328 / 653
第3部 周りと仲良くしろと言われました
25.お茶会に誘われました
しおりを挟む
秋の大祭まで三週間というところで、皇太后から呼び出しがあった。大祭の出欠席についてだろう。香子は少しだけ憂鬱だった。常ならば支度が面倒だなと思う程度だが、今回は呼び出しの理由がわかるだけに二の足を踏んでしまう。かと言ってなんらかの理由をくつけて断ることもできない。そんなことをすれば角が立つ。なかなかに複雑なのだった。
『はぁ……』
本日のお供は大祭に一緒に出る予定の白虎と、明言はしないが香子が大祭に出るのは反対な玄武である。その他に白雲、黒月、延夕玲といういつも顔ぶれだ。行きと帰りに趙文英と王英明が付き従うのも変わらない。
『香子、如何した?』
御花園に向かう渡り廊下を通りながら、香子がふと漏らしたため息に白虎が反応した。まだ暑さは夏のものだが空気は秋に変わりつつある。まだ花はいろんな種類が咲いていて、香子の目を慰める。興味のないことにはとことん興味がない香子だが、名も知らぬ花も見ている分には美しい。もう少し花の名前なども学んでおけばよかったとこんな時は思ってしまうのだった。
『花が……綺麗だなと思いまして』
それ以外言いようがない。ここで皇太后に会うのが憂鬱だなどと正直に告げてしまえば、白虎は即座に回れ右してしまうだろう。そうしたところで四神は痛くも痒くもないだろうが香子の胃には穴が空くかもしれない。いや、もう香子も厳密に言えば人ではないようだからそんなことは起こりえないだろうが、精神的にきついので遠慮したい。
自分でも難儀な性格だなぁと香子は思う。
『花か。部屋に飾らせるか』
『いいえ』
香子は首を振った。頭が重い。侍女たちは気合を入れすぎだ。
『ここに生えているから美しいのです。庭師が丁寧に世話をしてくれているからこそ、この花々の美しさは保たれているのですから』
『……そういうものか』
『そういうものです』
神様には下々の者たちがどのようにして暮らしているか想像もつかないだろう。ただ四神はそのままでいいと香子は思う。香子や周りが気づいてフォローしていけばいいだけだ。
(領地には眷属がいっぱいいるっていうしね)
その眷属たちに手伝ってもらえばいいだけのことである。
(それとも……最初の頃の黒月みたいな対応されちゃうのかしら。いびられちゃう? いじめられちゃう? きゃー)
香子はマゾではない。ただ中国時代劇が大好きなだけだ。香子は四神と対等ではないが、眷属を従える立場である。なのでいびられることはありえない。でも少しイヤミなどを言われてしまう自分を想像したら楽しくなってきた。何度も言うが香子はマゾではないのである。
『楽しそうだな。何かあったのか?』
『なんでもないですよ』
自分の想像だけで気分が上がってきたが、皇太后たちの姿を見たらそんな楽しい気分も吹っ飛んでしまった。
(うああー……皇帝もいるうううう)
彼らは白虎の姿を認めるとさっと立ち上がり四阿の入口で香子たちを迎えた。
『老仏爺、この度はお招きありがとうございます』
香子が白虎に抱かれたまま挨拶をする。
『花嫁様、この老人にそのような挨拶は不要ですぞ。此度はおいでくださりありがとうございます。どうぞこちらへ』
皇帝、皇后、皇太后に促されて用意された席に腰掛ける。なんという贅沢なのかと香子は遠い目をしたくなった。皇太后を中心として、左隣に白虎と香子、玄武、右隣に皇帝、皇后という順に座っている。玄武と皇后の間は一つ席が空いている。玄武と皇后を下座に置くなど随分偉くなったなぁとまた香子は遠い目をしたくなった。こういうのは考えたら負けだ。
蓋碗でお茶が出され、お茶菓子が振舞われる。
『花嫁様はこれであろう?』
と皇太后が手ずから杏仁酥(アーモンドクッキー)を示してくれた。
『はい。ありがとうございます』
香子はにっこりした。この固さがたまらないのだ。小学生の時からのファンである。お茶は龍井だった。もちろん王城で出されるものなので最高級である。
(はうう……なんという贅沢……)
この贅沢に慣れたらもう庶民には戻れないと香子は思う。心根は変わらないけれども。
『最近暑さはどうですか?』
『四神宮の中は常に快適な気温なのであったか。そうさのう、朝晩は楽になってきたように思うが、陽射しといい、まだまだこの年寄りの身にはこたえるのぅ』
『涼石は使われていないのですか?』
『もちろん使ってはおるが陽射しまでは遮れぬのでな』
気持ち的に暑いというところか。確かに眩しいのは目に痛い。
『それもそうですね。確かに日陰にいても、光の強さは感じられますものね』
ちょっと表を見やれば眩しい。確かに目には優しくないと香子も思った。
そんなちょっとした雑談の後は空気が変わる。
きたな、と香子は内心逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。
『して……大祭はどうであろうか?』
控えめに皇太后に尋ねられ、香子は顔を覆いたくなった。こればかりは本当に難しいのである。
『江緑』
すると今まで黙っていた玄武が口を開いた。みなが居住まいを正す。
『香子に負担を強いるのであれば、すぐに領地へ連れ帰るが如何か』
『たいへん申し訳ありません!』
皇太后以下一斉に卓や地板に額を擦り付ける。さすがに皇帝は目を伏せた程度だがまずいと香子は思った。
『玄武様! いいのです。これは私と白虎様の問題です。老仏爺、どうか頭を上げてください』
そう言いながら香子は玄武に触れた。
(大丈夫ですから。でもありがとうございます)
気持ちを心話で伝える。わかるのだ。玄武は香子をただ守ってくれようとしているだけだと。玄武は少し困っているようにも見えた。あとでフォローが必要だろう。
『老仏爺、申し訳ないのですがまだお返事ができそうもありません。ただ……出席できない可能性も考えておいていただきたいです』
今はそれ以上答えることはできなかった。
ーーーーー
江緑 皇太后の名前
『はぁ……』
本日のお供は大祭に一緒に出る予定の白虎と、明言はしないが香子が大祭に出るのは反対な玄武である。その他に白雲、黒月、延夕玲といういつも顔ぶれだ。行きと帰りに趙文英と王英明が付き従うのも変わらない。
『香子、如何した?』
御花園に向かう渡り廊下を通りながら、香子がふと漏らしたため息に白虎が反応した。まだ暑さは夏のものだが空気は秋に変わりつつある。まだ花はいろんな種類が咲いていて、香子の目を慰める。興味のないことにはとことん興味がない香子だが、名も知らぬ花も見ている分には美しい。もう少し花の名前なども学んでおけばよかったとこんな時は思ってしまうのだった。
『花が……綺麗だなと思いまして』
それ以外言いようがない。ここで皇太后に会うのが憂鬱だなどと正直に告げてしまえば、白虎は即座に回れ右してしまうだろう。そうしたところで四神は痛くも痒くもないだろうが香子の胃には穴が空くかもしれない。いや、もう香子も厳密に言えば人ではないようだからそんなことは起こりえないだろうが、精神的にきついので遠慮したい。
自分でも難儀な性格だなぁと香子は思う。
『花か。部屋に飾らせるか』
『いいえ』
香子は首を振った。頭が重い。侍女たちは気合を入れすぎだ。
『ここに生えているから美しいのです。庭師が丁寧に世話をしてくれているからこそ、この花々の美しさは保たれているのですから』
『……そういうものか』
『そういうものです』
神様には下々の者たちがどのようにして暮らしているか想像もつかないだろう。ただ四神はそのままでいいと香子は思う。香子や周りが気づいてフォローしていけばいいだけだ。
(領地には眷属がいっぱいいるっていうしね)
その眷属たちに手伝ってもらえばいいだけのことである。
(それとも……最初の頃の黒月みたいな対応されちゃうのかしら。いびられちゃう? いじめられちゃう? きゃー)
香子はマゾではない。ただ中国時代劇が大好きなだけだ。香子は四神と対等ではないが、眷属を従える立場である。なのでいびられることはありえない。でも少しイヤミなどを言われてしまう自分を想像したら楽しくなってきた。何度も言うが香子はマゾではないのである。
『楽しそうだな。何かあったのか?』
『なんでもないですよ』
自分の想像だけで気分が上がってきたが、皇太后たちの姿を見たらそんな楽しい気分も吹っ飛んでしまった。
(うああー……皇帝もいるうううう)
彼らは白虎の姿を認めるとさっと立ち上がり四阿の入口で香子たちを迎えた。
『老仏爺、この度はお招きありがとうございます』
香子が白虎に抱かれたまま挨拶をする。
『花嫁様、この老人にそのような挨拶は不要ですぞ。此度はおいでくださりありがとうございます。どうぞこちらへ』
皇帝、皇后、皇太后に促されて用意された席に腰掛ける。なんという贅沢なのかと香子は遠い目をしたくなった。皇太后を中心として、左隣に白虎と香子、玄武、右隣に皇帝、皇后という順に座っている。玄武と皇后の間は一つ席が空いている。玄武と皇后を下座に置くなど随分偉くなったなぁとまた香子は遠い目をしたくなった。こういうのは考えたら負けだ。
蓋碗でお茶が出され、お茶菓子が振舞われる。
『花嫁様はこれであろう?』
と皇太后が手ずから杏仁酥(アーモンドクッキー)を示してくれた。
『はい。ありがとうございます』
香子はにっこりした。この固さがたまらないのだ。小学生の時からのファンである。お茶は龍井だった。もちろん王城で出されるものなので最高級である。
(はうう……なんという贅沢……)
この贅沢に慣れたらもう庶民には戻れないと香子は思う。心根は変わらないけれども。
『最近暑さはどうですか?』
『四神宮の中は常に快適な気温なのであったか。そうさのう、朝晩は楽になってきたように思うが、陽射しといい、まだまだこの年寄りの身にはこたえるのぅ』
『涼石は使われていないのですか?』
『もちろん使ってはおるが陽射しまでは遮れぬのでな』
気持ち的に暑いというところか。確かに眩しいのは目に痛い。
『それもそうですね。確かに日陰にいても、光の強さは感じられますものね』
ちょっと表を見やれば眩しい。確かに目には優しくないと香子も思った。
そんなちょっとした雑談の後は空気が変わる。
きたな、と香子は内心逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。
『して……大祭はどうであろうか?』
控えめに皇太后に尋ねられ、香子は顔を覆いたくなった。こればかりは本当に難しいのである。
『江緑』
すると今まで黙っていた玄武が口を開いた。みなが居住まいを正す。
『香子に負担を強いるのであれば、すぐに領地へ連れ帰るが如何か』
『たいへん申し訳ありません!』
皇太后以下一斉に卓や地板に額を擦り付ける。さすがに皇帝は目を伏せた程度だがまずいと香子は思った。
『玄武様! いいのです。これは私と白虎様の問題です。老仏爺、どうか頭を上げてください』
そう言いながら香子は玄武に触れた。
(大丈夫ですから。でもありがとうございます)
気持ちを心話で伝える。わかるのだ。玄武は香子をただ守ってくれようとしているだけだと。玄武は少し困っているようにも見えた。あとでフォローが必要だろう。
『老仏爺、申し訳ないのですがまだお返事ができそうもありません。ただ……出席できない可能性も考えておいていただきたいです』
今はそれ以上答えることはできなかった。
ーーーーー
江緑 皇太后の名前
4
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です
氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。
英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる