異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

文字の大きさ
367 / 653
第3部 周りと仲良くしろと言われました

64.四神の眷属は誰の言うことも聞かないものらしいです

しおりを挟む
「貴方色に染まる」71、72話の場面です。
ーーーーー



 ところどころ、葉がほんのりと色づき始めているように香子には感じられた。
 四神宮では年中気候が変わらないのであまり感じ取ることはできないが、最近は朝晩もかなり涼しくなってきているに違いなかった。

(11月になれば香山シャンシャンの紅葉も色づくかしら)

 唐は陰暦なので香子の感覚では九月の終り頃になるだろうと思われた。基本は陽暦で暮らしていたので、香子はまだまだ陰暦には慣れそうもない。元の世界で香山公園と呼ばれている場所に、香子はかつて遠足で行ったことがあった。
 さて、香子がほんの少しだけ現実逃避していたが茶会である。主な参加者は皇帝、白虎、香子、シーザン王、シーザンの姫、紅児の六名だ。その後ろには警備の者たちと、侍女たち、シーザンの姫付きの侍女、そして白雲、紅夏、延夕玲、黒月が控えている。
 皇后はどうやら逃げたらしいと香子は内心ほくそ笑んだ。皇太后や皇后がいれば必然的にシーザンの姫に構うことになる。香子がシーザンの姫にあまりいい感情を持っていないということに気づいて回避したようだった。

(美人だし、嫌いじゃないんだけどねー)

 シーザンの姫は物を知らないだけだと香子は思っている。ようは育て方に問題があるのだ。

『天気のいい、良き日でございますな』

 シーザンの王が機嫌良さそうに身体を揺らして言った。

『そうだな。秋が一番過ごしやすい。シーザンは如何か』
『そうですな。こちらでは夏が一番ですかな』

 なんということのない会話である。香子は白虎の腕の中で当たり前のように蓋碗を手に取った。シーザンの姫がシーザン王をつつく。

『そろそろ葉が色づく頃でございましょうか、本日はなんとも華やかなものでございますな』

 シーザン王が姫に目配せした。

『華やかと言えば、花嫁殿の髪はほんに見事じゃ。確か朱雀様と同じ色であったか?』

 姫が好奇心いっぱいの目を紅夏に向けた。なんともあからさまで香子は内心苦笑した。それよりも「殿」とまた姫が言ったことで背後からの圧がかかる。夕玲と黒月からブリザードが吹いてきているかのようだった。

(こーわーいー)
『ええ』

 香子はそっけなく答えた。すると姫は矛先を変えてきた。

『花嫁の客人は……紅児ホンアールと申したか。そなたの髪も赤いが色合いが違うのう』

 紅児はそれに笑顔で応える。姫はまた紅夏に目を向けた。

『そこにいるのは朱雀様の眷属か。花嫁殿と同じく見事な髪じゃの』

 紅夏は紅児の後ろに控えていた。声をかけられたからといって特に反応もしない。紅夏は紅児以外に興味が全くないので返事をすることはなかった。それを姫は別の利用だと勘違いしたようだった。

『四神の眷属よ、わらわと言葉を交わす権利を与えよう』

 艶やかな笑みを浮かべて姫が言う。あちゃー、と香子は思った。シーザン王国であれば名誉とされるであろうそれも、四神の眷属からすると迷惑でしかないだろう。紅夏の目が鋭く細められたのを見てまずいと思ったのか、シーザン王が慌てて声を上げた。

『ドルマ、黙りなさい。皇帝陛下と四神の御前であるぞ』

 姫は不満そうに口を尖らせたがシーザン王の言葉にしぶしぶ従った。しかし何が問題だったのかは全くわかっていないようである。

『陛下、白虎様、花嫁様、娘がたいへんな失礼を。まだ成人前の未熟者にてどうかご寛恕を』

 シーザン王が深々と頭を下げた。その顔は青ざめている。ようやく誰に向かって口をきいているのか理解したようだが、それでもこれは形だけでまだ諦めてはいないようだった。

〈許す、とおっしゃってください〉

 白虎に密着していることで、香子は白虎に心話で話しかけた。

〈よいのか〉
〈波風を立てるほどではございません。相手は一国の王です。恥をかかせるわけにはいきません〉
『許す』

 白虎が応えた。シーザン王はしばらく伏した後ゆっくりと頭を上げた。だがその後はやはりいただけなかった。
 シーザン王は四神の眷属を姫の婿に迎えたいと言い出した。四神宮に来た眷属たちがことごとく人と番うのを知って、それならばと思ったようだった。シーザン王国は大唐の西側に位置している。そこは白虎の領地と隣接している為その付近には恩恵があるが、国全体は貧しいと訴えた。四神の眷属を婿に迎えることで四神の加護を受けたいと、少しだけもってまわった言い方で述べた。

〈白虎様、眷属が一人婿に行ったからって四神の加護が及ぶものなんですか?〉
〈一人ではせいぜい王宮の範囲ぐらいだろうな。眷属だけでは数がおらねばどうにもならぬ〉

 やはりそんなうまい話はなさそうである。どちらにせよ紅夏がシーザンの姫に婿入りすることなどありえない。
 香子はこっそり白虎と話しながらお茶を飲む。お茶は相変わらずおいしかった。

〈多分眷属のあり方とか説明しないと理解しませんよね。白雲に頼めます?〉
〈説明させよう〉

 白虎は楽しそうな顔をして、白雲に声をかけた。

『白雲、どうだ?』

 その面白がるような言い方に、白雲は一瞬眉を寄せた。そして苦笑し、眷属についての説明を丁寧にしはじめた。
 結局のところ、四神の眷属を人がどうこうできるはずがないということがわかったようで、結果的にシーザン王は引き下がった。シーザンの姫はそれに柳眉を逆立てたが、シーザン王の言葉は覆らない。
 いろいろな話を聞かされて紅児が疲れているのに気づき、香子はこれ幸いとその場を辞した。シーザンの姫が香子を引き留めようとしたが香子はそれを跳ねのけた。もう付き合う義理はないはずである。あと一度ぐらいはお茶を共にしてもいいかもしれないと香子は思ったが、誘われなければこれで終りだった。
 御花園を出た途端紅夏が紅児を抱き上げた。これはまずい、と香子は思った。連れて来なければよかったと思ったがもう後の祭りである。

(エリーザ、ごめんなさい)

 香子は内心謝った。

『紅夏、先に戻りなさい』
『ありがとうございます』

 紅夏は礼を言うと、飛ぶような速さで紅児を抱いて戻って行った。

香子シャンズ、我らも戻ろうぞ』
『はい。もう少しこの庭園を見とうございます。ゆるりと歩いて戻りましょう』
『……そなたにはかなわぬな』

 白虎が苦笑する。大して先延ばしはできないとわかっていたが、香子は御花園の色鮮やかな草木を眺めたのだった。
しおりを挟む
感想 94

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です

氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。 英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

処理中です...