315 / 653
第3部 周りと仲良くしろと言われました
12.茶会に招かれたら皇帝も来ていました
しおりを挟む
覚悟なんかできない。
ただ先代の花嫁より時間はあったと香子は思う。
翌々日は皇太后に呼ばれて御花園でお茶をした。白虎と過ごす日なので特に調整も必要なく、白虎に抱かれ、朱雀を供にして御花園に向かった。なんで二神体制なのかというといろいろあったからだ。もちろん延夕玲、黒月、白雲も一緒である。だからなんで紅夏がこないのか。やっぱり説教しなければならないと香子は思った。
『老佛爷におかれましてはご機嫌麗しく……』
『うむ。機嫌はいいのじゃが、かような挨拶は不要よの』
『失礼しました』
挨拶するにしてもしないにしても白虎の腕の中からだ。不敬には違いないが下ろしてくれないのだからしかたない。これはいつものことである。
今日は皇太后の他に皇帝と皇后の姿もあった。
『仲が良くて何よりです』
皇帝がにこやかに言う。こっちのことよりそっちをどうにかしろと香子は思う。
『万瑛、皇帝は貴女に無礼を働いてはいないかしら?』
『え……あ、はい。つつがなく……』
皇后が戸惑ったように答える。皇帝の顔が引きつった。
『花嫁様は手厳しい……』
どの口が言うかと香子は睨む。
『家庭円満で暮らせない皇帝に国をきちんと治められるとは思えません。玄宗の例もありますし』
若い頃玄宗皇帝はかなりカッコよかったのだ。前半の治世は「開元の治」と称され、唐の絶頂期であったと言われている。楊貴妃に惑わされた晩年のおかげで評判は地に落ちてしまったが。
『ほ……花嫁様はほんに博学じゃのう』
皇太后がころころと笑う。
『歴史が好きなだけですわ』
正確には中国の歴史が好きなのだ。日本の歴史はさっぱりである。それはそれでどうなのだといつも香子は思うが、日本の歴史書は持っていない。そしてこの世界には残念ながら日本はなさそうである。
ちょっと言い過ぎたかなとは思ったが、女性がひどい目に遭うのを見過ごすことはできない。DVをするぐらいなら関わるなと思ってしまう。今度皇后とガールズトークした方がいいかなと思ってしまった。
皇帝が咳払いをした。
『老佛爷』
『うむ、こたびは皇上から話があるようで声をかけたが……かまわなかったじゃろうか』
『なんだ』
白虎が不機嫌そうに唸る。どうせそんなところだろうと香子も思ってはいたが、皇帝からの直接の呼び出しだったら断る可能性もあったことから、これはこれでよかったのかもしれない。
『はい……このような席で恐縮ですが、秋の大祭の話をしてもよろしいでしょうか?』
『ならぬ』
『……は』
白虎の即答に皇帝は目を見開いた。香子は呆れて白虎の腕を軽くぽんぽんと叩く。
『秋の大祭については正直決めかねています。すでに準備に取り掛からねばならない時期だとは理解していますが……こればかりはまだわかりません』
『何か問題でも?』
『我らのことだ』
白虎が暗に口を出すなとけん制する。本当にこれは香子と白虎の間のことだ。四神が手伝うことはできるかもしれないが、他の誰にも原因を伝えることも相談もできない。
『……こたびは各国から要人が訪れることとなっております。できましたら……』
『光基』
『……は』
白虎の唸り声が地を這った。さすがにまずいと思ったらしく、皇帝は冷汗をかいた。
『……光基、我らが何のためにここにいるのか、わかっていないとは言わせぬぞ』
とうとう朱雀が口を開いた。
『……申し訳ありませぬ。妾が軽率でございました』
皇太后が取り成した。確かにこのように人目があるところで皇帝が頭を下げることなどできようはずもない。四神が皇帝を叱責するであろうことを微塵も考えていなかったのだろうか。香子は内心首を傾げた。
(皇帝だもんね。誰も皇帝を叱ることなんてできないもんね)
そこはしかたないと思うが、それで今まできてしまったことも問題である。専制君主制の弊害であろう。
(この先関わらなければどうでもいいんだけど……)
直接は関わらないかもしれないが、国に何かあった場合老百姓が気の毒だ。皇太后は聡明な人ではあるが、則天武后(中国唯一の女帝)などの例もあってか、唐は女性を政治に関わらせることはしていない。
『……秋の大祭については……まだわからないとしか言えないのです』
『かしこまりました』
そう、わからない。
気持ちの問題といったような簡単な話ではない。
香子も正直面倒くさくなっていたが、じゃあしましょうと言って、やっぱり無理です! とは言いたくないのである。
(獣姦コワイ)
蓋碗で用意されたお茶を啜る。龍井だった。なんにでも合うお茶だと香子は思う。
お茶菓子には杏仁酥(アーモンドクッキー)が用意されていて香子の頬が綻んだ。もしかしたらこれが好きだと以前伝えていたかもしれない。両手で持って食べていたら、皇太后と皇后に微笑ましそうに見られていた。
『花嫁様はほんにおいしそうにいただかれますのう』
『……杏仁酥大好きなんです』
乾き物の多いお菓子の中で一番ぐらいに好きだ。女官が侍女に目配せしたのがわかった。これから皇太后と皇后が関わったお茶会では必ず出てくるだろう。
和やかとは言い難かったが、その日の茶会はそんな風にして幕を閉じた。
ーーーーー
万瑛 皇后の名前
光基 皇帝の名前
玄宗については、世界の歴史まっぷを参照のこと。
https://sekainorekisi.com/glossary/%E7%8E%84%E5%AE%97%EF%BC%88%E5%94%90%EF%BC%89/
ただ先代の花嫁より時間はあったと香子は思う。
翌々日は皇太后に呼ばれて御花園でお茶をした。白虎と過ごす日なので特に調整も必要なく、白虎に抱かれ、朱雀を供にして御花園に向かった。なんで二神体制なのかというといろいろあったからだ。もちろん延夕玲、黒月、白雲も一緒である。だからなんで紅夏がこないのか。やっぱり説教しなければならないと香子は思った。
『老佛爷におかれましてはご機嫌麗しく……』
『うむ。機嫌はいいのじゃが、かような挨拶は不要よの』
『失礼しました』
挨拶するにしてもしないにしても白虎の腕の中からだ。不敬には違いないが下ろしてくれないのだからしかたない。これはいつものことである。
今日は皇太后の他に皇帝と皇后の姿もあった。
『仲が良くて何よりです』
皇帝がにこやかに言う。こっちのことよりそっちをどうにかしろと香子は思う。
『万瑛、皇帝は貴女に無礼を働いてはいないかしら?』
『え……あ、はい。つつがなく……』
皇后が戸惑ったように答える。皇帝の顔が引きつった。
『花嫁様は手厳しい……』
どの口が言うかと香子は睨む。
『家庭円満で暮らせない皇帝に国をきちんと治められるとは思えません。玄宗の例もありますし』
若い頃玄宗皇帝はかなりカッコよかったのだ。前半の治世は「開元の治」と称され、唐の絶頂期であったと言われている。楊貴妃に惑わされた晩年のおかげで評判は地に落ちてしまったが。
『ほ……花嫁様はほんに博学じゃのう』
皇太后がころころと笑う。
『歴史が好きなだけですわ』
正確には中国の歴史が好きなのだ。日本の歴史はさっぱりである。それはそれでどうなのだといつも香子は思うが、日本の歴史書は持っていない。そしてこの世界には残念ながら日本はなさそうである。
ちょっと言い過ぎたかなとは思ったが、女性がひどい目に遭うのを見過ごすことはできない。DVをするぐらいなら関わるなと思ってしまう。今度皇后とガールズトークした方がいいかなと思ってしまった。
皇帝が咳払いをした。
『老佛爷』
『うむ、こたびは皇上から話があるようで声をかけたが……かまわなかったじゃろうか』
『なんだ』
白虎が不機嫌そうに唸る。どうせそんなところだろうと香子も思ってはいたが、皇帝からの直接の呼び出しだったら断る可能性もあったことから、これはこれでよかったのかもしれない。
『はい……このような席で恐縮ですが、秋の大祭の話をしてもよろしいでしょうか?』
『ならぬ』
『……は』
白虎の即答に皇帝は目を見開いた。香子は呆れて白虎の腕を軽くぽんぽんと叩く。
『秋の大祭については正直決めかねています。すでに準備に取り掛からねばならない時期だとは理解していますが……こればかりはまだわかりません』
『何か問題でも?』
『我らのことだ』
白虎が暗に口を出すなとけん制する。本当にこれは香子と白虎の間のことだ。四神が手伝うことはできるかもしれないが、他の誰にも原因を伝えることも相談もできない。
『……こたびは各国から要人が訪れることとなっております。できましたら……』
『光基』
『……は』
白虎の唸り声が地を這った。さすがにまずいと思ったらしく、皇帝は冷汗をかいた。
『……光基、我らが何のためにここにいるのか、わかっていないとは言わせぬぞ』
とうとう朱雀が口を開いた。
『……申し訳ありませぬ。妾が軽率でございました』
皇太后が取り成した。確かにこのように人目があるところで皇帝が頭を下げることなどできようはずもない。四神が皇帝を叱責するであろうことを微塵も考えていなかったのだろうか。香子は内心首を傾げた。
(皇帝だもんね。誰も皇帝を叱ることなんてできないもんね)
そこはしかたないと思うが、それで今まできてしまったことも問題である。専制君主制の弊害であろう。
(この先関わらなければどうでもいいんだけど……)
直接は関わらないかもしれないが、国に何かあった場合老百姓が気の毒だ。皇太后は聡明な人ではあるが、則天武后(中国唯一の女帝)などの例もあってか、唐は女性を政治に関わらせることはしていない。
『……秋の大祭については……まだわからないとしか言えないのです』
『かしこまりました』
そう、わからない。
気持ちの問題といったような簡単な話ではない。
香子も正直面倒くさくなっていたが、じゃあしましょうと言って、やっぱり無理です! とは言いたくないのである。
(獣姦コワイ)
蓋碗で用意されたお茶を啜る。龍井だった。なんにでも合うお茶だと香子は思う。
お茶菓子には杏仁酥(アーモンドクッキー)が用意されていて香子の頬が綻んだ。もしかしたらこれが好きだと以前伝えていたかもしれない。両手で持って食べていたら、皇太后と皇后に微笑ましそうに見られていた。
『花嫁様はほんにおいしそうにいただかれますのう』
『……杏仁酥大好きなんです』
乾き物の多いお菓子の中で一番ぐらいに好きだ。女官が侍女に目配せしたのがわかった。これから皇太后と皇后が関わったお茶会では必ず出てくるだろう。
和やかとは言い難かったが、その日の茶会はそんな風にして幕を閉じた。
ーーーーー
万瑛 皇后の名前
光基 皇帝の名前
玄宗については、世界の歴史まっぷを参照のこと。
https://sekainorekisi.com/glossary/%E7%8E%84%E5%AE%97%EF%BC%88%E5%94%90%EF%BC%89/
6
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です
氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。
英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる