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第3部 周りと仲良くしろと言われました
14.とにかく覚悟が必要です
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これも泣き落としというのだろうか。
ちゅ、ちゅ、ちゅと涙を吸われ髪に口づけられきつく抱きしめられて、『香子、愛している』と何度も囁かれる。朱雀は香子を決して離そうとはしなかった。
なんだかとんでもないわがままを言っているようで、香子は自分が嫌になった。そしてそんな風に思わせる朱雀にも腹が立ってしかたがない。腹は立つけど好きだなぁとも思う。わけがわからなかった。
朱雀から了承は得た。
『……撤回しないでくださいよ。次撤回したら……』
『わかった。頼むからもう嫌いだと言うてくれるな。悲しくなってしまう』
『誰が言わせてるんですか!』
まだ玄武も納得してはいなさそうだがしょうがない。全会一致で香子が大祭に参加することなどできないのだ。
夕飯だと呼ばれるまで、朱雀は香子を離さなかった。好きな人の腕の中にいると胸にきゅうっとなんともいえない感覚が生まれ、ずっと抱きしめていてほしいと思ってしまう。
『香子……香子……』
何度も名を呼ばれながら、香子は幸せだなと思った。でも朱雀には怒っているから絶対言ってやらないけど。
夕飯を終え、茶室でお茶を飲んだ後は湯浴みだ。
広い浴槽に満たされたお湯に浸かりながら、朱雀とやりあったことを思い出す。
あの時じんましんが出るかと思った。トラウマが刺激されすぎて。
今までのそれほど長くはない生の中で、嫌なことはたくさんあったと思う。その中でも中学の時の出来事は大したことではなかった。でも、あの時もっと強硬に拒否していたらと思わずにはいられない。ようは自分がどうにかできたはずのことをどうにかしなかったということが、無念としていつまでも心に残っているのだ。
(あれはもう済んだこと……終わったことよ……)
何度も自分に言い聞かせて二度と思い出さないように努める。あんなくだらないことをいつまでも思い出して引きずっているヒマがあるなら白虎に抱かれた方がいいと思う。
(でもなぁ……でもなぁ……獣姦はなぁ……)
どうしても尻ごみしてしまう。
「んー……」
声を出す。
考えてもしかたがない。今夜も玄武と朱雀に抱かれるのだろう。きっとまたわけがわからなくなるほど甘く抱かれるのかしらと思ったら頬が熱くなった。抱かれることでいろいろ忘れられるならそれはそれでいい。香子は開き直り、湯舟から出た。
効果はてきめんだった。
翌朝、香子は久しぶりにまじまじと鏡の中の自分を覗き込んだ。鮮やかな暗紫紅色の髪に、白く、透き通っているかのようにみずみずしい肌。あったはずのほくろやしみがキレイに姿を消している気がする。
(うわあ……キレイな肌……)
これが四神効果なのだろう。すごいなぁと香子はしみじみ思った。顔の造作はどうにもならないが美肌効果でとてもキレイになっているように見える。
『花嫁様?』
侍女におそるおそる声をかけられてはっとした。
『あ……ごめんなさい。続けてちょうだい』
身支度をされている最中だった。軽く化粧を施してもらい、また鏡で確認した。
『……如何でしょうか』
『いつもありがとう。キレイにしてくれて』
『……そんな! 花嫁様はいつでも美しいですわ!』
力いっぱい言われて苦笑してしまう。侍女たちが優しすぎて少し困る。
今日は張錦飛に書を習う日だった。
袖がしまった漢服で集中して書を書く。どうしてお手本の通りに書けないのかと首を傾げてしまう。筆ということもあるだろうが、あとは慣れの問題だろう。今日はいつもよりキレイに書けたと思った。
『……よくなっておりますな。この調子でがんばりましょう』
『ありがとうございます!』
内心ガッツポーズをして、香子は満面の笑みを浮かべた。
『……花嫁様、その笑顔は四神の前だけでお願いしますぞ』
『ええ?』
まさかのダメ出しをされた。
書を習った後はお茶をする。日中はまだ陽射しが強いので、窓や扉を開け放ち茶室でお茶を淹れた。
『……調子は如何ですかな?』
『……なんともいえません』
張に聞かれているのは秋の大祭の件についてだ。こればかりは香子自身の問題なので四神以外に尋ねることもできない。
『今回は私自身の問題なので……もしかしたら出られないかもしれません』
『……そうなのですか』
ふむふむと張が頷く。
『それもまた導きでございましょう。花嫁様がよいようにしていただければ、それでよろしいかと存じます』
『……準備はされていると聞きました』
『それは人の事情故のこと。花嫁様が気にされる必要はございませぬ』
今回は特に祭祀のようなことは行わないらしい。四神が参加するしないに関わらず百官が王城に集うことは変わらない。庶民からしたら夜の前門から四神の姿が見られるか見られないかぐらいの違いしかない。
でも、とも香子は思う。
(今夜はまだ……でも……)
覚悟というのはどうしたらできるものだろうか。今選択肢は香子にある。
香子はとても困っていた。
ちゅ、ちゅ、ちゅと涙を吸われ髪に口づけられきつく抱きしめられて、『香子、愛している』と何度も囁かれる。朱雀は香子を決して離そうとはしなかった。
なんだかとんでもないわがままを言っているようで、香子は自分が嫌になった。そしてそんな風に思わせる朱雀にも腹が立ってしかたがない。腹は立つけど好きだなぁとも思う。わけがわからなかった。
朱雀から了承は得た。
『……撤回しないでくださいよ。次撤回したら……』
『わかった。頼むからもう嫌いだと言うてくれるな。悲しくなってしまう』
『誰が言わせてるんですか!』
まだ玄武も納得してはいなさそうだがしょうがない。全会一致で香子が大祭に参加することなどできないのだ。
夕飯だと呼ばれるまで、朱雀は香子を離さなかった。好きな人の腕の中にいると胸にきゅうっとなんともいえない感覚が生まれ、ずっと抱きしめていてほしいと思ってしまう。
『香子……香子……』
何度も名を呼ばれながら、香子は幸せだなと思った。でも朱雀には怒っているから絶対言ってやらないけど。
夕飯を終え、茶室でお茶を飲んだ後は湯浴みだ。
広い浴槽に満たされたお湯に浸かりながら、朱雀とやりあったことを思い出す。
あの時じんましんが出るかと思った。トラウマが刺激されすぎて。
今までのそれほど長くはない生の中で、嫌なことはたくさんあったと思う。その中でも中学の時の出来事は大したことではなかった。でも、あの時もっと強硬に拒否していたらと思わずにはいられない。ようは自分がどうにかできたはずのことをどうにかしなかったということが、無念としていつまでも心に残っているのだ。
(あれはもう済んだこと……終わったことよ……)
何度も自分に言い聞かせて二度と思い出さないように努める。あんなくだらないことをいつまでも思い出して引きずっているヒマがあるなら白虎に抱かれた方がいいと思う。
(でもなぁ……でもなぁ……獣姦はなぁ……)
どうしても尻ごみしてしまう。
「んー……」
声を出す。
考えてもしかたがない。今夜も玄武と朱雀に抱かれるのだろう。きっとまたわけがわからなくなるほど甘く抱かれるのかしらと思ったら頬が熱くなった。抱かれることでいろいろ忘れられるならそれはそれでいい。香子は開き直り、湯舟から出た。
効果はてきめんだった。
翌朝、香子は久しぶりにまじまじと鏡の中の自分を覗き込んだ。鮮やかな暗紫紅色の髪に、白く、透き通っているかのようにみずみずしい肌。あったはずのほくろやしみがキレイに姿を消している気がする。
(うわあ……キレイな肌……)
これが四神効果なのだろう。すごいなぁと香子はしみじみ思った。顔の造作はどうにもならないが美肌効果でとてもキレイになっているように見える。
『花嫁様?』
侍女におそるおそる声をかけられてはっとした。
『あ……ごめんなさい。続けてちょうだい』
身支度をされている最中だった。軽く化粧を施してもらい、また鏡で確認した。
『……如何でしょうか』
『いつもありがとう。キレイにしてくれて』
『……そんな! 花嫁様はいつでも美しいですわ!』
力いっぱい言われて苦笑してしまう。侍女たちが優しすぎて少し困る。
今日は張錦飛に書を習う日だった。
袖がしまった漢服で集中して書を書く。どうしてお手本の通りに書けないのかと首を傾げてしまう。筆ということもあるだろうが、あとは慣れの問題だろう。今日はいつもよりキレイに書けたと思った。
『……よくなっておりますな。この調子でがんばりましょう』
『ありがとうございます!』
内心ガッツポーズをして、香子は満面の笑みを浮かべた。
『……花嫁様、その笑顔は四神の前だけでお願いしますぞ』
『ええ?』
まさかのダメ出しをされた。
書を習った後はお茶をする。日中はまだ陽射しが強いので、窓や扉を開け放ち茶室でお茶を淹れた。
『……調子は如何ですかな?』
『……なんともいえません』
張に聞かれているのは秋の大祭の件についてだ。こればかりは香子自身の問題なので四神以外に尋ねることもできない。
『今回は私自身の問題なので……もしかしたら出られないかもしれません』
『……そうなのですか』
ふむふむと張が頷く。
『それもまた導きでございましょう。花嫁様がよいようにしていただければ、それでよろしいかと存じます』
『……準備はされていると聞きました』
『それは人の事情故のこと。花嫁様が気にされる必要はございませぬ』
今回は特に祭祀のようなことは行わないらしい。四神が参加するしないに関わらず百官が王城に集うことは変わらない。庶民からしたら夜の前門から四神の姿が見られるか見られないかぐらいの違いしかない。
でも、とも香子は思う。
(今夜はまだ……でも……)
覚悟というのはどうしたらできるものだろうか。今選択肢は香子にある。
香子はとても困っていた。
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