433 / 653
第3部 周りと仲良くしろと言われました
130.無事帰ってきました
しおりを挟む
戻ってきたことは聞いたが、香子は紅児たちを敢えて呼び出したりはしなかった。
いろいろ準備などもあるだろうし、昼食後でいいかなと思ったのだ。先送りにしている自覚はあるが、急ぐことではないと香子は思ったのだ。だがさすがにそれではまずいと誰かが思ったのか、朱雀が茶室に訪れた。
今日は白虎と過ごす日だから、朱雀が来たのは珍しいと香子は思った。
『朱雀様? 如何か……』
『紅夏が”つがい”を連れて戻ってきた。謁見の間へ向かうぞ』
『えええ?』
朱雀に抱き上げられた。
『帰着の挨拶なんて……』
『戻ってきたことは知っていよう?』
『ですが、急ぐことでもないかなと……』
朱雀がクックッと笑った。
『出て行った者が戻ってきたのだ。手順は踏まねばなるまい』
『あー……』
そういえば二人を送り出したのも謁見の間だった。だから迎え入れるにもそこを通さなければいけないわけで。
『面倒ですね?』
『そうだな』
朱雀は香子を抱いて歩きながら、楽しそうに笑った。
『そういうことは、人としては大事なことではないのか? 我にはわからぬが……』
『多分大事なことかとは存じますが……面倒は面倒ですよ?』
そんなことを言い合いながら謁見の間に向かえば、紅夏と紅児が平伏していた。
『陵光神君、万歳万歳万々歳! 白香娘娘、千歳千歳千々歳!』
趙文英、そして紅夏と紅児がそう唱えたのを聞いて、香子は目を丸くした。そういえば最近省略はさせていたけれども、そういう立場であったことを香子はやっと思い出した。
『平身(なおれ)』
朱雀が当たり前のように告げる。
『謝神君!(ありがとうございます)』
趙、紅夏、紅児が立ち上がり、頭を下げるようにした。
(わー、やっぱ時代劇っぽいー)
と香子は思った。香子は中国の時代劇が大好きである。
『して、此度戻ってきたのは何故か』
『はっ。先だって使いを出した通りにございます。そこなエリーザは許されるならば、再度花嫁様にお仕えしたいと申しております』
『そうか。香子、そなたはどうしたい?』
朱雀に聞かれて香子は頷いた。
『エリーザがまた私に仕えてくれるのならば、お願いしたいと思います』
『よかろう。まずは長旅の疲れを癒すがよい』
朱雀はそう言って踵を返した。ここで言えるのはそれぐらいである。でも香子は朱雀が、香子に配慮してくれたことが嬉しかった。面倒なやりとりは大分省略した為その程度で済んだといえよう。
本来ならば趙が口上を述べたりといろいろ手順はあるのだが、四神はそれらを嫌っている。いろいろ省略できてよかったと香子は思った。
そろそろ昼ということで部屋に一旦戻り、また侍女たちの着せ替え人形にされた。
『朱雀様は困りますわ』
『え? 何かあったかしら?』
『せっかく謁見の間に向かわれるのに、花嫁様の着替えもさせてくださらないのですから』
侍女から恨み言を聞かされて香子は戦慄した。
『……え?』
『いいですか花嫁様。習い事をした後は必ず着替えなければなりません。書を習ったということは墨の匂いが衣類についております。その匂いをさせながら謁見の間に向かうなんて言語道断です!』
『は、はい……』
侍女たちは、張に書を習った後は着替えろと言っているらしい。今回は謁見もあったから着替えるのが当然であり、その後も表に出たのだから着替えなければならないというのだ。ここでちょうど昼食の時間だから着替えも一度でかまわないが、そうでなければもう一度着替えていただきたいなどとこんこんと説教をされてしまった。
『う、うーんと……そんなに着替えなくてもいいかなって私は思うのだけど……』
『花嫁様は素材がいいのですから着飾るべきです! 着替えの衣裳も沢山ございますから、他の時に着替えをしたいと思われた時はいつでもお声掛けくださいませ!』
『……はい』
侍女たちにはかないそうもなかった。
あれ? 一応私が主人なんじゃないのかな? とはちら、と思ったが、侍女たちは楽しんでいるようなのでいいことにした。
(でも、地味に着替えとかって体力使うよねー……)
普通に洋服を脱ぎ着するわけではないのでたいへんである。十二単を着せられているわけではないので重さはそれほどないが、布を贅沢に使われているので腕の動かし方が難しいと香子は思う。一応袖があまり広くない物を選んでもらってはいるが、ともすれば侍女たちは香子に何もさせないような衣裳を選びたがるので少し困る。
『袖は広くない服にしてね』
『はい』
何か言われることはないが、その何か言いたげな視線も困ると香子は思う。
その日の昼食もおいしかった。きのこをふんだんに使った料理に香子は舌鼓を打った。
『そろそろ鍋料理が食べたいかも。羊のしゃぶしゃぶもいいわね。もちろん羊だけじゃなくて、牛とか、豚も、野菜もいっぱい食べたいけど』
『そなたはほんに食べることが好きだな』
玄武がにこにこしながら言う。
『四神宮のごはん、おいしいですから』
香子はしれっと答える。給仕をする侍女たちは厨房へ香子の希望を伝えに行くのだった。
ーーーーー
陵光神君 朱雀
白香娘娘 香子
いろいろ準備などもあるだろうし、昼食後でいいかなと思ったのだ。先送りにしている自覚はあるが、急ぐことではないと香子は思ったのだ。だがさすがにそれではまずいと誰かが思ったのか、朱雀が茶室に訪れた。
今日は白虎と過ごす日だから、朱雀が来たのは珍しいと香子は思った。
『朱雀様? 如何か……』
『紅夏が”つがい”を連れて戻ってきた。謁見の間へ向かうぞ』
『えええ?』
朱雀に抱き上げられた。
『帰着の挨拶なんて……』
『戻ってきたことは知っていよう?』
『ですが、急ぐことでもないかなと……』
朱雀がクックッと笑った。
『出て行った者が戻ってきたのだ。手順は踏まねばなるまい』
『あー……』
そういえば二人を送り出したのも謁見の間だった。だから迎え入れるにもそこを通さなければいけないわけで。
『面倒ですね?』
『そうだな』
朱雀は香子を抱いて歩きながら、楽しそうに笑った。
『そういうことは、人としては大事なことではないのか? 我にはわからぬが……』
『多分大事なことかとは存じますが……面倒は面倒ですよ?』
そんなことを言い合いながら謁見の間に向かえば、紅夏と紅児が平伏していた。
『陵光神君、万歳万歳万々歳! 白香娘娘、千歳千歳千々歳!』
趙文英、そして紅夏と紅児がそう唱えたのを聞いて、香子は目を丸くした。そういえば最近省略はさせていたけれども、そういう立場であったことを香子はやっと思い出した。
『平身(なおれ)』
朱雀が当たり前のように告げる。
『謝神君!(ありがとうございます)』
趙、紅夏、紅児が立ち上がり、頭を下げるようにした。
(わー、やっぱ時代劇っぽいー)
と香子は思った。香子は中国の時代劇が大好きである。
『して、此度戻ってきたのは何故か』
『はっ。先だって使いを出した通りにございます。そこなエリーザは許されるならば、再度花嫁様にお仕えしたいと申しております』
『そうか。香子、そなたはどうしたい?』
朱雀に聞かれて香子は頷いた。
『エリーザがまた私に仕えてくれるのならば、お願いしたいと思います』
『よかろう。まずは長旅の疲れを癒すがよい』
朱雀はそう言って踵を返した。ここで言えるのはそれぐらいである。でも香子は朱雀が、香子に配慮してくれたことが嬉しかった。面倒なやりとりは大分省略した為その程度で済んだといえよう。
本来ならば趙が口上を述べたりといろいろ手順はあるのだが、四神はそれらを嫌っている。いろいろ省略できてよかったと香子は思った。
そろそろ昼ということで部屋に一旦戻り、また侍女たちの着せ替え人形にされた。
『朱雀様は困りますわ』
『え? 何かあったかしら?』
『せっかく謁見の間に向かわれるのに、花嫁様の着替えもさせてくださらないのですから』
侍女から恨み言を聞かされて香子は戦慄した。
『……え?』
『いいですか花嫁様。習い事をした後は必ず着替えなければなりません。書を習ったということは墨の匂いが衣類についております。その匂いをさせながら謁見の間に向かうなんて言語道断です!』
『は、はい……』
侍女たちは、張に書を習った後は着替えろと言っているらしい。今回は謁見もあったから着替えるのが当然であり、その後も表に出たのだから着替えなければならないというのだ。ここでちょうど昼食の時間だから着替えも一度でかまわないが、そうでなければもう一度着替えていただきたいなどとこんこんと説教をされてしまった。
『う、うーんと……そんなに着替えなくてもいいかなって私は思うのだけど……』
『花嫁様は素材がいいのですから着飾るべきです! 着替えの衣裳も沢山ございますから、他の時に着替えをしたいと思われた時はいつでもお声掛けくださいませ!』
『……はい』
侍女たちにはかないそうもなかった。
あれ? 一応私が主人なんじゃないのかな? とはちら、と思ったが、侍女たちは楽しんでいるようなのでいいことにした。
(でも、地味に着替えとかって体力使うよねー……)
普通に洋服を脱ぎ着するわけではないのでたいへんである。十二単を着せられているわけではないので重さはそれほどないが、布を贅沢に使われているので腕の動かし方が難しいと香子は思う。一応袖があまり広くない物を選んでもらってはいるが、ともすれば侍女たちは香子に何もさせないような衣裳を選びたがるので少し困る。
『袖は広くない服にしてね』
『はい』
何か言われることはないが、その何か言いたげな視線も困ると香子は思う。
その日の昼食もおいしかった。きのこをふんだんに使った料理に香子は舌鼓を打った。
『そろそろ鍋料理が食べたいかも。羊のしゃぶしゃぶもいいわね。もちろん羊だけじゃなくて、牛とか、豚も、野菜もいっぱい食べたいけど』
『そなたはほんに食べることが好きだな』
玄武がにこにこしながら言う。
『四神宮のごはん、おいしいですから』
香子はしれっと答える。給仕をする侍女たちは厨房へ香子の希望を伝えに行くのだった。
ーーーーー
陵光神君 朱雀
白香娘娘 香子
23
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です
氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。
英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる