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第3部 周りと仲良くしろと言われました
97.夜空を飛んだことを思い出しています
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皇太后からの再度の返信は翌朝届けられた。今日の午後に皇太后の元へ来るようにと書かれていたようだった。
『慈寧宮へお伺いすればいいのかしら』
『はい』
延夕玲が答えた。
昼食は食べてからなので早くても未の正刻(午後二時)以降に伺うことになる。そんなアバウトでいいのかと思うのだが、先ぶれを三十分ぐらい前にすればいいらしい。皇太后にもだいぶ余裕が出てきたみたいだと香子は思った。
朝食の後、部屋に戻って少ししてから白虎が迎えにきた。そのまま室に連れて行かれたので、香子は白虎にもふらせてほしいとお願いした。
『癒しが必要なんです~』
『ならば今宵は我とも過ごしてもらおうか』
白虎がクックッと笑いながら言う。
『……まずは予定の確認をさせてください。明日って……』
『明日、花嫁様の予定は入っておりません』
白雲がしれっと教えてくれた。なんかもう白雲が香子の秘書っぽくなりつつある。侍女頭の陳から聞いているのだろうか。
『あら、そう? ありがとう』
白雲に礼を言ってから、余計なことをとちょっとだけ香子は思った。これで夜は白虎とも過ごすことになってしまった。嫌なわけではないが、香子としても複雑なのである。
約束通り寝室でもふもふに顔を埋めながら、香子は昨夜のことを思い出していた。
青龍の背に乗って見る王都は、多少飛べばすぐに真っ暗になって何も見えなくなる。
『青龍様はこんなに暗くても見えるのですか』
『見える』
香子の目には本当に何も見えない。けれどこの暗闇が香子は嫌いではなかった。それは青龍と一緒にいるからだろうということも、香子にはわかっていた。
『私が暮らしていた北京も、それほど明るくはなかったんです。でもここまで暗くはなかった……』
目が慣れてくれば夜の闇も天上が紺色で美しく見えるし、輝く星で多少は明るく見える。でもその光は地上には届かないから、やっぱりあまり地上が見えはしない。
『夜目が利くようになればいいのに』
そうしたら、世界は白黒かもしれないけどもっと見えるようになるのにと、香子は少し残念に思った。
『あ、でも夜目が利いたら利いたで昼間は眩しく感じられるのかしら? 昼間は普通に見えるけど、夜もよく見えるようになるとかって都合がよすぎるかしら?』
そんな独り言を呟いていたら、なんだか、徐々にいろんなものが見えてきたような気がした。
『あれ?』
香子は青龍の背に乗ったまま首を傾げた。
『香子、如何した?』
『なんだか……とてもよく見えるようになってきた気がします……』
『ならばそなたの願いが届いたのだろう』
『ええー……?』
それってどうなのよ? と香子は疑問に思う。大体香子を管理している神は誰なのだろう。天皇が香子を召喚したのではないのか。では香子の身体を変えているのは誰なのだろう。
『青龍様……どなたに願いが届いたのでしょうか?』
おそるおそる聞いてみたら、
『そなたを好ましく思う神々だ』
という返事があった。
神々? と更に謎が深まってしまった。
『青龍様、具体的な神の名前はご存知ですか?』
『……人間がどう呼んでいるかなど知らぬ』
ですよねー。
『だが……人皇も地皇もすることがなければ力を貸してくれるだろう』
三皇ってなんなんだろうと香子は頭が痛くなるのを感じた。とはいえ夜目が利くようになったのは素直に嬉しい。
(夜目が利くようになったのはとても嬉しいです。ありがとうございます)
心の中で天に向けて礼を言い、今ならばと香子は思った。
『……青龍様、私……長城を見てきたいのですが、可能ですか?』
『上を飛んでいけばよいか』
『はい、そんなに長い時間は無理だと思うので、少しだけ飛んでいただけるとありがたいです』
本当は嘉峪関の方までも見に行きたい気もするが、それは誰かと結婚してから連れて行ってもらおうと香子は考えた。
『遠慮はせずともよい。そなたが望むだけ飛ぼう』
『でも……』
『今宵ぐらいは兄らも許してくれるはずだ』
『はい……ありがとうございます』
香子は泣きそうになった。四神はどこまでも香子に甘い。香子が無理だと思うことを言っても、できるだけ叶えてくれようとする。大祭の参加については確かにとても渋られたけれど、それでも香子の希望を叶えてくれた。
『玄武様たちに伝えていただけますか? 長城を見てから帰ると。遅くなるかもしれないって』
『ああ、伝えておこう』
万里の長城の近くまで青龍に飛んでもらい、暗い中城壁を眺めた。今夜は山海関の方まで青龍は飛んだ。こちらの世界の夜の海の様子に香子は震えた。
『すごい……』
こんなところまで兵士がいて、北を見張っているなんて。この大陸の北にはオロス国がある。オロス国との間には遊牧の部族がいるらしく、国境付近ではたびたび略奪などをするのだと張錦飛にも教えてもらった。
この国で生きていくのだと、香子はやっと実感が湧いてきたようだった。
そんなことを思い出しながら、香子は白虎の毛にぐりぐりと顔をすり寄せたのだった。
ーーーーーー
香子の夜目が利くようになった!
三皇 中国古代の伝説上の三人の聖なる帝王。伏羲(ふっき)・女媧(じょか)・神農(しんのう)。あるいは、伏羲・神農・黄帝、または天皇氏・地皇氏・人皇氏などともいう。
(情報精選版 日本国語大辞典より抜粋)
『慈寧宮へお伺いすればいいのかしら』
『はい』
延夕玲が答えた。
昼食は食べてからなので早くても未の正刻(午後二時)以降に伺うことになる。そんなアバウトでいいのかと思うのだが、先ぶれを三十分ぐらい前にすればいいらしい。皇太后にもだいぶ余裕が出てきたみたいだと香子は思った。
朝食の後、部屋に戻って少ししてから白虎が迎えにきた。そのまま室に連れて行かれたので、香子は白虎にもふらせてほしいとお願いした。
『癒しが必要なんです~』
『ならば今宵は我とも過ごしてもらおうか』
白虎がクックッと笑いながら言う。
『……まずは予定の確認をさせてください。明日って……』
『明日、花嫁様の予定は入っておりません』
白雲がしれっと教えてくれた。なんかもう白雲が香子の秘書っぽくなりつつある。侍女頭の陳から聞いているのだろうか。
『あら、そう? ありがとう』
白雲に礼を言ってから、余計なことをとちょっとだけ香子は思った。これで夜は白虎とも過ごすことになってしまった。嫌なわけではないが、香子としても複雑なのである。
約束通り寝室でもふもふに顔を埋めながら、香子は昨夜のことを思い出していた。
青龍の背に乗って見る王都は、多少飛べばすぐに真っ暗になって何も見えなくなる。
『青龍様はこんなに暗くても見えるのですか』
『見える』
香子の目には本当に何も見えない。けれどこの暗闇が香子は嫌いではなかった。それは青龍と一緒にいるからだろうということも、香子にはわかっていた。
『私が暮らしていた北京も、それほど明るくはなかったんです。でもここまで暗くはなかった……』
目が慣れてくれば夜の闇も天上が紺色で美しく見えるし、輝く星で多少は明るく見える。でもその光は地上には届かないから、やっぱりあまり地上が見えはしない。
『夜目が利くようになればいいのに』
そうしたら、世界は白黒かもしれないけどもっと見えるようになるのにと、香子は少し残念に思った。
『あ、でも夜目が利いたら利いたで昼間は眩しく感じられるのかしら? 昼間は普通に見えるけど、夜もよく見えるようになるとかって都合がよすぎるかしら?』
そんな独り言を呟いていたら、なんだか、徐々にいろんなものが見えてきたような気がした。
『あれ?』
香子は青龍の背に乗ったまま首を傾げた。
『香子、如何した?』
『なんだか……とてもよく見えるようになってきた気がします……』
『ならばそなたの願いが届いたのだろう』
『ええー……?』
それってどうなのよ? と香子は疑問に思う。大体香子を管理している神は誰なのだろう。天皇が香子を召喚したのではないのか。では香子の身体を変えているのは誰なのだろう。
『青龍様……どなたに願いが届いたのでしょうか?』
おそるおそる聞いてみたら、
『そなたを好ましく思う神々だ』
という返事があった。
神々? と更に謎が深まってしまった。
『青龍様、具体的な神の名前はご存知ですか?』
『……人間がどう呼んでいるかなど知らぬ』
ですよねー。
『だが……人皇も地皇もすることがなければ力を貸してくれるだろう』
三皇ってなんなんだろうと香子は頭が痛くなるのを感じた。とはいえ夜目が利くようになったのは素直に嬉しい。
(夜目が利くようになったのはとても嬉しいです。ありがとうございます)
心の中で天に向けて礼を言い、今ならばと香子は思った。
『……青龍様、私……長城を見てきたいのですが、可能ですか?』
『上を飛んでいけばよいか』
『はい、そんなに長い時間は無理だと思うので、少しだけ飛んでいただけるとありがたいです』
本当は嘉峪関の方までも見に行きたい気もするが、それは誰かと結婚してから連れて行ってもらおうと香子は考えた。
『遠慮はせずともよい。そなたが望むだけ飛ぼう』
『でも……』
『今宵ぐらいは兄らも許してくれるはずだ』
『はい……ありがとうございます』
香子は泣きそうになった。四神はどこまでも香子に甘い。香子が無理だと思うことを言っても、できるだけ叶えてくれようとする。大祭の参加については確かにとても渋られたけれど、それでも香子の希望を叶えてくれた。
『玄武様たちに伝えていただけますか? 長城を見てから帰ると。遅くなるかもしれないって』
『ああ、伝えておこう』
万里の長城の近くまで青龍に飛んでもらい、暗い中城壁を眺めた。今夜は山海関の方まで青龍は飛んだ。こちらの世界の夜の海の様子に香子は震えた。
『すごい……』
こんなところまで兵士がいて、北を見張っているなんて。この大陸の北にはオロス国がある。オロス国との間には遊牧の部族がいるらしく、国境付近ではたびたび略奪などをするのだと張錦飛にも教えてもらった。
この国で生きていくのだと、香子はやっと実感が湧いてきたようだった。
そんなことを思い出しながら、香子は白虎の毛にぐりぐりと顔をすり寄せたのだった。
ーーーーーー
香子の夜目が利くようになった!
三皇 中国古代の伝説上の三人の聖なる帝王。伏羲(ふっき)・女媧(じょか)・神農(しんのう)。あるいは、伏羲・神農・黄帝、または天皇氏・地皇氏・人皇氏などともいう。
(情報精選版 日本国語大辞典より抜粋)
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