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第3部 周りと仲良くしろと言われました

69.どうしてもいろいろ抱え込んでしまうのです

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 そんなわけで、丸二日香子はベッドから出られなかったのだ。
 白虎に抱かれている間は朱雀はサポートに徹していたようで、朝になったらもういなかった。
 そこらへんの線引きはすごいなと香子はぼんやり思う。四神同士は嫉妬しない。ただただ花嫁を求めるという不文律によって成されている。

(それこそが神様のプログラムなのかもしれないけどねー……)

 どうせ人間も遺伝子というプログラムの奴隷だと香子は思っているから、そこらへんはもうどうでもいい。

香子シャンズ、如何した?』

 ぼうっとしているように、白虎には見えたようだった。今朝はもう人型である。半ばぼうっとしていたことは確かなので、香子は白虎の胸に顔をすり寄せた。逞しい胸に惚れ惚れする。

(力を入れてない時は柔らかいんだよねー……)

 ふわふわなんだけど力を入れるとぎちぎちになるのが面白い。それが四神の身体にも反映されているのが不思議ではあった。

『……そなにかわいいことをすると、また抱いてしまうぞ』

 白虎は上機嫌だ。

『だめ、です……』

 唇が塞がれて甘い雰囲気にはなったが、今日も香子の盛大な腹の音で中断された。おなかがすくというのもいいものだなと香子は再認識した。食事を必要とする為に、必ず中断せざるをえないからである。
 食堂で香子が食事をできるのは昼食からだ。

『ボースーからの使者、ですか?』
『話だけでも、と言われたそうです』

 白雲がしれっと大事なことを告げた。

『昨日そんな話がこちらに回ってきたと?』
『はい、なんでもボースーからの使者だけでなくオロスの国王も、と』

 香子は頭が痛くなるのを感じた。食後だからいいが、食事前に聞いたらげんなりしそうな話である。

『断れ』

 白虎が即答する。

『承知しました』
『……内容だけ聞いておいてもらうことはできますか? それがもしこの大陸に関わる重要な事柄であったら困りますから』

 わざわざ中書省を通してきたのだ。そちらからの方が話が通る可能性が高いとはいえ、普通ではないと香子は感じた。オロス王であれば皇帝に直接掛け合えばいいだけのこと。もちろん皇帝には断るようには言いつけてあるが、それ故に何も話が上がってこないのである。理由や内容だけでも聞いておいてもらってもいいかもしれないと思いつつ、その内容がくだらないものだったらと思うと、香子も二の足を踏んでしまう。

『承知しました』

 白雲が下がった。

『……重要な事柄など話されたところで対処はできぬが?』

 玄武がぼそりと呟いた。そんなことは香子だってわかっている。四神はただそこに在るだけだ。

『それはそうなんですけど、私にとっては重要かもしれないじゃないですか?』

 香子は知りたいだけである。

『香子……我の予想だが、そなに重要なことなどない』

 朱雀も言う。香子は首を傾げた。

『せいぜい、縁談を持ってくるぐらいですかね?』
(持って来られても困るけど)

 大陸の王たちが四神に面会を求める理由など、神を間近で感じたいということ以外ではシーザン王がシーザンの姫を連れてきたことが全てである。平時であるからこそそれぐらいしかないわけだが、それはそれで厄介だと香子はげんなりした。
 そうでなくても全てが伝言ゲームである。白雲が四神宮の主官である趙文英に伝えて、趙が中書省の王英明に伝えてからの話だ。返事が来るまでに何日かかるのだろうか。
 明日は張錦飛老師が来ることになっている。香子はそれを楽しみに思い、各国の王たちの思惑は忘れることにした。


『筆の動きに乱れがございますな』

 張にはすぐ見抜かれてしまい、香子は内心嘆息した。どうもこの、返事を待つという時間が香子にとっては苦痛である。そうでなくとも天皇からは全く音沙汰がないまま、まもなく九月を迎えようとしているから猶更だった。(旧暦の九月なので実際には十月上旬から中旬辺り)

『……申し訳ありません』
『今日はこの辺でやめておきましょう。また次までに練習をしていただければよろしい』
『……ありがとうございました』

 張はそう言うが、全くもってうまくならないのが不甲斐ないと香子は思う。もちろん本当に全くうまくなっていないわけではない。元々香子の筆使いがひどすぎたというだけの話である。やりたくないからと極力避けてきたツケをここで払っているかんじだ。

(筆の国の人じゃないもん! シャーペンとボールペンがあれば事足りたんだもん!)

 自分で自分に言い訳をしながら、片付けをして張とお茶をすることにした。
 場所は四神宮の庭である。世間はとても過ごしやすい気候だろう。四神宮の中は常に快適空間なので、あまり季節を感じられないところが困ったものだと香子は思う。もちろんこれはただの贅沢である。

『花嫁様はまた何を悩んでおいでかな?』

 お茶を一口飲んで、張がのんびりと聞いた。

『悩む、というほどのことではないのですが……各国の王たちは何を考えているのかと……』
『第一は自国のことでございましょうなぁ。平時はその限りではございませんが』
『ですよね』

 平時はとかく余計なことを考えがちだ。人間の欲には限りがない。

『もうしばらくもすれば各国の王は自国に戻られるに違いありません。花嫁様が悩まれる必要はないでしょう』

 言われてみればそうだ。

『……抱え込む方が愚かですね』

 それでも香子は考えずにいられないのだが。もう各国の王についてはどうでもいい。今思うのは紅児の国のことである。
 考えない考えないと思っても、紅児の国からの返事が気になって仕方ない。これでは紅児に落ち着けなどと言えないではないかと香子は思う。

『花嫁様が抱え込まなければならないことなどございません。四神はたいへんでしょうなぁ』

 張はそう言ってほっほっほっと笑った。やっぱりバルタン星人かなと香子は思った。
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