異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

文字の大きさ
400 / 653
第3部 周りと仲良くしろと言われました

97.夜空を飛んだことを思い出しています

しおりを挟む
 皇太后からの再度の返信は翌朝届けられた。今日の午後に皇太后の元へ来るようにと書かれていたようだった。

『慈寧宮へお伺いすればいいのかしら』
『はい』

 延夕玲が答えた。
 昼食は食べてからなので早くても未の正刻(午後二時)以降に伺うことになる。そんなアバウトでいいのかと思うのだが、先ぶれを三十分ぐらい前にすればいいらしい。皇太后にもだいぶ余裕が出てきたみたいだと香子は思った。
 朝食の後、部屋に戻って少ししてから白虎が迎えにきた。そのまま室に連れて行かれたので、香子は白虎にもふらせてほしいとお願いした。

『癒しが必要なんです~』
『ならば今宵は我とも過ごしてもらおうか』

 白虎がクックッと笑いながら言う。

『……まずは予定の確認をさせてください。明日って……』
『明日、花嫁様の予定は入っておりません』

 白雲がしれっと教えてくれた。なんかもう白雲が香子の秘書っぽくなりつつある。侍女頭の陳から聞いているのだろうか。

『あら、そう? ありがとう』

 白雲に礼を言ってから、余計なことをとちょっとだけ香子は思った。これで夜は白虎とも過ごすことになってしまった。嫌なわけではないが、香子としても複雑なのである。
 約束通り寝室でもふもふに顔を埋めながら、香子は昨夜のことを思い出していた。
 青龍の背に乗って見る王都は、多少飛べばすぐに真っ暗になって何も見えなくなる。

『青龍様はこんなに暗くても見えるのですか』
『見える』

 香子の目には本当に何も見えない。けれどこの暗闇が香子は嫌いではなかった。それは青龍と一緒にいるからだろうということも、香子にはわかっていた。

『私が暮らしていた北京も、それほど明るくはなかったんです。でもここまで暗くはなかった……』

 目が慣れてくれば夜の闇も天上が紺色で美しく見えるし、輝く星で多少は明るく見える。でもその光は地上には届かないから、やっぱりあまり地上が見えはしない。

『夜目が利くようになればいいのに』

 そうしたら、世界は白黒かもしれないけどもっと見えるようになるのにと、香子は少し残念に思った。

『あ、でも夜目が利いたら利いたで昼間は眩しく感じられるのかしら? 昼間は普通に見えるけど、夜もよく見えるようになるとかって都合がよすぎるかしら?』

 そんな独り言を呟いていたら、なんだか、徐々にいろんなものが見えてきたような気がした。

『あれ?』

 香子は青龍の背に乗ったまま首を傾げた。

香子シャンズ、如何した?』
『なんだか……とてもよく見えるようになってきた気がします……』
『ならばそなたの願いが届いたのだろう』
『ええー……?』

 それってどうなのよ? と香子は疑問に思う。大体香子を管理している神は誰なのだろう。天皇ティエンホワンが香子を召喚したのではないのか。では香子の身体を変えているのは誰なのだろう。

『青龍様……どなたに願いが届いたのでしょうか?』

 おそるおそる聞いてみたら、

『そなたを好ましく思う神々だ』

 という返事があった。
 神々? と更に謎が深まってしまった。

『青龍様、具体的な神の名前はご存知ですか?』
『……人間がどう呼んでいるかなど知らぬ』

 ですよねー。

『だが……人皇も地皇もすることがなければ力を貸してくれるだろう』

 三皇ってなんなんだろうと香子は頭が痛くなるのを感じた。とはいえ夜目が利くようになったのは素直に嬉しい。

(夜目が利くようになったのはとても嬉しいです。ありがとうございます)

 心の中で天に向けて礼を言い、今ならばと香子は思った。

『……青龍様、私……長城を見てきたいのですが、可能ですか?』
『上を飛んでいけばよいか』
『はい、そんなに長い時間は無理だと思うので、少しだけ飛んでいただけるとありがたいです』

 本当は嘉峪関の方までも見に行きたい気もするが、それは誰かと結婚してから連れて行ってもらおうと香子は考えた。

『遠慮はせずともよい。そなたが望むだけ飛ぼう』
『でも……』
『今宵ぐらいは兄らも許してくれるはずだ』
『はい……ありがとうございます』

 香子は泣きそうになった。四神はどこまでも香子に甘い。香子が無理だと思うことを言っても、できるだけ叶えてくれようとする。大祭の参加については確かにとても渋られたけれど、それでも香子の希望を叶えてくれた。

『玄武様たちに伝えていただけますか? 長城を見てから帰ると。遅くなるかもしれないって』
『ああ、伝えておこう』

 万里の長城の近くまで青龍に飛んでもらい、暗い中城壁を眺めた。今夜は山海関の方まで青龍は飛んだ。こちらの世界の夜の海の様子に香子は震えた。

『すごい……』

 こんなところまで兵士がいて、北を見張っているなんて。この大陸の北にはオロス国がある。オロス国との間には遊牧の部族がいるらしく、国境付近ではたびたび略奪などをするのだと張錦飛にも教えてもらった。
 この国で生きていくのだと、香子はやっと実感が湧いてきたようだった。
 そんなことを思い出しながら、香子は白虎の毛にぐりぐりと顔をすり寄せたのだった。



ーーーーーー
香子の夜目が利くようになった!

三皇 中国古代の伝説上の三人の聖なる帝王。伏羲(ふっき)・女媧(じょか)・神農(しんのう)。あるいは、伏羲・神農・黄帝、または天皇氏・地皇氏・人皇氏などともいう。
(情報精選版 日本国語大辞典より抜粋)
しおりを挟む
感想 94

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です

氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。 英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

処理中です...