異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

文字の大きさ
438 / 653
第3部 周りと仲良くしろと言われました

135.残り時間を考えると聞かないではいられないのです

しおりを挟む
 季節は冬。
 北京はあまり雪が降らないが、その分風はとても冷たい。香子は常に四神宮の中にいるし、渡り廊下を自分の足で歩くこともほとんどないからあまり季節感はなかった。
 それでも中庭に植えられている植物は季節をその陽射しで感じるのか、葉が落ちるものは落ち、花が枯れるものは枯れ、緩やかに冬を伝えていた。
 香子は白虎と共に四神宮の庭に下りた。いつものことだが、香子は白虎の腕の中である。庭に下りるということで靴は履かされているが、少しでも歩いたら足が痛くなってしまいそうな布の靴だ。香子は四神全てに抱かれたことで精神が落ち着くようになったが、かえって四神の心を乱しているようである。
 どうしてだろう? と香子は首を傾げた。
 石で作られた椅子に白虎が腰を下ろす。今日はここでお茶をすることにした。
 風が一度吹けば空気は一気に冷たくなる。陽射しも冬のものだから、やはり冬だと香子は改めて思った。
 指折り数えてみる。

『あと、三、四か月ほどですか……』
『四神宮に滞在するのがか?』
『はい』

 旧暦で日にちを数えるのであまりはっきりしたことがわからない。ただ香子はここに来た時は春だったと認識しているし、黄砂も経験している。だからあと三、四か月ほどではないかと思ったのだ。

『厳密に一年後のこの日と考える必要はないだろう。早まる分には全く問題ないだろうし、一、二か月滞在が延びたところでそう気にすることもあるまい』
『でも、私が誰に嫁ぐかを決められなかったら皇帝が決めるんでしょう? そんなの絶対に嫌ですよ』
『そんな話もあったな』

 白虎がしれっと言う。香子は、忘れてたのかと呆れた。先日その内容は玄武と朱雀から通達されたはずである。長命なせいか、四神はそういう大事なこともすぐに忘れてしまうのだ。

『なんか腹が立ってきたので誰か改めて聞いてきてくれませんかね? 一年きっちりなのか、一、二か月猶予があるのか』

 昼間である。今四神のうちの誰かが向かったら皇帝は朝議中かもしれない。だが香子にはそんなこと関係なかった。なにせそれによって予定が変わってしまうのだ。すぐにだって知りたかった。

『花嫁様』

 延夕玲が窘めるように声をかけた。

『わかっているわ。言ってみただけよ。でも、それを聞かないと私も困るから』
『……花嫁様が夫を早めに決めてくださればいいことかと……』

 珍しく黒月が言葉を紡いだ。香子は苦笑した。
 わかっているのだ。黒月は玄武と香子が共になるのを誰よりも切望している。黒月は吹っ切れたような顔をしているが違うのだ。黒月は恋に恋をしていた自分をわかっていて、それでも玄武を想ってやまない。香子が玄武と一緒になればいいと本気で思っているのだった。

『少なくとも百年単位で一緒にいる相手を、そう簡単には決められないわ』
『香子、我はどうだ?』
『考えておきます』
『ああ、まだ時間はある。じっくり考えるがいい』

 白虎が楽しそうに笑った。香子の「考えておきます」は断りの文句なのだが、四神には伝わっていないようだった。それとも、敢えて気づかないフリをしているのか。

『さすがにお茶が冷めるのが早いわね……』

 侍女が香子の呟きに反応して茶器に触れようとするのを制した。

『大丈夫よ。冷めてもおいしいわ』

 香子が笑いかけたら、侍女はほんのりと頬を染め、『……はい。失礼しました』と下がった。香子は蓋碗に入った冷めたお茶を飲み(味が濃くなっていた)、蓋をずらした。そうしておくと侍女が湯を注ぐのだ。
 香子は白虎に振り向いて恨めしそうな顔をした。
 話が違うと言いたげである。白虎は首を傾げた。

香子シャンズ、如何した?』
『どうしたじゃないですよ……』

 香子は白虎に触れた。

〈私、四神全員と抱き合ったら色気とかも抑えられるんじゃなかったんですか? なんか相変わらず影響あるみたいなんですけど!〉

 内容が内容だけに、香子は心話で白虎に苦情を言う。白虎が笑った。

『しかたあるまい。みなそなたが愛しくてならぬのだ』
『答えになっていませんよ!』

 とりあえず、香子がここに来てから一年の定義を皇帝に聞いてもらうことにした。白雲から趙文英へ。そして王英明を経て……とやっているうちに皇太后が聞きつけたらしい。というか延夕玲はまだ慈寧宮に部屋があるので皇太后が無理矢理聞き出したのだろう。プライバシーとは、と遠い目をしてしまう香子だった。
 そんなわけで皇太后も首をつっこんできて、翌々日には皇帝も交えてお茶をすることになってしまった。

『私……別に皇帝の顔は見たくないのだけど?』

 香子以外が言ったらたいへんなことになりそうだが、香子は四神の花嫁である。侍女たちは苦笑した。

『花嫁様、老仏爺もご一緒しますので』
『そうね。それだけが救いだわ』

 夕玲に言われても香子は不機嫌な顔を隠しもしなかった。

『花嫁様、眉間に皺が寄っております』
『あら、ごめんなさい』

 白粉おしろいなどは必要ないが、侍女たちはできれば香子の笑顔が見たい。香子に不機嫌そうな顔をさせる皇帝への評価は四神宮ではダダ下がりであった。


ーーーーー
香子が何故1年にこだわるのかは第三部108,109話参照のこと。
しおりを挟む
感想 94

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です

氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。 英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

処理中です...