434 / 653
第3部 周りと仲良くしろと言われました
131.帰ってきたので、話を聞いてみました
しおりを挟む
謁見の間ではしっかりと紅児を観察はしなかった。
謁見の間は少し暗いのだ。また後で紅児たちが挨拶に来るであろうことはわかっているので、香子は敢えて観察するのは避けたのである。だが、髪の色は香子と同じ色になっているように見えた。
そうなるには……と考えただけで香子は血圧が上がりそうだと思った。
それが必要だということも、香子はわかっている。だがこういうのは理屈ではないのだ。
午後、白虎の室でお茶をしていたら紅児が訪ねてきた。紅夏に抱かれて。
『おかえりなさい。……紅夏、さすがに四神宮の中で抱き上げるのはどうかと思うわよ?』
『やっと”つがい”を手に入れたのです。まだエリーザは復職しておりませんので、よろしいではありませんか』
香子は頭が痛くなるのを感じた。
『……エリーザが恥ずかしがってるじゃないの』
風紀うんぬんとか、香子の気持ちとかもあるのだが、一番は紅児が恥ずかしがっているのがひどく甘酸っぱいのである。
『エリーザ、嫌か?』
『い、嫌だって……言ってるじゃないですか。……四神宮の中は、その……』
『そうか。善処しよう』
『それ絶対聞く気ないでしょう?』
四神や眷属の言う「善処」はする気がないことが多いので香子はすかさず突っ込んだ。
『”つがい”が大事なら”つがい”の言うことも聞くべきだと思うけど?』
そう言うと紅夏に睨まれた。怖いなぁと香子は思った。白虎は苦笑した。
『香子、あまりいじめてやるな。白雲、”つがい”については我は知らぬ。香子に説明してやれ』
『はい』
それについては紅児も興味津々な様子で聞いた。
”つがい”と結婚した眷属は独占欲が強くなり、普通ならば一歩も表に出さないようにするのだそうだ。だから紅夏が紅児を四神宮で働かせるなどというのは異例のことであり、本来ならば領地へ連れ帰ってずっと抱いているものなのだとか。
それを聞いた紅児は蒼褪めた。
『わ、私……もしかして早まったのでは……』
『別れることはできぬぞ』
紅夏はそう言って紅児を抱き込んだ。
『……はい』
紅児は真っ赤だった。なんだかんだいって紅児は紅夏のことを好きになってしまっている。だから香子は嘆息した。もうごちそうさまと言いたい心境だった。
『一応報告は聞いたけど、紅夏に直接状況を話してもらえるかしら?』
『はい』
あの日、馬車に乗って郊外まで出てからは紅児を抱いて天津まで走った。そこで待っていた馬車と落ち合い、紅児の叔父の元へ向かった。その日のうちに船着き場へ移動し、船に乗ろうとはしてみたが、紅児が恐慌状態になったので今回は見送ることにした。
翌朝船着き場で叔父を見送った、というのが一連の流れである。
『エリーザの叔父が気になることは言っていましたが、エリーザが船に乗れるようにならなければ真偽のほどはわかりません』
『気になること?』
『エリーザの叔父が言うには、エリーザの母君は潔白だと』
香子は眉を寄せた。
『ってことは、エリーザのお母さんは叔父さんとは結婚してないってこと?』
『おそらくそういうことでないかと思われます』
『ふうん。じゃあ、エリーザの叔父さんは嘘をついたのね』
香子は二人をじっと見つめた。
これはあくまで想像に過ぎないが、はるばる姪の消息を訪ねてやってきた叔父は、二人の仲睦まじい様子を見て腹が立ったのだろう。紅児の叔父が紅児の母親に懸想をしているのは間違いなさそうだし、と香子は思った。
『どうして……叔父はそんな嘘をついたのでしょう……』
『たぶん、エリーザが紅夏と幸せそうにしているのを見て嫉妬したんじゃないかしら?』
『ええっ!?』
『もしそうならそうで、大人げないけどね……』
香子は苦笑した。
紅児の叔父ではないからその心理はわからないが、想像することはできる。紅児の叔父は妻を亡くし、子どもを抱え、紅児の母を支えてきたのだろう。姪の消息を聞いて、二か月もかけて唐にやってくれば姪がとても幸せそうにしている。紅児のせいではないが男まで作って、という奴だろう。紅児からしたら災難だが、おおよそそんなかんじだったのではないだろうか。
『なんにせよ、お疲れ様。今日のところはゆっくり休んでね。いつから職務復帰するかは趙や夕玲と相談してちょうだい』
『わかりました』
『ありがとうございます』
紅児たちが退室して、香子はほっとした。
『やっぱり乗れなかったのかぁ……。一度船に乗れなくなった人が、また乗れるようになる方法ってないんですかね?』
『できぬことはないが……だいぶ荒療治にはなるな』
『荒療治じゃ困りますよ』
白虎の返答に香子は苦笑した。
『いろいろ、うまくいくといいですよね。ってことで、白虎様はもふらせてください!』
『……何故そうなる?』
『癒しが必要なのです。あ、どなたかお呼びしていただいても?』
白虎は大仰に嘆息した。
『……そなたにはかなわぬな』
香子はにっこりした。
こういう時は女の言うことを聞くべきである。そしてそれは白虎もやぶさかではなかった。
ーーーーー
「貴方色に染まる」の本編は115話で完結しています。(その後の番外編も含めて完結済)
お付き合いありがとうございました。
恋愛小説大賞応援ありがとうございました!
2/28 「森のくまさんと元OL」キャラ文芸大賞、読者賞ありがとうございました!
謁見の間は少し暗いのだ。また後で紅児たちが挨拶に来るであろうことはわかっているので、香子は敢えて観察するのは避けたのである。だが、髪の色は香子と同じ色になっているように見えた。
そうなるには……と考えただけで香子は血圧が上がりそうだと思った。
それが必要だということも、香子はわかっている。だがこういうのは理屈ではないのだ。
午後、白虎の室でお茶をしていたら紅児が訪ねてきた。紅夏に抱かれて。
『おかえりなさい。……紅夏、さすがに四神宮の中で抱き上げるのはどうかと思うわよ?』
『やっと”つがい”を手に入れたのです。まだエリーザは復職しておりませんので、よろしいではありませんか』
香子は頭が痛くなるのを感じた。
『……エリーザが恥ずかしがってるじゃないの』
風紀うんぬんとか、香子の気持ちとかもあるのだが、一番は紅児が恥ずかしがっているのがひどく甘酸っぱいのである。
『エリーザ、嫌か?』
『い、嫌だって……言ってるじゃないですか。……四神宮の中は、その……』
『そうか。善処しよう』
『それ絶対聞く気ないでしょう?』
四神や眷属の言う「善処」はする気がないことが多いので香子はすかさず突っ込んだ。
『”つがい”が大事なら”つがい”の言うことも聞くべきだと思うけど?』
そう言うと紅夏に睨まれた。怖いなぁと香子は思った。白虎は苦笑した。
『香子、あまりいじめてやるな。白雲、”つがい”については我は知らぬ。香子に説明してやれ』
『はい』
それについては紅児も興味津々な様子で聞いた。
”つがい”と結婚した眷属は独占欲が強くなり、普通ならば一歩も表に出さないようにするのだそうだ。だから紅夏が紅児を四神宮で働かせるなどというのは異例のことであり、本来ならば領地へ連れ帰ってずっと抱いているものなのだとか。
それを聞いた紅児は蒼褪めた。
『わ、私……もしかして早まったのでは……』
『別れることはできぬぞ』
紅夏はそう言って紅児を抱き込んだ。
『……はい』
紅児は真っ赤だった。なんだかんだいって紅児は紅夏のことを好きになってしまっている。だから香子は嘆息した。もうごちそうさまと言いたい心境だった。
『一応報告は聞いたけど、紅夏に直接状況を話してもらえるかしら?』
『はい』
あの日、馬車に乗って郊外まで出てからは紅児を抱いて天津まで走った。そこで待っていた馬車と落ち合い、紅児の叔父の元へ向かった。その日のうちに船着き場へ移動し、船に乗ろうとはしてみたが、紅児が恐慌状態になったので今回は見送ることにした。
翌朝船着き場で叔父を見送った、というのが一連の流れである。
『エリーザの叔父が気になることは言っていましたが、エリーザが船に乗れるようにならなければ真偽のほどはわかりません』
『気になること?』
『エリーザの叔父が言うには、エリーザの母君は潔白だと』
香子は眉を寄せた。
『ってことは、エリーザのお母さんは叔父さんとは結婚してないってこと?』
『おそらくそういうことでないかと思われます』
『ふうん。じゃあ、エリーザの叔父さんは嘘をついたのね』
香子は二人をじっと見つめた。
これはあくまで想像に過ぎないが、はるばる姪の消息を訪ねてやってきた叔父は、二人の仲睦まじい様子を見て腹が立ったのだろう。紅児の叔父が紅児の母親に懸想をしているのは間違いなさそうだし、と香子は思った。
『どうして……叔父はそんな嘘をついたのでしょう……』
『たぶん、エリーザが紅夏と幸せそうにしているのを見て嫉妬したんじゃないかしら?』
『ええっ!?』
『もしそうならそうで、大人げないけどね……』
香子は苦笑した。
紅児の叔父ではないからその心理はわからないが、想像することはできる。紅児の叔父は妻を亡くし、子どもを抱え、紅児の母を支えてきたのだろう。姪の消息を聞いて、二か月もかけて唐にやってくれば姪がとても幸せそうにしている。紅児のせいではないが男まで作って、という奴だろう。紅児からしたら災難だが、おおよそそんなかんじだったのではないだろうか。
『なんにせよ、お疲れ様。今日のところはゆっくり休んでね。いつから職務復帰するかは趙や夕玲と相談してちょうだい』
『わかりました』
『ありがとうございます』
紅児たちが退室して、香子はほっとした。
『やっぱり乗れなかったのかぁ……。一度船に乗れなくなった人が、また乗れるようになる方法ってないんですかね?』
『できぬことはないが……だいぶ荒療治にはなるな』
『荒療治じゃ困りますよ』
白虎の返答に香子は苦笑した。
『いろいろ、うまくいくといいですよね。ってことで、白虎様はもふらせてください!』
『……何故そうなる?』
『癒しが必要なのです。あ、どなたかお呼びしていただいても?』
白虎は大仰に嘆息した。
『……そなたにはかなわぬな』
香子はにっこりした。
こういう時は女の言うことを聞くべきである。そしてそれは白虎もやぶさかではなかった。
ーーーーー
「貴方色に染まる」の本編は115話で完結しています。(その後の番外編も含めて完結済)
お付き合いありがとうございました。
恋愛小説大賞応援ありがとうございました!
2/28 「森のくまさんと元OL」キャラ文芸大賞、読者賞ありがとうございました!
14
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です
氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。
英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる