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第3部 周りと仲良くしろと言われました
107.もちろん書も習います
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翌朝、香子は張り切って朝食をいただいた。
張錦飛が来る日である。
『ご機嫌だな』
朱雀に言われ、香子は菜包(野菜まん)を喉に詰まらせそうになった。ここで下手に返事をしてしまうと会わせてもらえない可能性もあるのだ。そう考えると四神の扱いはまことに面倒である。
『この国の歴史とか、遺跡についての話も聞かせていただけるかもしれませんし。そういうことは、四神は不得手でしょう?』
『……そうだな。我らももう少しこの国の出来事などに意識を割けばよかったと後悔しているところだ』
玄武が苦笑してそう答えた。
『興味がないものはしかたありませんよ』
香子は笑んだ。この人からでなければ学べないとか、話ができないということに関しては四神もある程度は寛容だった。それは張が老人ということも関係しているだろう。もし香子の老師が若い男だったら絶対に認めなかったに違いない。
四神の香子への執着は普通ではないのだが、それはもうしょうがないと香子は諦めている。無体を強いられるわけでもないし、理解はできないまでも歩み寄ろうとしてくれる姿勢が嬉しいのだ。なんだかんだ言って香子は四神が好きなのである。
『昼の炒め物は庶民的なものが食べたいかも。焼二冬(タケノコとシイタケの旨煮)とか、清炒藕片(レンコン炒め)とか』
給仕で控えている侍女に聞こえるように言って、香子は大好物の春巻をこれでもかと食べた。香子が言ったメニューは、大学の側の食堂で食べられたものである。レンコンは水にさらされた気配もなく、すごい色をしていたが普通においしかった。さすがに四神宮で出されるレンコンメニューは真っ白である。
侍女が礼をし、外に控えている侍女と交替して玄武の室を出て行った。厨房へ伝えに行ったのだろう。申し訳ないけどありがたいなと香子は思った。
さて、そんな朝食を終えて着替えやら化粧やらしてもらい、落ち着いたところで張錦飛が訪ねてきた。
茶室はすでにそれ用に卓を運んでもらっており、まずは書を習う。
『ほう……復習をされたようですな』
『付け焼刃ですのでお恥ずかしい限りですが』
などと言いながら二刻ほどかけて真面目に練習した。
『この調子で練習していけば上達も見えて参りましょう』
『ありがとうございました』
書を習った後は卓を侍女たちに片付けさせて、そこでお茶をする。庭でお茶をしてもいいのだが、さすがに風が冷たくなってきていた。基本的に四神宮の中は快適な気候ではあるが、風などは普通に吹くし、陽射しなども季節のそれである。張が歳だということもあり、茶室でお茶をすることにした。
用意されるお茶もお茶菓子もいいものが出てきた。
『紅茶ですか。ここのところ寒くなって参りました。紅茶を飲むとどういうわけか身体が温まります』
『それはよかったです』
お茶を何口か啜ってから、香子は一昨日のことなどを張に話した。
傍から見るとそれは、お爺ちゃんに聞いて聞いてと話しかけている孫娘のようであった。
『張老師、私一昨日老仏爺と静宜園に行ってきたんです』
『おお、無事いらっしゃいましたか。如何でしたか?』
『紅葉が美しかったです。離宮なども、入りませんでしたけど外側から見られて嬉しかったです』
『花嫁様は建物がお好きでしたな』
『張老師は静宜園にはいらっしゃったことはないのでしたっけ?』
『はい、残念ながら』
本当に張老師は残念そうな顔をした。香山公園は皇室の避暑地なので、いくら歴史学者で四神の神官であろうとそう簡単に足を踏み入れることはできない。
『見に行きたいと思われたことはありますか?』
『もちろんですとも。香山寺は歴史ある建物です。さすがに皇室の避暑地を歴史研究の為に見学させてほしいとは言えませぬが……』
はぁと張老師はため息をついた。
『そうですよね……』
静宜園という名になってからそれほど歴史は古くないが、現在の香山寺が大永安寺という名で再建された時期から考えてもゆうに800年は経っている。他にも歴史ある建物が多数あるのだ。張が見に行きたくないわけがなかった。
『それもそうなんですけど、張老師は円明園について知っていることはありませんか?』
重い空気を払拭しようと、香子は話題を変えてみることにした。香子からしたらメインはそちらである。
『円明園、でございますか?』
張は目を白黒させた。
『確か、静宜園よりは近くにございましたな。あそこも……皇室の離宮でしたな』
『はい』
残念ながら張は香子ほど食いつきはよくなかった。
『円明園を参観されたいのですか? 確かあそこの建築物はセレスト王国やオロス国を真似ていると耳にしたことがございますが……』
『ああ……こちらの世界ではセレスト王国とかオロス国の建築を模したものになるんですね』
香子は納得した。それなら紅児に見せてみたいとも香子は思ったが、それをしていると今年中に見ることはできないだろうとも思った。なかなかうまくいかないものである。
『花嫁様はそういった建築にご興味がおありで?』
やはり張にとってはそれほど魅力的なものではなかったようだ。
『どういう建築でもいいのですが、実は元の世界の円明園は戦争が起きて遺跡がことごとく破壊されていたんです……』
しょんぼりして香子がそう告げた途端、張の目の色が変わった。
『戦争で? 遺跡が破壊……ですと……?』
『はい……ですからそれらの建築物を私は見ることができなかったんです……。だからせめてこちらの世界では見てみたいなって……』
『なんという愚かな真似を……花嫁様、是非ご覧になってください! わしからも皇上に上奏いたします!』
『あ、はい……ありがとうございます?』
いつにない張の勢いに、香子は目を瞬かせることしかできなかった。
ーーーーー
戦争で破壊されるとかありえない。
張錦飛が来る日である。
『ご機嫌だな』
朱雀に言われ、香子は菜包(野菜まん)を喉に詰まらせそうになった。ここで下手に返事をしてしまうと会わせてもらえない可能性もあるのだ。そう考えると四神の扱いはまことに面倒である。
『この国の歴史とか、遺跡についての話も聞かせていただけるかもしれませんし。そういうことは、四神は不得手でしょう?』
『……そうだな。我らももう少しこの国の出来事などに意識を割けばよかったと後悔しているところだ』
玄武が苦笑してそう答えた。
『興味がないものはしかたありませんよ』
香子は笑んだ。この人からでなければ学べないとか、話ができないということに関しては四神もある程度は寛容だった。それは張が老人ということも関係しているだろう。もし香子の老師が若い男だったら絶対に認めなかったに違いない。
四神の香子への執着は普通ではないのだが、それはもうしょうがないと香子は諦めている。無体を強いられるわけでもないし、理解はできないまでも歩み寄ろうとしてくれる姿勢が嬉しいのだ。なんだかんだ言って香子は四神が好きなのである。
『昼の炒め物は庶民的なものが食べたいかも。焼二冬(タケノコとシイタケの旨煮)とか、清炒藕片(レンコン炒め)とか』
給仕で控えている侍女に聞こえるように言って、香子は大好物の春巻をこれでもかと食べた。香子が言ったメニューは、大学の側の食堂で食べられたものである。レンコンは水にさらされた気配もなく、すごい色をしていたが普通においしかった。さすがに四神宮で出されるレンコンメニューは真っ白である。
侍女が礼をし、外に控えている侍女と交替して玄武の室を出て行った。厨房へ伝えに行ったのだろう。申し訳ないけどありがたいなと香子は思った。
さて、そんな朝食を終えて着替えやら化粧やらしてもらい、落ち着いたところで張錦飛が訪ねてきた。
茶室はすでにそれ用に卓を運んでもらっており、まずは書を習う。
『ほう……復習をされたようですな』
『付け焼刃ですのでお恥ずかしい限りですが』
などと言いながら二刻ほどかけて真面目に練習した。
『この調子で練習していけば上達も見えて参りましょう』
『ありがとうございました』
書を習った後は卓を侍女たちに片付けさせて、そこでお茶をする。庭でお茶をしてもいいのだが、さすがに風が冷たくなってきていた。基本的に四神宮の中は快適な気候ではあるが、風などは普通に吹くし、陽射しなども季節のそれである。張が歳だということもあり、茶室でお茶をすることにした。
用意されるお茶もお茶菓子もいいものが出てきた。
『紅茶ですか。ここのところ寒くなって参りました。紅茶を飲むとどういうわけか身体が温まります』
『それはよかったです』
お茶を何口か啜ってから、香子は一昨日のことなどを張に話した。
傍から見るとそれは、お爺ちゃんに聞いて聞いてと話しかけている孫娘のようであった。
『張老師、私一昨日老仏爺と静宜園に行ってきたんです』
『おお、無事いらっしゃいましたか。如何でしたか?』
『紅葉が美しかったです。離宮なども、入りませんでしたけど外側から見られて嬉しかったです』
『花嫁様は建物がお好きでしたな』
『張老師は静宜園にはいらっしゃったことはないのでしたっけ?』
『はい、残念ながら』
本当に張老師は残念そうな顔をした。香山公園は皇室の避暑地なので、いくら歴史学者で四神の神官であろうとそう簡単に足を踏み入れることはできない。
『見に行きたいと思われたことはありますか?』
『もちろんですとも。香山寺は歴史ある建物です。さすがに皇室の避暑地を歴史研究の為に見学させてほしいとは言えませぬが……』
はぁと張老師はため息をついた。
『そうですよね……』
静宜園という名になってからそれほど歴史は古くないが、現在の香山寺が大永安寺という名で再建された時期から考えてもゆうに800年は経っている。他にも歴史ある建物が多数あるのだ。張が見に行きたくないわけがなかった。
『それもそうなんですけど、張老師は円明園について知っていることはありませんか?』
重い空気を払拭しようと、香子は話題を変えてみることにした。香子からしたらメインはそちらである。
『円明園、でございますか?』
張は目を白黒させた。
『確か、静宜園よりは近くにございましたな。あそこも……皇室の離宮でしたな』
『はい』
残念ながら張は香子ほど食いつきはよくなかった。
『円明園を参観されたいのですか? 確かあそこの建築物はセレスト王国やオロス国を真似ていると耳にしたことがございますが……』
『ああ……こちらの世界ではセレスト王国とかオロス国の建築を模したものになるんですね』
香子は納得した。それなら紅児に見せてみたいとも香子は思ったが、それをしていると今年中に見ることはできないだろうとも思った。なかなかうまくいかないものである。
『花嫁様はそういった建築にご興味がおありで?』
やはり張にとってはそれほど魅力的なものではなかったようだ。
『どういう建築でもいいのですが、実は元の世界の円明園は戦争が起きて遺跡がことごとく破壊されていたんです……』
しょんぼりして香子がそう告げた途端、張の目の色が変わった。
『戦争で? 遺跡が破壊……ですと……?』
『はい……ですからそれらの建築物を私は見ることができなかったんです……。だからせめてこちらの世界では見てみたいなって……』
『なんという愚かな真似を……花嫁様、是非ご覧になってください! わしからも皇上に上奏いたします!』
『あ、はい……ありがとうございます?』
いつにない張の勢いに、香子は目を瞬かせることしかできなかった。
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戦争で破壊されるとかありえない。
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