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第3部 周りと仲良くしろと言われました
64.四神の眷属は誰の言うことも聞かないものらしいです
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「貴方色に染まる」71、72話の場面です。
ーーーーー
ところどころ、葉がほんのりと色づき始めているように香子には感じられた。
四神宮では年中気候が変わらないのであまり感じ取ることはできないが、最近は朝晩もかなり涼しくなってきているに違いなかった。
(11月になれば香山の紅葉も色づくかしら)
唐は陰暦なので香子の感覚では九月の終り頃になるだろうと思われた。基本は陽暦で暮らしていたので、香子はまだまだ陰暦には慣れそうもない。元の世界で香山公園と呼ばれている場所に、香子はかつて遠足で行ったことがあった。
さて、香子がほんの少しだけ現実逃避していたが茶会である。主な参加者は皇帝、白虎、香子、シーザン王、シーザンの姫、紅児の六名だ。その後ろには警備の者たちと、侍女たち、シーザンの姫付きの侍女、そして白雲、紅夏、延夕玲、黒月が控えている。
皇后はどうやら逃げたらしいと香子は内心ほくそ笑んだ。皇太后や皇后がいれば必然的にシーザンの姫に構うことになる。香子がシーザンの姫にあまりいい感情を持っていないということに気づいて回避したようだった。
(美人だし、嫌いじゃないんだけどねー)
シーザンの姫は物を知らないだけだと香子は思っている。ようは育て方に問題があるのだ。
『天気のいい、良き日でございますな』
シーザンの王が機嫌良さそうに身体を揺らして言った。
『そうだな。秋が一番過ごしやすい。シーザンは如何か』
『そうですな。こちらでは夏が一番ですかな』
なんということのない会話である。香子は白虎の腕の中で当たり前のように蓋碗を手に取った。シーザンの姫がシーザン王をつつく。
『そろそろ葉が色づく頃でございましょうか、本日はなんとも華やかなものでございますな』
シーザン王が姫に目配せした。
『華やかと言えば、花嫁殿の髪はほんに見事じゃ。確か朱雀様と同じ色であったか?』
姫が好奇心いっぱいの目を紅夏に向けた。なんともあからさまで香子は内心苦笑した。それよりも「殿」とまた姫が言ったことで背後からの圧がかかる。夕玲と黒月からブリザードが吹いてきているかのようだった。
(こーわーいー)
『ええ』
香子はそっけなく答えた。すると姫は矛先を変えてきた。
『花嫁の客人は……紅児と申したか。そなたの髪も赤いが色合いが違うのう』
紅児はそれに笑顔で応える。姫はまた紅夏に目を向けた。
『そこにいるのは朱雀様の眷属か。花嫁殿と同じく見事な髪じゃの』
紅夏は紅児の後ろに控えていた。声をかけられたからといって特に反応もしない。紅夏は紅児以外に興味が全くないので返事をすることはなかった。それを姫は別の利用だと勘違いしたようだった。
『四神の眷属よ、わらわと言葉を交わす権利を与えよう』
艶やかな笑みを浮かべて姫が言う。あちゃー、と香子は思った。シーザン王国であれば名誉とされるであろうそれも、四神の眷属からすると迷惑でしかないだろう。紅夏の目が鋭く細められたのを見てまずいと思ったのか、シーザン王が慌てて声を上げた。
『ドルマ、黙りなさい。皇帝陛下と四神の御前であるぞ』
姫は不満そうに口を尖らせたがシーザン王の言葉にしぶしぶ従った。しかし何が問題だったのかは全くわかっていないようである。
『陛下、白虎様、花嫁様、娘がたいへんな失礼を。まだ成人前の未熟者にてどうかご寛恕を』
シーザン王が深々と頭を下げた。その顔は青ざめている。ようやく誰に向かって口をきいているのか理解したようだが、それでもこれは形だけでまだ諦めてはいないようだった。
〈許す、とおっしゃってください〉
白虎に密着していることで、香子は白虎に心話で話しかけた。
〈よいのか〉
〈波風を立てるほどではございません。相手は一国の王です。恥をかかせるわけにはいきません〉
『許す』
白虎が応えた。シーザン王はしばらく伏した後ゆっくりと頭を上げた。だがその後はやはりいただけなかった。
シーザン王は四神の眷属を姫の婿に迎えたいと言い出した。四神宮に来た眷属たちがことごとく人と番うのを知って、それならばと思ったようだった。シーザン王国は大唐の西側に位置している。そこは白虎の領地と隣接している為その付近には恩恵があるが、国全体は貧しいと訴えた。四神の眷属を婿に迎えることで四神の加護を受けたいと、少しだけもってまわった言い方で述べた。
〈白虎様、眷属が一人婿に行ったからって四神の加護が及ぶものなんですか?〉
〈一人ではせいぜい王宮の範囲ぐらいだろうな。眷属だけでは数がおらねばどうにもならぬ〉
やはりそんなうまい話はなさそうである。どちらにせよ紅夏がシーザンの姫に婿入りすることなどありえない。
香子はこっそり白虎と話しながらお茶を飲む。お茶は相変わらずおいしかった。
〈多分眷属のあり方とか説明しないと理解しませんよね。白雲に頼めます?〉
〈説明させよう〉
白虎は楽しそうな顔をして、白雲に声をかけた。
『白雲、どうだ?』
その面白がるような言い方に、白雲は一瞬眉を寄せた。そして苦笑し、眷属についての説明を丁寧にしはじめた。
結局のところ、四神の眷属を人がどうこうできるはずがないということがわかったようで、結果的にシーザン王は引き下がった。シーザンの姫はそれに柳眉を逆立てたが、シーザン王の言葉は覆らない。
いろいろな話を聞かされて紅児が疲れているのに気づき、香子はこれ幸いとその場を辞した。シーザンの姫が香子を引き留めようとしたが香子はそれを跳ねのけた。もう付き合う義理はないはずである。あと一度ぐらいはお茶を共にしてもいいかもしれないと香子は思ったが、誘われなければこれで終りだった。
御花園を出た途端紅夏が紅児を抱き上げた。これはまずい、と香子は思った。連れて来なければよかったと思ったがもう後の祭りである。
(エリーザ、ごめんなさい)
香子は内心謝った。
『紅夏、先に戻りなさい』
『ありがとうございます』
紅夏は礼を言うと、飛ぶような速さで紅児を抱いて戻って行った。
『香子、我らも戻ろうぞ』
『はい。もう少しこの庭園を見とうございます。ゆるりと歩いて戻りましょう』
『……そなたにはかなわぬな』
白虎が苦笑する。大して先延ばしはできないとわかっていたが、香子は御花園の色鮮やかな草木を眺めたのだった。
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ところどころ、葉がほんのりと色づき始めているように香子には感じられた。
四神宮では年中気候が変わらないのであまり感じ取ることはできないが、最近は朝晩もかなり涼しくなってきているに違いなかった。
(11月になれば香山の紅葉も色づくかしら)
唐は陰暦なので香子の感覚では九月の終り頃になるだろうと思われた。基本は陽暦で暮らしていたので、香子はまだまだ陰暦には慣れそうもない。元の世界で香山公園と呼ばれている場所に、香子はかつて遠足で行ったことがあった。
さて、香子がほんの少しだけ現実逃避していたが茶会である。主な参加者は皇帝、白虎、香子、シーザン王、シーザンの姫、紅児の六名だ。その後ろには警備の者たちと、侍女たち、シーザンの姫付きの侍女、そして白雲、紅夏、延夕玲、黒月が控えている。
皇后はどうやら逃げたらしいと香子は内心ほくそ笑んだ。皇太后や皇后がいれば必然的にシーザンの姫に構うことになる。香子がシーザンの姫にあまりいい感情を持っていないということに気づいて回避したようだった。
(美人だし、嫌いじゃないんだけどねー)
シーザンの姫は物を知らないだけだと香子は思っている。ようは育て方に問題があるのだ。
『天気のいい、良き日でございますな』
シーザンの王が機嫌良さそうに身体を揺らして言った。
『そうだな。秋が一番過ごしやすい。シーザンは如何か』
『そうですな。こちらでは夏が一番ですかな』
なんということのない会話である。香子は白虎の腕の中で当たり前のように蓋碗を手に取った。シーザンの姫がシーザン王をつつく。
『そろそろ葉が色づく頃でございましょうか、本日はなんとも華やかなものでございますな』
シーザン王が姫に目配せした。
『華やかと言えば、花嫁殿の髪はほんに見事じゃ。確か朱雀様と同じ色であったか?』
姫が好奇心いっぱいの目を紅夏に向けた。なんともあからさまで香子は内心苦笑した。それよりも「殿」とまた姫が言ったことで背後からの圧がかかる。夕玲と黒月からブリザードが吹いてきているかのようだった。
(こーわーいー)
『ええ』
香子はそっけなく答えた。すると姫は矛先を変えてきた。
『花嫁の客人は……紅児と申したか。そなたの髪も赤いが色合いが違うのう』
紅児はそれに笑顔で応える。姫はまた紅夏に目を向けた。
『そこにいるのは朱雀様の眷属か。花嫁殿と同じく見事な髪じゃの』
紅夏は紅児の後ろに控えていた。声をかけられたからといって特に反応もしない。紅夏は紅児以外に興味が全くないので返事をすることはなかった。それを姫は別の利用だと勘違いしたようだった。
『四神の眷属よ、わらわと言葉を交わす権利を与えよう』
艶やかな笑みを浮かべて姫が言う。あちゃー、と香子は思った。シーザン王国であれば名誉とされるであろうそれも、四神の眷属からすると迷惑でしかないだろう。紅夏の目が鋭く細められたのを見てまずいと思ったのか、シーザン王が慌てて声を上げた。
『ドルマ、黙りなさい。皇帝陛下と四神の御前であるぞ』
姫は不満そうに口を尖らせたがシーザン王の言葉にしぶしぶ従った。しかし何が問題だったのかは全くわかっていないようである。
『陛下、白虎様、花嫁様、娘がたいへんな失礼を。まだ成人前の未熟者にてどうかご寛恕を』
シーザン王が深々と頭を下げた。その顔は青ざめている。ようやく誰に向かって口をきいているのか理解したようだが、それでもこれは形だけでまだ諦めてはいないようだった。
〈許す、とおっしゃってください〉
白虎に密着していることで、香子は白虎に心話で話しかけた。
〈よいのか〉
〈波風を立てるほどではございません。相手は一国の王です。恥をかかせるわけにはいきません〉
『許す』
白虎が応えた。シーザン王はしばらく伏した後ゆっくりと頭を上げた。だがその後はやはりいただけなかった。
シーザン王は四神の眷属を姫の婿に迎えたいと言い出した。四神宮に来た眷属たちがことごとく人と番うのを知って、それならばと思ったようだった。シーザン王国は大唐の西側に位置している。そこは白虎の領地と隣接している為その付近には恩恵があるが、国全体は貧しいと訴えた。四神の眷属を婿に迎えることで四神の加護を受けたいと、少しだけもってまわった言い方で述べた。
〈白虎様、眷属が一人婿に行ったからって四神の加護が及ぶものなんですか?〉
〈一人ではせいぜい王宮の範囲ぐらいだろうな。眷属だけでは数がおらねばどうにもならぬ〉
やはりそんなうまい話はなさそうである。どちらにせよ紅夏がシーザンの姫に婿入りすることなどありえない。
香子はこっそり白虎と話しながらお茶を飲む。お茶は相変わらずおいしかった。
〈多分眷属のあり方とか説明しないと理解しませんよね。白雲に頼めます?〉
〈説明させよう〉
白虎は楽しそうな顔をして、白雲に声をかけた。
『白雲、どうだ?』
その面白がるような言い方に、白雲は一瞬眉を寄せた。そして苦笑し、眷属についての説明を丁寧にしはじめた。
結局のところ、四神の眷属を人がどうこうできるはずがないということがわかったようで、結果的にシーザン王は引き下がった。シーザンの姫はそれに柳眉を逆立てたが、シーザン王の言葉は覆らない。
いろいろな話を聞かされて紅児が疲れているのに気づき、香子はこれ幸いとその場を辞した。シーザンの姫が香子を引き留めようとしたが香子はそれを跳ねのけた。もう付き合う義理はないはずである。あと一度ぐらいはお茶を共にしてもいいかもしれないと香子は思ったが、誘われなければこれで終りだった。
御花園を出た途端紅夏が紅児を抱き上げた。これはまずい、と香子は思った。連れて来なければよかったと思ったがもう後の祭りである。
(エリーザ、ごめんなさい)
香子は内心謝った。
『紅夏、先に戻りなさい』
『ありがとうございます』
紅夏は礼を言うと、飛ぶような速さで紅児を抱いて戻って行った。
『香子、我らも戻ろうぞ』
『はい。もう少しこの庭園を見とうございます。ゆるりと歩いて戻りましょう』
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