432 / 653
第3部 周りと仲良くしろと言われました
129.妥協をしてはいけないそうです
しおりを挟む
……ひどい目にあった。
香子はそう思った。
四神の嫉妬は困るのである。しかも朱雀はわざとしたりもするから余計に香子は困ってしまう。
熱を与えられたら香子はもう逆らえない。香子が朱雀に縋りついて、熱をどうにかしてほしいと懇願するだけだ。
香子を抱く朱雀はひどく甘くて、そして意地悪で、どこまでも香子を蕩かす。
「んっんんっ……」
塞がれる口唇が甘い。香子はしっかりと朱雀の想いを受け入れさせられた。
夕飯の時間近くまでそうして抱かれていたせいか、夕飯を食べる為に一度部屋に戻された時には、侍女たちが真っ赤になり、それはそれで侍女たちがたいへんだった。
『花嫁様……花嫁様が四神と愛し合うのはとても喜ばしいことなのですが……その……』
さすがに延夕玲が顔を真っ赤にしながらごにょごにょ言った。
『うん……そうね。ごめんなさい……』
『花嫁様が謝ってはいけません』
(じゃあどうすれば……)
香子は俯くことしかできなかった。黒月は相変わらずのポーカーフェイスである。黒月には性欲っぽいものはないのだろうかと思ったけど、それを聞くのは憚られた。そういった眷属の生態というのは誰に聞けばいいのだろうと香子は首を傾げた。
でもまずは夕飯である。朱雀に抱かれた後軽くお菓子程度は摘まんだが、やはりおなかはすいている。
食べてから考えようと香子は思った。
部屋に迎えに来てくれたのは玄武だった。玄武は香子の様子を見ると満足そうに口角を上げ、香子を優しく抱き上げた。四神はみな香子を当たり前のように抱き上げるけど、一番安定感があるのは玄武だと香子は思っている。
(玄武様はでも、先代の花嫁には触れていないんだよね?)
どうしてこんなに安定感があるのだろう。玄武だから、そういう身体なのだろうか?
なんとなく聞いても玄武にはわからないような気がしたので、香子は聞かないことにした。四神がわからないことも沢山ある。香子だって自分の身体のことはわからないのだ。心の動きだってよくわからない。聞けば答えが出るものではないのだ。
『玄武様、ありがとうございます』
『礼など必要ないぞ』
『言いたかっただけです』
『そうか』
朱雀に散々いじめられたから、今夜は玄武にたっぷり甘えさせてもらおうと香子は思った。
紅児が紅夏に抱かれて戻ってきたのは三日後のことだった。
張に書を習い、
『今回はよくなりましたな』
と言われてほっとしてからのことである。それは知らせだけであったので、香子は書を習った後もいつも通り張錦飛とお茶をした。
『……あと何回、張老師から教えを受けられるのかと考えてしまいます……』
『そうですな……わしも老い先短い爺ですから、花嫁様が考えてしまわれるのも無理はないですな』
ほっほっほっと、相変わらずバルタン星人のように張が笑ったことで、香子はお互いの認識が違うらしいということに気づいた。
『ええと、すみません。老師の歳のことではなくて、私が四神宮にいられる時間のことを言っていました』
『ああ……それもそうでしたな。いや、花嫁様と話すのがあまりにも楽しくて、いつまでも四神宮にいてくださるようなつもりでおりました。面目ない』
張はそう言ってゆっくりと顎鬚を撫でた。
『一年、でしたか……そうなると来年の春までですか』
『そうですね』
長くても、来年の春までしか香子はここにいられない。
『たまにはこちらに来させていただけるとは思うのですが、もうこんなに頻繁には教えを乞うことができないと思うのです』
『それは確かに残念ですな』
張は少し考えるような顔をした。
『まだ決めかねているとおっしゃられていましたが……花嫁様はどの神に嫁がれるおつもりですかな?』
『……まだ、わかりません』
張は笑んだ。
『順調に四神と愛を深められていらっしゃるご様子、素晴らしいことだと存じます。花嫁様が嫁がれる先によっては、わしも神官故共に向かうこともできましょう』
『……そういえば、そうですね……』
張は玄武の神官だったような気がする。
だとしたら。
『ですが』
張は笑んだ。
『結婚するのは花嫁様です。いくら最終的にはどの神にも嫁がれる予定とはいえ、安易に決めてはなりませぬぞ? きちんと話し合い、どうか四神と想いを交わしてくださいませ。そうしていただけることが、この国の、ひいては民たちの未来に繋がります』
『……ありがとうございます』
張の言葉は香子に届いた。張は立場を明確にして物を言っている。それはとても好ましいことだと香子は思った。
国と、この国の民の為に、香子が納得いく答えを出した方がいいと言っているのだ。確かに香子がへんに妥協をして後悔するようなことになれば、先代の花嫁のように早く死にたくなってしまうかもしれない。
香子は自分が欲張りだということをよく知っている。
四神のこともそうだが、香子は可能ならば自分もみんなも納得できるようにしたいとは思っている。きれいごとだと言われればそうかもしれないが、ことは香子本人の結婚だ。
妥協しなくていいと言われたことが香子はとても嬉しかった。
今日の張との時間もとても有意義だった。張を見送ってから、香子は嘆息した。
紅児に会えるのは嬉しい。
ただほんの少しだけ複雑な気持ちを抱えている。
紅夏とどう過ごしたのかわかるだけに、それを目の当たりにするのはつらそうだなと思った。
香子はそう思った。
四神の嫉妬は困るのである。しかも朱雀はわざとしたりもするから余計に香子は困ってしまう。
熱を与えられたら香子はもう逆らえない。香子が朱雀に縋りついて、熱をどうにかしてほしいと懇願するだけだ。
香子を抱く朱雀はひどく甘くて、そして意地悪で、どこまでも香子を蕩かす。
「んっんんっ……」
塞がれる口唇が甘い。香子はしっかりと朱雀の想いを受け入れさせられた。
夕飯の時間近くまでそうして抱かれていたせいか、夕飯を食べる為に一度部屋に戻された時には、侍女たちが真っ赤になり、それはそれで侍女たちがたいへんだった。
『花嫁様……花嫁様が四神と愛し合うのはとても喜ばしいことなのですが……その……』
さすがに延夕玲が顔を真っ赤にしながらごにょごにょ言った。
『うん……そうね。ごめんなさい……』
『花嫁様が謝ってはいけません』
(じゃあどうすれば……)
香子は俯くことしかできなかった。黒月は相変わらずのポーカーフェイスである。黒月には性欲っぽいものはないのだろうかと思ったけど、それを聞くのは憚られた。そういった眷属の生態というのは誰に聞けばいいのだろうと香子は首を傾げた。
でもまずは夕飯である。朱雀に抱かれた後軽くお菓子程度は摘まんだが、やはりおなかはすいている。
食べてから考えようと香子は思った。
部屋に迎えに来てくれたのは玄武だった。玄武は香子の様子を見ると満足そうに口角を上げ、香子を優しく抱き上げた。四神はみな香子を当たり前のように抱き上げるけど、一番安定感があるのは玄武だと香子は思っている。
(玄武様はでも、先代の花嫁には触れていないんだよね?)
どうしてこんなに安定感があるのだろう。玄武だから、そういう身体なのだろうか?
なんとなく聞いても玄武にはわからないような気がしたので、香子は聞かないことにした。四神がわからないことも沢山ある。香子だって自分の身体のことはわからないのだ。心の動きだってよくわからない。聞けば答えが出るものではないのだ。
『玄武様、ありがとうございます』
『礼など必要ないぞ』
『言いたかっただけです』
『そうか』
朱雀に散々いじめられたから、今夜は玄武にたっぷり甘えさせてもらおうと香子は思った。
紅児が紅夏に抱かれて戻ってきたのは三日後のことだった。
張に書を習い、
『今回はよくなりましたな』
と言われてほっとしてからのことである。それは知らせだけであったので、香子は書を習った後もいつも通り張錦飛とお茶をした。
『……あと何回、張老師から教えを受けられるのかと考えてしまいます……』
『そうですな……わしも老い先短い爺ですから、花嫁様が考えてしまわれるのも無理はないですな』
ほっほっほっと、相変わらずバルタン星人のように張が笑ったことで、香子はお互いの認識が違うらしいということに気づいた。
『ええと、すみません。老師の歳のことではなくて、私が四神宮にいられる時間のことを言っていました』
『ああ……それもそうでしたな。いや、花嫁様と話すのがあまりにも楽しくて、いつまでも四神宮にいてくださるようなつもりでおりました。面目ない』
張はそう言ってゆっくりと顎鬚を撫でた。
『一年、でしたか……そうなると来年の春までですか』
『そうですね』
長くても、来年の春までしか香子はここにいられない。
『たまにはこちらに来させていただけるとは思うのですが、もうこんなに頻繁には教えを乞うことができないと思うのです』
『それは確かに残念ですな』
張は少し考えるような顔をした。
『まだ決めかねているとおっしゃられていましたが……花嫁様はどの神に嫁がれるおつもりですかな?』
『……まだ、わかりません』
張は笑んだ。
『順調に四神と愛を深められていらっしゃるご様子、素晴らしいことだと存じます。花嫁様が嫁がれる先によっては、わしも神官故共に向かうこともできましょう』
『……そういえば、そうですね……』
張は玄武の神官だったような気がする。
だとしたら。
『ですが』
張は笑んだ。
『結婚するのは花嫁様です。いくら最終的にはどの神にも嫁がれる予定とはいえ、安易に決めてはなりませぬぞ? きちんと話し合い、どうか四神と想いを交わしてくださいませ。そうしていただけることが、この国の、ひいては民たちの未来に繋がります』
『……ありがとうございます』
張の言葉は香子に届いた。張は立場を明確にして物を言っている。それはとても好ましいことだと香子は思った。
国と、この国の民の為に、香子が納得いく答えを出した方がいいと言っているのだ。確かに香子がへんに妥協をして後悔するようなことになれば、先代の花嫁のように早く死にたくなってしまうかもしれない。
香子は自分が欲張りだということをよく知っている。
四神のこともそうだが、香子は可能ならば自分もみんなも納得できるようにしたいとは思っている。きれいごとだと言われればそうかもしれないが、ことは香子本人の結婚だ。
妥協しなくていいと言われたことが香子はとても嬉しかった。
今日の張との時間もとても有意義だった。張を見送ってから、香子は嘆息した。
紅児に会えるのは嬉しい。
ただほんの少しだけ複雑な気持ちを抱えている。
紅夏とどう過ごしたのかわかるだけに、それを目の当たりにするのはつらそうだなと思った。
13
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です
氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。
英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる