を向ける。夕玲は少し居心地悪そうに目を伏せた。
『恐れながら申し上げます。涼石はこちら、四神宮ほどの快適さは望めません。ただ大きさなどにより効果の範囲は変わりますので、小さい石ですと多少過ごしやすくなる程度。大きいものですと、常に心地よく感じられるかと思います』
『そうなのね。ありがとう』
『恐れ入ります』
たまに取り乱すこともあるが、夕玲は女官らしくを意識しているせいか言葉遣いも丁寧である。紅児がぽーっと憧れの視線を向けているほどだ。香子もある程度の言い回しはできるが所詮は庶民である。
(これが生まれた時から上流階級にいる人との違いかぁ)
香子はしみじみと感心していた。腰を軽く落とす礼をし、スッと一歩下がる動きも美しい。香子は自分の足で四神宮を出ることはできないので、例え学んだとしても披露する場はやってこないだろうが、立ち居振る舞いも習った方がいいのかなとここにきて思い始めた。
(でも、これ以上先生を増やすのはよくないよねー……)
先生が女性ならばいいのだが、王城ではどうなのだろう。香子は首を傾げた。
そんな話をしていると青龍がやってきた。昼食後の食休みのひとときが終わったことを理解する。四神宮の侍女たちは、それはもう香子の衣装替えに命を懸けているらしく食事毎に着替えをさせるのだ。逆らおうものならこの世の終わりのような顔をされるので香子も強くは出られない。一応妥協して、着替えは朝、昼、夕方の三回にしてもらった。ただこれは皇太后に呼ばれるとか、表に出ることがある際は更に着替えの回数が増える。本当に面倒である。
(後宮の女性もこんな苦労してるのかー。皇帝の相手をする以外はヒマだろうなんて思ってごめんなさいー)
香子はこっそり後宮の方向に謝る。実際のところ、そんなに着替えをするのは皇后や一部皇帝の寵愛を受けている者だけであることを香子は知らない。
食後の着替えについては免除されているので、長椅子でまったりしていた香子はそのまま青龍に抱き上げられた。もう抱き上げられるのも慣れたものである。
『青龍様、今日は庭でお茶がしたいです』
『まだ陽射しが強いのではないのか?』
『少しは夏を感じないと身体がおかしくなってしまいますから』
『そうか。用意せよ』
香子が庭で、と言った時すでに夕玲は動き出している。もっと早く言っておけばよかったなと、香子は悪いことをしたと反省した。
『花嫁様、どちらになさいますか』
『入口の方がいいわ』
『かしこまりました』
庭、と言ってもそれほど広くはないし、スペースも限られている。四神宮の入口の方か、東側の少し広い方があるぐらいだ。(一応四神宮を囲うようにして四方にあるのだが椅子と卓があるのは南側と東側のみである)厨房や侍女たちにも面倒をかけてしまうが、ずっと室内にいるというのも息がつまる。快適な箱庭の中とはいえ、外気を感じるのは必要だった。
青龍は香子を抱き上げたまま廊下に出る。それだけで外気に当たることも間違いないがそういうことではない。
『香子、太陽を見てはならぬ』
『はい』
直接見ると目がつぶれてしまう。昼の光ではまだ夏の終わりを感じることはできなかった。
春の最初の頃にここに召喚されて、もう夏も終盤である。
『もう、半年近くも経つんですね……』
『そうだな。あと半年か』
どうしても一年で決めなければいけないのだろうか。こうして過ぎてみると、毎日が濃厚ではあったが「もう過ぎてしまった」と香子は思う。
『ねぇ、青龍様』
『なんだ』
『一年で決められなかったら滞在を延長してもいいんですかね?』
そんな予算はないと怒られるだろうか。
『ふむ……そなたが望むならそれもいいかもしれぬな』
青龍は楽しそうに笑った。
ーーーーー
小説家になろうのムーンライトに加筆修正しながら転載を始めています。
R18版になります。よろしければご覧くださいませー。
https://novel18.syosetu.com/n0386fx/
5
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です
氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。
英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる