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第3部 周りと仲良くしろと言われました
135.残り時間を考えると聞かないではいられないのです
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季節は冬。
北京はあまり雪が降らないが、その分風はとても冷たい。香子は常に四神宮の中にいるし、渡り廊下を自分の足で歩くこともほとんどないからあまり季節感はなかった。
それでも中庭に植えられている植物は季節をその陽射しで感じるのか、葉が落ちるものは落ち、花が枯れるものは枯れ、緩やかに冬を伝えていた。
香子は白虎と共に四神宮の庭に下りた。いつものことだが、香子は白虎の腕の中である。庭に下りるということで靴は履かされているが、少しでも歩いたら足が痛くなってしまいそうな布の靴だ。香子は四神全てに抱かれたことで精神が落ち着くようになったが、かえって四神の心を乱しているようである。
どうしてだろう? と香子は首を傾げた。
石で作られた椅子に白虎が腰を下ろす。今日はここでお茶をすることにした。
風が一度吹けば空気は一気に冷たくなる。陽射しも冬のものだから、やはり冬だと香子は改めて思った。
指折り数えてみる。
『あと、三、四か月ほどですか……』
『四神宮に滞在するのがか?』
『はい』
旧暦で日にちを数えるのであまりはっきりしたことがわからない。ただ香子はここに来た時は春だったと認識しているし、黄砂も経験している。だからあと三、四か月ほどではないかと思ったのだ。
『厳密に一年後のこの日と考える必要はないだろう。早まる分には全く問題ないだろうし、一、二か月滞在が延びたところでそう気にすることもあるまい』
『でも、私が誰に嫁ぐかを決められなかったら皇帝が決めるんでしょう? そんなの絶対に嫌ですよ』
『そんな話もあったな』
白虎がしれっと言う。香子は、忘れてたのかと呆れた。先日その内容は玄武と朱雀から通達されたはずである。長命なせいか、四神はそういう大事なこともすぐに忘れてしまうのだ。
『なんか腹が立ってきたので誰か改めて聞いてきてくれませんかね? 一年きっちりなのか、一、二か月猶予があるのか』
昼間である。今四神のうちの誰かが向かったら皇帝は朝議中かもしれない。だが香子にはそんなこと関係なかった。なにせそれによって予定が変わってしまうのだ。すぐにだって知りたかった。
『花嫁様』
延夕玲が窘めるように声をかけた。
『わかっているわ。言ってみただけよ。でも、それを聞かないと私も困るから』
『……花嫁様が夫を早めに決めてくださればいいことかと……』
珍しく黒月が言葉を紡いだ。香子は苦笑した。
わかっているのだ。黒月は玄武と香子が共になるのを誰よりも切望している。黒月は吹っ切れたような顔をしているが違うのだ。黒月は恋に恋をしていた自分をわかっていて、それでも玄武を想ってやまない。香子が玄武と一緒になればいいと本気で思っているのだった。
『少なくとも百年単位で一緒にいる相手を、そう簡単には決められないわ』
『香子、我はどうだ?』
『考えておきます』
『ああ、まだ時間はある。じっくり考えるがいい』
白虎が楽しそうに笑った。香子の「考えておきます」は断りの文句なのだが、四神には伝わっていないようだった。それとも、敢えて気づかないフリをしているのか。
『さすがにお茶が冷めるのが早いわね……』
侍女が香子の呟きに反応して茶器に触れようとするのを制した。
『大丈夫よ。冷めてもおいしいわ』
香子が笑いかけたら、侍女はほんのりと頬を染め、『……はい。失礼しました』と下がった。香子は蓋碗に入った冷めたお茶を飲み(味が濃くなっていた)、蓋をずらした。そうしておくと侍女が湯を注ぐのだ。
香子は白虎に振り向いて恨めしそうな顔をした。
話が違うと言いたげである。白虎は首を傾げた。
『香子、如何した?』
『どうしたじゃないですよ……』
香子は白虎に触れた。
〈私、四神全員と抱き合ったら色気とかも抑えられるんじゃなかったんですか? なんか相変わらず影響あるみたいなんですけど!〉
内容が内容だけに、香子は心話で白虎に苦情を言う。白虎が笑った。
『しかたあるまい。みなそなたが愛しくてならぬのだ』
『答えになっていませんよ!』
とりあえず、香子がここに来てから一年の定義を皇帝に聞いてもらうことにした。白雲から趙文英へ。そして王英明を経て……とやっているうちに皇太后が聞きつけたらしい。というか延夕玲はまだ慈寧宮に部屋があるので皇太后が無理矢理聞き出したのだろう。プライバシーとは、と遠い目をしてしまう香子だった。
そんなわけで皇太后も首をつっこんできて、翌々日には皇帝も交えてお茶をすることになってしまった。
『私……別に皇帝の顔は見たくないのだけど?』
香子以外が言ったらたいへんなことになりそうだが、香子は四神の花嫁である。侍女たちは苦笑した。
『花嫁様、老仏爺もご一緒しますので』
『そうね。それだけが救いだわ』
夕玲に言われても香子は不機嫌な顔を隠しもしなかった。
『花嫁様、眉間に皺が寄っております』
『あら、ごめんなさい』
白粉などは必要ないが、侍女たちはできれば香子の笑顔が見たい。香子に不機嫌そうな顔をさせる皇帝への評価は四神宮ではダダ下がりであった。
ーーーーー
香子が何故1年にこだわるのかは第三部108,109話参照のこと。
北京はあまり雪が降らないが、その分風はとても冷たい。香子は常に四神宮の中にいるし、渡り廊下を自分の足で歩くこともほとんどないからあまり季節感はなかった。
それでも中庭に植えられている植物は季節をその陽射しで感じるのか、葉が落ちるものは落ち、花が枯れるものは枯れ、緩やかに冬を伝えていた。
香子は白虎と共に四神宮の庭に下りた。いつものことだが、香子は白虎の腕の中である。庭に下りるということで靴は履かされているが、少しでも歩いたら足が痛くなってしまいそうな布の靴だ。香子は四神全てに抱かれたことで精神が落ち着くようになったが、かえって四神の心を乱しているようである。
どうしてだろう? と香子は首を傾げた。
石で作られた椅子に白虎が腰を下ろす。今日はここでお茶をすることにした。
風が一度吹けば空気は一気に冷たくなる。陽射しも冬のものだから、やはり冬だと香子は改めて思った。
指折り数えてみる。
『あと、三、四か月ほどですか……』
『四神宮に滞在するのがか?』
『はい』
旧暦で日にちを数えるのであまりはっきりしたことがわからない。ただ香子はここに来た時は春だったと認識しているし、黄砂も経験している。だからあと三、四か月ほどではないかと思ったのだ。
『厳密に一年後のこの日と考える必要はないだろう。早まる分には全く問題ないだろうし、一、二か月滞在が延びたところでそう気にすることもあるまい』
『でも、私が誰に嫁ぐかを決められなかったら皇帝が決めるんでしょう? そんなの絶対に嫌ですよ』
『そんな話もあったな』
白虎がしれっと言う。香子は、忘れてたのかと呆れた。先日その内容は玄武と朱雀から通達されたはずである。長命なせいか、四神はそういう大事なこともすぐに忘れてしまうのだ。
『なんか腹が立ってきたので誰か改めて聞いてきてくれませんかね? 一年きっちりなのか、一、二か月猶予があるのか』
昼間である。今四神のうちの誰かが向かったら皇帝は朝議中かもしれない。だが香子にはそんなこと関係なかった。なにせそれによって予定が変わってしまうのだ。すぐにだって知りたかった。
『花嫁様』
延夕玲が窘めるように声をかけた。
『わかっているわ。言ってみただけよ。でも、それを聞かないと私も困るから』
『……花嫁様が夫を早めに決めてくださればいいことかと……』
珍しく黒月が言葉を紡いだ。香子は苦笑した。
わかっているのだ。黒月は玄武と香子が共になるのを誰よりも切望している。黒月は吹っ切れたような顔をしているが違うのだ。黒月は恋に恋をしていた自分をわかっていて、それでも玄武を想ってやまない。香子が玄武と一緒になればいいと本気で思っているのだった。
『少なくとも百年単位で一緒にいる相手を、そう簡単には決められないわ』
『香子、我はどうだ?』
『考えておきます』
『ああ、まだ時間はある。じっくり考えるがいい』
白虎が楽しそうに笑った。香子の「考えておきます」は断りの文句なのだが、四神には伝わっていないようだった。それとも、敢えて気づかないフリをしているのか。
『さすがにお茶が冷めるのが早いわね……』
侍女が香子の呟きに反応して茶器に触れようとするのを制した。
『大丈夫よ。冷めてもおいしいわ』
香子が笑いかけたら、侍女はほんのりと頬を染め、『……はい。失礼しました』と下がった。香子は蓋碗に入った冷めたお茶を飲み(味が濃くなっていた)、蓋をずらした。そうしておくと侍女が湯を注ぐのだ。
香子は白虎に振り向いて恨めしそうな顔をした。
話が違うと言いたげである。白虎は首を傾げた。
『香子、如何した?』
『どうしたじゃないですよ……』
香子は白虎に触れた。
〈私、四神全員と抱き合ったら色気とかも抑えられるんじゃなかったんですか? なんか相変わらず影響あるみたいなんですけど!〉
内容が内容だけに、香子は心話で白虎に苦情を言う。白虎が笑った。
『しかたあるまい。みなそなたが愛しくてならぬのだ』
『答えになっていませんよ!』
とりあえず、香子がここに来てから一年の定義を皇帝に聞いてもらうことにした。白雲から趙文英へ。そして王英明を経て……とやっているうちに皇太后が聞きつけたらしい。というか延夕玲はまだ慈寧宮に部屋があるので皇太后が無理矢理聞き出したのだろう。プライバシーとは、と遠い目をしてしまう香子だった。
そんなわけで皇太后も首をつっこんできて、翌々日には皇帝も交えてお茶をすることになってしまった。
『私……別に皇帝の顔は見たくないのだけど?』
香子以外が言ったらたいへんなことになりそうだが、香子は四神の花嫁である。侍女たちは苦笑した。
『花嫁様、老仏爺もご一緒しますので』
『そうね。それだけが救いだわ』
夕玲に言われても香子は不機嫌な顔を隠しもしなかった。
『花嫁様、眉間に皺が寄っております』
『あら、ごめんなさい』
白粉などは必要ないが、侍女たちはできれば香子の笑顔が見たい。香子に不機嫌そうな顔をさせる皇帝への評価は四神宮ではダダ下がりであった。
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香子が何故1年にこだわるのかは第三部108,109話参照のこと。
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